息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

太陽の庭

2013-12-05 10:27:11 | 著者名 ま行
宮木あや子 著

この国にはある一定の層だけが知る世界がある。
知らないものは一生知らず、知っているものにとっては常識とされる。
永代院。
当主とその妻妾たちが暮らす豪華な屋敷は、都内の一等地でありながら、
誰にも知られず静かに森の中に佇む。
生まれた子どもたちは世間とは切り離されて育ち、やがてそれぞれの
役割のために外の世界へと送り出される。
たったひとり残るのはあととりの男の子。

永代院に外のものが入れるのは年に二回のみ。招待されたもののみに
許される異空間であり、この国を動かすさまざまな立場のものたちが
一斉に顔を出し、関係をつくる場である。

いや、そんなものがあるはずはない、と笑えない。
どこかにあるのではないか、そんな神の世界が。
金を掴んでも家柄がよくても選挙で勝利しても、それだけでは得られない
プラチナチケットを生まれながらにもつ人々が。

そしてそこでは一族の血を引く子供が重要な存在となる。
永代院に娘を嫁がせれば、または永代院の娘をめとれば
なにがあろうとその先、事業と家は安泰である、という確約。
あの「雨の塔」の舞台となった岬の女子大も登場する。
あれは、いずれなんらかの形で買われていく少女たちが隔離されるところ。
永代院に仕える少女の育成機関がかたちを変えたものだった。

とことん恵まれながら、かけらほども大切にされない命たち。
その強大な世界が崩れ落ちたのはマスコミとネットによる拡散だった。
存在が一度知られれば守りは破られ、一度敵意が生じれば無力な一般人ほど
怖いものはない。
過去の長い長いあいだ守られてきた伝説。いささか神がかった西の家も
いつから存在するのかすらわからないマコトも炎とともに消える。

ファンタジックな描写も多いのに、どこか非情なほどに現実的。
雨の塔も好きだったが、これは格段に面白い。
できれば両方合わせた方がさらに著者の魅力がわかる。