息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

白百合の崖─山川登美子・歌と恋

2011-10-04 10:05:27 | 著者名 た行
津村節子 著


ひたすらに美しい。
鼓動が響いてくるような、吐息が感じられるような、
珠玉の歌が多数盛り込まれ、それを読むだけでも現実を忘れる。

明治12年生まれの歌人・山川登美子は豊かな家に生まれた。
まさに才色兼備、当時注目を集めていた与謝野鉄幹主宰の
『明星』では白百合と讃えられ、晶子とも深いかかわりをもつなど
その生涯は短いながらも光り輝いていた。
一方で意に染まぬ結婚、まもなく夫との死別、そして夫の死因であった
結核が登美子を侵していく。

運命の浮き沈みの中で、折々に詠む歌が心の支えであり、
束の間の鉄幹、晶子との思い出が苦しみを忘れる力となった。
恋心と憧れと。登美子が慕った二人はやがて結婚し、子をもうける。

運命の分かれ道は悔やんでも取り返せず、嫉妬をもてあます日々。
苦しみは昇華し、歌は輝きを増していく。

これほどの才能を持つ人が長く活躍できたなら、そう思うと本当に
惜しい。
結婚がやぶれても、26歳にして日本女子大で学ぶ意欲をもち、
教壇に立とうとする強さがあったのだから、病に倒れていなければ、
違った強さを見せたのではないだろうか。

与謝野晶子の陰になりがちな山川登美子の生涯を知るきっかけともなり
得るものが大きい一冊だった。