息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

痺れる

2014-06-23 10:19:02 | 著者名 な行
沼田まほかる 著

うまいなあ。
思いもかけない方向へと突き進んでみたり、どこにでもいるような
平凡な人間の心の動きをするどく暴きたてたり。
日常の風景をぞくりとすような描写で描き出したり。
短編集なので彩りもさまざまな作品を、次々と読める。

……しかし……!
私、もしかしてこの著者の作品あまり得意じゃないかも。
面白くないわけじゃない、心をつくものもある。
しかし、根本になんだかかみ合わないものがある。
その小さな違和感が少しずつおおきなずれになるというか。
いや、何にも残らない作品だって多い中、ここまで
ひっかかりを残すってこと自体がスゴイわけだが。

それは私の精神状態なのか、それとも同世代の同性ゆえの
近親憎悪的な感覚なのか。
なんにせよ読後感はゆらゆらと揺れる。

ユリゴコロ

2014-02-14 10:06:47 | 著者名 な行
沼田まほかる 著

「ユリゴコロ」と題された一冊のノート。
その古ぼけたページには、恐ろしい殺人とそこに至る心理が書かれていた。

実家の父の部屋でそのノートを見つけた亮介は動揺する。
そして幼い頃の思い出がよみがえるとともに違和感が募っていく。

そのノートはまったく共感できない内容だ。
そして、それに振り回される家族たちの行動にも理解できない部分が多い。
それなのに、なぜかトンデモ感がない。
心の揺れや波がうまく表現されているからだろうか。
お互いを想いあっているということが根っこにあるからだろうか。

父は余命いくばくもない。
母といわれた人はもういない。
妻にしたいと願った人は行方が知れない。
亮介は自分の営む店だけしか居場所がない。

考えなくてはいけないことも、やらなくてはいけないことも
亮介を取り囲んでいる。
それなのに「ユリゴコロ」は亮介をとらえて離さない。

今まで読んだどんなものとも違う印象が残った。
結末も予想と全く違っていた。
殺人もあったし陰謀もあった。
それなのに残るのは切なさと悲しみとそしておだやかな日々。
静かな音楽のような、水彩画のような読後感だった。

日本の貴人151家の運命

2014-01-26 12:26:33 | 著者名 な行
中山良昭 著

天皇の藩屏として、文化の守り手として長く続いてきた
公家という一族の存在は大きい。
選ばれし家のものとして、誇り高く生きることをを求められ、
地位と名誉を約束された人々。
終戦により一部の皇族を除いて民間へと下ったが、その世間知らずさが
あだとなり、辛酸をなめた人も多かったらしい。

雅楽や蹴鞠、包丁道などの貴族文化の伝承はもちろんであるが、
宮内庁で天皇家に仕えたり、行事の装束の監修をするなど、
この家の人でなければできないであろう役目についている人もいる。
ある意味かけがえのない人たちなのだ。
終戦は平等をもたらしたが、その一方で守られるべきものも多数
失われた。

「冷泉家至宝展」というものが記憶にあるが、これは全くの自費、自力で
守られ、たまたま区画整理などからも外れた冷泉家に残された
貴重な宝物を公開したものだという。
これは後継者がいなくなることを前に行われたもので、もしも脈々と
続いていれば一子相伝で知られないままであったかもしれないし、
ときの当主の意見いかんでは処分された可能性もあるのだ。

文化を保つことはお金がかかることである。
貴人というものの存在意義とはそんなところにあったのかと気付かされた。

いちど壊してしまったものはもうかえらない。
ならば大切なものだけは守られるように、何らかのアクションが必要だろう。
それは選ばれし階級を再びつくる、ということとは違うはず。

それはそれとして女優や俳優となった人が意外に多かったり、
国際的に活躍の場を求めている人が多かったり。
これも血筋と優遇された家に生まれたということのなせる業だよなあ。

夜までに帰宅

2014-01-05 10:41:25 | 著者名 な行
二宮敦人 著

「夜」までには帰宅しなければならない。
ほとんどの会社は16時に業務を終了し、警察も病院も夜間は営業しない。
携帯電話も通じず、電力供給はストップされる。
街は真の闇になるのだ。
それは19年前のエネルギーショックに始まり、主人公である高校生のアキラは
生まれたときから「夜制度」の中にいる。

しかし、禁止されていればやってみたくなるもの。
高校生といえばその盛りだ。
中間試験が終わった日、解放感にあふれたアキラたちは“夜遊び”を
決行した。
いつもと違う暗い街や公園で、ちょっと背伸びをしてビールを飲む。
気になっているエミも一緒に。
そんなワクワクするような一夜になるはずだった。

「夜」には徘徊するものがいた。
それは昼間の街の常識が通じないものたち。
助けを読んでも、普通に夜を過ごす人たちは決して扉を開けてくれない。
警察も救急も朝まで動かない。
そして消されれば、もう戻るすべはない。探す手立てもない。
命がけの逃亡劇はスピーディでスリリング。
闇の中での駆け引きは息が詰まる。

で、何が怖いって、人間。
結局これに尽きる話なのだ。
ハラハラドキドキのストーリーの中でもベースに流れているのはこれ。
そして、ラストのほっとした中での会話にもゾクっとする。

生まれいづる双葉

2013-10-18 11:53:35 | 著者名 な行
新津きよみ 著

自分に似ている人に出会う。たまにあることではある。
実際、私は近所の子どもつながりの方と、よく間違われていた。

それが偶然ではなく、遺伝に基づくものであったら、事情は変わってくる。
非配偶者間人工授精(AID)は1948年にスタートした。
慶應大学の医学生たちが協力したという。つまり、彼らが知らない彼らの
子どもたちが世に出ている、ということである。

そしてその子どもたちがひかれ合い、結婚する可能性は無ではない。
むしろその似ている部分ゆえに、魅力を感じることもあるらしい。
AIDは公表されずにいた。近親婚と知らずに子をもうけた例もないとはいえない。

主人公・双葉の母はそれをおそれ、娘の恋人である医師を受け入れなかった。
はhが語らない本当の父はいったいどんな人でどこで暮らしたのか。
双葉とそっくりな容姿をもち、血が繋がっている可能性が高い萌子から
手紙が届くが、謎の解明には至らなかった。
音楽療法士である双葉のまわりにはいつも患者の死と衰えがある。

裏付けされてい知識は膨大だ。いまさらながら、出来上がった集落に
新入りが住み着くのも不安だ。
しかし、山の中の廃校とそこで暮らすアーティスト。
小道具やエピソードも手抜きがなく美しいので読みやすい。

自分の出生、不妊治療にともなうさまざまな苦しみとリスク。
双葉の悲しさは、いま多くの女性が味わっており、人ごとではないのだ。
そして優秀なDNAがあったとしても、それを本人がどんな価値観で
受け入れられるのかは不明だ。

よく練り上げられた物語と裏付け調査。怖さもありとても面白い