息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

幽 Vol.19

2013-08-30 10:50:28 | 書籍・雑誌
メディアファクトリー

日本初怪談専門誌である。やっぱりまだ読んでいる。
別に夏は幽霊とか、怪談とか肝試しとか、そういうベタなことは考えていない。
……のだが、はじめにこれを買って読んだのが、夏休みをとった時だったので、
どうもこの晩夏になるとよ見たくなる、というパブロフの犬状態になっている。

今回は「能楽入門」これはいい!
何かと小説のモチーフにも使われる物語の数々。あらすじくらいはわかっている
つもりでも、いまさら聞けない、何を読んで勉強すべきかわからない。
ついでにいえば、この関係の書籍は高い。わからないままにぽんぽん買うには厳しい。
そんな私にとってうってつけであった。

重要無形文化財の津村禮次郎氏から学ぶ能楽の精神、舞台となった地の今、
歴史や装束にまで至る興味深い特集の内容は濃い!
これはすごくありがたい特集だった。

もちろん、ほかの作品もなかなかに満足。
エアコンの効いた部屋でゴロゴロしながら「幽」を読む。
ついでにビール。
なんかすごい人間失格な絵づらであるが、私にとっては至福。

今未来になんの光もみいだせず、あがいているのだが、
つかの間憂さをわすれられるのだ。

ドッペルゲンガー奇譚集 ―死を招く影―

2013-07-22 10:36:32 | 書籍・雑誌
阿刀田高ほか

これもアンソロジー。
ひとつ読み返すと、また読みたくなってしまうんだよなあ。

ドッペルゲンガー、ドイツ語のdoppelganger、もうひとりの自分自身や
分身などのことで、それを見た者は死ぬなどという伝説もある。

一番テーマらしい感じで始まったのは赤川次郎「忘れられた姉妹」。
自分が知らないところで悪評がたち、実は自分は双子だったことがわかったが、
もうひとりは亡くなっていて……と、畳み掛けるように進んでいく。
もちろんそこから話は展開して行くのだが、途中までのセオリー感が、
幼い頃からもっていた「ドッペルゲンガー」のイメージまんまだったのだ。

やはり私自身は増田みず子「分身」とか小池真理子「ディオリッシモ」とかの
異空間へ行ってしまう系が好きだ。
「分身」の舞台となる故郷の洞窟やそこにある石仏なんて、すぐにでも見に行きたい。
今の季節いいだろうなあ。ノスタルジックな夏。
いやいや怖いから行きませんけどね。イメージはいいよねえ。

「ディオリッシモ」は仕事で疲れて乗った電車がいつの間にか異世界へという、
感情はリアル、現象は非現実的というのがとても好みの舞台設定だ。
すごく忙しい日が続くと、心だけどこかに逃げ出しそうになったりするよね。
電車にただ身を任せていたら、なんか違う!ええ?って。
起こらないんだけど起こりそうというか。起こるといいなというか。
いまやそういう働き方から離れてしまったから、よけいにあの感覚が蘇る。

今の自分自身についていろいろ考えているのかなあ。
こういうものを読むって事自体が。
なぜか落ち込む今日である。

見知らぬ私

2013-07-21 10:21:55 | 書籍・雑誌
綾辻行人ほかの著者によるアンソロジー。
ちょっと古いものだが、角川ホラー文庫のテイストが嫌いでないなら
豪華な著者陣でわりと読み応えもあり、お得だと思う。

一番怖いのが人間ならば、自分でもよくわからない自分自身は、
最恐の存在ではないだろうか。

そんな切り口から始まる小さな物語。
著者ごとに視点も文体も異なるのが、その共通点を強調する。

松本侑子「晩夏の台風」は、どろどろとした愛憎がとてもうまく
描き出されている。納得の上で関係したはずなのに次第にずれていく精神と身体。
ストーリーを追いたい人にはつまらないかもしれないが、心理描写とか
わけのわからない感情の揺れみたいなものはよく伝わってくる。

個人的に好みなのは清水義範「トンネル」。異世界への入口とも言えるトンネルに
浮かび上がる不思議な光景。
目新しいものではないけれど、ノスタルジックで心惹かれる。
マイホームを無理して得たが故に、長距離通勤を強いられ疲れ果てた主人公の姿も
親近感をもつ人が多いのではないだろうか。
ま、今時はそういう形の無理をする人は減っているけどね。
仕事で精根尽き果ててやっと家に帰り着く、って働くモノにとって身近なことだから。

そんなこんなで、どれかひとつは好きな作品に出会えそうな一冊だ。

盲流―中国の出稼ぎ熱とそのゆくえ

2013-07-14 10:05:18 | 書籍・雑誌
葛象賢
屈維英 著

1993年刊と古い本だ。
まだ中国が今ほど巨大化も近代化もしていない頃。
しかし、これを初めて読んだとき、それまで抱いていたたくさんの疑問や違和感に
対する説明を受けたような気がした。

はじまりは1989年春節。
地方に住む農民たちが一気に出稼ぎへと踏み切った。
それは中国の変化が始まった時であり、これまでの封建的な縛りでは
人民を制御できなくなった証でもあった。
天安門事件が起こった年である。

あふれかえる交通機関、野宿者でいっぱいの駅前。
急激な人口増加にインフラは追いつかず、治安は悪化していく。
そして一攫千金を求めて都会へと旅立った人々にも、詐欺や雇い主との摩擦などの
苦しみが襲う。

ここには農村と都市部の大きな格差がある。
一度豊かさを垣間見てしまうと、より良い暮らしをもとめてしまうのは性。
どんなに不当な扱いを受けようとも、夢を追い求めて出稼ぎを選ぶ人はあとを絶たない。
その結果、大きなうねりが生まれ、それが政府をも動かして現在の中国へと至ったのだ。

中国人ジャーナリスト二人の渾身のルポは力強い。
そんなどっぷりと中国で暮らす人ですら、現地では知らなかったことや驚くことが
あったのにも衝撃を受けた。
そして彼らの文章だからこそ、根底に流れる中国人の考え方や暮らし、文化大革命によって
失われたわめられた文化などについても、ニュアンスがわかる。
だからこそ、日本人と決定的に違う部分があるというのもわかる。

私にとって現代中国に対する基礎知識を得るのに役だった一冊だ。
今はずいぶん事情が違うであろうが。

Mei 冥 創刊号

2013-05-31 10:24:52 | 書籍・雑誌
メディアファクトリー

届きました。で、早速読破。
期待通りに面白かった。

改めて気づいたんだけど、私は民俗学的な話は大好きなのだが、
それにしたって『幽』におけるそのジャンルのボリュームはすごい。
それが少ないぶん『Mei冥』は読みやすいのだ。

こんなに狭ーいターゲットに絞り込んで、しかも女子向けなんて
大丈夫なんだろうかと早くも不安がよぎるわけだが、たぶん
私は買いつづけてしまうことだろう。
頑張っていただきたい。
半年先のお楽しみができたので。

特集の「闇を歩く」は、なかなかできない闇の体験が語られ興味深い。
いや、別にやりたくはないです。
あの震災の日、停電によって真の闇になった。
非常灯も街灯も電話ボックスも全て闇。
そしてそれが一番怖かった。
あれが山の中ならどんなに怖いだろう。

子どもの頃遠足で山に行き、夜それを思い出しては身震いした。
いま、この時間のあの場所を思い浮かべてしまうのだ。

怖いってシンプルな感情だから、ちょっとした共通点があると
ストレートに伝わってくる。
そんな共感を得るための一冊ともいえる。