窓越しに、芽が伸びてきたチューリップを見ていた。すると、軒下に細かく動くものがいる。2匹の虫で、片方が少し大きい。体長はどのくらいだろう、1センチか2センチくらいだろうか。どちらかに合わせているのか、同じ形で飛んでいた。それはまるで空中ダンスのようで、右へ行けば右へ、上に行けば上へ、アイスダンスのペアのように息が合っていた。けれども、そうかと思うと急に方向転換し、急速に上昇したり下降したりと目まぐるしい飛び方をするが、決してぶつかったりしないし、離れてしまうことはない。「オスとメスだな」と思った。
地球上に生物が生まれ、オスとメスが交配して新しい命をつくる。その営みによって延々と種をつないできた。神様は凄いなと思う。神様ではなく自然の仕組みであったとしても、全く偶然にそうした仕組みが誕生したとしても、それは凄いことだ。生物は愛し合わなくても子孫を残す。基準になるのは「強い」ということだろう。優しいとか美しいとかは選択の基準にならない。人間だけが、基準を変えた。人間は愛し合うことを手に入れたが、そのために動物が持たなくてもすんだ苦悩を持つことになった。人間が考える能力や感情を持たなければ、苦痛や苦労はなかったであろうに。
ロシアでプーチン氏が大統領に当選したという。広場で、当選したプーチン氏は涙を流して「我々は勝利した」と叫んでいたが、なぜか周りは歓喜に包まれていなかった。本人はとても感激した様子だったけれど、周りはなんとなくしらけているように見えた。プーチン氏はロシアを資本主義化したエリツィン氏によって後継者に命じられ、2000年から8年間大統領を務め、その後はメドヴェージェフ氏を大統領におき、自分は首相となって権勢を保ってきた。これでロシアは次の大統領選挙が行われるまで、プーチン政権が続くわけだから30年間に及ぶプーチン時代となる。スターリンは1922年から亡くなるまで共産党書記長の座にあったが、プーチン氏も同様な政治家になるのだろう。
プーチン氏はスターリンが育てた秘密警察である国家保安委員会(KGB)の出身である。KGBは時の権力者に刃向かう者は容赦なく抹殺することを任務としている。共産主義が正しいとか、そんなことは考えたこともないだろう。彼は1985年から5年間、KGBとして東ドイツにいた。つまり、東ドイツの崩壊を見ていたはずだ。ソ連が資本主義化へと進むと、KGBの組織と情報を屈指して、新政権の中枢へと入り込み、今やスターリンに次ぐ長期政権を確保しようとしている。ちなみに今日、3月5日はスターリンが死亡した日で、この日にプーチン氏が大統領に当選するのも歴史の皮肉かも知れない。
人は愛し合ったり憎み合ったり、そうかと思えば絶大な権力を欲しがったり、得体の知れない不思議な生き物だ。お昼のテレビ『笑っていいとも』に芥川賞作家の西村賢太氏が出ていた。彼は「一番楽しいのは何?」と聞かれて、「女を抱くこと」と答え、結婚する気はない、金は全て自分のために使う、独身が一番と話していた。ところで、スターリンの死亡が報道されると株価はいっせいに下落したそうだ。動物のように生きることも、そうでない生き方も、分からないのがこの世のようだ。