実務家弁護士の法解釈のギモン

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権利能力なき社団に対する強制執行(2)

2011-06-09 09:53:07 | 民法総則
 ただし、今回の判例は、「登記記録の表題部に債務名義上の債務者以外の者が所有者として記録されている不動産に対する強制執行をする場合に準じて、」といいながら、総有に属する「確定判決」やこれに「準ずる文書」の添付を要求したことに若干の疑義を感じる。なぜなら、民事執行規則23条1号を純粋に準用するのであれば、総有に属することを証する文書であれば何でもよいようにも読めるので、確定判決やこれに準ずるような厳格な文書である必要はないとも読めるからである。
 確定判決やこれに準ずるような厳格な文書を要求する点のみに視点を当てると、当該文書が仮に給付を内容とする文書であれば、それ自体が債務名義になるな文書であることを要求しているようにも感じられ(いわば、準名義文書といえる)、捉えようによっては、執行力ある債務名義として、本来の債務名義だけではなく、総有に属することに関する準名義文書の二通を持って、合わせて執行力ある債務名義になると理解しているかの如くにも読めないわけでもなさそうである。
 もっとも、この問題は、単に民事執行規則23条の表面的な文言解釈だけをしていても十分な理解は得られない。もう少し根本的な点から説き起こす必要があると思う。

 そもそも、強制執行を行う場合の法律要件は何か。民事執行法が要求しているのは(執行力ある)債務名義の存在だけである。執行開始要件が問題となる債務名義もないわけではないが、(執行力ある)債務名義があれば、他の文書は何もいらずに強制執行は可能というのが、民事執行法の建前である。
 したがって、通常の動産執行や債権執行であれば、規則上も添付文書すら法定されていない。差押えの対象となる動産や債権が現実に存在するか否かに関する資料の提出が求められることはないのである。そのかわり、動産執行や債権執行の場合、強制執行が不奏功(いわゆる空振り)という事態も生じうる。
 これに対し、不動産その他登記・登録の制度のある動産類については、規則上、その登記事項証明書等の添付が要求される。が、なぜこのような添付書類が要求されているかというと、登記・登録制度のある財産に対する強制執行だけは、その要件としてこれら書類が必要というよりは、差押えの登記・登録が可能であることを確認する意味合いのために提出が求められているだけだと考えられるのである。
 別の言い方をすれば、法制度のあり方として、申立の添付書類として、登記事項証明書等の添付が必要不可欠というわけではなく、仮に執行対象たる不動産が存在しなかったり,あるいは他人名義であった場合には、空振りに終わるという法制度でもいっこうに構わないはずなのである。そして、(民事執行規則を考慮せずに)民事執行法だけを眺めると、不動産に対する強制執行であっても、その不動産が存在しなかったり、他人名義であった場合には,空振りになる制度と理解することもあながち不可能ではないはずである。ただ、登記事項証明書等は、債権者にとっても通常簡単に手に入る書類なので、空振りにならないように予め差押えの登記・登録が可能かどうかを確認する意味で、民事執行規則は登記事項証明書の提出を求めていると、理解できると思うのである。
 そうだとすれば、不動産に対する強制執行においても、登記事項証明書の添付は、強制執行を行う場合の法律要件ではないのであって、ただ空振りを予め避けるために便宜必要書類としているに過ぎないと考えるべきだと思うのである。
 したがって、権利能力なき社団の社員総有に属する不動産に対する差押えに関し、おそらく最高裁判例は、債務名義性の問題として、合わせて一本といったような考え方を採用しているわけではないと思う。

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