実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

高度プロフェッショナル制度の疑問(5)

2018-05-23 11:02:39 | 時事
 ところが、ネット情報では、このあたりの手続規制に言及する情報が非常に少ない。それは、高プロ導入に賛成する側も反対する側も同じように言及しない。
 もっとも、なぜ少ないかは想像に難くない。

 まず、反対する側が言及しない理由は、労使委員会及びそこでの決議内容が、まともに機能しないであろうと考えているからであろう。そもそも、しっかりとした労働組合があるのは、一部の大企業のみであろう。それ以外の事業所では、いくらか半数代表労働者からの指名の労使委員と言ってみても、どうしても使用者の言いなりになりかねない。労働者代表を半数以上とする労使委員会での決議という手続規制は、しっかりとした労働組合があってはじめて機能する仕組みでしかないであろう。
 また、労使委員会での決議内容がどこまで守られるかも、懸念が残るのであろう。労働時間規制が適用される本来の労働者であっても、過労死を生じさせる程に働かせる以上、労使委員会の決議もないがしろに働かせることが、普通に想定されるということなのであろう。

 高プロ導入に賛成する側が言及しないのは、まさに、労使委員会を実質的に機能させたくないことの表れとしか言いようがない。はじめから労使委員会の決議という手続規制の骨抜きを目指しているのではないだろうか。

 既に述べたように、労働法のある教科書は、手続規制への移行の必要性を説くが、私は、実態を知らない学者の理想論に過ぎないのではないかという疑念を抱くのである。

 労使委員会は、企画業務型裁量労働制においても設置の必要性がある。そこで、企画業務型裁量労働制を導入している企業の労使委員会の実態をだれか調査する人はいないだろうか。私の見立てでは、法律の建前は企画業務型裁量労働制も高プロも、労使委員会の活動こそがキーのはずなのである。その労使委員会の活動調査が行われている様子はネット情報からは見受けられない。
 
 ごく最近の状況として、与党側の修正合意として、高プロ適用後も、労働者側の意思で撤回できるようにする修正条項を盛り込むようである。しかし、労働者が自分の意思で撤回を申し出ることができる場面が果たしてどれだけいるだろうか。過労で倒れる人たちは、過労を自ら申し出ることなく倒れるのである。どうしても気休めの修正条項にしか思えない。

 もし、働き方改革関連法案が可決され、高プロが導入された場合は、労使委員会を少しでも機能させるために、連合などの労働組合の上部団体が、労使委員会の決議要件を明示して各労働組合を指導するなどの必要性がありそうである。そして、企画業務型裁量労働制も労使委員会が重要な機能を営む。もっと言えば、専門業務型裁量労働制も労使協定が必要であるから、労働組合の判断が重要である。しからば、労働組合として、裁量労働制のあり方にも目を向けるべきではなかろうか。

 雑駁ながら、高プロについての私の感想である。

コメントを投稿