みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0418「思い出、買い取ります」

2018-12-26 19:05:28 | ブログ短編

 和美(かずみ)は二年も付き合っていた彼から、突然(とつぜん)別れを告(つ)げられた。しばらくは仕事(しごと)も手につかず、落ち込む日々を過(す)ごしていた。でも、いつまでもこんなことしていられない。和美は彼のことを吹(ふ)っ切ろうと、彼との思い出の品(しな)を箱(はこ)の中へ詰(つ)め込んだ。
 夜明け前。海岸(かいがん)の波打(なみう)ち際(ぎわ)に和美は来ていた。ここは、彼との思い出の場所(ばしょ)。楽しかった記憶(きおく)が甦(よみがえ)ってくる。和美は思わず涙(なみだ)ぐんでしまった。彼女は指(ゆび)にはめていた指輪(ゆびわ)をじっと見つめる。それは、彼からプレゼントされたものだった。朝日(あさひ)が顔を出し始めている。
 和美は意(い)を決したように指輪を外(はず)した。それを箱の中へ入れると、ガムテープでぐるぐる巻(ま)きにして…。和美は両手(りょうて)で箱を振(ふ)り上げると、それを海へ向かって――。
「ちょっと、何してるの! ここは、ゴミ捨(す)て場じゃないんだから」
 後(うし)ろから声がしたので、和美はビクッとして振り返る。そこにいたのは、ジャージ姿(すがた)の初老(しょろう)の男性。彼はうんざりしたような顔で言った。
「何があったら知らないけどさ、もったいないじゃないか。そんなことするより、この先に思い出の買い取り屋(や)があるから、そこへ持って行きなよ。まあ、いくらになるか分かんないけど、朝飯(あさめし)ぐらいは食(く)えるだろ。お腹(なか)がふくらめば、元気(げんき)も出るってもんだ。そうだ、美味(おい)しい魚(さかな)を食わしてくれるところがあるんだ。案内(あんない)してやろうか?」
<つぶやき>傷心(しょうしん)を癒(い)やしてくれる、この海岸にはそんなサプライズが用意(ようい)されています。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 0417「消えちゃえ」 | トップ | 0419「めんどくさい」 »

コメントを投稿

ブログ短編」カテゴリの最新記事