「おい、本当(ほんとう)に帰らなくていいのか?」
「いいんだよ。どうせ、俺(おれ)の行くところは分かってんだ。心配(しんぱい)なんかするもんか」
おやじはぐいっと酒(さけ)を呷(あお)った。その様子(ようす)を呆(あき)れて見ていたもう一人のおやじは、
「まあ、こっちは構(かま)わないけどなぁ。どうせ一人暮(ぐ)らしだ。朝まで飲(の)み明かすか?」
「おお、いいねぇ。そうこなくちゃ。この間土産(みやげ)で持ってきた酒(さけ)、まだ残(のこ)ってるだろ?」
「ああ。でも飲み過(す)ぎるなよ。後で、よっちゃんに怒(おこ)られるのは俺なんだから」
「娘(むすめ)の話をするなよ。まったく誰(だれ)に似(に)たのか、あいつは固(かた)くていけねぇ」
「よく言うよ。そういうとこ、お前にそっくりじゃねえか」
「よせよ。あれは家(うち)の妻(やつ)に似てるんだ。まったく、かみさんが二人いるようなもんだ」
「いいじゃねえか、心配してくれる家族(かぞく)がいるんだ。ありがてぇじゃねえか」
「そうかねぇ…。お前のとこ、かみさんが亡(な)くなったのは――」
「もう二年だよ。まあ、今は気楽(きらく)にやってるさ。家事(かじ)は一通(ひととお)りこなせるようになったしな」
「いいなぁ、うちじゃ、俺がなに言っても誰も聞きゃしねぇ」
「何があったか知らねえけど、仲良(なかよ)くした方がいいんじゃねえのか?」
「ふん、そんなこと分かってるよ。娘の言い分は正しい。けどな、こっちだって意地(いじ)ってもんがあるんだ。親だからって、反抗(はんこう)して何が悪(わる)いってんだ。反抗ってのは、子供(こども)だけのものじゃねえんだからなぁ。そうだろ?」
<つぶやき>老(お)いては子に従(したが)えと言うけど、なかなか割(わ)り切ることなんてできないのかも。
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