大学の学食(がくしょく)で、一人でお茶(ちゃ)をしていると、親友(しんゆう)の柚希(ゆずき)がやって来た。彼女はわたしの横に座ると、怒(おこ)った顔をわたしに近づけてきて、
「ねえ、どうして? 昨日(きのう)約束(やくそく)したじゃない。あたし、ずっと待ってたんだからね」
「約束…? えっ…、何のこと? わたし、何か…」
「はぁ? 忘(わす)れちゃったの? 信じられない。昨日、約束したじゃない。一緒(いっしょ)に――」
「ちょっと待って。昨日、わたしたち会ってないよね。わたし、ずっと家にいたのよ」
「なに言ってるのよ。昨日、あそこの花屋(はなや)の前で会ったじゃない。あたしのこと、からかってるの? もう、やめてよ。その時、スマホを変えたからって番号(ばんごう)教えてくれたじゃない」
「いやいや、それ、わたしじゃないよ。人違(ひとちが)いしたんじゃないの?」
「そんなことないわよ。だって…、あなただったし、あたしのことちゃんと知ってて…。いいわ、確(たし)かめてあげる」
柚希は自分のスマホで電話をかけた。すると、わたしの鞄(かばん)の中のスマホが鳴(な)り出した。わたしは、鞄の中からスマホを出して…。でも、それは――、
「これ、わたしのじゃ…。こんなの知らないわ。どうして、わたしの鞄に…」
これが、もう一人のわたしの存在(そんざい)を知った最初(さいしょ)の出来事(できごと)でした。それ以来(いらい)、わたしの持ち物がいつの間にか変わっていたり、知らない人から声をかけられたりしています。
<つぶやき>同じ人間がもう一人いるなんて…。もしそんなことになったら、どうします?
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