実家(じっか)を建(た)て替(か)えることになり、彼は片(かた)づけを手伝(てつだ)うために帰省(きせい)した。
家族(かぞく)への挨拶(あいさつ)もそこそこに、彼は自分(じぶん)が使っていた部屋(へや)の片づけを始めた。ほとんどがいらないものばかりだが、押(お)し入れの奥(おく)からブリキの箱(はこ)が出てきた。蓋(ふた)には<ぜったいあけるな!>と、子供(こども)の文字(もじ)で書かれた紙(かみ)が貼(は)りつけてあった。これは、確(たし)かに彼の書いた字だ。でも、彼は何を入れたのかまったく覚(おぼ)えていなかった。
蓋は厳重(げんじゅう)にビニールテープでぐるぐる巻(ま)きになっていた。箱を振(ふ)っても音はしない。でも、重さがあるので何か入っているのは間違(まちが)いないだろう。彼は、中を確かめることにした。ぐるぐる巻のテープをはがすのには手間取(てまど)ったが、蓋を開(あ)けてみると別(べつ)の箱が入っていた。その箱の蓋には<絶対(ぜったい)に見てはいけないもの>と、大人(おとな)の文字で書かれていた。
彼は両親(りょうしん)にその箱を見せた。すると母親(ははおや)が、これは伯父(おじ)さんの字だと言い出した。その伯父さんは十年前に亡(な)くなっている。彼は子供の頃(ころ)、よく遊(あそ)んでもらったのを思い出した。伯父さんはちょっと変わった人だった。急(きゅう)に突拍子(とっぴょうし)もないことを始めたり、彼ら姉弟(きょうだい)を驚(おどろ)かせるようなことを平気(へいき)でやってのける。彼も何度も腰(こし)を抜(ぬ)かしていた。
家族は顔を見合(みあ)わせて、開けるかどうか考え込んだ。中には驚くようなものが入っているに違(ちが)いない。誰(だれ)が言うともなく、これは後回(あとまわ)しにしようということになった。今は、片づけを終(お)わらせることを優先(ゆうせん)して――。箱は、ブリキの箱に戻(もど)された。
<つぶやき>何が入ってるんでしょ。伯父さんの最後(さいご)のサプライズなのかもしれませんね。
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