とある村(むら)に旅(たび)の男がやって来た。男は村に一軒(けん)しかない宿屋(やどや)に入った。宿屋の主人(しゅじん)は男のみすぼらしい身(み)なりを見て言った。
「金(かね)は持ってるだろうな? うちは、宿賃(やどちん)は前払(まえばらい)だ」
男は懐(ふところ)から大きく膨(ふく)らんだ巾着(きんちゃく)を取り出して、そこから宿賃を支払(しはら)った。主人は急(きゅう)に態度(たいど)を変えると、にこやかに男を迎(むか)え入れた。
夕食(ゆうしょく)を終(お)えると、男は自分(じぶん)の部屋(へや)へ戻(もど)った。旅の疲(つか)れか、ベッドに入るとすぐに眠(ねむ)りについた。今夜は満月(まんげつ)で、夜なのにずいぶん外(そと)は明るかった。夜中になって、男の部屋に誰(だれ)かが入ってきた。窓(まど)から射(さ)し込んだ光で、それが宿屋の主人だと分かった。
主人は手に大きなナイフを持っていた。男を殺(ころ)して、金を手に入れようとしているのだ。主人は男が寝(ね)ているのを確認(かくにん)すると呟(つぶや)いた。「ふん、薬(くすり)がきいているようだなぁ」
主人は手にしたナイフを男の胸(むね)に突(つ)き刺(さ)そうと身構(みがま)えた。その時、男の目が突然(とつぜん)、開(ひら)いた。主人は一瞬(いっしゅん)ひるんだ。その目が、まるで獣(けもの)の目のように鋭(するど)かったのだ。男は起(お)き上がると、そばにいた主人を突き飛(と)ばした。そして、ベッドの上で吠(ほ)え声を上げた。男の身体(からだ)が、見る見るうちに大きな狼(おおかみ)に変身(へんしん)していく。
早朝。どうやら主人は気(き)を失(うしな)ったようだ。主人が気づくと、部屋には男の姿(すがた)はなかった。村人(むらびと)たちは大勢(おおぜい)で探(さが)し回ったが、男を見つけることはできなかった。
<つぶやき>人狼(じんろう)は悪魔(あくま)の手先(てさき)なんでしょうか。それとも、善人(ぜんにん)だったのかもしれません。
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