「いやぁ、よくやってくれた。君(きみ)のおかげだよ」上司(じょうし)は部下(ぶか)を前にして言った。「それでだ。君に後を任(まか)せたいんだが……いいかね?」
「えっ、あたしに?」女子社員(じょししゃいん)は驚(おどろ)いて、「でも、あたし、電話(でんわ)をとっただけで…」
「いや、君しかいないんだよ。この契約(けいやく)には、我(わ)が社の社運(しゃうん)がかかってるんだ」
「そ、そんなに大切(たいせつ)な契約でしたら、社長(しゃちょう)とか…、あたしより、もっと上の人が…」
「それがね、社長はいま海外(かいがい)なんだよ。いつ戻(もど)って来られるか分からないんだ」
「じゃあ、部長(ぶちょう)が…行ってください。だって、あたし、まだ入社(にゅうしゃ)二年目ですよ。そんな…」
「大丈夫(だいじょうぶ)だよ。先方(せんぽう)だって、君でいいと言ってるんだから」
「何でですか? おかしいですよ。あたし、先方の会社のことだって知らないのに…」
「そんな難(むずか)しく考えなくても…。君は、行って契約書(けいやくしょ)にサインするだけでいいんだから」
「そんな、簡単(かんたん)に言わないでください。もし…、もしも、何かあったらどうなるんですか?」
「そ、それは…、あれだよ。つまり…そういう場合(ばあい)にはだね……」
「まさか…、あたしに、責任(せきにん)とらせるつもりですか? そうなんですね」
「違(ちが)うよ。なに言ってるんだ。君に…、そんなことまでは……」
「絶対(ぜったい)、イヤです。あたし、クビになんか、なりたくありません」
「じゃあ、こうしよう。君には特別(とくべつ)なポストに就(つ)いてもらって…。昇進(しょうしん)だよ。これは、異例(いれい)のことなんだ。給料(きゅうりょう)だって、今よりも増(ふ)えるぞ。これなら…、行ってくれるだろ?」
<つぶやき>こんな会社、間違(まちが)いなく潰(つぶ)れるんじゃないですか? 今のうちに転職(てんしょく)を…。
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