goo blog サービス終了のお知らせ 

徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル19 悪霊島 上・下』(角川文庫)

2018年11月11日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

『悪霊島』(1980)は昭和42年の刑部(おさかべ)島を舞台とする猟奇色の色濃い長編推理小説です。瀬戸内海に浮かぶこの島は以前妻恋島と呼ばれており、村上水軍の一翼を担う網元越智家の支配下にあったが、平刑部幸盛とその伴総勢7人がこの島へ落ち延びてきて、壇ノ浦の戦いで平家滅亡の報を聞くと落人たちも自害したという。しかし、彼らは島にそれぞれ契りを交わした女性がおり、子どもを残していた。幸盛は神主の娘日奈子との間に子をなしていた。彼らは平家の末裔である誇りをもって「刑部」と名乗るようになった。この神主一族の娘が享保時代に領主に見初められたこともあり、島の名前が「刑部島」となり、刑部氏の勢力はさらに大きくなった。現在の島の主権者は刑部大膳という80歳の老人。市長を務めるのはその甥の辰馬。神主は刑部守衛(婿養子)、その妻巴は神々しいまでの美女で、双子の娘真帆と片帆がある。。。

という八つ墓村や獄門島の舞台設定を彷彿とさせるような歴史的蘊蓄が展開される一方、経済成長の一端として瀬戸内海も開発が進み、公害で漁業が立ち行かなくなったことや、島を追い出されるようにして出て行った越智家嫡男竜平がアメリカで成功して大富豪となり、故郷に錦を飾るために、島にゴルフ場をつくったり、神社の建て替えやご神体の寄進など過疎の島に開発の手を入れるという非常に現代的な側面も描写されます。

この越智竜平が島民の反応をうかがわせるために派遣した青木修三という者が行方不明になっているため、金田一耕助に静養がてら島に行くことを進め、ついでに行方を探るように依頼します。ところが青木修三は水死体としてすぐに発見され、謎の伝言(「シャム双生児」「平家蟹の子孫」「鵺のなく夜に気を付けろ」などの断片的なもの)を残していたことが磯川警部から金田一耕助に伝わります。青木修三は落人の淵と呼ばれる刑部島の崖から落ちたことは間違いないと見られ、他殺の疑いもあったため、越智竜平は金田一耕助に改めて事の真相を明らかにするように依頼します。

磯川警部の下には浅井はるという薬屋兼市子(神降ろし)を生業とする女性から22年前に犯した罪を匂わせ、命の危険にさらされていることを告白し、できるだけ早く自分の下へ来るように依頼する手紙が届いており、受け取って一晩逡巡しているうちに彼女は殺されてしまいました。後に彼女と刑部島との関りや磯川警部の意外な過去が明らかになっていきます。

刑部島で越智竜平の計らいで盛大に執り行われていた祭りの晩に神主がご神体として寄進された金の矢に刺し貫かれて殺され、またその翌朝に双子の娘の片割れ片帆が腐乱し、野犬とカラスに食いちぎられた悲惨な死体となって発見されます。神主殺しでは竜平が疑いをかけられますが、片帆殺しの方では竜平のアリバイは完全。

過去の失踪事件(実は殺人事件)が絡んでくるという意味では『迷路荘の惨劇』や『女王蜂』を彷彿とさせ、クライマックスに洞窟の中の探検と死闘があるのは『迷路荘の惨劇』を思い出さずにはいられません。犯人像も『迷路荘の惨劇』と類似しているように思います。世にも恐ろしき狂気の悪女、といったところでしょうか。そして本人はやりたいことをやるだけで、誰かがその後始末をしてしまっているところも共通しています。もっとも犯人をかばう、または被害者をカモフラージュするために死体損壊をする者が登場するのは『白と黒』や『仮面舞踏会』でも同様ですが。

非常に多くの伏線が張られ、もつれにもつれた謎の多い複雑な話ですが、最後のすべての伏線をきっちりと回収しているところはさすがです。

そして最後に金田一耕助が、警察では「失踪」または「自殺」として捜査されていた犯人の行方について、それを殺人と見破り、かつその犯人を見逃して報酬を受け取り去ってゆくのが実に印象的です。罪は罪でも、それを追及しても誰も幸せにならない場合は追及しない方針ですね。


書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル1 八つ墓村』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル2 本陣殺人事件』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル3 獄門島』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル4 悪魔が来りて笛を吹く』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル5 犬神家の一族』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル6 人面瘡』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル7 夜歩く』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル8 迷路荘の惨劇』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル9 女王蜂』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル10 幽霊男』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル11 首』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル12 悪魔の手毬唄』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル13 三つ首塔』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル14 七つの仮面』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル15 悪魔の寵児』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル16 悪魔の百唇譜』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル17 仮面舞踏会』(角川文庫)


書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル18 白と黒』

2018年11月10日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

『白と黒』(1974)は、昭和35年、東京に新築された巨大団地を舞台にした複雑怪奇な連続殺人事件の話で、地方の村や島などを舞台にしたその土地の風俗や言い伝えにまつわる話や元華族などの複雑な人間関係と過去の事件との絡み合いなどの話とは趣を異にする「現代的な」設定の長編推理小説です。しかし、ネタバレになりますが、犯人が若い女性であることや、理由は違いますが、別の人間によって死体が別の場所に運ばれて細工されることによって事件が複雑化するというパターンは『仮面舞踏会』と共通します。

加えて殺人事件に前後して人の情事というかそういう性的な秘密を暴露するような内容の、新聞の文字を切り張りされた怪文書がその問題の団地の住人に何通か配られており、殺人事件と関係があるのかないのか、これも捜査を混迷化させる要素となっています。

また、第一の犠牲者となった女性の顔がまだ建設中の団地の棟の屋上に設置されていたタール窯からダストシュートを伝って落ちてきた煮えたぎるタールによって潰されていたことで、服装から団地の近所で洋裁店を営むマダム片桐恒子と推定されるものの、彼女自身が過去を隠して身元不明であったことで事件がより難解なものとなります。洋裁店からは「白と黒と...荘ホテルで...も当団地に...白か」と活字の切り抜きの貼り混ぜ手紙の一片が発見されたため、この「白と黒」が何を意味するのかがこの事件を解くカギとなります。

金田一耕助はこの団地に住む顔なじみの須藤順子(旧姓緒方)に偶然会って、彼女の夫が怪文書を受取って以来行方不明になっているので助けて欲しいと頼まれて団地に赴き、彼女の話を聞いている間に片桐恒子の死体が発見されたために、この団地の連続殺人事件に関わることになります。彼が呼ばれた先で事件が起こるというちょっと違和感を感じざるを得ない無理系の設定ですね。この作品に限ったことではありませんが。

この作品の面白い所は、次から次へと妖しい人物や疑わしい事実が浮上するにもかかわらず、なかなか事件の核心に辿り着かないという複雑で重層的な構成にあります。その当時新しく出現した「巨大団地」という現象に対して抱かれたであろう不気味な印象が、特殊な文化を育む孤島や山間の閉ざされた村などに通ずるものがあるのも興味深いですね。


書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル1 八つ墓村』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル2 本陣殺人事件』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル3 獄門島』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル4 悪魔が来りて笛を吹く』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル5 犬神家の一族』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル6 人面瘡』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル7 夜歩く』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル8 迷路荘の惨劇』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル9 女王蜂』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル10 幽霊男』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル11 首』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル12 悪魔の手毬唄』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル13 三つ首塔』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル14 七つの仮面』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル15 悪魔の寵児』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル16 悪魔の百唇譜』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル17 仮面舞踏会』(角川文庫)



書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル17 仮面舞踏会』(角川文庫)

2018年11月09日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

『仮面舞踏会』(1962~1974)は、「構想十余年、精魂を傾けて完成をみた、精緻にして巨大な本格推理」と煽りにあるように長編作品です。作品中の時代は昭和34年、35年で、舞台は軽井沢。金田一耕助の活躍年代としてはかなり後の時期になります。

プロローグは昭和34年8月16日に離山の洞窟で男女の心中を金田一耕助が発見する経緯が描写されており、そこで心中しそこなった男性田代信吉が後にどのような役割を果たすことになるのかはかなり後の方にならないと判明しません。その心中と同じ日に過去に4回の結婚・離婚歴を持つ映画女優鳳千代子の最初の夫笛小路泰久がプールに浮かんで死んでいるのが発見されます。死因は泥酔による錯誤からいきなり冷水に入ったことによる心臓麻痺と判断されますが、それ以前に鳳千代子の2番目の夫阿久津謙三が交通事故か事故に見せかけた他殺なのか分からない形で死亡していたこともあり、他殺を疑う刑事もいたものの、その線での捜査は打ち切られていました。鳳千代子は笛小路泰久との間に美沙という娘があり、離婚後美沙は泰久の養母(泰久は妾腹の息子)である笛小路篤子に引き取られ育てられ、千代子は美沙のために篤子にずっと経済的支援をしており、軽井沢に別荘を建ててあげたため、篤子と美沙は毎年この別荘へ避暑に来ていました。

翌昭和35年8月14日、千代子は飛鳥元忠公爵の次男で、戦後神門財閥を作り上げた財界の大物の飛鳥忠煕と恋愛中で、飛鳥は台風の襲来を迎えていた軽井沢の別荘に、千代子も近くの高原ホテルを訪れていたところ、その軽井沢の一角で千代子の3番目の夫である槇恭吾が彼の別荘のアトリエで殺されているのが発見されます。飛鳥忠熈は千代子の夫であった男が次々に死んだ件について金田一耕助に調査を依頼していたのですが、槇の件についても捜査を依頼します。 地元警察の日比野警部補や近藤刑事が捜査を行っている中、金田一たちが現場に駆けつけると、槇は鍵のかかったアトリエの中で机の上に突っ伏して死んでいるところが発見されます。死因は青酸カリ。槇の死体を移動した机の上には朱色と緑色のマッチ棒が、そのままの形であったり折られたりして、意味ありげに並べられあり、また、死体の尻には蛾の鱗粉が付着していたことなどを手掛かりに捜査が進められ、槇恭吾が千代子の4番目の夫である津村慎二が借りていた別荘で殺されたらしいことが判明します。しかし、津村慎二が予定されていた公演に現れず、行方不明となっていたため、殺人犯の疑いがかけられます。しかし、実は彼も青酸カリに倒れていたのでした。

真犯人と協力者、そしてそもそもの原因を作ったラスボスも自殺および無理心中という形で亡くなってしまうので、この作品の死者はトータル7人。

第二次世界大戦、復員後の人生の難しさ、元華族の戦後の没落、複雑な血縁などが重要な役割を果たすのは他の横溝正史作品に共通しますが、呪いや悪魔的ななにか怪奇的要素が設定の中になく、芸能人や音楽家や考古学者などが登場し、また警察側に金田一耕助にライバル意識を燃やす屈折したエリートが配されているなど、新しいパターンが見られます。

設定としての怪奇色は確かにありませんが、真犯人とラスボスの人物像の醜悪さはそれだけで十分に怪奇的です。実行犯の方にはそれでもラスボスの思惑のために人生を振り回されたという境遇の不幸から同情の余地がないでもないですが、ラスボスの方はなんというか、その凄まじい悪意と浅ましさがどんな呪いより恐ろしい感じがしました。

人の人生とは仮面舞踏会のようなもの。誰もが何かの仮面をかぶり、かりそめの役割を演じているということでしょうか。外面や肩書だけでは人の心の奥底までは分からないもの。時には非常に恐ろしいものを内に秘めている人もあるということですね。怖い怖い


書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル1 八つ墓村』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル2 本陣殺人事件』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル3 獄門島』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル4 悪魔が来りて笛を吹く』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル5 犬神家の一族』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル6 人面瘡』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル7 夜歩く』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル8 迷路荘の惨劇』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル9 女王蜂』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル10 幽霊男』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル11 首』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル12 悪魔の手毬唄』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル13 三つ首塔』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル14 七つの仮面』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル15 悪魔の寵児』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル16 悪魔の百唇譜』(角川文庫)


書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル16 悪魔の百唇譜』(角川文庫)

2018年11月08日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

『悪魔の百唇譜』(1962)は中編の推理小説で、高級住宅街に止まっていた車のトランクから胸を一突きされて殺されていた女性の死体が発見されることから始まります。その後別の場所で新しいトヨペットの盗難車のトランクから男性の死体が見つかります。女性の方にはトランプのハートのクイーンが、男性の方にはジャックが残されており、また、男性の身元から数か月前に起こった「百唇譜事件」との関連が取り沙汰されます。百唇譜というのは、ろくでもない男が関係を持った女性たちの💋の紋を取り、日付やイニシャル、それに性癖やら体の特徴やらのメモを集めたもので、それをネタに脅迫を重ねていたのが、どうやら脅迫被害者によって殺されてしまい、犯人はまだ捕まっていませんでした。そしてトランクで見つかった男性はその殺された人の弟子みたいなもので、若くしてかなりろくでなし。

女性の方には内縁の夫があり、嫉妬深いことで有名で、最初はこの夫が疑われます。

真犯人は複数で、珍しく誰も自殺せずに逮捕されて終わります。

この作品では、金田一耕助があんまりやる気がなさそうなのが特徴的です。そもそも彼は前の事件が終わって自己嫌悪に陥り、ふらりと旅に出ようとしていたところにこの事件で等々力警部に取っ捕まって捜査に参加するのですが、特に推理力を発揮しているわけではありません。そして事件の目鼻がつくと後は警察に任せて結局旅に出てしまいます。

なんか作者も余りやる気がなかったのではないかと疑わしくなるほど、面白みがあんまりありませんでした。


書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル1 八つ墓村』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル2 本陣殺人事件』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル3 獄門島』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル4 悪魔が来りて笛を吹く』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル5 犬神家の一族』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル6 人面瘡』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル7 夜歩く』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル8 迷路荘の惨劇』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル9 女王蜂』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル10 幽霊男』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル11 首』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル12 悪魔の手毬唄』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル13 三つ首塔』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル14 七つの仮面』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル15 悪魔の寵児』(角川文庫)


書評:石田リンネ著、『十三歳の誕生日、皇后になりました。 』(ビーズログ文庫)

2018年11月06日 | 書評ー小説:作者ア行

『十三歳の誕生日、皇后になりました。 』は現在4巻まで出ているシリーズ『茉莉花官吏伝』の番外編のようなもので、白楼国の珀陽の支援で皇帝の座に就いた赤奏国の暁月と、本当は暁月が殺した先帝の後宮に入る予定だった莉杏の出会いから始まる恋物語です。暁月は帝位簒奪を実行した日にたまたま13歳の誕生日を迎えて(赤奏国は13歳で「成人」)顔見世のために王宮に来ていた莉杏を「ちょうどいいから」と皇后にしてしまいます。「鳳凰」朱雀神獣を守護神に掲げる赤奏国では「夫婦」であることが重視され、皇帝の即位も夫婦となっていることが必要とされ、暁月が皇后に想定していた女性が途中で暗殺されて来れなかったため、その場にちょうど来ていた莉杏を皇后にして朱雀神獣の加護を受けて即位する儀式を取り急ぎ行って既成事実をつくったという身も蓋もない経緯から始まる関係ですが、莉杏の方は皇后の役割を真摯に受け止め、暁月にもどんどん恋心を募らせ、より一層お役目を果たそうと努力していきます。

莉杏は幼いながらも鋭い洞察力を持ち、学習能力も高いので、どんどん問題解決能力を身につけて行きます。その有能さと健気さに暁月がほだされて行くところもみものです。政情不安の国の帝位に就いたばかりの皇帝の皇后としていろいろと残酷な決断を迫られたり、血なまぐさい事件に巻き込まれたりしますが、「こども」として守られるばかりではなく、懸命に事態に立ち向かおうとするところがひたむきでいいですね。事件の緊張感と「陛下、かっこいい~。好き~♡」というほんわかした感じが程よく混じっていて楽しめます。

購入はこちら


書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 皇帝の恋心、花知らず』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 2~ 百年、玉霞を俟つ 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 3 月下賢人、堂に垂せず』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 4 良禽、茘枝を択んで棲む』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『おこぼれ姫と円卓の騎士』全17巻(ビーズログ文庫)


書評:三上延著、『ビブリア古書堂の事件手帖 扉子と不思議な客人たち 』(メディアワークス文庫)

2018年11月06日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

『ビブリア古書堂の事件手帖 扉子と不思議な客人たち 』はスピンオフの短編集で、ビブリア古書堂店長の篠川栞子と五浦大輔の娘扉子(7)に栞子が語り聞かせる過去の事件の概要という形が取られています。

母親同様に本の虫で、本に関することには妙に感が働く扉子になんとか本の世界ばかりではなく、本物の人との関わりに興味を持ってほしいという栞子の苦心と、そんなこととはつゆ知らず屈託なく「ご本」を信奉する(つまり母の伝えようとしていることがまったく通じていない)扉子のはつらつさが面白い対照をなしており、ふふっと笑わずにはいられない語り口です。

極端な人見知りをする栞子に対して、本好きの人はみんな善人と思い込んで、誰かれなく物おじせずに話すことができ、かつ「じゃあ、私はご本を読むから」とあっさり人を置いてきぼりにできる扉子は外見と本好きという点を除けば全く違うキャラで面白いです。扉子が将来どんな人生を歩んでいくのか楽しみになるような、心温まるスピンオフでした。

そういえば、本編の方の書評を書いていなかったことに今気づきました(笑)本編は7巻あり、古書にまつわる探偵物語みたいな感じですね。特に稀覯本には数百万円の価値があったりするので、それを巡る争いも起こりますので、十分に「事件」がおこる環境です。古書に関する知識と古書業界に関する知識がふんだんにちりばめられ、特に古書に関する知識が謎解きの重要なキーとなることが多いです。そうした緊張感溢れる事件の合間に店長の栞子と店員の五浦大輔のなんとももどかしい一向に進展しない関係(ほぼ五浦大輔の片思いみたいなのに、後の方になると栞子の方も結構?)も見ものです。まあ、最終的に二人は結婚するわけですけど、「まあ、うぶだこと」と思わずニヤニヤしてしまうのもこの作品の魅力の一つではないかと思います。

 


書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル15 悪魔の寵児』(角川文庫)

2018年11月05日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

『悪魔の寵児』(1958)は、正体不明の男が情死を暗示する奇妙な挨拶状を注文するところから始まり、やがてその挨拶状通りの情死体であるかのような姿で発見される差出人となっていた男女。女性の方は闇行為で財を成した実業家風間欣吾の妻美紀子で、発見後に事態を隠蔽するために夫によって死体が自宅に運ばれますが、翌朝までになぜか跡形もなく消えてしまいます。男性の方は無名の画家石川宏といい、まだ息があり、モヒ系の薬を注射されていたために意識不明で入院。新聞記者の水上三太は風間欣吾の愛人の一人城妙子の経営するバー「カステロ」の常連で、彼女と店員の石川早苗の様子がおかしいことに気づき、彼女らの後をつけて、この情死現場に居合わせますが、風間欣吾と協定を結び、この隠蔽に目をつぶる代わりに今後の情報を別に依頼する私立探偵金田一耕助と同等に受けることになり、その後起こる陰惨で、人間蔑視、人間侮辱を極めたエログロい連続殺人に関わって行くことになります。2人目の犠牲者である風間欣吾の愛人の一人保阪君代は、風間欣吾の蝋人形と結合した状態で衆目の下にさらされることになりますが、それ以降は蝋人形ではなく別々に殺害された男女の結合死体が2件、犯人と目される「雨男」に協力していた風間欣吾の元妻が毒殺、そして犯人の一人が金田一耕助のかけた罠にはまって捕まり、自殺して事件終了となります。犯人自身も含めて死者8名、未然に防げた殺人1件。なんと言うか凄まじいですね。動機は復讐で、むしろ普通過ぎるくらいですが、死体を使って男女の絡みを作り上げて衆目の下にさらすというのがなんともグロテスクです。

また、こうして次々と愛人を殺されても、犯人との自分の関係が分かっても大して動じず、生き残った愛人の一人と結婚する風間欣吾の神経の図太さにも呆れずにはいられないというか、どろどろしたざらつく読後感を残す作品でした。


この作品には「南京じとみ」という言葉が登場するのですが、そうれがいったいどういう蔀なのかちょっとググっても分からなかったのが残念です。

また、「弊履のごとく捨てられた」という表現が2度ほど使われています。私は「弊履」という言葉自体これまで知りませんでしたが、通常は「弊履を棄つるが如し」という成句で使われるようですね。横溝氏の使用法はその変化形ということでしょうか。

古い作品を読むと、推理小説といえど色々と勉強になります。


書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル1 八つ墓村』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル2 本陣殺人事件』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル3 獄門島』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル4 悪魔が来りて笛を吹く』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル5 犬神家の一族』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル6 人面瘡』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル7 夜歩く』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル8 迷路荘の惨劇』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル9 女王蜂』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル10 幽霊男』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル11 首』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル12 悪魔の手毬唄』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル13 三つ首塔』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル14 七つの仮面』(角川文庫)



書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル14 七つの仮面』(角川文庫)

2018年11月04日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

『七つの仮面』は短編集で、表題作のほか、「猫館」、「雌蛭」、「日時計の中の女」、「猟奇の始末書」、「蝙蝠男」、「薔薇の別荘」の7編が収録されています。

その中で「七つの仮面」は殺人犯となった女性による過去の独白というスタイルで書かれている変わったタイプの作品です。面白いかといえば、うーんと首をかしげざるを得ません。

短編のせいか、どれも事件のスケッチ・素案のような感じで、事件としては興味深いものがあるものの、小説としての完成度が低いような気がします。退屈しのぎにはなりますが、今一つ熱中できない作品たちです。


書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル1 八つ墓村』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル2 本陣殺人事件』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル3 獄門島』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル4 悪魔が来りて笛を吹く』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル5 犬神家の一族』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル6 人面瘡』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル7 夜歩く』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル8 迷路荘の惨劇』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル9 女王蜂』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル10 幽霊男』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル11 首』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル12 悪魔の手毬唄』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル13 三つ首塔』(角川文庫)


リウマチ性関節炎の記録

2018年11月02日 | 健康

去年子宮体がん・卵巣がんになっただけでは飽き足らず、このたび「リウマチ性関節炎(Rheumatoide Arthritis)」の診断を受けました

正確にいつ発症したのか分かりません。夏に腕や肩が痛くなってたまらず整形外科にかかり、レントゲン検査で肩に異常がないことが確認されて、抗炎症剤を注射してもらって症状が落ち着いたということがありましたが、これがリウマチ性関節炎と関係があったのかどうかは不明です。

ただ、8月末に整形外科に行った時に左の人差し指に痛みがあって曲げられないという症状が出ていたので、これは整形外科の先生に言いそびれてしまったのですが、今考えればリウマチ性関節炎の症状の一つなのは確かですから、やはり発症は8月下旬なんでしょう。

そのうち手首が痛くなり、さらに左手の中指が痛くなり、とだんだん痛む部分が増えて行って、仕事柄タイピングすることが多く、腕を酷使していることによる腱鞘炎のようなものではないかと思っていて、休暇でスペイン旅行に行って仕事をしなければよくなるのではないかという希望をもっていました。

ところが、スペイン旅行の2日前に膝が痛み出し、それでもキャンセル料払うのが嫌で旅行に行ったのですが、どんどんひどくなる始末で…

左手は中指の腫れが目立つようになり、薬指も腫れ始めました。下は9月27日撮影。

右手は指は何ともなくて、手首が痛み、ペンを持ってサインしたり、ナイフで食べ物を切るということが困難になってました。

膝の痛みもひどくなって、階段の上り下り、特に下りるのが痛くてできなくなりました。この時点で、自分に何が起こっているのかさっぱり分からず、ちょっとパニックになっていました。Facebookに投稿したところ、FB友の医師が「リウマチ性関節炎ではないか」と指摘していましたが、結局その方が正しかったというわけです。

旅行から帰ってすぐに主治医のところに行き、いくつか原因が考えられるので、取り敢えず血液検査をすることになりました。取り敢えず痛みを抑えるために「Diclo KD® 75 akut」という鎮痛効果のある抗炎症剤を処方してもらいました。Dicloの自己負担額は8€。

10月8日に血液結果が出たとたんに、すぐにリウマチ専門医へ行くように言われ、予約まで入れてくれました。その結果というのが、アンチCCPという値で異常があり、正常値が<17 なのに、9592出てました。この値はリウマチ性関節炎に特有のものらしく、一般的なリウマチ因子の値よりも正確に「リウマチ性関節炎」を特定できるらしいですね。そこであまりにも極端な値が出たので、「緊急性が高い」と判断され、リウマチ専門医の予約も翌日に取れたんでしょう。

そういうわけで翌日、10月9日にリウマチ専門医のところへ行き、またしても血液検査を受け、超音波検査と触診の結果、「リウマチ性関節炎」の診断が確定しました。そして手足と肺のレントゲンを撮ってもらってくるように言われました。この、一か所で済ませられないシステムどうにかならないですかね?

それはともかく、取り敢えず抗炎症剤であるコーチゾン系「Prednisolon(20㎎)」、ビタミンD の「Dekristol® 20 000」、それからDicloを併用する場合に胃を保護するための薬「Pantoprazol」を処方されました。自己負担額はPrednisolonとビタミンDがそれぞれ5€、胃薬のPantoprazolは無料でした。

リウマチ専門医曰く、Dicloはただの鎮痛剤だそうで。とにかく最初から併用するのには抵抗があったので、Dicloをいったんやめて、Prednisolonを服用したのですが、そうすると痛みがひどくなったので、しばらくDicloを併用することにしました。2週間後にはDicloなしでも痛みがなく、大丈夫になりました。

ビタミンDは2週間に1回服用するように言われたので、これはOutlookに2週間ごとにリピートする予定を作成して管理することにしました。

さて、10月15日にボンの放射線科ネットワークのクリニックの一つでレントゲン撮影をしてもらってきました。ネットワークには7件のクリニックがありますが、レントゲン撮影をするのはそのうちの2ヶ所のみ。紹介状さえあれば、予約なしですぐにやってくれるとのことでしたが、1度目は担当者がかぜで代理が見つからなかったという理由で断られ、2度目は行った時間がちょっと遅かったため、「今日はもう一杯」と言って断られ、3度目の正直でなんとかなりました。待ち時間込みで撮影からレントゲン写真のプリントアウト(下の写真)を貰うまで40分ちょっとで済んだので、他のクリニックに比べれば速いほうですね。

結果は、「肺にも骨にも異常なし」でした。やれやれ😥

右手首はまだ可動範囲が制限されていますが、一応包丁でものを切ったりするくらいはできるようになりました。左手の指関節の腫れは完全に引きました。膝の痛みもなくなり、残るは右手首を曲げた時の痛みだけとなりました。

10月30日にレントゲン撮影の結果と、腫瘍医の最新の診断書をもって再度リウマチ専門医のところへ行きました。

新たに処方された薬は、抗リウマチ薬メトトレキサート(Methotrexate)のMetex(週1で注射)、葉酸(注射を打つ日に服用)、そして低濃度(5㎎)のPrednisolon。自己負担額はMetex 10€、Prednisolon 5€、葉酸は全額負担で3.49€。

コーチゾン系のPrednisolonは長期間服用してはいけないので、段階的に減らすようにとのことで、14日ごとに2.5㎎ずつ減らし、最終的に1日5㎎までにするというこれまた面倒な指示を出されました。仕方ないので、これもOutlookで2週間ごとに服用量、「17.5㎎」、「15㎎」、「12.5㎎」...を書いた予定を作成して管理することにしました。

週1の注射と葉酸もOutlookにリピートアポを作成しました。まあ、「週1なら毎週何曜日にはこれ」と決めてれば忘れることはないと思いますが、Prednisolonの段階的減量と2週間ごとのビタミンDもあってややこしいので全部Outlookで管理すれば間違いはなかろうと思った次第です。こうしておけば、あとはリマインダーが来るまで何も考えなくていいので楽ですね。

Metexの注射開始3~4週間後に血液検査で腎臓と肝臓の値を調べて、異常がなければそのままずっとMetexを使用することになります。その血液検査は主治医のところでやってもらえというので、これも忘れないようにOutlookに入力。私のOutlookカレンダーは医者のアポと薬の予定でいっぱいになってる気がします。

 

さて、この「リウマチ性関節炎」は「関節リウマチ」とも言いますが、一般的にいう「リウマチ」とは全く別物だということを自分がなってみて初めて知りました。いわゆる「リウマチ」には軟骨がすり減ることで引き起こされる関節症と、神経が走行する背骨のトンネルが狭くなることで引き起こされる神経痛が含まれるそうですが、「関節リウマチ」は加齢による磨耗現象とは関係なく、自己免疫疾患と言われています。免疫系が自分の関節を攻撃して炎症を起こし、進行すると関節が破壊され、変形して動かなくなってしまう病気です。早期に発見して適切な治療を行えば、症状をコントロールして関節破壊が進行するのを防ぐことができるとのことです。治すことはできない慢性疾患なのが残念です。

発症は多くの場合30代半ばから50代半ばで、女性に多い(男性の3倍~4倍)そうです。原因は不明ですが、遺伝的要素や、なんらかの感染症がきっかけでなることが多いようです。抗がん剤治療との関係を疑いましたが、臨床的エビデンスはないそうです。

このため、去年の8月~11月に受けた抗がん剤治療の明らかな後遺症と言えるのは歯周病だけのようですね。親知らずを含めて歯を5本も抜かれてしまいました。1本だけは歯根治療で何とか延命できましたけど。今月23日に抜歯でできた隙間をどうするか歯医者と相談する予定です。

それはともかく、リウマチ性関節炎は世界人口の約0.5~1%の人がかかっている、かなり頻度の高い疾患で、ドイツでも約80万人の患者がいるそうです。つまり宝くじに当たる確率よりもずっと高い確率でなる病気なので、抗がん剤治療を受けなくてもなっていた可能性はあるわけで、まあハズレくじをひいたとあきらめるしかないですね。なってしまった今となっては、標準治療が功をなして関節破壊を防げることを祈るしかありません。


書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル13 三つ首塔』(角川文庫)

2018年11月02日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

『三つ首塔』(1955)は、少女時代に両親をなくし、伯父宅に引き取られた宮本音禰に突然アメリカにいる遠縁の佐竹玄蔵から100億円もの遺産を相続する話が舞い込む所から始まる連続殺人事件の話です。語り手は宮本音禰本人。音禰の遺産相続の条件は、高頭俊作なる人物と結婚することで、この結婚が成立しない場合は、佐竹玄蔵の兄弟の血を引く子孫(音禰のほか7人の女性)の間で等分に分けて相続されることになっています。

音禰の伯父上杉誠也の還暦の祝いの席で、先ずダンサーとして舞台で踊っていた佐竹一族に属する笠原操が毒殺され、また別室で上杉の依頼した秘密探偵岩下三五郎に連れられてきた、音禰と結婚することになっている高頭俊作が殺され、また、この男が本当に高頭俊作であるのか確認を取ろうと岩下三五郎を探すと、その彼もまた殺されていたという、のっけから三重殺人が起こります。またこの日音禰は殺された高頭俊作のいとこだという高頭五郎(その他数多くの偽名あり)と運命的な出会いをし、なんと純潔まで奪われてしまいます。このことを隠すために、彼女は警察の調べにうその証言をしてしまいます。また、後日高頭五郎に連れ回されて、他の佐竹一族の様子を見に行きますが、皆揃いも揃っていかがわしい場所でいかがわしい仕事をしており、バックに男がいることが判明しますが、そのうちの一人が殺されている現場の隣の部屋に居合わせてしまい、うっかり指紋を残してしまったためにあらぬ疑いをかけられて高頭五郎と逃避行する羽目に陥ってしまいます。

こうして彼女が以下に他の佐竹一族およびその背後にいる男たちに干渉され、殺人現場に居合わせてしまったが巻き込まれた立場で語られるので、推理小説というよりはサスペンスの色合いの方が濃厚です。その彼女と高頭五郎が解き明かす謎は、相続に決定的な役割を果たすらしい「三つ首塔」です。明らかにされていく過去の因縁はなかなか興味深いです。

殺人犯を追うのは金田一耕助と等々力警部のコンビで、最終的に金田一耕助が音禰たちの窮地を救うことになります。死者10人。これまで読んだ横溝作品の中では最多ですね。それでも音禰たちにとってはハッピーエンドなので、読後感は悪くありません。


書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル1 八つ墓村』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル2 本陣殺人事件』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル3 獄門島』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル4 悪魔が来りて笛を吹く』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル5 犬神家の一族』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル6 人面瘡』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル7 夜歩く』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル8 迷路荘の惨劇』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル9 女王蜂』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル10 幽霊男』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル11 首』(角川文庫)

書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル12 悪魔の手毬唄』(角川文庫)