難民の犯罪
大晦日夜に女性襲撃が多発して以来、これまでどちらかと言うとタブー視されてきた難民による犯罪が公表されるようになってきました。警察は難民による犯罪を政治的にデリケートな問題であると見做し、これまで公表を自主規制してきたようです。その方針がそのまま大晦日の事件の公表遅れ、情報の錯綜に繋がったという反省から、信頼を取り戻すためにも難民の犯罪に関する情報規制を取り払ったのです。
ケルン警察が2014年10月からとっている犯罪統計によると、ドイツ入国1年以内に犯罪を犯す確率は、シリア人ではたったの0.5%なのに対してモロッコ人は40%だという。ほぼ同じ確率で犯罪を犯すのがボスニア人とモンテネグロ人。数年前からケルン中央駅周辺ではスリが横行しており、大部分がモロッコ人、アルジェリア人、チュニジア人による犯行です。彼らはシリア難民たちに紛れて待合室に忍び込み、疲れて眠ったところを見計らって盗みを働いたりするという。モロッコ人、アルジェリア人、チュニジア人たちの犯罪は2011年以来増え続けており、2014年からはスリ・かっぱらい以外の犯罪領域(例えば車強盗、押し入り強盗など)でも彼らが活躍するようになったようです。2015年は1947人の北アフリカ系容疑者がケルンで捜査されました。大晦日のケルンでの女性襲撃事件の容疑者の大半がモロッコとアルジェリア出身。
特にモロッコ人は昨年12月以降流入する難民のトップ5に入っています。難民の流れを利用して、金儲けを目的にドイツへ不法入国し、既にある北アフリカ系犯罪グループ、例えばデュッセルドルフ中央駅近くの「マグレブ地区」と言われるところに拠点を置くグループなど取り込まれていくようです。モロッコ人、アルジェリア人、チュニジア人などは難民認定が受けられる可能性が非常に低く(約2%)、そのことを彼ら自身も知っています。しかし難民申請手続き中はドイツに滞在できるので、それを最大限に生かして金儲けのための犯罪に走る様です。彼らはシリア人として通用するように、予めシリア方言やシリア国歌を練習したり、シリアにおける逃走ルートを暗記したりして準備していることがモロッコで報告されています。そして90日間ビザなしで滞在できるトルコに行き、そこで本物のシリア難民たちにまじってヨーロッパを目指し、ドイツにはパスポートなしで入国するそうです。ただしこれは組織立った動きではなく、個々の若者たちが真似ているだけのようです。しかし彼らは家族などからお金を持ち帰るよう期待されており、そのプレッシャーはかなり大きいとのことです。
ノルトライン・ヴェストファーレン州には60年代に多くの北アフリカ系労働者が受け入れられました。主な受け入れ先は自動車産業や炭鉱などでした。彼らの社会統合度は非常に高く、帰化する人の割合も大きく、子供達の大学入学資格(アビトゥーア)取得率も増加しています。しかし、新しく来た北アフリカ系の若者たちの状況は全く違います。彼らに十分な社会統合のためのオファーをしなかった、と州政府は批判されています。
ノルトライン・ヴェストファーレン州議会内政委員会のための報告書の中でケルン警察は北アフリカ系犯罪者との問題を報告している:彼らの大部分が定住所を持たないためにいわゆるスピード訴訟手続きで判決を下されるが、当局に集中捜査をする時間がないことがよくあるため、軽い刑罰になりがちだという。
ドイツ連邦刑事局は内務省の委託により「難民危機がどのくらいドイツの犯罪発展に影響があるか」を調査した結果、難民の犯罪率もドイツ国民の犯罪率もほとんど差がないことが明らかになりました。しかしながら、セルビア人、コソヴォ人、マケドニア人の犯罪は彼らが全難民に占める割合の4倍にも上るという。それに対してシリア人とイラク人は極端に犯罪率が低いことが分かりました。
ドイツ連邦政府は1月12日、有罪判決(禁固刑1年以上)を受けた外国人は早急に祖国送還処分とすることで合意しました。現在は禁固刑3年以上が送還の基準になっています。祖国送還は「祖国」側の協力がなければ実現しないので、協力的でない国の開発支援を削減するなど今後圧力を強めていく方向で政府は検討していますが、難しいところです。
参照記事:
シュピーゲル、2016.01.12日付けの記事「北アフリカ系犯罪者:難しいお客」
南ドイツ新聞、2016.01.12日付けの記事「なぜ多くのモロッコ人がケルンで容疑者なのか」
ヴィルトシャフト・ヴォッヘ(経済週間)、 20101.12日付けの記事「犯罪的難民はどのように役所をだますか」
ツァイト・オンライン、 2016.01.12日付けの記事「連邦政府は犯罪を犯した外国人をもっと早く祖国送還処分にする」
2016年1月18日のアップデート:連邦刑事局の2015年11月までの犯罪統計によると、186.235件の難民による犯罪があり、前年比7万件増とのことです。同時期に登録された難民申請希望者は前年より80万人多かったことから、犯罪増加は難民数増加に比例していないことが明らかになります。
犯罪の内訳は、傷害23.338件、窃盗75.600件、乗車券偽造26.436件、性犯罪はわずか1,462件でした。入国者数に対する犯罪件数(=犯罪率)ではセルビア、コソヴォ、アルバニア、マケドニアなどのバルカン諸国出身者およびナイジェリア人やエリトリア人が目だって高い、とのことです。
フォークス、2016.01.13日付けの記事「BKAは統計を発表」
右翼の犯罪
一方で、反難民・反外国人を動機とする犯罪もかなりの数に上ります。ドイツ連邦刑事庁の犯罪統計によると、2015年度の難民収容所に対する犯罪は924件(器物破損347件、プロパガンダ186件、民衆扇動104件)で、前年比7倍以上の増加となりました。
難民に対する暴力事件は163件で、前年比約6倍。
右翼的動機の犯罪で逮捕令状により指名手配されている372人が捕まっていない、と南ドイツ新聞は月曜日の紙面で報じました。2015年9月半ばまでに372人の右翼犯罪者に対して450件以上の逮捕令状が執行されていなかったのです(一人に対して複数の逮捕令状が出ています)。指名手配中の犯人たちは雲隠れしてしまったようです。南ドイツ新聞によれば、その犯罪は強盗、麻薬を買うための資金調達を目的とする犯罪、右翼的な攻撃、盗難、詐欺、傷害、銀行強盗そして殺人など。
「私はネオナチがアンダーグラウンドで重篤な犯罪を犯し、それを私たちが知らないでいることがとても心配です」とミハリッチ議員。彼女は主にNSU(国民社会主義的地下活動)という数年間全く邪魔が入ることなく犯罪を犯し続けることができた右翼過激派グループのことを念頭に置いています。
指名手配中の右翼犯罪者の数は数年来増加し続けている。連邦政府によれば2012年には110人、1年後には266人、2014年には268人。そして今また30%も増加しました。
ドイツ連邦議会の2015.12.15日付のプレスリリースによると、2015年は10月までに178人が右翼的動機の犯罪で負傷しています。政治的動機の犯罪は10月時点でトータル2524件で、うち277件が暴行罪、922件が扇動罪となっています。2524件のうち1717件が右翼的動機による犯罪で、うち暴行罪は137件、負傷者は105人でした。
1月9日にあったケルンでの難民排斥デモにおいてもフリガンたちが暴れてすぐにデモが中止になりましたが、日曜日夕方にはフリガンや、門番(ポン引きのような人たちも含まれる)、ロックバンドシーンに属する人たちがFacebookでイベント「人狩り」計画をし、複数の外国人(パキスタン人6人、シリア人1人)を襲撃しました。1月11日(月)夕方はライプチヒでレギーダ(ペギーダのライプチヒ支部)のデモがあり、それと同時に覆面のフリガンたちが約250人ほどがショーウインドーを破壊するなどの暴行を働きました。211人が逮捕されました(写真)。
右翼系の犯罪者は残念ながら外国人犯罪者のように国外追放というわけにはいきません。2015年度の財政は121億ユーロの黒字だったと今日ショイブレ財相が発表しましたが、それだけ黒字を出したなら、ぜひ警察人員の補充、裁判官の充実また若者たちの右傾化を防ぐために若年層の社会統合プログラムなどに特別予算を付けていただきたいものです。
参照記事:
シュピーゲル、2016.01.10日付けの記事「ネオナチ:右翼犯罪者に対する450件以上の逮捕令状執行せず」
ライニッシェ・ポスト、2016.01.11日付けの記事「ケルン中心街で外国人襲撃」
シュピーゲル、2016.01.12日付けの記事「レギーダ1周年。250人の右翼フリガンたちがライプチヒ・コネヴィッツで大暴れ」
ハンデルスブラット、2016.01.13日付けの記事「2015年度の財政黒字は121億 」
ターゲスシャウ、2016.01.13日付の記事「難民に対する暴力」