『Verbrechen(犯罪)』と同様『Schuld(罪)』も著者本人が刑事弁護人(Strafverteidiger)としてかかわった事件のエピソードを集めたものですが、裁かれるべき罪が裁かれていないエピソードが大半を占めます。淡々とした語り口は相変わらずで、ドラマチックな盛り上がりとか涙腺を刺激するような場面とかがないため、退屈と紙一重なのですが、エピソード自体が常軌を逸しているためについ読んでしまいます。
たとえばある男がスプラッタが趣味で、動物解体のための道具を買いそろえて狙った女性に襲い掛かろうと車を降りたところで別の車に轢かれて死んでしまうエピソード。彼が何をしようとしていたかは彼の遺品、日記、コンピュータに保存していたビデオで明らかになったとのことで、狙われていた女性は命拾いしましたが、この変態男を引いてしまった人は過失致死で懲役を食らいます。
なんだかどこをどう突っ込んでよいのやら分かりませんよね。( ´∀` )
他のエピソードでは、罪のない老人が薬物取引の罪を被せられて逮捕され、本人が無言を通したので刑が確定しそうになります。彼は妊婦の恋人が犯人であることを知っていて、彼女が安心して子供を埋めるようにその夫を庇うつもりで黙秘してたんです。結局無罪判決が出て釈放されますが、庇われた男の方は彼女と子どもを置いて出て行き、別件の暴力沙汰で逮捕されてしまいます。庇った意味がなかったですね…
そのような不条理なエピソードや虐待・強姦・いじめなどのエピソードが多いのですが、一番最後のエピソード「Geheimnisse(秘密)」では本当に目が点になりました。被害妄想に囚われた男が著者のもとを毎日訪れるようになり、自分はCIAやBNDの欲しがる秘密を握っているので狙われていると主張し続けるので、さすがにうるさくなって彼と共に精神病院に行くことを提案し、意外にも快く受けたので、2人で精神病院に行くのですが、ドクターに話をする段になって著者が事情を説明しようとしたら、被害妄想の男が Ferndinand von Schirach と名乗って著者のことを指しながら、彼が問題を抱えているようだと言うところで終わります。その後どうなったのか気になりますが、まあきっと問題なく著者は出てこられたのでしょう。このエピソードでは「罪」というほどのものは登場しませんけど、奇妙な体験談と言うところでしょうかね。