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高野秀行『メモリークエスト』

2009-08-21 14:02:00 | ノンジャンル
 総選挙が間近ですが、朝日新聞の記事で公明党の政策は民主党の政策よりもリベラルであるという評価をしていました。どの辺がリベラルなのか興味があります。

 さて、高野秀行さんの'09年作品「メモリークエスト」を読みました。以前海外で出会った人でその後消息を断っている、探してほしい人をネット上で募集し、高野さんが実際に探しに行った記録を書いた本です。
 先ず5年前にタイの山奥の村で出会った、大人を仕切っていた小学生。探し出した青年は普通の人になっていました。次に13年前にやはりタイのミャンマー国境近くで日本へ行った時の身元保証人を探していた男性。これはその男性がミャンマーからの移民だったことが分かり、それ以上調査が不可能だと分かって断念。3番目は約16年前のセーシェルでコレクションの春画を披露してくれた70才ぐらいの老人。探し出した老人は何と86才で今だにおみやげ屋の店番をしていて、当地の名士であることが判明。4番目は当時政治犯としてコンゴ政府に追われていて8年前にヨハネスブルグまで逃げたという知らせを最後に消息不明になっていた男性。彼はケープタウンで自分の会社を起こしていましたが、これはコンゴ政府の独裁者が交代し、彼の兄が新しい独裁者の同級生であったことから復権したのでした。最後は19年前にアメリカ留学中一緒でしたが、その後故郷のユーゴスラヴィアに帰って紛争中に連絡が取れなくなった男性。彼は紛争中ロシアに避難していて現在無事に家庭を持っていたのでした。
 読んでいて驚くのは高野さんの運の良さです。普通なら絶対にたどり着けないようなターゲットに対し、偶然に次ぐ偶然で行きついてしまうというのは神憑かり的でした。この本で新たに知ったことは、タイでは名僧ポスターが人気であること、タイでも南アフリカでも携帯を持っていることは常識であることなどです。それからへえ~と思ったのは依頼人がすべて女性という点でした。ノンフィクションが好きな方には文句無しにオススメです。

F・W・ムルナウ監督『ファントム』

2009-08-20 14:57:00 | ノンジャンル
 スカパーの260チャンネル「洋画★シネフィル・イマジカ」で、F・W・ムルナウ監督の'22年作品「ファントム」を見ました。
 「第一幕」の字幕。ローレンツは妻のマリーに勧められ、過去の苦しみから逃れるため自伝を書き始めます。文学青年だった彼は役所に出勤する途中で馬車にはねられ、馬車に乗っていたヴェロニカに一目惚れします。「第二幕」の字幕。隣人のマリーとその父は詩人としてローレンツを後援してくれるように編集者に頼んだと言い、ローレンツは自分の詩集が出されることを金貸の叔母に話しますが、編集者はローレンツの詩は出版に値しないとマリーらに言ってきます。家出した妹に酒場で会ったローレンツは、妹の連れであるヴィゴツィンスキからヴェロニカに縁談があることを知ります。「第三幕」の字幕。ローレンツの元にヴェロニカを付け回すなと使いの男が言いに来ますが、彼はヴェロニカの家を訪れて結婚を申し込み、ヴェロニカの両親は1年後に答えると言います。ローレンツはレストランでヴェロニカに瓜二つのメリッタに出会い篭絡されます。「第四幕」の字幕。メリッタの母に金を要求されたローレンツはヴィゴツィンスキに説得され叔母を騙して大金を出させることに成功し、メリッタとともに買い物をしまくります。叔母はローレンツが役所をクビになったことを知り、金を3日以内に返さなければ警察に通報するとローレンツに言います。建物が崩れてきてその影に追われる幻覚を見るローレンツ。「第五幕」の字幕。ローレンツは悩み抜いた末叔母に騙したことを白状しますが叔母は却って態度を硬化させ、それを聞いたヴィゴツィンスキは叔母の家に強盗に入ろうと言います。「第六幕」の字幕。深夜叔母宅に押し入った二人は金庫を開けようとしますが、呼び鈴で起きた叔母に見つかり、ヴィゴツィンスキは叔母を殺してしまい、二人とも逮捕されます。ローレンツは刑期を勤めて刑務所を出ると、マリーとその父が迎えに来てくれていて、新しい家で彼らは幸せに暮らし、彼が書いた自伝も彼を立ち直させるのに役立つのでした。
 フリッツ・ラングとのコンビで知られるテア・フォン・ハルボウの脚本ですが、ご都合主義のラストシーンを始めとしてストーリー全体が陳腐で乗れませんでした。唯一冒頭の丘の上の一軒家の見事な構図と、ローレンツの幻覚のシーンが楽しめました。たまには無声映画を見てみたいという方にはオススメです。

山田詠美『学問』

2009-08-19 17:49:00 | ノンジャンル
 山田詠美さんの最新作「学問」を読みました。
 静岡県美流間市の社宅に引越してきた7才の仁美は、さっそく裏山に探検しに行くとそこで隠れ家を作っている心太に出会います。作業を手伝っているうちに我慢し切れずおしっこを漏らしてしまいますが、仁美を慰めるために心太もその場で立ち小便をします。学校に行くようになると、心太は貧しい家の子ながらも皆の人気者で、先生や父兄などの大人までもが彼に気に入られようと心を砕きます。しかし心太が放課後裏山で遊ぶのは仁美と、仁美と同じ社宅に住み眠るのが大好きな千穂と、食べることに異常な執着を示すが人のいい、病院の息子の無量の3人だけでした。やがて無量は大橋素子という読書家の女の子に結婚を申し込まれ、それ以降二人は公認のカップルになりますが、素子は4人の中には入っていこうとしません。4人はセックスに関する知識を共有し、仁美は一人の儀式を幼い頃から始め、千穂は中3で早々と初体験を済ませ、他の3人も高校で別々の相手と初体験を済ませます。ある日仁美がクラスメートと町で買い物をしている時、学費の援助をしてくれた先生の既婚の娘と心太が一緒に歩いているのに出会い、その後を付けてジャズ喫茶に入ると、その中で二人がけだるい雰囲気のキスをしているのを目撃してしまいます。数日後仁美は先生への裏切りだと言って心太を責めますが、今まで近親者が死んでも泣いたことのなかった心太が、先生の娘は元の生活に帰ってしまったと言って号泣し始めます。その夜、仁美は心太が生身の人間となって自分に快感を与えてくれる存在になったことを確認し、子供の時代が終わったことを知るのでした。
 仁美の年齢に従って文体も語彙も変化していき、また章の最初にある死亡記事によって徐々に登場人物たちの歴史が明らかになっていくという構成は見事というほかなく、感心を通り越して感動しました。最初は性の目覚めを描いた児童文学なのかなと思っていましたが、最後には見事な青春小説にまで昇華していて、読みごたえ十分でした。性に対する思いはとてものびやか、かつ素直なもので、詠美さんの小説の登場人物に今回も魅了されました。いつまでも一緒に誰かといたいという思いというのは、とても人を感動させるものだと思います。そうした思いを率直に人に伝えられることが、詠美さんの一番の才能なのではないかとも思いました。とても感動的な小説で文句無しにオススメです。なお、上のあらすじはかなり簡略化したもので、本文の構成も反映していません。小説に即した形であらすじを読みたい方は、私のサイト(http://www.ceres.dti.ne.jp)の「Favorite Novels」の「山田詠美」のコーナーにアップしておきましたので、是非ご覧ください。

ルイス・ブニュエル監督『皆殺しの天使』

2009-08-18 18:05:00 | ノンジャンル
 スカパーの260チャンネル「洋画★シネフィル・イマジカ」で、ルイス・ブニュエル監督の'62年作品「皆殺しの天使」を再見しました。
 20人の招待客を迎える準備をしている使用人たちは、なぜか皆理由をつけて屋敷を離れていきます。台所には熊と数匹の羊が歩き回っています。晩餐の後、ダンス、ピアノ演奏の鑑賞をし、唯一残った執事が明かりを消すと、男性客は上着を脱ぎ出し、女性客とともにその場に寝始めます。夜が明け皆起き出し帰ろうとすると、朝食が運ばれて来て足留めされ、次第に部屋から出られなくなっていることに気付きます。夜になり、食べ物も飲み物もなくなりパニックを起こす客たち。便器の中に崖が見えると女性客たちは話します。皆が寝ている間に老人が一人死にます。数日後、邸宅の外も騒ぎになっていますが、誰も中に入っていけません。中では壁を壊して水道管に穴を開け、皆水を飲みます。極限状態から来る精神的な疲労から侮辱しあう客たち。夜中女性客の一人が動く手首を見てそれを突き刺そうとすると、それは別の女性客の手で高熱ゆえの幻覚だと分かります。夜、言い争いをしていると部屋に数頭の羊がやって来て皆でそれを取り囲みます。しばらくするとクローゼットの中で一組の男女が心中し、隣の部屋では熊が徘徊します。ホストを殺せば外に出られるはずだと何人かの客が言い出し、ホストが自殺しようとすると、一人が今全員が最初の夜と同じ場所にいることに気付き、それからの行動を再現すると、皆部屋から出られるのでした。数日後、大聖堂のミサが終わるとまた誰も出られなくなり、銃声を上げながら逃げまどう市民を追い払う軍によって包囲された大聖堂には羊の群れが入っていくのでした。
 何度見ても面白い映画です。突っ込み所満載で、手首のシーンや客の夢のシーンなどにシュールレアリズムの痕跡が伺えます。'62年の作品とのことですが、もっと昔の作品だと思っていました。当時のヌーヴェル・ヴァーグの人たちの興奮ぶりが想像できるようです。映画好きの方なら文句無しにオススメです。

西加奈子『ミッキーたくまし』

2009-08-17 15:33:00 | ノンジャンル
 西加奈子さんの'09年作品「ミッキーたくまし」を読みました。「Webちくま」に'07年7月27日から'08年12月26日まで連載されたエッセイ35編が収められた本です。
 様々な話題が展開されているのですが、ここでは主にニューヨーク旅について書かれた部分について、私が今年の1月にやはりニューヨークに旅した時の体験と比して書きます。先ず、ニューアーク空港(ニューヨークの空港は3つあり、ほとんどの国際便がケネディ空港を使用しているのですが、日本からの便はノースウェスト航空だけがニューアーク空港を使用しており、私も往復ともニューアークでした)からのバスの運転手が無愛想極まりなく乗客もマナーの欠片もないという部分。無愛想なのはバスの運転手に限らずホテルのクラークから何からサービス業はすべてそうで、マナーの悪い乗客に関してはおそらくブロンクスの住人だと思われました。そしてホテルのおそまつさ。これもその通りで日本のように使い捨てのハブラシや髭剃りが備え付けられていることはかなりのレベルのホテルでもありませんでした。それから知らない人からやたらに話しかけられるという点。私はそういったことは一切ありませんでした。若い日本女性特有の現象であるように思われます。そしてパンのまずさ。何かパサパサで水分を補給しながらでないと口の内側に貼り付くというもので二度と食べたいとは思いません。ということで共感するところが多々ありました。
 大阪弁を駆使したユーモラスな文体に、一つのエッセイに一つ書かれている西さんご本人によるイラスト(メキシコ人の小島よしおは笑えました)も魅力です。エッセイの面白さで言えば、東の横綱が山田詠美さんとすると西の横綱は西さんかもしれません(といっても現在は東京にお住みの様子)。閑つぶしの本をお探しの方にはオススメです。