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三羽省吾『公園で逢いましょう。』

2009-08-02 14:54:00 | ノンジャンル
 ふいに聞きたくなって、久しぶりにキース・ジャレットの「ケルン・コンサート」をかけました。全て即興で演奏された音楽ですが、新たなテーマが始まる瞬間を聞き取ることがとても感動的なことに改めて気付きました。詳しくは、私のサイト(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto)→「Favorite Music」→「キース・ジャレット」のところをご覧ください。

 さて、三羽省吾さんの最新作「公園で逢いましょう。」を読みました。6人の乳幼児を連れて公園に集う5人の母のうち4人の物語と、その母たちと出会う一人の男性の話をまとめた短編集です。
 「春の雨」は、私が小学4年生だった時、同じ団地に引越して来た知恵遅れの小1の男の子と一緒に登校するようになり、たまたま早く登校しなければならない時にその子を置いていったところ、その子が一時行方不明になり、それ以来万引きした物と薄々知りながら男の子から贈り物をもらうようになり、それが発覚した後、雨の中私に手作りの贈り物を贈ろうと立っている男の子のために、友達との外出を途中であきらめたことをきっかけに、それ以後ずっと人を見守るようになったという話。
 「アケベー」は、サッカー選手の婚約者の引退試合で出会った、やはりその試合で引退するグランドキーパーの夫に誘われて来ていた優しい笑顔のおばあさんのおかげで、小学生の時に私が飼っていたコマネズミを誤って殺して以来私が口をきかなかったことで感情を失い事故死した弟に許しを請う気持ちになったという話。
 「バイ・バイ・ブラックバード」は、厳しい父への反発から、自由に生きる先輩と付き合い、その先輩の亡父の追悼ライブの資金集めのために援交のゆすりに手を貸しますが、やがてその先輩も追悼ライブという小さいものにしがみついていることに気付き、ゆすり相手を使ってライブを台無しにしてもらおうとしますが、逆に輪姦されそうになるところを先輩に身をもって助けられ、それ以来人の持つどす黒さへの感覚が無くなったという話。
 「アミカス・キュリエ」は、忘年会に行き、見知らぬ同窓会に紛れ込んでしまい、そこで同窓生たちを騙して金を巻き上げていた男の悪口を聞かされた時、取りかえしのつかないことならいい方に解釈しようと発言したところ、その発言に救われたとその男の元恋人に言われ、その女性と今家庭を築いているという話。
 「魔法使い」は、育児放棄されていた5才のあたしは、公園でホームレスのおじさんの仲良しになりますが、おじさんがいかがわしい行為をしていると警察に通報され、それがきっかけでDVを受けていることが分かり、やがて施設に入れられ、その中で妊娠し、現在は2人の子供とともに暮らしていますが、自分の母のようにはなるまいと希望を持って生きているという話です。

 三羽さんの小説の主人公は皆暗い経験を持つ子供なのですが、ラストで必ず救いがあるというのが素晴らしいを思います。また無駄な文章というものが一切なく、今回も短編にもかかわらずあらすじだけでも長編並みのボリュームで、並みの実力ではないと再認識しました。文句無しにオススメです。