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クリストファー・プリースト『奇術師』

2007-05-26 16:18:57 | ノンジャンル
 吾妻ひでお氏が「不思議な世界を力業で成立させ、その異様なイメージが頭から離れなくなる」と評したクリストファー・プリーストの「奇術師」を読みました。
 19世紀、45才で奇術に魅せられプロの奇術師となったアルフレッド・ボーデンは、裕福な家に生まれ20才で奇術を始め、パブで奇術を行い金を稼ぎ、劇場にも出られるようになりますが、稼ぎのいい降霊会を始めたルパート・エンジャのいんちきを暴き、二人の確執が始まります。お互いにそれぞれのパフォーマンスを客に混じって邪魔し、エンジャは復讐の鬼と化しますが、ボーデンが始めた新・瞬間人間移動のタネがどうしても分かりません。エンジャも自分に瓜二つの男ルートを探し出し、瞬間人間移動をやり絶賛を浴びますが、ボーデンが国外に公演に出ると聞き、わがままを言い出したルートをクビにします。エンジャは二度とボーデンと争わない決心をしますが、ボーデンの妨害は段々悪質になって行き、エンジャは耐えられず復讐を誓います。しかし彼の舞台は見事で、アシスタントをスパイで送りだし、テスラの機械の存在を知り、1万ドルで買って、猫の伝送実験に成功します。そしてこの機械を使った瞬間移動〈閃光の中で〉は絶賛の嵐を呼びますが、自分の分身が現れ、ボーデンを殺そうとします。しかし、このパフォーマンスはエンジャを衰弱させ、やがて46才で死に至ります。分身も彼を追って死んでいきます。
 現在、新聞記者のアンドルー・ウェストリーは3才で養子に出されますが、双児の片割れという感覚をずっと持っています。ある日、ケイト・エンジャという女性がその双児の片割れだとウェストリーに言い、彼の曾祖父は有名な奇術師アルフレッド・ボーマンだったとも言います、ケイトが幼い頃、父が弟のニッキーをテスラの機械に入れ、殺してしまいます。彼女はニッキーの分身がアンドルーの双児の片割れではないか、と思っています。
 (エピローグ)私は分身の呼び掛けに従って、洞窟を進んでいくと古い棺がたくさんあり、その先の棚には瓜二つの何組もの男性の死体が横たわっていた。最後には幼い少年がもがき苦しんでいる死体があった。その名はニッキー・ボーデン。私はその死体を抱いていくと、男が「それはお前の子だ。ここにあるのはみんな私だ。その子と一緒に出て行くつもりか? それともとどまるつもりか?」と言う。私は逃げ、地上に上がり、家に辿り着くと、男は消えていた、という話です。
 五部からなっていて、それぞれで語り手が違い、第一部がアンドル-・ウェストリー、第二部がアルフレッド・ボーデン、第三部がケイト・エンジャ、第四部がルパート・エンジャ(ここだけ日記の形式)、第五部が上に書いた(エピソード)となっています。同じ話が複数に人間によって語られるので食い違った話になると混乱します。結局人間瞬間移動の装置の結果、分身が生じるという話で、映画「蠅男の恐怖」と同じ題材。正直読んでてあまり面白くありませんでした。最後の第五部が一番面白かったです。長い時間を持て余している方にはいいかも?

スティーヴン・スピルバーグ監督『ミュンヘン』

2007-05-25 16:21:05 | ノンジャンル
 遅ればせながらWOWOWでスティーヴン・スピルバーグ監督の'05作品「ミュンヘン」を見ました。
 ミュンヘン・オリンピックでイスラエル選手を人質にアラブ人の政治犯200人を釈放せよ、と要求した「黒い9月」は、特種工作隊の奇襲で犯人は全員射殺されますが、人質11人も全員殺されます。イスラエルの首相はスパイ組織モサドの青年で、妊娠中の妻を持つアヴナーにヨーロッパで今回の事件に関わった11人を殺す命令を下します。彼はモサドとは無関係のドイツ人ウクライナ人になり、書類偽造のプロ、爆弾作りのプロ、「掃除屋」のプロなど4人の仲間と仕事を始めます。1人目はイタリアでイタリア語に訳した「千夜一夜物語」を路上で朗読する男。彼は無実を訴えますが、射殺されます。テレビではパレスチナ人が今回のミュンヘンの事件で我々の声を世界に届けることができたと語っています。2人目は新聞記者にシリアとレバノンの難民キャンプがミュンヘンの事件後イスラエル軍の爆撃を受け200人が死んだと語る男。彼の自宅の電話に爆弾を仕込み、電話をかけると娘である少女が出て、起爆装置を押す寸前で回避し、本人が出たのを確認して爆発させますが、命は助かります。爆弾の量が少なかったのでは、と言い争うアヴナーたち。黒い9月はすぐに復讐に出て、ロンドンのイスラエル大使館を手紙爆弾で爆破し、死亡者を出します。アヴナーはイスラエルに戻り、母と会い、妻の出産に立ち会います。3人目はベッドの下に爆弾を仕掛け、アヴナーは隣室のベランダから標的が寝るのを確認して爆発させますが、今度は爆弾の量が多すぎ、市民に負傷者が多数出ます。4人の同僚は情報源のルイが爆弾をすり替えたと言い、彼を信用するなとアヴナーに言いますが、彼は情報源は必要だと言います。ルイは重要人物3人がベイルートにいると言い、イスラエル軍は3人を射殺し、駆け付けたレバノン軍と戦闘状態になります。ルイはアヴナーをルイのグループのリーダーであるルイの父に会わせます。KGBと黒い9月の連絡役である次の標的をアテネの隠れ家で待ち、標的を爆死させようとしますが、爆弾が爆発せず、仲間の一人が部屋へ突入し手榴弾で爆死させますが、銃撃戦になり仲間が一人死にます。CIAとつながっている黒い9月の男をロンドンの路上で射殺しようとしますが、CIAに妨害されます。悪夢にうなされるアヴナー。一緒だったモサドの男はベッドで頭を撃ち抜かれていました。ルイはアヴナーに手をひく時が来たと言います。次の標的、金で動くオランダ人の女性を射殺。残りは5人、うち1人は監獄。敵は手紙爆弾を11の大使館に送り、ハイジャック3件、アテネで130人の旅行者を殺害、ワシントンでも一人の武官を殺害しています。アヴナーは殺人に抵抗が無くなって来たと言いますが、爆弾担当の仲間は逆に爆殺されます。ルイはアヴナーがKGBを始め多くの者から命を狙われてること、ミュンヘン事件の首謀者が南スペインの南部の邸宅に厳重な警備のもと住んでいることを教え、手をだすと危ないと警告します。2人で邸宅に忍び込みますが、警備員に発見され失敗。当局に情報源の名前と連絡先を聞かれますが、私はあなたの部下でない、と言って教えません。しばらく休養し、次は中南米の仕事を、と言われますが、アヴナーは断り、我が家へ帰ります。アヴナーは自分を見失い、家族との幸福に埋没しようとしますが、路上で車に尾行されているのに気付き、ルイの父に連絡をとると、彼から危険が及ぶことはない、と言います。アヴナーはイスラエル領事館に踏み込み、モサドが家族に手を出したら、必ず復讐してやる、と叫びます。アヴナーは妻とセックスしながら、ミュンヘン事件での虐殺のシーンをフラッシュバックウさせます。標的11人は最終的に9人が殺されて、現在に至っています、という話です。
 ミュンヘン事件を描いた映画で残酷なシーンに溢れいるのだろうと思っていたら、違ってました。次の標的はどんな男だろう、という邪悪な興味が湧く一報で、「プライベート・ライアン」ほどの残酷なシーンは皆無で、暗殺者という人間を描くための映画なのでした。がこれは過去の話ではありません。イスラエルは現在もっと悪質になり、標的を殺すためなら彼が住む一区画全部を爆撃機で吹っ飛ばしているのです。この映画を見た人はぜひその点についても深く考えてほしいと思いました。また、イーストウッド監督のようにアラブ側から見た「ミュンヘン」もスピルバーグ監督に撮ってほしいと思う私なのでした。

中島らも『酒気帯び車椅子』

2007-05-24 15:46:39 | ノンジャンル
 吾妻ひでお氏が「エンタテイメントの王道を行くハードボイルド・バイオレンスで鬼畜系」と評した中島らも氏の遺作「酒気帯び車椅子」を読みました。あらすじは次のようなものです。
 私は商社で働き、妻と幼い娘と犬が家族です。現在、ゴルフ場を買い取り霊園にする計画を進めています。ある日、暴力団系の不動産屋がこの土地を買いたいと言って来ますが、取り合わなかったところ、刑事から昼間の暴力団の会長は自分が欲しいものは必ず手に入れる男だと聞かされます。ある晩、4人の暴力団員が自宅を襲い、犬は殺され、妻は輪姦された上に殺され、私はボコボコに殴られたあげく両足の膝下をミンチ状にされ、娘は誘拐されます。しばらくして発見された私は病院に搬送され、両足の膝下を切断されます。私は個人テロで暴力団を全滅させようと思い、暴力団との関わりは一切警察に話しませんでした。入院中、担当の美人看護士にフェラチオしてもらいます。その1週間後に退院し、1週間アル中生活を続けている間に、飲み仲間が私の車椅子を完全武装し階段も登れる車椅子に改造してくれます。猛特訓で自由自在に車椅子を扱えるようにし、暴力団員が一斉に集まる月寄りの日に殴り込みをかけます。飲み仲間2人も一緒に3人で暴力団員を皆殺しに行きますが、最後に残った社長は娘を人質にしていました。が、やはり飲み仲間の刑事が会長を射殺し、私の復讐は終わるのでした。
 読んでいて、登場人物の言動や行為がわざとらしいな、と感じました。特に家庭内での会話に強く。また、入院後の主人公が看護士相手に急にエロくなるのも、違和感がありました。話は確かに妻が犯されるところは鬼畜系でしたが、最後の皆殺しのシーンも割に呆気無く、主人公に感情移入することもあまりありませんでした。私は「エンタテイメントの王道を行くハードボイルド・バイオレンス」とまでは感じませんでしたが、皆さんはどうでしょうか? 一読の価値はあると思うので、ぜひご自分で判断されてみてください。

鈴木清順監督『俺たちの血が許さない』

2007-05-23 16:32:59 | ノンジャンル
 WOWOWで、鈴木清順監督の'64年作品「俺たちの血が許さない」を見ました。
 関東浅利組の組長が殺されます。その後、その息子シンジ(高橋英樹)は宣伝社の社員となり、ソバ喰い新記録やダービーの大穴を当てて馬券をすられた男として新聞に載ります。会社をサボッて祭りで女の子にもてもてのシンジの所へ、会社の女・ミエが訪ねてきて、いきなり拳銃を撃ちまくります。キャバレーの支配人であるシンジの兄・リョウタ(小林旭)は生活費を母に渡しに来て、久しぶりに母子3人で夕食を囲んでいる時、父を殺した男が訪ねて来て、罪を詫び、自分を罰してくれ、と言います。シンジは自分たちのしてきた苦労を言いながら男を殴りますが、母は過去の苦労は忘れたいと言い、リョウタも2度と来ないでくれ、と言います。熱海への社員旅行で、シンジは愚連隊を父の元子分と一緒にやっつけますが、これが原因で会社をクビになります。シンジとミエはつきあうことになりキスをすると、次のシーンではリョウタとヤスコ(松原智恵子)もキスをしています。シンジはリョウタに雇ってくれと頼みますが、リョウタは「もう兄を頼る年でもないだろう」と、手許に札束を投げます。シンジは金を貰わず、酔っぱらいますが、もうこれ以上避けは出すな、とリョウタに言われた店員に腹を立て暴れて、リョウタに殴られた後、キャバレーのオーナーの会長宅へ連れていかれます。リョウタはこの道に弟を入れないでくれ、と会長に頼みますが、会長はいい顔をしません。リョウタは東大出でやくざの道に入ったのは血だ、とシンジに言い、お前はのびのび生きろ、と言います。ヤスコは会長に拾われた娘で、リョウタと恋に落ちることを禁じられています。ヤスコにリョウタは結婚を迫りますが、ヤスコは自分は会長がリョウタにつけたスパイだと告白します。そして幸せな時間を過ごした後、ヤスコは交通事故で死にます。シンジはミエと結婚すると母に言っていると、リョウタが現れ、母にシンジの結婚を認めてやってほしいと言い、シンジに母の世話をしっかりするんだぞ、と言って家を去ります。リョウタの父を殺した男は会長に雇われ、シンジを運ぶ仕事を頼まれます。母をミエの家に招いたシンジは会長のところへ連れて来られ、裏切った兄を連れ戻せ、と言われます。シンジはヤスコの実家のある信州にいるリョウタのもとへ行きますが、会長が兄弟もろとも殺すつもりなのを知り、実家にいる兄と合流します。兄は自分をおとりにし、シンジを助けようとしますが、兄は致命傷を負い、母の名を呼びながら死にます。母はミエにリョウタの思い出話をし、シンジの正義感を語ります。血染めの兄の背広を手に草原を駆け回ってシンジは兄を探すのでした、という話です。
 実験的なことはキスつなぎのシーンぐらいですが、ミエやシンジのあっけらかんとした明るさや、コマ割りの端切れよさは清順監督独自のものでしょう。「けんかえれじい」の主人公の原点をシンジに見る事ができると思います。常連の野呂圭介もマッシュルームカットのシンジの友人として出ています。活劇として非常によくできていると思いました。未見の方にはオススメです。

沢村凛『カタブツ』

2007-05-22 15:57:35 | ノンジャンル
 吾妻ひでお氏が「しゃれた話に微苦笑」したという沢村凛氏の「カタブツ」を読みました。6編の短編集です。
 第一話「バクのみた夢」では、デパートのバクのぬいぐるみをきっかけに知り合いになった既婚者の二人・道雄と沙織里は、バクの絵があるという美術展でも出会います。二人はどうしても会ってしまいますが、それぞれの家族を愛しているので、知られて傷つかせたくありません。そのため、どちらかが死ぬこととなり、それぞれ単独で自殺を実行しますが、沙織里が道雄の子を妊娠していることが分かることによってどちらも失敗します。結局家族を傷つけることになり、どちらの夫婦も離婚し、道雄と沙織里は一人息子と幸せに暮らし、離婚したそれぞれの夫と妻も再婚します。そして、道雄と沙織里の息子は、この話を語り終え、今プロポーズしている最中なのでした、という話。
 第二話「袋のカンガルー」では、1日に30回は「愛してる」と言わせ、職場にまで「淋しい」と頻繁に電話するような恋愛をしては男から愛想尽かしされ、兄の僕の家に慰められにやってくる亜子。僕は恋人から普段は乱暴なカンガルーが袋に入れると大人しくなるという話を聞きます。友人からのアドバイスで亜子を始め人の世話をやくのを止めることにした僕は、願いごとをする亜子が背中にすがると、袋の中のカンガルーの気持ちになってしまう、という話。
 第三話「駅で待つ人」では、僕は不安を抱えながら駅の改札口で誰かを待っている人を見るのが好きです。そして待っていた人が現れた瞬間に彼らが見せる輝く顔を見るのも好きです。ある日、僕は魅力的な若い女性の待人を発見しますが、彼女が待っていた男は僕に「待たせたな」と言って、強引に僕を連れて歩き出します。事情を聞くと、あの女性とは1日一緒にいただけの人で、別れ際「また会いたい」と言うので、こういうタイプの女が苦手な男は「この駅で、水曜日、この時間」と言って別れたというのです。猛烈に腹のたった僕は高架橋の上で男を押すと、男は落ち電車に轢かれて死んでしまいます。しかし彼の死は彼女が気付いてなければ、今でも改札口で待ち続けているだろうと思うと僕は幸せなのです、という話。
 第四話「とっさの場合」では、強迫神経症の私は、とっさの場合に体が固まってしまいます。デパートで暴漢に襲われた時、夫は自分だけ助かろうとクッションで身を守っていました。このとっさの場合に、私は「二人とも無事で良かった」と見事に反応するのでした、という話。
 第五話「マリッジブルー・マリングレー」では、婚約者の実家へ向かう途中の海岸で、昌樹は既視感に襲われます。彼は過去に交通事故で事故前の2日間の記憶を失ったことに関係があると思います。そしてちょうどその時、その海岸で女性が殺されたことを聞き、自分が犯人なのでは、と疑心暗鬼になりますが、海岸の情景は映画で見たことがあることが分かり、ホッとします。が、久しぶりに会った彼女は「3年前の11月11日にあなたがしたこと、黙っていてあげるから300万貸して」というのでした、という話。
 第六話「無言電話の向こう側」では、合理的に考える得意先の社長・樽見と俺は親しくなるが、自宅のマンションの公共部分で殺された女性が再三助けを求めたにもかかわらず、マンションの住人が一人として助けなかったことで有名になった事件で、樽見が被害者の部屋の隣に住んでいたことを知ります。また、その時ヘッドフォーンで音楽を聞いていたことも突き止めます。毎週末、被害者が死んだ深夜3時8分に樽見にかかってくる無言電話に俺が出ると、樽見の元カノでした。自分の名前が美斗なので3時10分に電話していたと言います。お前、時計が2分進んでるんだよ、と樽見は怒り、俺は彼らがまたよりを戻すだろう、と思うのでした、という話。
 正直言ってあまり面白くありませんでした。第三話など、ひどい話だとも思いました。一話、二話、六話はしゃれた話なんでしょうが、あまりピンと来ませんでした。これは単純に感性の違いでしょう。この短編集をすごく楽しめる人もいると思います。一度読んでみてはいかがでしょうか?