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川上未映子『おめかしの引力』

2017-02-18 03:44:00 | ノンジャンル
 川上未映子さんの’16年作品『おめかしの引力』を読みました。朝日新聞に2008年4月25日から2014年3月20日まで、月1で書かれた同名のエッセイに、語りおろしの座談会を加えてできた本です。
 いくつか引用させていただくと、

・「(前略)数ある骨のなかで絶対的にどうしようもないのが、頭蓋骨、いわゆる頭の形であります」
・「「先日、ある出版記念パーティーでひさびさに会った友達に『ミエコさん見てたら、ほら、あの人。あの人思い出すわあ。ほら……あの人』『えっ誰やろ。あっ、もしかして、あのフランスの……』『ううん……あ、わかったっ。志茂田景樹木ィ! 青いタイツもおそろいやん! 似てるー。ウケるー』だって。ああ」
・「おしゃれにとって秋から冬というのはなんとも心膨らむというか、愉しみどころが満載の季節であって、手袋、首巻き、ファー各種。欲しい&お役立ちアイテムがありすぎて困ってしまう。そのなかでも抜群に重宝し、かつ外せないのは、タートルネックではなかろうか」
・「これは形成外科の先生によると単に肩が下がってしまっているから長く見えるというだけで『首が長い』というのはそもそもないらしく、だいたい長さはみなおなじなのだそうだ」
・「首を温めればセーター二枚分、とは子どもの頃から朝礼などでよくいわれていて、冬場は母によくタートルネックを着用させられていた覚えがあるけれど、(後略)」
・「本当のおしゃれ人というのは、布の質感や素材かを知り尽くしていて、コーディネイト全体のバランスがちゃんと見えているのがその条件(後略)」
・「そして顔といえば眉毛。顔にも色々なパーツがあるけど、眉毛をいじることほどアグレッシブな印象操作もないので(後略)」
・「画一化された質やデザインのものを着こなすには、あらゆる世間と論理を弾き返す若さか、真のおしゃれ眼が必要であって(後略)」
・「ところでみなさんご存じですか、コスプレマニアのスヌーピーの目には、コンタクトレンズが入っていることを」
・「洋服はやっぱ最高ねえ、なんて感嘆しつつあれこれ試着して『これ以外は考えられんね』なんて思って、いくらですかと尋ねると『こちらのスカートはアライアで三十万円、そのニットは十八万円でございます』の世界なのだった」
・「さらに剣呑なのは、悪魔のささやき『ザ・日割り計算』。『一生着るんだから一回につきこれくらい、と思えば安いんやないの』という、恐ろしい錯覚なのだった」
・「(シルクのパジャマを着たら)なにこれ。ものすごく温かくって、保温の質たるや、これまで経験したことのないぬくもりがゆるやかにどこまでも持続して、わたしはとても驚いた」
・「ファッションに限らず、既成概念と抑圧とを相手に根気よく闘い、そのつど少しずつ新しい風を獲得してくれた様々な分野の先達のおかげで、今、当たり前になったことが(とくに女性は)あまりに、あまりに多い(後略)」
・「映画のことなんかなんにも知らなくても、年に一度のアカデミー賞は、見ていてちょっと楽しいですねえ。(中略)つぎからつぎに登場する女優たちの装いには、毎年のことながらうっとりだ」
・「UVケアはもう常識だけど、UVカット加工されたサングラスをかけないと意味がないなんて、恥ずかしながら知らなかった」
・「紫外線というのは肌以外にも目から吸収されて、その刺激&指令でメラニンが分泌されるというメカニズムがあるからで、とくに外を歩くときは要注意」
・「伊勢丹の下着売り場の試着室って、照明とか三面鏡の角度の容赦なさによって、ふだん見ないで済んでいるものが、ぜんぶ見えてしまうのよ。(中略)しかしわれわれはひとりではない! 伊勢丹の下着売り場のみなさまは、も、まったくのプロフェッショナルで、こう、全力で型に嵌めにくるというか、すごいんである」
・「おめかしの喜びとは、トライ&エラーの果てにやってくる、『つかのまの完璧なフィット感』なのかもしれません」
・「『おしゃれ』と『おめかし』にあえて違いを見つけるとしたら、『おしゃれ』ってやっぱり他人の評価が入っている気がするんですよね。(中略)でも『おめかし』には、主体性がある。自分にしかわからないおめかしもありますよね」

 未映子さんのエッセイはその文体も楽しめて、例えば、「無根拠な、でもそうでないといけないようなこの感覚って何に似てるのかと無理やりに考えてみると、まさかの貞操観念めいていて、気が滅入る。気になって調べたら財布はベタに女性器の象徴であるらしく(BYフロイト)、うんざりだ! ああ、それが何を意味するのかについては保留したい。なむ」といった文章も多く見られました。
 楽しい本を読みたい方にはオススメです。