昨日の続きです。
私は杉本純子とともに群馬県警捜査一課の刑事に会い、情報を流したが、「足利事件」と言った瞬間に相手は興味を失ってしまった。彼らにとって「足利事件」は既に過去のものなのだ。実際、菅谷さん釈放後、「真犯人を追及せよ」という声は各メディアからはほとんど上がらなかった。「公訴時効」がその理由である。しかし、冤罪がからんだ場合、時効の停止の判断を検察が下せる条文が法律にはある。実際、警察官が殺害された事件では、そうした例が過去に見られた。そんな時、「ルパンと真犯人のDNA型鑑定の結果が完全に一致した」との知らせが入った。2週間後、ある捜査機関幹部との面談の感触はかなりのものだった。私から話を聞いたその幹部は言った。「何とかしたい、2ヶ月だけ待ってくれないか」私たちは固い握手を交わして別れた。
「完全一致」の知らせを聞いてから2週間後の午後だった。真犯人のDNA型が二種類検出されていたことを知らされた。そして先日会った捜査当局幹部からも〈あのよお……この前の話なんだけど、あの男、違うぞ。やってみたんだけどDNA型が合わねえんだよな……〉という電話がかかってきた。私は独自鑑定に踏み切ることにした。一方、2009年10月21日、ついに「足利事件」の再審が始まった。再審は進むが真相解明は進まないという状況に、私はジタバタすることにし、09年12月、「週刊朝日」に「警察が隠す足利事件の『真犯人』」という記事を書いた。記事にはこの時点で私が問題視していたことを詰め込んだ。もちろんテレビ報道も並行する。『NNNドキュメント』「足利事件・暴かれた冤罪」「検察……もう一つの疑惑~封印された真犯人~」『ACTION』特番「足利事件“時効”の検証」……。2010年3月2日、菅谷さんの無罪が確定し、裁判官は深く頭を下げて菅谷さんに謝罪した。そして検察はついに「連続幼女誘拐殺人事件」の存在を認めた。だが、いつまで経っても肝心の捜査機関が動き出す気配はなかった。私の友人も真犯人についての報道を続けてくれたが、地元警察の否定会見によって地元メディアに記事は広がらなかった。
私は『文藝春秋』の依頼で書いた記事に、2010年10月号に「ルパン」のことも書き残すことにした。「ルパン」のメディア初登場である。反応は予想以上だった。「文藝春秋」編集部では、記事の反響の大きさから、連載にしましょうと言ってくれた。ラジオ番組にも出演した。「ヤングジャンプ」では私と杉本純子が主人公のマンガまで始まった。国会で取り上げてくれる議員まで現れた。答弁した小川副大臣は「時効の問題もあるので、容疑者の人権問題が生じるおそれも」と発言した。被害者の松田さんが遺品の返還を警察に求めると、「シャツだけは返還できない」と言ってきた。捜査をしていないにも関わらずである。これは違法行為だった。そして検察がDNA型鑑定の証拠として採用していた鈴木鑑定で使われていたキットに問題があったことが新たに分かった。私たちは、2011年3月6日、『ACTION! 特別版・連続幼女誘拐・殺人事件に新事実』をオンエアした。放送から2日後には、参議院予算委員会でこの問題が取り上げられた。そして警察組織の頂点に立つ国家公安委員長が、5件の事件について、同一犯の可能性に言及する。菅直人総理も言及した。そして3月10日には、「文藝春秋」4月号で、「これが真犯人の根拠だ!」と題した記事の中で、これまで報じてきたことを総ざらえし、これが最後になってもよいと、最大級のパンチを繰り出した。だが、それは翌日に起こった出来事ですべて泡と消えたのである。3月11日、東日本大震災。警察はまた「時効」を持ち出し、動きを止めた。今度は被害者家族達も動き出し、6月29日、参議院議員会館で記者会見が行われ、「足利・大田連続未解決事件家族会」の結成が発表された。しかし栃木県警はその5日前に被害者の1人、松田さんに「ルパンが犯人ではない」と伝えてきていた。同じ日に群馬県警も、やはり被害者の1人、横山さんに同様の内容を知らせてきていた。
私は「足利事件」と同じくDNA型鑑定を根拠に無実を訴える被告人を死刑執行に追い込んだ「飯塚事件」の取材を始めた。取材を進めると、数々の情況証拠が捏造された可能性があり、DNA型鑑定もいいかげんなものだったことが分かった。
そして「北関東連続幼女誘拐殺人事件」が葬られたことが最後に述べられ、この本は終わる。
菅谷さんが刑務所で同房の囚人に暴行を受け、睾丸が下腹部にめり込み、肋骨を2本骨折させられていたことを初めて知ったとともに、メディアがいかに権力に擦り寄っているかが分かり、先日読んだ『暴露』とも共通する問題をアメリカも日本も抱えていることを知りました。警察と検察のいいかげんさと、日本で冤罪が起こる可能性が高いことを教えてくれる本でもありました。
→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)
私は杉本純子とともに群馬県警捜査一課の刑事に会い、情報を流したが、「足利事件」と言った瞬間に相手は興味を失ってしまった。彼らにとって「足利事件」は既に過去のものなのだ。実際、菅谷さん釈放後、「真犯人を追及せよ」という声は各メディアからはほとんど上がらなかった。「公訴時効」がその理由である。しかし、冤罪がからんだ場合、時効の停止の判断を検察が下せる条文が法律にはある。実際、警察官が殺害された事件では、そうした例が過去に見られた。そんな時、「ルパンと真犯人のDNA型鑑定の結果が完全に一致した」との知らせが入った。2週間後、ある捜査機関幹部との面談の感触はかなりのものだった。私から話を聞いたその幹部は言った。「何とかしたい、2ヶ月だけ待ってくれないか」私たちは固い握手を交わして別れた。
「完全一致」の知らせを聞いてから2週間後の午後だった。真犯人のDNA型が二種類検出されていたことを知らされた。そして先日会った捜査当局幹部からも〈あのよお……この前の話なんだけど、あの男、違うぞ。やってみたんだけどDNA型が合わねえんだよな……〉という電話がかかってきた。私は独自鑑定に踏み切ることにした。一方、2009年10月21日、ついに「足利事件」の再審が始まった。再審は進むが真相解明は進まないという状況に、私はジタバタすることにし、09年12月、「週刊朝日」に「警察が隠す足利事件の『真犯人』」という記事を書いた。記事にはこの時点で私が問題視していたことを詰め込んだ。もちろんテレビ報道も並行する。『NNNドキュメント』「足利事件・暴かれた冤罪」「検察……もう一つの疑惑~封印された真犯人~」『ACTION』特番「足利事件“時効”の検証」……。2010年3月2日、菅谷さんの無罪が確定し、裁判官は深く頭を下げて菅谷さんに謝罪した。そして検察はついに「連続幼女誘拐殺人事件」の存在を認めた。だが、いつまで経っても肝心の捜査機関が動き出す気配はなかった。私の友人も真犯人についての報道を続けてくれたが、地元警察の否定会見によって地元メディアに記事は広がらなかった。
私は『文藝春秋』の依頼で書いた記事に、2010年10月号に「ルパン」のことも書き残すことにした。「ルパン」のメディア初登場である。反応は予想以上だった。「文藝春秋」編集部では、記事の反響の大きさから、連載にしましょうと言ってくれた。ラジオ番組にも出演した。「ヤングジャンプ」では私と杉本純子が主人公のマンガまで始まった。国会で取り上げてくれる議員まで現れた。答弁した小川副大臣は「時効の問題もあるので、容疑者の人権問題が生じるおそれも」と発言した。被害者の松田さんが遺品の返還を警察に求めると、「シャツだけは返還できない」と言ってきた。捜査をしていないにも関わらずである。これは違法行為だった。そして検察がDNA型鑑定の証拠として採用していた鈴木鑑定で使われていたキットに問題があったことが新たに分かった。私たちは、2011年3月6日、『ACTION! 特別版・連続幼女誘拐・殺人事件に新事実』をオンエアした。放送から2日後には、参議院予算委員会でこの問題が取り上げられた。そして警察組織の頂点に立つ国家公安委員長が、5件の事件について、同一犯の可能性に言及する。菅直人総理も言及した。そして3月10日には、「文藝春秋」4月号で、「これが真犯人の根拠だ!」と題した記事の中で、これまで報じてきたことを総ざらえし、これが最後になってもよいと、最大級のパンチを繰り出した。だが、それは翌日に起こった出来事ですべて泡と消えたのである。3月11日、東日本大震災。警察はまた「時効」を持ち出し、動きを止めた。今度は被害者家族達も動き出し、6月29日、参議院議員会館で記者会見が行われ、「足利・大田連続未解決事件家族会」の結成が発表された。しかし栃木県警はその5日前に被害者の1人、松田さんに「ルパンが犯人ではない」と伝えてきていた。同じ日に群馬県警も、やはり被害者の1人、横山さんに同様の内容を知らせてきていた。
私は「足利事件」と同じくDNA型鑑定を根拠に無実を訴える被告人を死刑執行に追い込んだ「飯塚事件」の取材を始めた。取材を進めると、数々の情況証拠が捏造された可能性があり、DNA型鑑定もいいかげんなものだったことが分かった。
そして「北関東連続幼女誘拐殺人事件」が葬られたことが最後に述べられ、この本は終わる。
菅谷さんが刑務所で同房の囚人に暴行を受け、睾丸が下腹部にめり込み、肋骨を2本骨折させられていたことを初めて知ったとともに、メディアがいかに権力に擦り寄っているかが分かり、先日読んだ『暴露』とも共通する問題をアメリカも日本も抱えていることを知りました。警察と検察のいいかげんさと、日本で冤罪が起こる可能性が高いことを教えてくれる本でもありました。
→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)