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杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

静岡伊勢丹吟醸バーその1

2008-06-07 12:04:12 | 地酒

 5日から始まった静岡伊勢丹8階催事場の『静岡フーズフェスティバル』。2日目の昨日(6日)は晴天に恵まれ、来館客全体がドッと増えたこともあって、催事場も大いににぎわいました。

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  私はこの日、16時から、志太泉の望月雄二郎社長と2人で30分ほどトークセッションを行いました。20席ぐらいしかイスが入らない催事場一角の限られたスペースで、ちょうどSBS『特報4時ら』の生中継とバッティングし、せわしない雰囲気でしたが、蔵元が直接語る静岡吟醸の話とあって、この時間に合わせて来てくれた人、買い物途中で足を止める人、仕事の手を休めて聞きに来るブース出店主の方々など、多くの方が耳を傾けてくれました。私は、この企画の立役者である静岡伊勢丹の松村社長と、広告会社PACの柴山社長が目の前で応援してくれたおかげで、お2人への感謝と、静岡吟醸へのますますの応援をお願いします、と語りかける気持ちで、落ち着いて話をすることができました。

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志太泉の望月さんは、5日の志太平野美酒物語2008の実行委員長として汗をかき、昨日は昼は焼津酒米研究会の田植えに参加してから駆けつけるというハードスケジュール。吟醸バー・イーハトーヴォの後藤さんも、朝4時からつまみの仕込みをし、会場に詰める11時から21時までは食事もとれず、トイレに行く以外はカウンターを離れることもできないというハードワーク。私もこのところのオーバーワークでフラフラ状態。3人そろって疲労困憊の顔をしながらも、デパート客という地酒にとって未開拓の消費層から、静岡吟醸の話を聞きたい、呑んでみたい、買って帰りたいという声を直接聞くと、ハイオクガソリンでも注入されたかのように元気になってしまいます。若い女性客が次から次へとカウンターに座ってくれるので、男性陣はハリキリし甲斐があるでしょう。

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  伊勢丹の閉店時間(19時30分)を過ぎても、吟醸バー(21時まで営業)の一角だけこの状態。『芽生え会』という静岡市内の老舗料亭の若旦那さんたちが、吟醸酒に合うおつまみを提供しているので、お客さんはその場で気に入ったおつまみを買って、カウンターではワンコイン(500円)で志太5蔵(初亀・磯自慢・杉錦・志太泉・喜久酔)のレギュラークラスから最上級クラスまでを自由にオーダー。応援に駆けつけてくれたしずおか地酒研究会の会員たちも「こういう店、常設してほしい」と大いに満足し、私の接客ぶりに「板に着いているねぇ」とイタく褒めてくれました。ライターで失業したら、第2の人生はコレで決まり?

 

  今日(7日)も、16時から杉錦の杉井均乃介社長とトークセッションをし、閉店21時までカウンターで“吟醸ママ”になりますので、お時間のある方はぜひ!

 志太泉の望月さんと話した内容は、記録ができませんでしたが、話の要点の一つ・水の話は、私が1999年に『K-MIX夏カジ`99~静岡の地酒を楽しむ17』に書いた記事をベースに進めました。10年前の記事ですが、再掲しますので、志太泉という酒の理解の一助にしていただければ。

 

 

 『静岡の地酒を楽しむ17 志太泉 ~麗しい水と名杜氏の技が醸し出す志太銘醸』 文・取材 鈴木真弓

(静岡あるくマガジンVol.23 ~K-MIX夏カジ`99 フィールドノート社刊1999年6月24日発行号より)

 

 

 藤枝市中を流れる瀬戸川を上流へと遡る。車でわずか10数分というのに、山あいの澄み切った空気と川肌を滑る風の心地よさに、心洗われる思いがする。志太泉酒造は、この瀬戸川沿いの宮原の里にある。

 

 

 私にとって「志太泉」は地酒の原点だった。1988年頃、取材先の店で初めて呑んだ静岡の酒が「志太泉」だった。それまで日本酒に格別の思いがなく、体質的にも強くなかった私にとって、その出会いは強烈だった。日本酒ってこんなにきれいでまろやかなんだ…!

 それ以降、地酒の世界に魅了され、蔵元をはじめ、当時はまだ少数派だった静岡酒を商う店主や愛好者たちと酒縁が波紋のように広がっていった。

 後に知ったことだが、私が日本酒に開眼したあの味は、静岡酵母の開発者で知られる河村傳兵衛さんと、当時の志太泉の杜氏が二人三脚で静岡型吟醸造りを確立した、まさにその絶頂期の味だった。振り返れば一消費者に過ぎない私が、現在、こうして酒の原稿を書いたり、酒の会を主宰できるようになったのは、初めて呑んだ静岡の酒が、そのような素晴らしい酒であったことと、そのときの感動が源流となり、その酒縁が、感動を伝えたいという志を太い水脈へと育んでくれた賜物だと思う。

 志太泉の酒銘は、まさに志太郡の「志太」と、太い志を持って泉のように湧き立つ酒を造りたいという思いが込められているという。今回の取材で改めて「志」の泉を枯らさぬよう、自分に言い聞かせている。

 

 

 志太泉酒造の当主・望月家は、もともと藤枝市中で一族の地主が集めた年貢米を売る商いをしていたが、余剰米で酒を造るため、よい水を求めてこの地にやってきた。明治15年、『望月本家醸』の創業である。酒銘は初めから「志太泉」。戦前は、ご当地で最初にラジオを買ったことから、「ラヂオ正宗」という酒や、山梨県にワイナリーを所有し、「ミクニワイン」を販売していた。

 戦時中は原料米の不足から、企業整備に遭い、昭和18年から10年間休業。そのまま廃業する蔵が多い中、3代目望月太三郎氏(昭29~現在)に復活した。

 昭和32年からは、福島県の「大七」で麹屋をしていた27歳の佐々木松治さんを杜氏に大抜擢。佐々木さんは15年間、杜氏としての腕を磨き上げ、昭和43年の東京農業大学主催全国酒類調味食品品評会で金賞受賞。佐々木さんは今なお、他県の蔵で、杜氏となったご子息とともに現場を指揮しているという。

 佐々木さんが辞めて数年後、杜氏に招かれた多田信男さんは、河村傳兵衛さんとともに、通常の何十倍・何百倍もの掛け水を使う独自の洗米方法を編み出した。同い年の2人は妥協を許さぬ職人気質と、新しい手法へのチャレンジ精神を持ち、大いに切磋琢磨したという。多田さんの洗米方法は、今、静岡型吟醸造りの基本として定着している。

 平成6年から勤めた高橋貞実さんは、愛知の「刈穂」、福井の「黒龍」等の銘醸を経てやってきた実力派杜氏。五感から瞬時にして麹やもろみの状態を読み取り、判断を変えていく天才肌で、志太泉の水に慣れ始めた3年目から、きれいだが旨味もしっかりあるバランスの取れた新たな志太泉吟醸を確立した。

 

 志太泉は職人としての脂ののりきった働き盛りの杜氏が、自身の技を競い合うようにして銘醸へと発展した。しかし、どの杜氏が造っても、あるいはいつ造った酒を呑んでも、最初に感じた「きれいでまろやかな酒」という印象は変わらない。これはやはり、酒の命である水に起因しているように思う。

 

 

 瀬戸川は静岡市と藤枝市の市境・清笹峠に源を発する全長32キロの二級河川。上流の高根山南側には静岡県名水百選にも選ばれた宇嶺の滝がある。源流部は家屋や工場等がなく、水質汚染の心配もない。そこから破砕性に富む岩石とともに運ばれる水は、酒造に有害な鉄分や有機物の少ない軟水。志太泉の財産は、この伏流水を、ろ過等の加工処理をいっさいしないで自然のまま使用できる井戸だ。この水が絶えない限り、志太泉の味は清らかさを保ち続けるだろう。水を求めてこの地に蔵を建てた創業者望月久作氏の選択を称えたい。

 

 私は99年1月~2月、藤枝の別の酒蔵に仕込みの手伝いに通ったのだが、そのとき一番感じたのは、酒造りはとにかく水を使う、しかも使う量が半端じゃないということだ。仕込み用水や洗米にはもちろん、道具の一つひとつの手入れに大量の水を使う。 

 道具の手入れは職人仕事の基本中の基本。当然といえば当然だが、仕込みや洗米と同じ水を、道具洗いに惜しげもなく使える蔵というのは、本当に恵まれていると実感した。

 水をおろそかに使うなとお叱りを受けそうだが、酒蔵だけはお許しいただきたい。静岡の酒は、静岡の水の美しさを体現しているのだから。

 


志太美醸酒

2008-06-06 00:46:08 | 吟醸王国しずおか

 5日23時30分を回ったところです。ハードな1日でした…。いろんな仕事に追いまくられながらも、志太の酒にどっぷり浸かった幸せな一日でした。ゆっくり回想する気力が湧かないので、今夜はとりあえず時間を追って一日の出来事をまとめるだけにします。すみません。

 

 

 

 8時からお仕事開始。昨日入稿した静岡県広報誌MYしずおかの富士山静岡空港特集記事の直しがさっそく入り、資料をひっくり返しながら文章構成を練り直し。

 

 10時になって、ぼちぼち出かける準備。『吟醸王国しずおか』のブリッジに使う写真群を、カメラマン成岡正之さんのオフィスに持っていくのに再チェック。喜久酔松下米の松下明弘さんの米作りを追いかけ、土門拳記念奨励賞を受賞した多々良栄里さんの貴重な組写真を借りることができたんですが、時間の関係で使えるのはせいぜい5枚程度。これを選ぶのに再三悩み、バッグに入れる直前まで悩んでしまいました。

 

 

 11時に静岡リビング社。本日発行のリビング静岡で、“しずおか吟醸ものがたり”という特集を組んでくれて、『吟醸王国しずおか』のサポーター募集や、今日から始まる伊勢丹のフーズフェスティバルの宣伝をしてくれたので、編集部までお礼&掲載誌をいただきに。

 

 

 

 次いで、SCV(しずおかコンテンツバレー推進コンソーシアム)の事務所。6月16日(月)にアイセル21(静岡市葵生涯学習センター)のアイセル歴史講座今年度第1回で『朝鮮通信使』の上映会を開いてくれることになり、資料になりそうなパンフレットの打ち合わせと、20日(金)の山本起也監督スペイン国際ドキュメンタリー映画祭最優秀監督賞凱旋上映会『ツヒノスミカ(&朝鮮通信使)のチケット入手。16日は関係者限定ですが、20日は誰でも鑑賞できますので、『朝鮮通信使』未見の方はぜひ!20日15時15分から静岡市民文化会館中ホールです。

 

 

 

 次いで、静岡県広報局で、MYしずおかの原稿修正の打ち合わせ。「県の広報マンなら静岡の味の名産や酒のことを勉強してください」と伊勢丹フーズフェスのPRをぬかりなく行いました。

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 伊勢丹に着いたのは昼過ぎ。入り口で、雑誌sizo;kaの編集長本間さんが、sizo;kaのバックナンバーをちゃっかり売っているではありませんか。軽く冷やかした後、イーハトーヴォの吟醸バーへ。さすがにお昼の時間から呑む人は少なく、カウンターが寂しかったので、偶然居合わせたコピーライターのバッテリーパーク後藤さんと一緒にサクラになって、二人で客引き?までしちゃいました。

 

 

 伊勢丹ではふだん扱っていない磯自慢、初亀、喜久酔の最高級クラスが呑めるなんて、本当に画期的なことです。通の方も、そうでない方も、少量ですがワンコイン(500円)で気軽に呑めますので、テImg_3611イスティング感覚で楽しんでいただけます(おつまみも、待月楼はじめ静岡を代表する老舗料亭のお惣菜が、おつまみサイズで買えます!)。

 

 その証拠に、私が居た30~40分の間、バーに来たのは全員女性客。平日のこの時間帯では女性客ばかりなのも無理ありませんが、それでも女性が、日本酒に抵抗なく近寄ってくれるってウレシイですね。日本酒を呑みつけない人は、最初に出会うお酒がよければ一生ファンになってくれますから!

 今回は、岡部の酒販店に協力してもらったこともあり、志太5蔵の限定ですが、今後、機会があれば他の酒販店の力で、県内他地区の酒をアピールしてもらいたいと思います。

 

 

 

 14時にJR静岡駅アスティのマッサージ屋さんで頭&肩揉み。以前は、空き時間には映画を観るか喫茶店で読書するのが定番でしたが、最近はもっぱらマッサージ屋さん。・・・年をとった証拠ですわな。

 

 その後、成岡さんのオフィスでカンタンな打合せ。成岡さんは今、某局で放映予定の野球の静高-静商定期戦50周年の番組づくりに追われています。「ゆうべも静高で撮影が終わったのが22時ぐらい。でもこの時間でも暗いグラウンドを一生懸命走っている部員がいるんだよ。なんとかレギュラーを取りたくて必死なんだろうな・・・。静高野球部がなぜ強いのか、ああいう姿を見ると実感するね」としみじみ。

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 16時30分、成岡さんと一緒に焼津松風閣到着。今年で16回を数える、静岡県中部志太地域の6蔵による新酒イベント『志太平野美酒物語2008』が、400人を集め、松風閣で一番大きな宴会場で開かれ、私は毎年、下手な素人司会を担当しています。

(この集合写真の蔵元&社員の顔と名前がわかる人は、相当のツウです!)

 

 

 

 

 司会といっても、参加者は飲み始めたら司会の声なんて気にしてないので、さほどのプレッシャーはなく、テーブル対抗利きあてクイズやお酒の抽選会を進行する程度なんで、いつもの地酒研究会のノリでやっちゃいます。ヘタでも何でも、明るくハキハキしゃべることだけ心がけています。というより、この会はイベント業者を使わず、蔵元自身で企画運営していて、み~んなイベントの仕切りは素人。だから私も安心して?素人司会を続けられるのです。何かあっても「真弓さんゴメン、ちょっと頼む」で済むので、蔵元さんたちも気が楽みたい。これがプロの司会者となると、ちゃんと段取りしなければならないし、段取り通りにいかないと叱られちゃいますからね。

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 恒例のテーブル対抗利きあてクイズの正解が、今年は40テーブル中、たったの1テーブル!

 終了後は 「採点が間違っているんじゃないか」「瓶に変なニオイが着いていたので間違えたんだ、ちゃんと洗っているのか」なんて八つ当たり?を受けちゃいました。私はクイズの酒を呑んでいないので何ともいえませんが、撮影を任せた成岡さんが拾った蔵元の声では「6蔵の酒のレベルが確実に上がっていて、差がなくなってきたんじゃないか」とのこと。

 その話を聞いて、私は、この会はまさに、『志(こころざし)太く、美しく醸した酒』の結集だと思いました。レベルが上がるということは、上げようという志なくしては不可能です。

 

 

 今年は、会場でテーブル仲間から『吟醸王国しずおか』製作支援のカンパをしてくれた人や、ブログを見てるよ、と声をかけてくれる人など、過去何年か司会をやってきた中でも、一番たくさん声をかけてもらえて、たくさんの“実のある”励ましをいただきました。自分がやっていることが、周囲にどう評価されているのかは、こうして直接声をかけてもらわない限り、なかなかわからないものです。この場を借りて、6社の蔵元さんとスタッフのみなさん、そして400人の参加者のみなさまに熱く熱く御礼申し上げます!

 

 

 6日と7日は16時~21時まで、静岡伊勢丹8階・静岡フードフェスティバル会場内のイーハトーヴォ吟醸バーにいますので、ぜひ志太の酒の志の太さ・美しさを確かめに来てくださいね!


静岡伊勢丹フーズフェスティバル

2008-06-03 20:37:22 | 地酒

 静岡伊勢丹の8階催事場で、6月5日から10日まで、『静岡フーズフェスティバル』という地産地消イベントが開催されます(4日の静岡新聞折込広告で紹介されますので、静新購読の方は要チェック願います)。

 

 

 今回は、TVチャンピオン2のケーキ職人選手権2連覇のナチュレナチューレ(清水町)の吉田守秀さんのご自慢スイーツ、磐田・鈴木農園さんの夢カラートマト、浜松三方原・藤田屋さんの塩味玉ラーメン、由比・にんべん食品さんのさくらえび蒲鉾、静岡・ルモンドふじがやさんの炭火焼牛ロースステーキランチ、清水・ロメオさんのマグロ入りトマトソースの生パスタ等など、伊勢丹初登場の地域の名店の味がバラエティ豊かにそろいます。デパート催事場での全国物産展には目のない私ですが、やっぱり地元静岡のうまいもの展が一番楽しみかも。20余年、県内各地の取材に駆け回ってきましたが、まだまだ知らない味、次々に登場する新しい味に必ず出会えるからです。

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 そして今回のフーズフェスティバルでは、静岡吟醸がようやくというか、初めて本格的&大々的にフューチャーされることになりました。

 

 新宿伊勢丹から転任してきた松村社長に、食品売り場、とりわけ日本酒コーナーを刷新したいと相談を受けたのは昨年暮れ。新宿伊勢丹の日本酒売り場といえば、日頃お世話になっている日本酒研究家の松崎晴雄さんがアドバイザーに入って、デパチカとは思えない先進的な売り場に変身し、私も時間を見つけては新宿詣でをしたものです。新宿のデパチカリニューアルを成功させた松村社長のこと、静岡の売り場を見て、さぞかし手の入れ甲斐があると思ったのでしょう。まず、東京でもよく知られた磯自慢や喜久酔がないのはなぜか、どうやったら取引できるのか、という質問から始まり、無名でもいいからこれから伸びそうな蔵、伊勢丹の売り場に価値を感じてくれる蔵を紹介してくれ、と頼まれ、何銘柄かピックアップ。

 

 

 磯自慢や喜久酔が量販店との取引をしない蔵であることは重々理解しつつ、私自身、「伊勢丹は静岡の老舗百貨店だし、県都静岡市街地の顔でもある。そこで静岡を代表する銘柄が揃わないのは、消費者の立場から見て残念だし、地酒を大事に売っていきたいと意欲のある社長さんが来たのなら、何とかならないだろうか…」という思いもあります。

 

 

 

 そこで、苦肉の策として、磯自慢や喜久酔と取引のある地酒専門店に、テナントとして入ってもらうことを提案しました。11年前に上梓した『地酒をもう一杯』をガイドにして、地酒専門店として力があり、意欲があり、個人的にも信頼のおける県内酒販店を何店かピックアップ。

 

 松村社長とそのスタッフは、私が勧めた蔵と酒販店をすべて直接訪問したそうです。後から聞いて、社長の行動力に驚いたと同時に、さすが新宿をあれだけ成功させた人だ!と感じ入りました。人一倍お忙しいはずなのに、メール連絡をしても、即座に返事が来る。成功するビジネスマンってこういう人なんですね。

 

 

 

 松村社長と販売部長、仲介役の広告会社社長との会席で、私が勧めた『亀』を、たいそうお気に召した様子の松村社長。訪問した酒販店の中で、亀を扱う岡部町のときわストア・後藤さんと意気投合したようで、後藤さんが小売店に併設して始めた地酒バー『イーハトーヴォ』が、5日からの静岡フーズフェスティバルに出店することが決まりました。

 

 

 後藤さんは5日から10日までの期間中、岡部の店を閉めて、伊勢丹にずーっと張り付くそうです。営業時間は11時から21時まで(最終日は14時まで)。500円ワンコインで、初亀、磯自慢、杉錦、志太泉、喜久酔の志太5銘柄を提供してくれます(『亀』は毎日50杯限定ですので、あしからず)。お揚げでかつおぶしや桜えびをくるんだ「駿河路焼き」、お茶を練りこんだ「おかべやきそば」、柚子胡椒or梅肉をトッピングした「塩辛冷奴」など創作酒肴もとりそろえるそうで、フロアで買える他の特選つまみを加えると、ヘタな居酒屋よりも贅沢な呑み会ができそうです!

 

 

 「真弓さんの活動のこともぜひ宣伝しましょう」との社長のご厚意で、6日には志太泉の望月社長と、7日には杉錦の杉井社長と、いずれも16時から即席トークショーを開くことになりました。6日は平日ですから、16時には行けないというサラリーマンの方のために、後藤さんと話し合って、この日は望月さんと2人、頑張って21時まで会場で接客することにしました。両日、伊勢丹まで足を運べそうな方は、ぜひぜひ吟醸バー・イーハトーヴォにお越しくださいませ!

 もちろん5日から10日までの期間中、来れる方は何度でも。

 

 

 

 

 静岡の蔵元もそうですが、小売店や個人商店の多くは比較的のんびりしていて、ガツガツ儲けようという姿勢を見せない人が多いですね。伊勢丹のような商業スペースを、敵と思わず、どうやって利用してやろうか・・・そんなしたたかな商人根性を発揮してもいいのでは?

 少なくとも私は、静岡という地域が、後藤さんのように片田舎(失礼!)をハンディと思わず、朝早くから夜遅くまで地酒を売ることに体を張って努力する人が日の目を見て、世間からちゃんと評価される、そんな地域になってほしい。

 そのためにも、伊勢丹はこれからも、隠れた名店や地道に商売する人にスポットライトを当てる名コンダクターであり続けてほしいと思います。


大作曲家の編集力

2008-06-01 17:55:15 | 吟醸王国しずおか

 昨日(31日)夜は、静岡市民文化会館でチェリスト青嶋直樹さんのハイドン『チェロ協奏曲第2番』を聴いて、しばし浮世の喧騒を忘れました。

 

 

 チェロの独奏が入る協奏曲って、想像したとおり、酒造りの映像にとても合うと思いました。同じ弦楽器同士のチームで、独奏者はその頂点というのか象徴というべきか、酒造りでいえば杜氏のような存在に見えます。チェロという楽器は、音や形状からして親方みたいな重量感もある。私、小さい頃ピアノを少しかじっていたので、ピアノは素人でも練習すればなんとか音は出せるけど、弦楽器は素人には手が出せない、ましてやチェロなんて操れる人は、本当に音楽の神様に選ばれた人だという思いがあります。『吟醸王国しずおか』で、神業のような酒造りに挑む人の映像に使うのも、そういう領域の音がふさわしいと思っています。

 

 

 昔、新静岡センターの裏にあった『鷹匠珈琲亭』というクラシック通のご夫妻が経営していた喫茶店によく通い、店のリーフレットを手描きで作ってさしあげたこともありました。マスターには「真弓さんの文章はブラームスみたいだね」と云われたことを、今でもよく覚えています。ピンと来ないでいると、「ブラームスってわりと構成が整っていて聴きやすいんだよね」とのこと。褒められたんだと解って嬉しくなり、それからブラームスに凝った時期がありました。整いすぎて退屈に感じる曲もありましたが、ああ、自分の文章も、後から読んで生真面目すぎてツマンナイと思うことあるなぁと苦笑いしたものです。

 

 

 ハイドンは、音楽の授業で習ったとおり「交響曲の父」といわれ、モーツァルトが終生尊敬した作曲家です。交響曲や協奏曲を作曲するときって、各楽章の意味と連携をふまえつつ、各楽器の特徴も活かしつつ、最後まで飽きさせずに聴かせるものすごい構成力・編集力が必要でしょう。ハイドンやモーツァルトが生きた18世紀は、チェンバロからフォルテピアノへの移行に象徴される楽器の大変革期。ヴァイオリンの仲間にもヴィオラのような厚みのある音の出る弦楽器が加わる一方、管楽器は音程が単純・不安定で19世紀まで待たなければ改良されなかったなど、ハード面では玉石混在の時代でした。そういう変化の時代に、21世紀に聴いても飽きの来ない魅力を持った作品を生み出せた彼らは、本当に音楽の神様に選ばれし者なんですね。

 

 

 

 楽器の完成度も現代ほど完璧ではない、当然、録音機もない。そんな時代に、頭の中だけで編集してしまう。とてつもない才能です。

 脳科学者の茂木健一郎さんがモーツァルトのことを「彼の力はまさに編集力。たとえばトルコの音楽を聴いてそれをモチーフに、“トルコ行進曲”や“後宮からの誘拐”などを書いてしまう。単にトルコの異国風音楽ではなく、従来の西洋音楽の伝統と混ぜ合わせ、まったく新しいものを創ってしまう。サンプリングも編集も見事。創造力というのは、実は編集力なんです」と何かに書いていたのを読んだことがありますが、まさにそのとおり。編集能力を養うには、私などのレベルでは、いったん作ったものを距離を置いて、俯瞰で見直す感覚が必要で、書いた原稿は一晩置いて、翌朝必ず校正するという作業をしますが(このブログも、実は、いったんUPした後、数時間後とか、翌日とかにちょこちょこ書き直してます)、モーツァルトは楽譜にまったく書き直した形跡がないといいますから、頭の中で完璧に編集し終わっているんですね。神業としか思えません…。

 

 

 今まで喫茶店のBGMか映画音楽ぐらいしか接点のなかったクラシック音楽の世界ですが、作曲家や演奏家をクリエーターとして見ると、その凄さがまざまざと感じられ、創作のタネがいっぱい見つかるような気がしてきて、帰宅後は、さっそくチェロの名曲集CDを何枚かネットで購入しました。

・・・私にも、酒でも文章でも映画でも、何の神様でもいいから降りてきてくれないかなぁ。