来る4月2日、新著『杯は眠らないーしずおか地酒35年の取材録』/頒価2,000円(税込)を出版することになりました。初めて自分で全制作費を工面し、思い通りの形で作る本です。ライター業務に就いて36年ほど経ちますが、なんだかようやく、やっと“自家製品”を生み出せた感があります・・・。
出版を請け負ってくれたのは、静岡新聞出版部時代に『杯が満ちるまで~しずおか地酒手習帳』(2015)を企画編集してくれた田邊詩野さん。詩野さんは2年前に独立し、伊豆高原でひとり出版社『子鹿社』を立ち上げ、伊豆半島をベースに地域に根ざした出版文化の創出に孤軍奮闘されている、私が最も信頼する編集者です。自費出版物を手掛けるのは初めてということで、ならば私の酒の本を第一号に作って欲しいと、お一人多忙な業務をこなされる中、無理にお願いをし、快諾していただきました。
静岡の酒に出合ったのは昭和62年(1987)。35年が経った昨年(2022)、ちょうど還暦を迎えた年に執筆を担当した『静岡県の終活と葬儀』(静岡新聞社刊)を通じて自分の終活を初めて意識し、過去記事の棚卸しをし始めたのがきっかけでした。
最初に書いたのは、平成元年(1989)2月、東京の〈酒仙の会〉が寺岡酒造場(現・磯自慢酒造)を見学し、焼津たち吉で懇親会を開いたときに、ゲストで招かれた河村傳兵衛先生の講話を飛び入りで拝聴して書き留めたもの。まだ原稿用紙の手書き原稿でした。
これを始点に、フィールドノート社(現・静岡オンライン社)の静岡アウトドアガイドで連載した『静岡の地酒を楽しむ』シリーズ(1995~2000)、毎日新聞朝刊連載『しずおか酒と人』(1997~1998)、JA静岡経済連情報誌『スマイル』(1998~2020)、静岡マガジン社季刊マガジンSizo;ka『酒蔵を巡るしぞーかスケッチ旅行』(2008~2009)、静岡オンライン社ウエブ連載『日刊いーしず・杯は眠らない』(2013~2014)等など、さまざまな媒体で連載の機会をいただき、単発での寄稿も数多させていただきました。
今回は、これら過去記事プラス当ブログ記事の中から、単行本で残しておきたいと思ったものを選んで収録しました。執筆当時は現役バリバリだった蔵元さんや杜氏さんが引退し、世を去られる過程を思うにつけ「先人が築いた歩みや功績を、誰かがきちんと書き残すべきだろう」「自分にもしものことがあっても過去記事を顧みてくれる人はいないだろう」という焦燥感にも似た自意識にかられてのこと。もちろん特定の個人や銘柄を宣伝する目的ではありませんが、ストーリー重視で選んだ結果、静岡の酒をまんべんなく紹介することはできなかったことを、まずもってお許しいただきたいと思います。
ほとんどが10年以上前の記事で、最新のトレンド情報やガイド情報は皆無ですから、今の酒徒の皆さんには退屈な内容かもしれませんが、目次をザッと紹介しますね。
〇酒縁の人々~波瀬正吉さん、山崎巽さん、増井傳次郎さん、岡田真弥さん、河村傳兵衛さん
〇地の酒地の技~高砂と富士山下山仏、下田の地酒「黎明」、近江商人の酒蔵、富士の白酒と白隠正宗、南部杜氏時空の旅、早稲田大学グリークラブの酒造り唄、杉錦の生酛造り、志太杜氏、サトウキビからアル添酒へ
〇米と水を巡る旅~ 酒米の多様化と誉富士、静岡のまるい水まるい酒、世界遺産の仕込み水、名水の歴史を巡る旅
〇忘れ得ぬ対話~松崎晴雄さんと語る静岡吟醸、杜氏と樹木医・自然の育ちに寄り添う力(青島傳三郎さん×塚本こなみさん×鈴木真弓)
〇日本酒の履歴~広辞苑重版の旅、酒とうつわ、酒造聖地巡礼、酒と御饌と茶懐石、出雲との茶文化交流と酒造起源探訪、酒茶論~酒 対 茶の可笑しな論争
嬉しかったのは、本の装丁と組版を手掛けてくれたデザイナーのBACCOさんが、私が過去に描いたイラスト画を見て「力がある、真弓さんの人柄が伝わる」と掲載を提案してくれたこと。今回初めてご一緒するデザイナーさんだけに、その一言が何よりのご褒美に聞こえました。その分、ページ数が増え、ちょっとお高い本になってしまいましたが、高校生の頃、漫画家を夢見ていた自分に「還暦まで待てばいいことあるよ」と伝えたい気分になりました。
この内容ですから一般の書店に並べても売れないと思い、今回は既存の書店流通販売はせず、以下の方法でお届けしたいと考えています。
■子鹿社のサイト(こちら)にて通信委託販売 *4月2日から
■発売記念しずおか地酒サロン「日本酒ブックカフェ@このはな」開催
日時/4月22日(土)12時~20時、23日(日)10時~15時
*時間内に自由に遊びにいらしてください。
場所/古民家ワーク&レンタルスペース「このはな」(こちら)
内容/静岡市内の閑静な住宅街にある古民家(安東2丁目、アンコメさんや知事公舎の近く・アクセスはこちら)。私が主宰する駿河茶禅の会の例会でいつもお世話になっている素敵なスペースで、飲んでしゃべって本の試し読みができるブックカフェを2日間限定で開店します。ご来店の方にはもれなく鈴木の秘蔵酒をサービス。ノンアルコール用にお抹茶サービスもいたします。ご来店の際はお酒&おつまみ&お茶菓子の持ち込み大歓迎!本がお気に召してくださればお買い上げ、よろしくお願いします!
このはなのオーナー永田章人さんは故・増井傳次郎さん(満寿一)の同級生で、増井さんが現役の頃、蔵で使用していた木製机を譲り受け、このはなで使用しています。この机を囲んでぜひ語らいたいと思っています。
■子鹿社と直取引のある県内個人書店にて委託販売 *書店リストは追ってお知らせします。
■この内容に関心のある酒造会社、酒販店、飲食店にて委託販売 *鈴木より直接お願いにうかがいます。販売をご検討いただける方はご一報ください。
鈴木のメール mayusuzu1011@gmail.com
■静岡の酒を支援する酒の会・イベント(規模・地域は問いません)にて出張販売 *出張販売の機会をご提供いただけるようでしたら鈴木が直接うかがいますので、上記メールまでご一報ください。
初めての自費出版物、どう売ればいいのか正直なところ不安で一杯ですが、静岡の蔵元さんが、初めて造った吟醸酒を受け入れてくれる取引先を一軒一軒開拓されていったことを思い浮かべながら、一冊一冊丁寧に手売りしていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします!