杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

『アルゴ』を観て

2012-11-01 08:58:50 | 映画

 

 昨日は渋谷で取材があり、終わった後、話題の映画『アルゴ』を観ました。いやぁ~面白かった!!1979年に起きたイランの米大使館人質事件のとき、大使館から脱出してカナダ大使私邸に潜伏していた6人の大使館員をイランから無事出国させるため、CIAの人質救出プロが、大使館員をハリウッドB級映画「アルゴ」のロケハンクルーに化けさせるという、映画みたいなホントの話。監督はベン・アフレック。『アルマゲドン』とか『パールハーバー』のイメージが強くて、盟友マット・デイモンに比べると俳優業のほうはB級っぽいと思っていた彼が、こんな凄腕を持っていたとは・・・!

 

 

 

 ハリウッドが大喜びしそうなこんな美味しい実話、今まで映画化されなかったのは、この作戦が18年間トップシークレットにされていたためだそうです。

 

 人質救出計画と聞けば、007のような高度な裏工作か、米軍特殊部隊の派手なドンパチなどを想像しますが、このお話には皆無。アメリカ人だとわかれば問答無用に攻撃対象とするイラン革命派のハンターのような目をくぐり、映画のロケハンに来たカナダ人ですよ~とだましとおし、空港から堂々と出国させるという作戦。バレたら最後、即処刑されるし、大使館に残った52人の人質の命運も尽きる。

 「アルゴ」の製作がイラン側にホンモノだと思わせるため、「猿の惑星」でアカデミー賞メイクアップ賞を受賞した特殊メイクアーティストたちの徹底した協力っぷりが面白おかしく、現地イランでは次から次へと難問噴出。土壇場でアメリカ本国からの協力の糸も断たれ、最後の最後、6人が乗った飛行機が無事飛び立ってイラン領空から離れるまで、本当にドキドキハラハラ・・・。

 

 

 

 実際は、イラン側が作戦を知って地団駄を踏んだのは後々の新聞報道だったそうで、ドキドキハラハラの演出はあくまでも映画として。そこがドキュメンタリー作品とは違うんでしょうけど、映画のトーンというのか色合いっていうのかな、79年から80年にかけての空気感を見事に再現していて、マジでドキュメントかと思わせるほど。それは単にセットや役者のファッションやメイクをその当時っぽくするだけでなく、ベン・アフレックはキャスティングでも実在の人物に似た俳優を厳選したとか。エンドロールで実在の大使館員さんと演じた役者さんの写真が並んで出てきたのですが、あまりの激似ぶりに笑ってしまうほどでした!

 

 

 日本でもいますよね、“昭和顔”っぽい役者さん(笑)。・・・でも、これが案外大きいファクターだと思う。邦画でも大学闘争やあさま山荘事件を扱った作品がありますが、違和感を感じることが多いのは、今どきの顔というか、現代の人気役者を使うからなんですよねえ。人気者を使わなければスポンサーがつかない、話題にならない、観客動員にもつながらない・・・のかもしれないけど、『アルゴ』では、監督主演のベン・アフレック以外に日本でもすぐに顔と名前が出てくる有名俳優とかは出てなくて、本当に作品の質だけで勝負!って感じが好ましい。ハリウッド側の協力者コンビを絶妙に演じたジョン・グッドマンとアラン・アーキンの演技が高評価ですが、私はCIAの上司役を演じたブライアン・クランストンがよかったなあ。この作品で初めて知った役者さんだけど。

 

 

 

 

 

 

 題材自体が魅力的だから、監督によっては徹底したドキュメントタッチにもできるし、コメディにもできる。スピルバーグとかスコセッシとかソダーバーグあたりが撮っていたら、もっと話題になっていたかもしれません。でも難しい政治背景があって、当事者も存命・・・という実話を取り上げる上でベン・アフレックが取った手法は、フィルムメーカーとしてとても誠実で、役者やスタッフのスキルを信じて創り上げたと感じられました。彼はひょっとしたらクリント・イーストウッドのように、役者よりも監督として後世に名を残すかもしれませんね。

 

 

 

 こんな面白い作品、静岡の映画館はなぜすぐに買わなかったんだろう。早く公開されるといいんですが・・・。

 

 


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