杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

彼岸の体験

2012-09-24 13:44:30 | 日記・エッセイ・コラム

 少しブログやフェイスブックをお休みしてました。お休みの間も過去ページに多くのアクセスをいただき、心より感謝いたします。

 

 

 お休みしていたのはネットだけじゃなくて、ライター業務からも1週間余り遠ざかっていました。仕事がなかったのはフリーランサーの宿命といいますか、いいときもあればわるいときもあるというわけですが、それプラス、『吟醸王国しずおか』製作の予算面でも深刻な問題に直面しました。以前、「金に苦労するのは解っているんだから、もっと事前にちゃんと考えて準備するのが筋じゃないか」と某蔵元から叱責されたことがあり、今になって骨身に沁みてきたわけですが、とにもかくにも、自分で決めて始めたプロジェクトですから、自分自身で解決していくしかありません。

 

 

 

 アメリカ旅行は春の段階で予定を組み、飛行機代も払ってしまっていたので、旅行は旅行で愉しんだものの、帰国後すぐに開催した『酒と匠の文化祭』で多くの方から激励をいただき、改めて目が醒めた心地がしました。

 いつ完成するかわからないプロジェクトなのに、手弁当で協力してくれる仲間がいて、叱責することもなく、腰を据えて付き合おうと言ってくれる。・・・旅行を通じて得た「その国の、その土地の固有の文化を語りつなげることの大きな意義」と、吟醸王国の仲間の存在の大きさが、自分に“カツ”を入れてくれたようです。

 

 

 

 

 とにかく今はヒマをもてあます余裕はありません。文化祭が終わった翌日からアルバイトのウェブページをいくつか検索し、働き口を探していたところ、運よく知り合いの酒屋さんが店員募集をしているのを発見!さっそく連絡してみたらすでに別の学生バイト候補がいて、「スズキさんだとこちらがやりにくいし・・・」と穏便に?断られてしまいました。

 

 学生バイトに酒の知識で負けるはずがない、しかも酒の映画作りで苦労しているのは理解してくれているはずだし、必ず雇ってくれる、と思い込んでいた私的には軽いショックでしたが、考えてみると、雇い主側にしてみたらハタ迷惑な思い込みです。過去、蔵元や酒屋や飲食店を取材して聞いた話で、“人材面で苦労するのは、知ったかぶった素人が口を出すケース”だったことを思い出し、自分が製造や販売の現場に入ったら、まさにそういうハタ迷惑な存在になるのかな・・・とちょっぴり情けなくなりました。

 

 

 

 数日後、お世話になっている人に仕事先で会って、ついつい愚痴をこぼしてしまいました。とにかく自分がお金に困っていることを誰かに知ってもらわないことには状況は変わらないと、恥をしのんでの愚痴こぼしでしたが、翌日、その人から思いがけないバイト口を紹介してもらうことに。仕事はお寺の家政婦さんでした。

 

 

 

 仕事一筋で30年近く独居生活の自分は、家事経験はほとんどないに等しいもの。「家政婦のミタ」は面白く観ていましたが、あんな仕事が自分に務まるとは到底思えません。

 それでもどこか「寺の仕事」に不思議な縁を感じ、面接に行ってみると、いつも坐禅に通う京都の興聖寺と同じ宗派。奥様は京都から嫁いでこられた方で、ご実家は興聖寺の本山筋にあたる寺で、興聖寺のご住職も知っているとのこと。日本にあまたある仏教寺院の中で、そんな偶然があるのか・・・とビックリしてしまいました。

 

 

 

 

 仕事は日勤ですが土日、お盆、お彼岸、暮れ等、寺の行事が立て込んだときに入るというシフトで、ライター業務と両立してよいという条件。掃除、洗濯、アイロンがけ、葬儀や法事の準備&片付け等など、自分的には慣れない家事仕事でしたが、朗らかで物分かりの良い奥様&先輩家政婦2人が親身に教えてくれ、先週の秋のお彼岸期間、8日間なんとか勤め上げました。

 

 

 

 掃除用具の種類の多さに驚いたり、アイロンのかけ方や洗濯物のたたみ方に戸惑ったり、本堂の床拭きで関節痛になったりと、家事経験の未熟さを露呈して自己嫌悪に陥ったりしましたが、一心に掃除をしている時間は決して苦ではありませんでした。

 

 お寺の中って毎日掃除をしているので汚れはほとんどないのですが、気を緩めたら汚れ残しが出るという緊張感は、掃除のみならず、モノづくりに向かう姿勢のすべての基本だな・・・と実感させられたのです。酒の仕込み中の現場のことを、よく「洗いに始まり、洗いに終わる」と記事に書いたものですが、本当に本当に基本なんですね。

 以前、『翁弁天』の醸造元(岡田酒造=今は廃業)で3ヶ月間、仕込み作業を手伝ったことがあり、記事では伝えきれない現場の価値を理解していたつもりでしたが、酒蔵以外の現場で同じことを実感できたのは大きかった・・・。

 

 

 

 アメリカで看護師をしている妹には、あらゆる生活動作でチェック&チェックを厳しく言われ、ウザイなあと思うこともありましたが、人命を預かる仕事をしている緊張感が彼女に点検癖を付けていたのだと、今はよく理解できます。

 

 

 

 

 ライターの仕事が減り、映画の資金も集まらず、八方ふさがりだった自分にとって、寺の掃除に没頭する時間がどんな意味を持つのか、まだよくわからないのですが、すべての出来事は必要必然、という思いで今後も精進していきたいと思います。

 無計画で無鉄砲な未熟者の悪あがきだとお笑いの方もいらっしゃると思いますが、どんな仕事をしていても、何かしら見つけて肥やしにしてやろうと思ってますので、どうぞ温かくお見守りください。苦手だった家事を身に着け、オファーがあればいつでも嫁に行ける自信も付けてやるぞ・・・と(笑)!