杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

カウンター7席の濃密な時間

2010-09-15 16:48:04 | 地酒

 先週、東京ビッグサイトの展示会に参加した帰り、西麻布の『一汁三菜』さんで夕御飯をいただきました。

 この店のことは過去ブログでも紹介したとおり、静岡の安東米店さんからこだわり米を仕入れ、魚料理、お総菜、お漬物に味噌汁という一汁三菜をいただけるカウンター7席の小さな定食屋さん。夜は釜で炊いた玄米食用巨大胚芽米カミアカリが食べられます。1銘柄だけ置いてあるお酒は「喜久醉松下米50」。大都会のど真ん中で味わうカミアカリと松下米は、また格別の味わいです。

 

 

 ビッグサイトの展示会にお誘いした静岡の食品販売会社の女性営業部長さんは、日本酒はまったくダメ…!と頑なに拒否していたのですが、「だまされたと思って一口」と勧めてみたら、「あれっ、違う? これホントに日本酒?」と目を白黒。スーッと美味しそうに呑み干していました。・・・こうして日本酒飲まず嫌いの人が一人ひとり開眼していくのを眺めるのも格別の趣です。

 

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 先日、アットエス地酒が飲める店の取材で訪ねた『板前てんぷら成生』さんもカウンター7席だけのてんぷら専門店でした。

 店主がカウンターの目の前で一品ずつ丁寧に揚げてくれるてんぷら。海鮮類のネタはすべて生食できる鮮度抜群のものです。取材当日は、築地から届いたばかりの東京湾アナゴをその場でササッと〆て、サクッと揚げて試食させてくれました。「てんぷらは、食材の持ち味をストレートに味わうベストな調理方法」と断言する店主。

 

 

 アナゴは駿河湾産だと海がきれいすぎて味が淡白で、東京湾のほうがてんぷら向きだとか。食べ比べてみないと何ともいえませんが、試食した東京湾あなご天は、ふっくらした甘みが衣の香ばしさに包まれ、てんぷらとはかくも奥深い料理か・・・と感嘆させられました。お酒は白隠正宗一銘柄のみ。「酒は、てんぷらの油分を口で洗う、リセットするためという位置づけをされるが、静岡の酒は油を一緒に抱き込んで包み、味をふくらませてくれる」そうです。

 

 

 店主ひとり、7席だけの小さな食空間。でもそこから醸し出される料理と酒は、一人ひとりのお客さんにかけがえのない時間を与えてくれます。

 飲んで食べるだけの時間が、かくも濃密かと思える店。低価格志向の時代にこういう店がしっかり息づいていることに感謝したくなると同時に、自分が醸し出す文字や映像も、たとえ読者や観客は少なくとも観てくれる人に濃密な時間を与えられるだろうか、いや、きちんと与えたい、と願わずにいられません。

 

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