昨日(20日)は両親を誘って、映画『剣岳~点の記』を観に行きました。この歳になって親と一緒に映画を観るなんて自分でもビックリですが、ふだん完全アウトドア派で映画館には数十年入ったことのない2人でも、山の映画なら興味を持つだろう、MOVIX清水なら20日は1000円で観られるし、お昼に鮨でもご馳走してやれるし、ついでに篠田酒店ドリプラ店で酒でも買ってやれば、格好だけでも父の日の親孝行した気分になるし…と、混雑覚悟でドリプラへ。
ドリプラのMOVIXで映画を観る時は、たいてい朝一番とか夜の最終上映なので、土曜日真昼間でしかも1000円割引デーとなると、人の多さが、今日はお祭りかってなぐらいに感じます。映画館に慣れない年寄りを連れてくるのは不向きだったなと内心反省しつつ、事前に希望の席を指定確保できるネット予約が奏功し、チケット売り場に並ぶことなくすんなり入館できました。
昨日は公開初日とあって3分の2ほどの入り。夜の最終上映でたった一人だったなんてこともあったので、これだけ人が入っている映画は久しぶりです。しかも年齢層が高っ!両親と同様、山登りが趣味の中高年が多いんでしょう。
ふだん映画館で映画を観る習慣のない中高年世代って、言っちゃ悪いけど、マナーに欠けます。自宅の茶の間と同じ感覚で、周りにお構いなく、上映中にあーだこーだしゃべり出す。ちょうど1年前、静岡市民文化会館で開かれた山本起也監督の『ツヒノツミカ』凱旋上映会で後ろの席のおばさまたちが上映中終始しゃべりっぱなしだったのに閉口したことがありますが、昨日は、隣の両親が、「明治村の撮影だね」とか「あの山小屋から行くルートだな」などなど、いちいち確認し合っているのに閉口…私に「あの道はね」と解説しようとした母を「シー!」とにらみつけてしまいました(苦笑)。
でも気が付くと、後ろのほうでもゴチャゴチャしゃべっているお客さんが。1組2組じゃありません。私に叱られてシュンとなった母も、周囲から漏れ聞こえる話し声に安心したのか、要所要所で会話再会。測量隊メンバーが滑り落ちるシーンでは「あーっいたたたた」と効果声?まで付ける始末です。それだけ映像にのめり込んでいるのかと思うと、しかる気も失せてしまいます(苦笑)。
母は1年前に剣岳に登ったばかりで、山小屋の主人や山岳ガイドから撮影の裏話をさんざん聞いていたらしく、登山仲間から新田次郎の原作も借りて読み、特典写真集付きの前売り券を早くから買って昨日の公開を待ちわびていたそうです。
母と一緒に日本百名山踏破を目指していた父は、志半ばで心臓病を患い、今は負担の少ないウォーキングツアーぐらいしか参加できない身体になってしまいましたが、もともとは土木技師だっただけに、主人公(測量士)の作業や、どのルートを登っていくのかに関心を持ったようです。チョロっと横眼で確認したら、椅子の背にもたれるどころか、ほおずえをつき、身を乗り出して観入っています。根っからのアウトドア派で同じ場所に30分もじっとしていられないせっかちな人が、上映中、大人しくしていられるかなぁと心配したのがウソみたい(苦笑)。
終了後、2人は、「松田龍平が演じた生田信は静岡出身なんだよね」なんて登山家仲間から仕入れたレア情報を自慢げに語り合っていました。
映画は、プロの撮影職人が、プロの技術師の姿を真正面から描こうとした、セミドキュメンタリー的な作品でした。私は映画制作に関してはアマチュアですが、酒造り職人たちを取材・撮影している立場から観て、主人公が登山家ではなく、測量士と山岳ガイドだったという点にとても感銘しました。剣岳初登頂を目指して張り合う民間の登山家たちや、「民間人に初登頂させるな」と圧力をかける陸軍幹部との対比によって、主人公たちの、仕事に対する崇高な職業意識が際立ちます。
その辺りの人間同士の葛藤や、山頂に立つクライマックスシーンなどは、手慣れた映画監督なら、もう少しドラマチックに描いたかもしれませんが、この作品は、撮影カメラマンが初めてメガホンを取ったものだけに、撮った映像にウソやごまかしや過剰演出はない、というカメラマンらしい職業意識を感じます。
人物描写にしても、大げさな演出や、俳優が作り込んだような演技はなし。それは、CGペインティングをしなくても圧倒的に美しい自然に対する畏敬と、実際に山に関わる人々の多くの助けをもらった以上、彼らに恥ずかしくない、山と人間の本来の姿を残したいという謙虚な気持ちがそうさせたんだと思います。
比べようもない未熟なレベルながら、わが『吟醸王国しずおか』も、現場に長く張りついて、自然醗酵のいとなみや、淡々と与えられた仕事をこなす職人たちへの畏敬の念が積み重なっていくうちに、よけいな演出や説明はじゃまに思えてきます。それが観る人に対し、不親切だったり、わかりにくかったり、(ドラマチックな展開を期待する人に)物足りなさを与えるとしたら、そこは真摯に考えなければならず、どこまで“加工”するかが難しいところなんですが…。
とにかく、商業映画で人気俳優を起用しながらも、可能な限り造作的なものをそぎ落とし、自然と人間の素の価値を汲み取ろうとした監督の意欲には真に共鳴できるし、少なくとも、映画鑑賞の習慣のない人々を2時間以上、スクリーンに張りつかせた力はすごい。CGの剣岳じゃ両親をここまで惹きつけることはなかったでしょう。…大いに刺激をもらいました。
帰宅して映画の公式サイトをチェックしたら、撮影の裏側を密着取材した面白い特典映像(ロケ日記)を見つけましたので、関心のある方はこちらをどうぞ。