杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

人物描写の妙

2009-04-22 20:05:50 | 映画

 先週まではアカデミー賞ノミネートの重厚な秀作を立て続けに観て脳を刺激させましたが、今週に入って2本、肩肘張らずに楽しめる娯楽作品を観ました。

 

 1本は『レッドクリフpartⅡ』。三国志は学生時代、吉川英治本で〈官渡の戦い〉あたりまで読んで挫折してしまったきりだったので、昨年の『レッドクリフpartⅠ』の公開は本当に楽しみにしていました。曹操がすっかり悪役になっちゃって、悪役の割には線の細い俳優が演じていて、曹操より年下のはずの劉備を老けた感じの俳優が演じていたのになんとなく違和感を感じましたが、本作は彼ら君主よりも、その部下の周瑜や諸葛孔明ら名士たちが主人公なんですね。最初、ジョン・ウー監督が三国志を映画化するというニュースを知った時、確か周瑜役には私の好きなチョウ・ユンファが配役されると聞いたのですが、トニー・レオンに代わり、なんとなーくこれも線が細いなぁという印象。諸葛孔明役の金城武は、最初、全然イメージじゃない!と思いましたが、観た後は、知的で爽やかで案外適役かも、と思えました。

 

 関羽、張飛、趙雲はイメージどおり。関羽役の俳優さんは、確か、元寇を描いたNHK大河ドラマでフビライ・カーンを演じた人ではないかしら?曹操と関羽のからみをもっと観たかったなぁ。

 partⅠは、今の映像技術や撮影技術の凄さを見せつけられ、黒澤明の七人の侍もどきの戦闘シーンにも興奮しっぱなしで、あっという間でした。

 partⅡは、十万本の矢とか、火攻めの水上戦シーンなど、画になるシーンが圧倒的なデジタル映像の凄さで存分に楽しめました。基本的に、赤壁の戦いという限定した出来事の一部始終を追った作品なので、戦争アクション映画として楽しむ分には申し分ないと思います。

 

 …にしても、人物描写に物足りなさを感じるのは、三国志ファンの高望み?かな。黒澤明が撮っていたら、誰を主人公にどんな切り口で描いたのかなぁと想像します。黒澤作品の時代劇には、魅力的なキャラが必ずいますよね。本作では、周瑜と孔明の橋渡し役を務めた魯粛あたりを道化役としてもっと魅力的に描けばよかったのに…なんて思いました。

 

 2人出てきた女子は、なんだかえらい活躍ぶりでしたが、私的にはあんまり魅力を感じませんでした。この手の作品に女子を出すなら、時間は短く、その代りインパクトのある出し方がいいと思います。

 

 

 

 もう1本は『おっぱいバレー』。NHK朝ドラの〈ちりとてちん〉に出ていた青木崇高が好きなのと、コピーライターとしてこのタイトル名を一般劇場公開用作品に付けた製作者の感性が気になって(笑)、仕事の合間の時間つぶしにちょうどいいタイミングだったので観たのですが、これがなんとも期待以上に面白かった!

 

 1979年の北九州市が舞台で、中学校の男子バレー部顧問に赴任した綾瀬はるか扮する若い女性教師が、やる気のない男子中学生たちを奮起させるため、思わず「大会で1勝したらおっぱいを見せる」という約束をさせられ…というお話。実話がベースだそうです。

 

 BGMにふんだんに使われたフィンガー5、ピンクレディー、ユーミン、浜田省吾、ツイスト、永井龍雲、矢沢永吉、キャンディーズ等など70~80年代のJ-POPは、私がまさに中~高校生時代にリアルタイムで聴いていたものだけに、たぶんぜ~んぶカラオケで唄えます(笑)。映画で描かれた生徒たちとほぼ同世代なんですね。だから部活の合宿で初めて学校に泊った夜のこととか、図書館の本に落書きしたことなんか、ほとんど同時代に経験したことで、それだけで胸がキュ~ンとなるのです。

 

 顎の細いキツネ顔の綾瀬はるかの容貌は、昭和50年代風ではなかったけれど、タイトルに相反して?清潔感たっぷりの自然な演技で好感が持てました。同僚教師役の青木崇高、教頭役の光石研、父兄役の仲村トオル、ライバル校バレー部監督役の田口浩正は昭和顔?ですごーくリアル(笑)。実話ベースだけに、やっぱりキャストも当時の雰囲気を醸し出せる人じゃないとね。

 

 先生のおっぱいが見たいという不純でおちゃらけた動機で、思春期の男の子たちが一致団結して、ホントにバレーが上達して、でも、“改心”するわけでもなく最後の最後までおちゃらけ態度を貫く。この子たちの不純ぶりが、なぜか純粋で愛らしく感じたのは、自分が年をとったからでしょうか…。もし当時のリアル10代女子だったら、作品中にも出てきた女子生徒みたいに「低俗!」「馬鹿」「先生も間違ってます!」な~んてキレちゃうと思います。

 

 シナリオは、女性教師と男子中学生たちの“成長”を軸に、周囲の人物描写は必要最小限にしたのがよかった。とくに不良の先輩と、女性教師の恩師とその奥さんの登場シーンは、すごく短いけどインパクトがあって、心に響きました。ジョン・ウーにもこういうセンスがあればいいのに、な~んてね。

 

 それにしても、『おっぱいバレー』を観た昼間、劇場内にいた15人ぐらいの観客は私を除いて全員男性でした。やっぱりタイトルのせいかなぁ(苦笑)。いつもは女性割引デーを利用することが多い私にとって、男性しかいない映画館なんて初体験でした・・・!