救急一直線 特別ブログ Happy保存の法則 ー United in the World for Us ー

HP「救急一直線〜Happy保存の法則〜」は,2002年に開始され,現在はブログとして継続されています。

一般の皆さま 感染防御対策 ブラッシュアップ

2020年02月24日 23時56分38秒 | 医療技術教育

情報共有 一般の皆さま

ブラッシュアップ 感染防御

感染防御策  Infection control and prevention

日本集中治療医学会・日本救急医学会・日本麻酔科学会

集中治療理事専門医・救急科指導医専門医・麻酔科指導医専門医

松田直之 MD, PhD

 

 はじめに 

 中国河北省武漢(ウーハン)市より,2019年12月,新型コロナウイルスが発生しました。この全世界的拡大の中で,ご自身や周囲への伝播を防ぐために,① 鼻を出さないマスク着用,②テーブルなどの次亜塩素酸や70%アルコールなどによる定期的な環境消毒にくわえて,③適切な手指衛生,これらの3つにご注意下さい。その上で,救急・集中治療領域では,間質性肺炎の急性増悪,ARDSおよび多臓器不全に至る早期の段階での拾い上げが重要策となります。実際の集中治療では,注意が必要ですので,この注意点や留意内容を皆で共有し,真摯に院内で討議できるようにします。そして,重篤化や死亡には,喫煙,喘息,低栄養,免疫不全や既炎症状態などのベースが強く関与するのだろうと評価されます。以上を踏まえて,本講では,手指衛生を中心として,一般の皆さまを主な対象とさせて頂き,感染防御の方法(感染防御策)について,記載します。一文一文に,「そうなの?」などの疑問を持たれて,読み進めて下さい。事実は,「断定」を疑うところから,真実を見つめる心として定着します。

 

 感染防御に関するトピックス 

・ウイルス感染症や細菌感染症は,感染部位の局所障害だけではなく,敗血症という多臓器不全状態に進展する危険性について,十分な対応が必要となります。

・世界保健機関(World Health Organization:WHO)は,2016年5月24日〜26日にドイツのイエーナで開催された World Health Assembly (WHA)において,「敗血症」を当面の解決すべき重要課題と議決しました。

・敗血症は,感染症による多臓器不全の進行する状態です。

・WHOは,2018年5月5日に手指衛生キャンペーンを国際規模で施行し,医療従事者の手指衛生の重要性を啓発しています。

・日本集中治療医学会も,手指衛生キャンペーンをクリーンハンドキャンペーンとして学術集会などで行ってきました。

・Global Sepsis Alliance(GSA:世界敗血症連盟)およびJapan Sepsis Alliance(JaSA:日本敗血症連盟)は,毎年9月3日を世界敗血症デー(World Sepsis Day)として,敗血症を認知するキャンペーンを世界レベルで施行しています。この1つの目標として,敗血症の予防を挙げています。

・感染症および敗血症の予防のためには,手指衛生が不可欠です。

 

 感染防御のポイント 

・緊急時や急いでいるときこそ,感染防御策に注意します。

 私たちの救急医療や集中治療の医療現場では,静脈路確保,緊急気管挿管(喉頭鏡,スタイレット,気管チューブの清潔性),ECMO(extra-corporeal membrane oxygenation)などの体外循環や心補助装置,中心静脈路確保などにおいて感染防御策を徹底しています。

・感染防御策は,自らへの感染防御と,患者への感染伝播阻止の2つの側面があります。

・感染防御策は,①空気感染予防策,②飛沫感染予防策,③接触感染予防策です。医療現場では,手指衛生に対して,WHOの推奨する手指衛生の5つのタイミングを遵守しています。

① 患者さんに触れる前

② 清潔で無菌の処置をする前

③ 体液に曝露されたり,体液に暴露された暴露の可能性がある場合の後

④ 患者さんに触れた後

⑤ 患者さんの周囲(ベッド,シーツなど)に触れた後

そして,診療中の手袋を外したときも,手指衛生の6つ目のタイミングとして,重視されるようになりました。

⑥ 手袋を外した後

・これらは,面会のときにも注意が必要となります。

・手袋は,裏返して外すのが正しい外し方です。

 

 手指衛生/手洗いのポイント 

手指衛生として,水道水などによる手洗い,そしてアルコール手指消毒剤による手指消毒があります。有効な手指衛生の方法に気をつけて下さい。

① 手掌

② 手背

③ 指間

④ 爪甲:爪の甲を手のひらのタコなどに当てて洗います。指先で,アルコール手指消毒剤をこするように使う場合もあります。

⑤ 母指

⑥ 手首

 

 目に見える汚染のある場合の対応 

手などが,血液や痰や汚いものなどで目に見える状態で汚染されてしまった場合,医療環境では,以下のような対応としています。

① 流水で十分に両手を洗い流す。まず,流水で洗い流します。

② 手洗い剤を用いて少なくとも15秒をかけて手掌・手背・指間・爪甲・母指,手首を洗う。手洗い剤を使います。

③ 流水でしっかりと流す。また,流水で流します。

④ ペーパータオルを用いて水分を完全に拭き取る。ペーパータオルを用います。

⑤ 使用したペーパータオルで蛇口を閉める。蛇口は,ペーパータオルで閉めます。

※ このような対応のため,蛇口の開閉は,一般に光反応でできるものに変更されています。

 

 感染防御策で知っておくこと 

感染経路を阻止するためには,1)空気感染,2)飛沫感染,3)接触感染の3経路に注意して,感染経路別予防策しています。

① 空気感染

② 飛沫感染

③ 接触感染

 

 空気感染予防策について 

・空気感染として,「飛沫核感染」と「エアロゾル感染」に注意します。

・飛沫核感染では,空気中に5μm未満の大きさとして浮遊できる,肺結核,麻疹ウイルス,水痘・帯状疱疹ウイルスに注意します。

・結核感染患者は,年間約2万人であり,今後の高齢社会において増加する可能性があります。2週間以上持続する咳や痰,また高齢者の食欲不振や体重減少において,結核に注意した空気感染予防策を考えます。

・エアロゾル感染は,ノロウイルス,レジオネラ,インフルエンザウイルス,コロナウイルスのような微生物に汚染された塵埃や気流を吸い込むことにより,気道感染症として発症します。

対策:① 咳をしている方や患者さんへの正しいマスクの着用,②医療従事者はN95 マスクの着用,③ 陰圧制御や高換気回数空調などの特殊個室管理。

・結核を疑う場合,胸部単純X線像などのX線像の評価に加えて,3日間連続で3回の喀痰培養検査を行っています。

・結核と麻疹ウイルスを疑う患者さんを救急車で搬送したり,救急外来等の外来で診療した場合には,車内や室内を外気開放としています。

・喉頭鏡や気管支鏡を使用した場合,これらは院内で再利用する重症患者用のsemi-critical instrumentsであるため,湿式低温殺菌法,化学消毒,または加熱での高レベル消毒としています。

・搬送や救急外来におけるベッド柵などの環境消毒については,次亜塩素酸やアルコール類などを用いた洗浄・清拭としています。

・陰圧室の利用に際しては,スモークテストなどで陰圧がかかるかどうかを評価しています。この空調設備には,質保証の確認と定期点検が必要です。

・N95マスクには,「折りたたみ式」と「カップキーパー式」の2種類があります。N95マスクの着用に際しては,マスクの周囲から10%以上の空気の漏出がないように,着用時に「フィットテスト」を行います。 

・救急外来診療においては,2週間以上の咳のある場合には,結核に留意して対応しています。

 

 飛沫感染予防策について 

・飛沫感染は,肺炎球菌,百日咳,インフルエンザウイルス,コロナウイルス,髄膜炎菌,マイコプラズマ,溶連菌などのように,咳をしている場合に,水分がついた飛沫として伝搬する感染です。

・飛沫の拡散範囲は,約1~2mレベルです。

・テーブルなどの定期的な環境消毒が重要です。

・対策:①咳の出る場合のマスク着用,②ベッド間隔2m,③環境の清拭。

 

 接触感染予防策について 

・接触感染は,感染者との直接接触や,病原体に汚染されたテーブルやベッド,また電車での移動では手すりや吊り革などとの間接接触により生じます。

・電車などの移動時に汚染された手で,口元や鼻を触る危険性を下げるためには,咳のない状態でもマスクを着用する利点があります。

・手袋着用としても,手袋が汚染される危険に注意します。

・触れた場合は,アルコール性手指消毒が重要です。

・テーブルなど環境は,アルコールや次亜塩素酸を用いた定期的な拭き衛生とします。

対策:①手指衛生,②環境の清拭,③スタンダードプレコーション(医療現場)。

 

 知識:スタンダードプレコーションについて 

救急外来や集中治療室などでのカテーテル挿入や緊急対応では,スタンダードプレコーションとして対応する場合が多いです。出血対応なども,このスタンダードプレコーションに準じています。

・歴史1:1985年に米国CDC(Centers for Disease Control and Prevention:疾病管理予防センター)は,医療機関などの感染管理対策として「ユニバーサル・プリコーション(universal precaution)」を提唱しました。

・ユニバーサル・プリコーションは,主にHIVなどのような血液由来の病原体から身を守るための予防策でした。

・歴史2:ユニバーサル・プリコーションをすべての患者に適用できるよう改良したものが,1996年に米国CDCによって発表された「スタンダード・プリコーション(standard precaution)」です。

・スタンダード・プリコーションでは,主に,血液,体液,分泌物,嘔吐物,排泄物,創傷皮膚,粘膜などを感染の危険性があるものとして取り扱います。

・手指衛生においては,処置前処置後の擦式アルコール製剤による手指衛生を基本とします。

・血液や体液などの目に見える汚れを,汚染状態とし,流水と液体石鹸で手指衛生します。

・スタンダード・プリコーションでは,防御具として,手袋,マスク,ガウン,ゴーグル,フェイスシールドを着用します。

・方法:① 手指衛生,② マスク,③ 手袋,④ ガウン,⑤ ゴーグル,⑥ メガネあるいはフェイスシールド

 

 例:集中治療室での面会の注意ポイント 

・面会の際には,以下の手順に注意して頂いています。

①手指衛生:アルコール手指消毒剤による手指消毒をして頂きます。

②マスク:鼻と顎までをしっかりと覆った正しいマスク着用としていただいています。

③ヘッドキャップ:頭についた細菌やウイルスなどの微生物をベッドサイドや患者さんに接触させないようにしています。

④ガウン:服類についた微生物を患者さんに伝播しないように気をつけていただいています。

⑤手袋:手を介して顔や頭や体やベット柵などの環境に微生物を運ぶ可能性に注意し,手袋を着用して頂いています。

・面会後は,集中治療室の入り口で,手袋,ヘッドキャップ,ガウン,マスクの順で廃棄します。

・手袋は,裏返しにして手から取るようにします。

※手袋を着用しない場合は,手を腕までしっかりと出すようにし,しっかりとアルコール手指消毒をして頂いています。

 

 おわりに 

 通常の通勤や通学では,新興ウイルス感染症,再興ウイルス感染症だけではなく,接触感染や飛沫感染ではインフルエンザウイルスなど,感染症空気感染症では結核に注意が必要です。新興ウイルス感染症においても,本講で記載した基本的な感染防御の理解とされて下さい。ご自宅や施設では,定期的なテーブル等の拭き衛生に留意します。

 

※ 手指消毒の重要性を,クリーンハンドキャンペーンとして,世界と連携しています。

※ 喫煙は,肺障害,急性心筋梗塞,そして手術のデメリットです。

※ 禁煙活動に,ご協力下さい。


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情報共有 厚生労働省通達 新型コロナウイルス感染症対策の基本方針の具体化に向けた見解

2020年02月24日 23時46分56秒 | COVID-19の集中治療

 情報共有 2020年2月24日 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 

※ 厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症について」のページをこまめにご覧下さい。

 1.緒言 

 この専門家会議は、新型コロナウイルス感染症の対策について、医学的な見地から助言等を行うため、適宜、政府に助言をしてきました。
 我々は、現在、感染の完全な防御が極めて難しいウイルスと闘っています。このウイルスの特徴上、一人一人の感染を完全に防止することは不可能です。
 ただし、感染の拡大のスピードを抑制することは可能だと考えられます。そのためには、これから1-2週間が急速な拡大に進むか、収束できるかの瀬戸際となります。仮に感染の拡大が急速に進むと、患者数の爆発的な増加、医療従事者への感染リスクの増大、医療提供体制の破綻が起こりかねず、社会・経済活動の混乱なども深刻化する恐れがあります。
 これからとるべき対策の最大の目標は、感染の拡大のスピードを抑制し、可能な限り重症者の発生と死亡数を減らすことです。
 現在までに明らかになってきた情報をもとに、我々がどのように現状を分析し、どのような考えを持っているのかについて、市民に直接お伝えすることが専門家としての責務だと考え、この見解をとりまとめることとしました。なお、この内容はあくまでも現時点の見解であり、随時、変更される可能性があります。

 2.日本国内の感染状況の評価 

 2019年12月初旬には、中国の武漢で第1例目の感染者が公式に報告されていますが、武漢の封鎖は2020年1月23日でした。したがって、その間、武漢と日本の間では多数の人々の往来があり、そのなかにはこのウイルスに感染していた人がいたと考えられます。
 既に、国内の複数の地域から、いつ、どこで、誰から感染したかわからない感染例が報告されてきており、国内の感染が急速に拡大しかねない状況にあります。したがって、中国の一部地域への渡航歴に関わらず、一層の警戒が必要な状況になってきました。
 このウイルスの特徴として、現在、感染を拡大させるリスクが高いのは、対面で人と人との距離が近い接触(互いに手を伸ばしたら届く距離)が、会話などで一定時間以上続き、多くの人々との間で交わされる環境だと考えられます。我々が最も懸念していることは、こうした環境での感染を通じ、一人の人から多数の人に感染するような事態が、様々な場所で、続けて起きることです。

 3.これまでに判明してきた事実 

(1)感染者の状況
 新型コロナウイルスに感染した人は、ほとんどが無症状ないし軽症であり、既に回復している人もいます。
 国内の症例を分析すると、発熱や呼吸器症状が1週間前後持続することが多く、強いだるさ(倦怠感)を訴える人が多いです。
 しかしながら、一部の症例は、人工呼吸器など集中治療を要する、重篤な肺炎症状を呈しており、季節性インフルエンザよりも入院期間が長くなる事例が報告されています。現時点までの調査では、高齢者・基礎疾患を有する者では重症化するリスクが高いと考えられます。
 
(2)感染経路などについて
 これまでに判明している感染経路は、咳やくしゃみなどの飛沫感染と接触感染が主体です。空気感染は起きていないと考えています。ただし、例外的に、至近距離で、相対することにより、咳やくしゃみなどがなくても、感染する可能性が否定できません。
 無症状や軽症の人であっても、他の人に感染を広げる例があるなど、感染力と重症度は必ずしも相関していません。このことが、この感染症への対応を極めて難しくしています。
 
(3)PCR検査について
 PCR検査は、現状では、新型コロナウイルスを検出できる唯一の検査法であり、必要とされる場合に適切に実施する必要があります。
 国内で感染が進行している現在、感染症を予防する政策の観点からは、全ての人にPCR検査をすることは、このウイルスの対策として有効ではありません。また、既に産官学が懸命に努力していますが、設備や人員の制約のため、全ての人にPCR検査をすることはできません。急激な感染拡大に備え、限られたPCR検査の資源を、重症化のおそれがある方の検査のために集中させる必要があると考えます。
 なお、迅速診断キットの開発も、現在、鋭意、進められています。
 
(4)医療機関の状況
 首都圏を中心とした医療機関の多くの感染症病床は、ダイヤモンド・プリンセス号の状況を受けて、既に利用されている状況にあります。感染を心配した多くの人々が医療機関に殺到すると、医療提供体制がさらに混乱する恐れがあります。また、医療機関が感染を急速に拡大させる場所になりかねません。

 4.みなさまにお願いしたいこと 

 この1~2週間の動向が、国内で急速に感染が拡大するかどうかの瀬戸際であると考えています。そのため、我々市民がそれぞれできることを実践していかねばなりません。
 特に、風邪や発熱などの軽い症状が出た場合には、外出をせず、自宅で療養してください。ただし、以下のような場合には、決して我慢することなく、直ちに都道府県に設置されている「帰国者・接触者相談センター」にご相談下さい。
 

● 風邪の症状や37.5°C以上の発熱が4日以上続いている(解熱剤を飲み続けなければならないときを含みます)

● 強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある

※ 高齢者や基礎疾患等のある方は、上の状態が2日程度続く場合

 また、症状のない人も、それぞれが一日の行動パターンを見直し、対面で人と人との距離が近い接触(互いに手を伸ばしたら届く距離)が、会話などで一定時間以上続き、多くの人々との間で交わされるような環境に行くことをできる限り、回避して下さい。症状がなくても感染している可能性がありますが、心配だからといって、すぐに医療機関を受診しないで下さい。医療従事者や患者に感染を拡大させないよう、また医療機関に過重な負担とならないよう、ご留意ください。

 教育機関、企業など事業者の皆様も、感染の急速な拡大を防ぐために大切な役割を担っています。それぞれの活動の特徴を踏まえ、集会や行事の開催方法の変更、移動方法の分散、リモートワーク、オンライン会議などのできうる限りの工夫を講じるなど、協力してください。

 以上


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