中毒診療 ヤカツ中毒
京都大学大学院医学系研究科
初期診療・救急医学分野
松田直之
症 例
ヤカツ(冶葛,G. elegans)は,胡蔓藤(コマントウ)とも呼ばれ,ベトナムなど東南アジアや中国南部で古くから猛毒として知られ,最強の猛毒植物と考えられています。吹矢にも用いられ,葉3枚とコップ1杯の水で死ぬという民間伝承があります。ヤカツの葉は対生し,筒状の花をつけることが知られてています。
この葉3枚と数枚を煎じて飲み自殺を図ろうとしましたが,ご自身で死ぬかもしれないと心配されて救急搬入されています。救急車での搬入は,ヤカツを飲んだ約2時間後だったようです。このヤカツなどのGelsemium alkaloidの毒性は,gelsemineやgelsemicineにより惹起されると考えられていますが,いずれもN-メトキシオキシインドールであり,この構造が毒性発現に必須と言われてています。Gelsemicineの致死量は約0.05 mgと評価されており,これらはクラーレやストリキニーネと類似の神経毒です。非脱分極性筋弛緩作用を主体とするため, 呼吸筋力の低下状態が観察されれば気管挿管し,人工呼吸管理を行い,輸液や濾過透析などの対症療法で救命できると思います。しかし,本例では左側臥位での胃洗浄で,大量の胃内容物に加え,3枚の葉までも取り出すことができています。しかし,来院時より眼瞼下垂,瞳孔散大,複視,脱力症状や呼吸苦を伝えており,人工呼吸管理を念頭に置きましたが,時系列と筋弛緩症状は改善し,人工呼吸管理に至らずに対応できました。呼吸ができなくなり,苦しんで死亡することになりますので,ヤカツなどには注意していただきたいとも思います。
ヤカツ
Gelsemium elegans Benth (Loganiaceae/マチン科)
ヤカツは,黄色い花を咲かせる毒性の高い毒草です。中国では,「冶葛」「胡蔓藤(こまんとう)」「胡満蔃(こまんきょう)」「鈎吻(こうふん)」などと呼ばれ,唐の法律書「唐律疏議」 (653年)にも記載されている毒草です。
ヤカツの主症状
■ 神経筋接合部遮断
眩暈,舌のもつれ,筋弛緩,無力化,嚥下困難,呼吸麻痺,運動失調,昏迷・失神。眼部症状として,複視,視力減退,眼瞼下垂,瞳孔散大。
■ 消化器症状
口腔や咽喉の灼熱, 悪心・嘔吐,下痢,便秘など。
※ 漢方では,ヤカツの根を外用薬として使っていたことがあり,正倉院鳳凰堂の中にも冶葛壷の中に少量が現存するとのことです。