ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

「ビジネスエコシステムをつくる」という難しい話を伺いました

2011年03月09日 | イノベーション
 3月9日に東京工業大学社会人教育院主催の「ビジネスエコシステム(生態系)を作り、育て、収穫する方法」というタイトルの講演会に参加しました。講演会の総合タイトルは「技術者のためのマネジメントスキルアップ」シリーズの第6回目です。

 ビジネスエコシステム(BES)は、最近の複雑化している事業モデルの構築法であり、しっかり収益を上げる成功法を考える手段であると感じました。講師は、東工大大学院の准教授の辻本将晴さんです。


 最近の事業は製品・サービスを構成する要素技術などが複雑化し、自社が保有している、あるいは研究開発する要素技術だけでは、最終製品・サービスをつくれません。また、事業規模がかなり大きくなっていることも、自社1社では手に負えない事業が増えています。このため、要素技術などをモジュール化し、必要となる要素技術やインフラストラクチャー(流通手段など)を互いに持ち寄ってビジネスエコシステムをつくる事業形態が増えています(「エコ」とはビジネスモデルの進化などを「生態系」になぞらえて、米国の企業や大学などが使い始めて定着した表現です)。

 辻本さんはビジネスエコシステムを「個人間あるいは組織間の関係性によって構築される系の中で、製品・サービスを提供することを目的としたもの」と定義します。そして、研究の手法として「ビジネスエコシステムを『構造』『機能』『プロセス』の視点で分析する」そうです。構造とは、製品の設計から、調達、製造、出荷までの「バリューチェーン」とか、「サプライチェーン」とかの構造で視覚化するやり方です。

 ある企業の起業家が新しい事業を考える際に、事業全体の概念設計という「外部ビジネスエコシステム」を企画・設計する「作る」作業から始めます。研究成果の一例として、ソニーが事業化した電子マネーシステムの「Felica」の事例を示しました。「Felica」はJR東日本が採用した電子マネー(電子切符)カードの「SUICA」カード向けに開発された電子マネーシステムです(正確には、FeliCaは、非接触型ICカードのために研究開発された通信技術系の技術です。その搭載事例がSUICAです)。

 電子マネーシステム事業を構成するレイヤー構造として「ハードウエア」「ミドルウエア」「アプリケーション」「サービスシステム」構造を考えます。ハードウエアのレイヤーは、ソニーがFelicaのハードウエアの仕組みを設計し、その応用製品のSUICAカードを大日本印刷や凸版印刷がつくり、その利用技術の決済端末を電気メーカーが担当しています。ミドルウエアのレーヤーはソニーのFelicaのソフトウエアです。ここはソニーが独占するビジネスモデルを、事業全体の概念設計時に企画し実践しています。だからこそ、ソニーが新事業をつくり出そうと苦心に苦心を重ねたのです。

 アプリケーションのレーヤーはJR東日本の電子マネーのSUICAカードや流通大手のイオングループが発行する電子マネーのWAONカード、セビンアンドアイグループの電子マネーのnanacoカードなどです。その上のサービス・コンテンンツのレーヤーは、各電子マネーカードが使える各店舗や、電子マネーと提携する入金機能などをになう金融機関、クレジットカード会社などです。

 ソニーがFelicaという電子マネー事業を苦労して事業化する「育てる」を実践した結果、各レイヤーに参加して活動する企業はそれなりの事業収益を上げています。育てる過程では「事業のプロセスの不具合である“不全”を可視化し、その原因を分析し、対処することが重要になる」と、辻本さんは力説します。事業全体の概念設計、特に外部ビジネスエコシステムの不具合を修正するには、事業全体を見通す構想力がポイントと感じました。最近の日本企業が新規事業であまり成功しないのは、事業全体を見通す構想力をつくる実力がついていないからです。

 聴講者からの質問への答として、辻本さんは「ハードウエアのレーヤーに参加してる部品・部材・材料メーカーは最終ユーザーの行動まで読んで、今後求められそうな仕様を先取りして開発すると、ソニーなどは採用せざるを得なくなる」と説きます。各レイヤーのプレーヤー企業も、他社が築いた外部ビジネスエコシステムの中で、事業構想力を働かせて、最終ユーザー仕様を予測する作業が重要になりそうです。

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2 コメント

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以前、香港でオクトパスカードに (オクトパス)
2011-03-10 08:14:51
以前に香港に行った時に、地下鉄などのICカード乗車券「オクトパス」を使って便利だと、思いました。これがFeliCaの採用第一号といわれています。マクドナルドなどでも使えて、小銭が不要で便利でした。
その後、2001年11月に日本ではJR東日本がICカード乗車券「Suica」を採用し、普及しました。なかりの紆余曲折があったと伺っています。この技術の開発者、事業企画者はもっと尊敬されてもいいと考えています。
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ありがとう (通りがかりのクマ)
2011-07-16 11:34:53
スイカ一つにこんなにも複雑な事業が隠れているなんですね、感心しました。
ありがとうございます。
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