ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

「ベルギーのIMECは、なぜ強いのか」という難問のイントロ話です

2011年01月22日 | イノベーション
 「ベルギーのIMEC」は日本の電気・電子系研究開発者のあこがれの的の研究開発拠点です。世界中の主だった電気・電子企業が共同研究相手に選ぶ実力者だからです。IMECは、英語表記で「Inter-University Microelectronics Center」の略称で、“マイクロエレクトロニクス先端研究所”とでも訳す研究機関です。

 日本のパナソニック(旧 松下電器産業)やエルピーダメモリ(東京都中央区)などの多数の日本企業が半導体の共同研究相手にIMECを選んでいます。今を時めく韓国のサムソン電子(Samsung Electronics)もIMECを共同研究相手に選んでいます。最近では世界中の約550社の電気・電子企業がIMECを共同研究の相手に選んでいるそうです。


 代表的な半導体であるDRAMの「トップ5の大手メーカーがそろって、IMECと強力な共同研究を展開している」と、IMECは胸を張ります。このトップ5の第5番目が日本のエルピーダメモリです。

 「ベルギーのIMECは、なぜ強いのか」という課題に取り組んでいる大学の教員・研究者やジャーナリストを数人知っています。経済産業省や文部科学省などの行政系の担当者も何人か知っています。こうした方たちが「ベルギーのIMECは、なぜ強いのか」というテーマに熱心に取り組んでいる理由は、日本の大学や公的研究機関が(日本の)企業から信頼される共同研究の相手先に選ばれる可能性を探るためです。そして、日本でイノベーションをどのように起こし続けるのかに答えるテーマに深く関係するからです。

 例えば、この数年にわたって経産省と文科省系が研究開発拠点として構築推進を進めてきた「つくばイノベーションアリーナナノテクノロジー拠点(TIA-nano)」は、ベンチマークの一つとしてIMECを考えているそうです。

 TIA-nanoは平成22年(2010年)6月に産業技術総合研究所(AIST)、物質・材料研究機構(NIMS)、筑波大学、日本経済団体連合会の4機関がナノテクノロジーの研究開発拠点として構築するという合意をしました。今はやりのオープンイノベーションの研究開発拠点を目指しています。この拠点形成には2008年度と2009年度の2年間に約360億円の予算がつぎ込まれています。


 このTIA-nanoが今後、大きな研究開発成果を上げるように、「IMECがどうして研究開発相手に選ばれ続けているか」を、何人もが調査・研究しています。経産省と文科省の担当者や大学の教員・研究者がIMECを研究していることは、当のIMECもよく知っています。2010年11月16日にIMECは東京都内のホテルでIMECが目指す研究開発などを説明するセミナーを開催しました。
 共同研究の主要なクライアントが多い日本で、代表・COEであるリュック・ヴァンデンホッフ(Luc Van den hove)さんは、同セミナーでIMECが2025年までに目指すものを説明したとのことです。


 その会場では、リュック・ヴァンデンホッフさんは、ある質問に対して「日本の行政府がIMECのコピー版の研究開発拠点をつくっても、良い結果にはならないだろう」という趣旨の発言をしたといわれています。ここ数年、日本から何人もIMECの強さの秘密を探れる視察員(研究者)がベルギーのIMECを訪問していることを知ってのことです。IMECコピー版をつくるよりも、日本の公的研究機関はIMECと共同研究を図り、強力に協力していきたいという趣旨のようです。実際に、2010年11月19日にTIA-nanoの主要メンバーである産総研はナノテクノロジーやエレクトロニクスなどの分野で協力関係を結ぶ包括的研究協力覚書(MOU)にサインしたと発表しています。

 「ベルギーのIMECは、なぜ強いのか」というテーマはなかりの難問のようです。これまでに何人もがIMECの強さの秘密を分析をしています。しかし、その分析を基に、日本の大学や公的研究機関がIMECを参考にして優れたイノベーション態勢を構築したと評価する声は聞こえてきません。「ベルギーのIMECは、なぜ強いのか」というテーマは簡単には解けない難問です。このため、何回かにわたって考えてみることにします。