ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

水ビジネスについてお伺いした話の続きです

2010年06月18日 | イノベーション
 今年3月に発行された単行本「日本の水ビジネス」(東洋経済新報社発行)の著者である中村吉明さんにお目にかかった話の続きです。
 中村さんは現在、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の技術開発推進部長をお務めになっています。


 「日本の企業が今後、水ビジネス市場で頭角を現すには、どんな参入の仕方が考えられるのでしょうか」という難問に対して、中村さんは「海外の市場にまず参入し、海外で水ビジネスのやり方を学ぶのが最善の策」とのお答えでした。

 日本の地方自治体(地方公共団体)は民営化手法を一部取り込みながらも、上水道・下水道設備システムを低コストで更新したりメンテナンスする運営手法を事実上ほとんど持たないと考えられるからです。地域住民が本当に望んでいる上水道・下水道設備システムの在り方や運営ニーズを探るやり方をほとんど採ったことがないからだと分析されました。

 これに対して、欧米などの「水メジャー」と呼ばれるはフランスのヴェオリア・ウォーターやスエズなどの企業は、まず地域の住民や地方自治体などがどんなことを求めているのかを、コンサルティング会社に調査・分析してもらい、その地域のユーザーニーズを十分に反映させた上水道・下水道設備システム計画を提案するそうです。日本の地方自治体はコンサルティング会社に調査・分析を依頼するノウハウも持たず、住民ニーズをまとめ上げる経験もないようです。

 というのも、上水道・下水道設備システムは地方自治体が提供する当たり前の住民サービスとして運営されてきたからです。日本の企業は、地方自治体の上水道・下水道設備システムの入札に良い案を出す経験があまりありません。上水道・下水道料金を徴収する運営ノウハウも提案できない可能性が高いと推論できるのです。このことは、「公共サービスとは何か」という社会基盤システムは誰がどのようにつくり、運営するのかという根本的な問題になります。日本で当たり前のことが、外国ではどうなのか原理原則から考え直すものがありそうです。

 このため、日本国内の水ビジネスを手がけたいと考える企業は、海外市場の水ビジネス事業に外国企業と連携し、「ニーズを反映した提案をまとめて入札するノウハウを学ぶことが早道ではないか」と、中村さんはお考えのようです。ビジネスモデルを学ぶ、そのノウハウを学ぶ好機と考えればいいのではないでしょうか。

 今回一番感心したことは以下の件です。単行本「日本の水ビジネス」の後書きである「おわりに」にお書きになっていることです。当時、経産省では水政策を本業として担当する部署は産業施設課や国際プラント推進室だったそうです。この正規軍を「チームA」と表現されています。これに対して、今後の水ビジネスを自主的に研究する非正規軍の「チームB」には産業技術政策課と環境指導室の志願者の方々が参加したそうです。

 「経産省には国としての施策を、自分の担当範囲外であっても自由に話せる伝統がある」と、中村さんはいいます。正規軍とは異なる自由な視点で、産業政策を自由闊達(かったつ)に話し合って提案する雰囲気があるそうです。こうした考え方の多様性を端的に示すのは、「経産省系だが非公務員型の独立行政法人経済産業研究所が発足していること」と説明されました。いろいろな提案を多面的に準備する懐の深さが施策の企画立案には重要だとのことだと思います。

 これからの水ビジネスを考えるチームBは職務時間外に集まって議論を重ねたそうです。経産省のいいところは、「チームBが議論していることが伝わると、その活動を支援する方々が現れるところだ」といいます。そして、チームBのまとめた提案がいいと判断すると、正規軍のチームAがそれを取り込む度量を持っているとのことです。今回は、政策を練り上げるプロセスの一部が分かったことが収穫でした。公務員改革が提案されている中で、施策づくりのプロセスを知ることも大事と考えています。