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ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

「人工物工学研究センター設立20周年記念コロキウム」を拝聴しました

2012年12月12日 | イノベーション
 東京大学の人工物研究センターが設立20周年を迎えたことを記念した「人工物工学研究センター設立20周年記念コロキウム」を拝聴しました。

 “人工物”という言葉はある程度、使われるようになっています。この設立20周年記念コロキウムの冒頭の記念講演を話した、現センター長・教授の藤田豊久さんは、「1992年当時の設立趣旨は、既存の工学を一度忘れて、工学とは何かを、そのあるべき姿は何かを探る脱領域・学融合を図りながら、新しい工学の枠組みとして人工物工学を提示することでした」と解説します。



 人工物工学を提唱した東大の元総長の吉川弘之さんは、1992年に「人間が創出するすべてのものを対象に、新たな学問領域を構築する」必要性を説いたそうです。仮説・法則や行為を導出することを基盤とした学問とのことです。

 1992年に人工物工学センターが設立された時に設置された設計科学部門は、設計をどう進めるのかを研究したそうです。製造科学部門は、1990年代初めの日本の製造業の国際競争力を研究し、その後は製造業の競争力の源泉が製品そのものから、その背後にあるデジタル情報やソフトウエアに変わっていくことを明らかにしたそうです。知能科学部門は、ポスト大量生産パラダイムとして二一世紀はどういう社会をつくるべきかを追究したとのことです。

 1992年から2002年までの第1期に抽出した課題を受けて、2002年から2012年までの第2期は循環型社会の構築、新産業創出、個のケアの三つの目標に向けて、態勢を整え、4部門を設置してスタートしたそうです。
 
 ライフサイクル工学研究部門は持続可能な産業社会の構築を、サービス工学研究部門はサービスや知識を付加価値の源泉とする産業構造に移る工学的体系の確立を目指すなどの研究に移行したそうです。

 設立20周年を経て、人工物工学センターは第3期に入ります。創設に貢献した吉川弘之さんは「工学などを研究する科学者が知識を提供して、サービスなどを実現する“行動者”(事業を実施する担当者)が行動して製品・サービスが実現するので、この進化のループに工学者が入る」ことを進めています。

 ここで話はかなり飛躍しますが、日本企業が製品・サービスの事業で事業収益の低下に苦しんでいます。事業を実施するとは何かという本質を明らかにし、事業のマネジメントを再構築する際に、人工物工学の研究成果が貢献すると新しい視点が産まれると感じました。

シンポジウム「日本産業を元気にするための産学官連携プロジェクト」を拝聴しました

2012年12月11日 | イノベーション
 特許庁傘下の独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)が開催したシンポジウム「日本産業を元気にするための産学官連携プロジェクト 課題と将来課題」を拝聴しました。

 シンポジウムの表題は、最近の日本企業がグローバル市場で製品競合に勝てず、事業に苦しんでいる現状を受けたものです。今回のシンポジウムの主題は、日本は国家プロジェクトとして産学官連携による大規模プロジェクトを実施しながら、その事業化にはあまり成功していない現状を分析し、その打開策を探るものです。



 例えば、経済産業省傘下の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は有機EL(エレクトロルミネッセンス)の産学官連携の国家プロジェクトを早めに実施し、研究開発には一応、成功しました。しかし、その後は日本の電機メーカーは事業化に成功せず、韓国の大手電機メーカー2社が「もうすぐ55型有機ELテレビを販売する」と発表しています。日本企業は研究開発で先行し、事業化で遅るケースが増えています。

 主催の工業所有権情報・研修館(INPIT)は特許などの知的財産のマネジメントを考えている組織です。このため、シンポジウムでは「産学官連携プロジェクトの知財マネジメント 現状と課題」というタイトルで、パネルディスカッションが行われました。工業所有権情報・研修館は行政側として、主な産学官連携の国家プロジェクトに「知的財産プロデューサー」を派遣し、そのプロジェクトの知的財産戦略を練る支援を実施しています。



 日本政府は産学官連携プロジェクトに参加する企業に本気になってもらうために、平成11年(1999年)10月に日本版バイドール条項と呼ばれる「産業活力再生特別措置法第30条」を施行しました。産学官連携プロジェクトに参加した企業が、その研究開発成果を出願者として特許を出願することを認めたのです。国が支援した研究開発成果から産まれた特許を、参加企業に権利を渡し、事業化の動機付けを与えるという施策です。米国がバイドール法によって、産学官連携の成果を生かして事業化が進んだことを真似したものです。

 しかし、日本では産学官連携プロジェクトはあまりうまく行っていないと考えている方が多いようです。このため、産学官連携プロジェクトの知的財産戦略を再考し、国内で研究開発を実施し、国内で事業化し、海外に製品を輸出する事業モデルを再考しようと、かなり大胆な議論が展開しました。

 具体的な中身はかなり専門的なので割愛しますが、今後、日本企業がグローバル展開を進めるには、単純なやり方ではなく、臨機応変に戦略を練り、戦術を変えていくしかないと、知的財産マネジメントの専門家の方々が考えていることがよく分かりました。この結果、日本企業が国際競争力がある新製品を開発し、国際市場で事業化を成功させ、雇傭を増やしてもらいたいと思います。

人類の夢だった「人工光合成化学」基盤技術を10年間で確立する話を伺いました

2012年12月01日 | イノベーション
 水と二酸化炭素ガスを原料に、“人工光合成化学”によってプラスチック原料をつくり出すという、人類の夢を実現させる大型プロジェクトが始まったという話を伺いました。簡単にいえば、植物が持つ光合成技術を人類が手に入れる話です。

 この夢のような話の中身は、経済産業省は今年度から10年間にわたって、約150億円を投入し、日本の化学メーカーの触媒技術を大幅に革新させるプロジェクトを支援し始めたことです。

 この人工光合成のポイントとなる要素技術は、全部で三つあるそうです。第一番目の要素技術は水を太陽光エネルギーによって、水素ガスと酸素ガスに分解する光触媒です。二番目は、発生した水素ガスと酸素ガスを高純度に分別する分離膜です。第三番目は、水素ガスと一酸化炭素ガスを原料に、プラスチックの原料となる炭素の数が2~4の低級オレフィンを合成します。



 これが実現すると、日本の化学メーカーはプラスチック原料として輸入している石油(ナフサ)を削減することができます。日本は念願だった脱石油を実現する手がかりを手に入れることができます。

 このプロジェクトは、今年度から始まった府省連携による“未来開拓研究制度”の一つとして支援されます。ある程度の規模の研究開発資金を10年間投入し、産学連携によって日本の産業競争力を高めるのが目的の技術開発プロジェクトです。

 このプロジェクトを推進するのは、2012年10月3日に設立された人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)です。同技術研究組合は、三菱化学、住友化学、富士フイルム、国際石油開発帝石、三井化学の企業5社と、一般財団法人ファインセラミックスセンター(JFCC)の6機関で構成されています。

 この技術研究組合は、経産省から「グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発(革新的触媒)」プロジェクトを委託され、その技術開発を本格的に推進し始めました。これが人口光合成化学を技術開発する正式なプロジェクト名です。このプロジェクトのプロジェクトリーダーは東京工業大学理事・副学長の辰巳敬さんが務めるそうです。

 技術研究組合の理事長を務める菊地英一さん(早稲田大学名誉教授)は、人口光合成化学を実現するには、「現在の光触媒が水を水素ガスと酸素ガスに分解する効率を30倍ぐらい高効率化するという挑戦的な研究課題をクリアすることが必要になる」と、難問であると推測します。光触媒の飛躍的な高効率化など、いくつかの技術課題をクリアする研究開発を実現しないと、人工光合成技術は実現しないそうです。

 この技術課題をクリアするには、企業と大学からそれぞれ超一流の研究人材をプロジェクトに出してもらい、「ドリームチーム」を組めるかどうかにかかっています。そのドリームチームを組織できたと自負しているそうです。

 日本の化学分野での優れた研究開発能力が求められるそうです。科学に基づく要素技術開発を、この10年間にどう実現するか、日本の科学者(研究人材)は大きな宿題を託されました。

10年間で「光電子集積サーバー」という独自製品を事業化する話を伺いました

2012年11月30日 | イノベーション
 低迷する日本の電機メーカーに強力な援軍が登場しそうな話を拝聴しました。茨城県つくば市を中心に活動する技術研究組合の光電子融合基盤技術研究所(PETRA)は、経済産業省から「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発」プロジェクトを受託し、技術開発を開始したと、2012年11月28日に発表しました。

 光エレクトロニクス実装システム技術開発プロジェクトは今年度から10年間にわたって、経産省から合計約300億円を開発資金の支援を受け、日本の電機メーカーが国際競争力を持つ独自の「光電子集積サーバー」という製品などを事業化することを目指します。



 同技術研究組合の理事長を務める沖電気工業代表取締役社長の川崎秀一さんは、この技術開発プロジェクトの成果を基に「3年後に事業を担当する新会社を“オールジャパン”体制で創業する」と説明します。既に、3年後に新会社を設立するための準備を始めているそうです。新会社が生産設備を所有するのか、海外のファウンダリーに生産を委託するかどうかは「新会社が事業化で成功することを目指し、最適な態勢を検討している」と、沖電気社長の川崎さんは説明します。

 光電子集積サーバーという製品の必然性については、「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発」のプロジェクトリーダーを務める東京大学教授の荒川泰彦さんは以下のように説明します。「インターネットが社会インフラになった結果、情報通信量が指数関数的に増大し、2025年にはサーバーやルーターなどの通信インフラの電力消費量が2500億キロワットにも達し、総電力量の4分の1に達してしまうと予想されています。この大問題を解決するには、電子機器の電気配線部を光通信化する光配線技術と電子回路技術を融合する光エレクトニクス実装システムを実用化する必要がある」と説明します。

 今回開始する光エレ実装技術開発プロジェクトは、光電子融合基盤技術研究所に参加する企業9社の中から沖電気、東芝、NEC(日本電気)、NTT(日本電信電話)、富士通、古河電気工業、NTTエレクロニクスの7社と産業技術総合研究所、一般財団法人光産業技術振興協会の9機関が参加するそうです。参加する研究員は約120人に上るそうです。

 経産省が研究開発資金を提供する光エレ実装技術開発プロジェクトは、今年度から始まった府省連携による“未来開拓研究制度”の一つとして支援されます。その府省連携の相手となる内閣府側のプロジェクトは、東大教授の荒川さんが中心研究者を務める、最先端研究開発支援プログラム(FIRST)の一つとして推進されている「フォトニクス・エレクトロニクス融合システム基盤技術開発」(PECST)が連携対象になっています。

 フォトニクス・エレクトロニクス融合システム基盤技術開発プロジェクトが技術開発するフォトニクス集積回路の研究開発成果を、光エレ実装技術開発プロジェクトに基盤技術として提供する仕組みです。例えば、基盤技術として既に今年、LSIチップ間を光インターコネクトで接続するシリコン光配線集積回路を開発し、世界最高伝送密度を達成した成果を発表済みです。

 光エレ実装技術開発プロジェクトのプロジェクトリーダーの荒川教授は「現行の電気配線に対して、消費電力を1/10に、実装面積を1/100に、配線密度を10倍にし、現行のサーバーラックをボードサイズまで小型化し、消費電力を30%削減することが技術開発目標」と説明します。

 この技術進化は、パソコンが普及し始めた1980年代に稼働していたスーパーコンピューターの演算性能を、CPU(中央演算装置)の配線技術などの進化によって、現行のパソコンは達成していることに似ているそうです。現在は大型冷蔵庫ぐらいの大きさを持つサーバーラックを、A4版ぐらいのボードサイズに小型化する進化を、ここ10年で実現するそうです。それが「光電子集積サーバー」です。

 日本企業が、強い市場競争力を持つ「光電子集積サーバー」を製品化できることを祈念するばかりです。

東京電力は高温超伝導材料製線材の電導ケーブルの実証実験を始めました

2012年10月31日 | イノベーション
 2012年10月29日午後に 東京電力と住友電気工業、前川製作所は、高温超材料を利用した電導ケーブルを実際の系統電力に、日本で初めて接続する実証試験を始めました。

 液体窒素を約マイナス210度(摂氏)に冷却し、その液体窒素で超伝導線を冷やすと、電気抵抗がゼロになり、効率良く電気を送ることができることを実証する試験です。米国や欧州、韓国などが高温超伝導材料製線材を利用した電導ケーブルの実用化を図る動きに負けないように、日本でも始めるようです。

 この実証試験は、東京電力の旭変電所(横浜市)で、発電所から送電される高電圧の電力を中間の電圧に変圧する三つの変圧設備の一つを改修して試験します。その対象となる変圧設備です。



 手前から伸びるオレンジ色のケーブルが高温超伝導材料製線材が使われている電導ケーブルです。

 変電所に敷設された高温超伝導材料製線材の電導ケーブルが地表に出ている部分です。



 今後、1年間にわたって実運用で連続使用し、高温超伝導材料製線材の電導ケーブルの運用性や信頼性、安全性などを検証するそうです。

 高温超伝導材料製線材の電導ケーブルは、住友電工が作製したビスマス(Bi)系高温超電導線「DI-BSCCO」を適用しています。高温超伝導ケーブルを3本、一つの断熱管の中に収納した「三心一括型超電導ケーブル」として利用しています。



 ステンレス鋼製の“魔法瓶”構造の二重断熱管の中に、高温超伝導材利用のケーブルを配置しています。ケーブルの中を、液体窒素を流して強力に冷却しています。

 液体窒素は変電所内に設置された、6台の冷凍機で極低温に冷却され、ポンプで加圧されてケーブル内に押し出されます。

 この実証試験は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「高温超電導ケーブル実証プロジェクト」において実施されます。実証試験開始にあたって、実証試験開始のセレモニーが行われ、東京電力などの企業3社の役員と、経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構の幹部が、テープカットしました。

 そのテープカットのセレモニーが終わって、壇上から降りる役員と幹部の方々です。



 実証試験開始のテープカットのセレモニーを取材する報道機関の方々です。



 高温超伝導材料製線材の電導ケーブルの利点は電力損失が少なく、細い線で大電力を送電できることにあるそうです。現在、前川製作所が開発中の高効率な冷凍機を用いれば、超電導送電による損失は、従来の銅線を用いた送電に比べて約50%まで低減できる見込みだそうです。

 高温超伝導材料製線材の電導ケーブルは2020年をメドに実用化する計画です。この場合には、電線敷設の建設費を「トンネル工事を含めた従来の建設費の半分にしたい」そうです。