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ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

再生医療の大御所から、iPS細胞記事への“お願い”を伺った話の続きです

2013年01月12日 | イノベーション
 1月11日に安倍晋三内閣は約20兆円超規模の緊急経済対策を決めました。この中の成長戦略の中に、iPS細胞の研究開発支援が含まれています。しっかり研究開発費を支援しますと言っています。

 昨日のブログでご紹介したように、2012年12月に開催された“iPS細胞関係の勉強会”では、再生医療の研究者の方々から、iPS細胞による再生医療の課題などが、いくつも指摘されました。

 現実的な問題として、人間の各器官はある程度の大きさがあるため、iPS細胞からその求める器官までの大きさに成長させることができるのか、その器官への分化誘導がうまくできるのか、働く臓器が実際にできるのかなどの課題はまだ「できる」と学術面で保証できるところまでは解明されていないとのことでした。現在は、できる可能性があることの希望の下に、政府などから巨額の研究開発費が投入されているとのことでした。

 iPS細胞から、各器官をある程度つくることが可能になっても、当初は「ちゃんと長持ちするのか」「医療費が高価になるのでは」が次の課題として浮上すると予想されています。最初は医療費が高価になり、「医療の平等性が守られるのか」という課題につながるとのことです。

 余談ですが、医療費が高価になると、米国の一部の富裕層だけが恩恵にあずかるというシナリオを描く方もいます。

 以上の課題は、要はiPS細胞の研究開発は始まったばかりで、分からないことだらけの状況だということです。



 まだ分からないことだらけの中で、マスコミが希望的観測によって、国民にバラ色の夢物語を伝えているという不満を、大学や公的研究機関の研究者は抱いているそうです。

 このバラ色の夢物語は、難病の患者に希望を抱かせています。しかし、もし10年後に実用化されなかった時に、難病患者の方々がどう感じるかは予測できません。日本の、いや世界の創薬実用化も10年以上かかるものが当たり前になっています。マスコミが描くバラ色の未来話は、実現する時期は示されていませんが、何となく“遠くない内に”を匂わせています。ただし、こうしたバラ色未来話が政府の巨額の研究開発費を支援する力になっていることも事実です。

 昨日の話を復習すると、卵細胞が受精し、胚盤(はいばん)胞になり、「ナイーブ型」(ES細胞)に進みます。まだ初期状態で、いろいろな器官に分化する能力を持っています。さらに、「プライム型」(エピ幹細胞)に進みます。初期状態を脱し、いろいろな器官に分化する機能が減っています。

 解説した4人の研究者の中のお一人は、将来の人間での臨床研究を目指して、ブタとサルで心筋梗塞に向けた幹細胞治療の研究をしています。現段階では「人間を対象にした研究はまだ許される段階ではない」だそうです。



 この専門家の方は、昨日の話と矛盾しますが「ブタやサル、人間でもナイーブ型のiPS細胞を何とかつくっている」ようです。このへんは、論文をしっかり読まないと、理解できず、誤解する可能性もあるのでここまです。

 iPS細胞の研究開発は、例えれば英国の科学者のマクスウェル氏が、1864年に電磁波の存在を予言したような状況です。あるいは、1897年に英国の科学者のジョゼフ・ジョン・トムソン氏が1897年に電子を発見したような状況です。19世紀の人類は、電磁波による通信・電子文明を知らず、電気による電気・電子文明を知りませんでした。

 山中伸哉教授によるiPS細胞の発見によって、人間などの体細胞は、山中因子と名付けられた4つの遺伝子ではない他の遺伝子群が、4つの遺伝子の発現を抑えている(初期化を抑えている)という生命の謎を解明することが始まりました。このことは同時に、ガン細胞がなぜできるのかを解明することの必要性も高まりました。

 人類は生命の秘密を解く扉を開けました。今後どのように解明が進むのか、しっかりウオッチしたいと思います。

再生医療の大御所から、iPS細胞を巡る記事への“お願い”を伺いました

2013年01月11日 | イノベーション
 2012年12月に京都大学教授の山中伸弥さんが2012年のノーベル生理学・医学賞を受賞して以来、テレビや新聞などのマスコミでは、iPS細胞(人工多能性幹細胞)による再生医療応用や新薬製品化などの報道が尽きません。1月1日の某大手新聞紙の付録にも、「iPS細胞による再生医療が可能になると、こんな未来が開ける」とのバラ色の楽観的解説が載っていました。

 以下は、かなりこんがらがった話です。大変恐縮ですが、途中で読むことを止めず、最後までお読み下さい(途中までですと、誤解される危険性が高いからです。また、一部はかなり専門的ですが、これが事実ですので)。

 2013年1月に入ってからでも、iPS細胞関係のニュースがいくつか続いています。例えば、1月10日には放射線医学総合研究所などの日本の研究チームは、マウスのiPS細胞(人工多能性幹細胞)を元のマウスに移植しても、拒絶反応は起きなかったと発表しました。また、同日には東京大学医科学研究所は、iPS細胞を介して免疫細胞の1種であるT細胞を若返らせることに成功したと発表しています。

 ここまでがイントロです。実は、昨年12月中旬に名目上は公開で、実態は非公開に近い状況で、“勉強会”(正式名称は公表できません)が某行政機関主催で開催されました。テーマは、マスコミによるiPS細胞関係のニュース記事を執筆する際でのお願い(実態はクレーム)です。この勉強会に呼ばれたのは、大手新聞紙、専門新聞紙、専門雑誌などの記者などです。

 この勉強会が開催された動機は、昨年10月に読売新聞紙などが報道した“森口尚史”某氏による虚報ニュースです。iPS細胞については、日本では京都大学のiPS細胞研究所をはじめとするさまざなな大学や公的研究所などで研究開発が進められています。米国のハーバード大学などが巨額を投入して、多数で研究開発していることに対抗するためです。

 以下は、勉強会で講演した4人の専門家・大御所の意見を、独断と偏見で簡単にまとめたものです。

 まず、iPS細胞などの幹細胞については、人類はまだ仕組みをほとんど解明できていないそうです。例えば、卵細胞が受精し、胚盤(はいばん)胞になり、「ナイーブ型」(ES細胞)に進みます。まだ初期状態で、いろいろな器官に分化する能力を持っています。



 さらに、「プライム型」(エピ幹細胞)に進みます。初期状態を脱し、いろいろな器官に分化する機能が減っています。今後何に分化するかが決まり始めています。ここまで1日から2日の動きだそうです。

 問題はマウスから作成したiPS細胞は「ナイーブ型」までできているのですが、人間から作成したiPS細胞は「プライム型」までしかできていないことです。iPS細胞は、いろいろな器官に分化した体細胞に、山中因子と名付けられた4つの遺伝子を入れて、分化以前の状態に初期化することです。人間では「プライム型」までしか初期化できない(戻せない)のです。

 人間とマウスは同じ哺乳類ですが、iPS細胞では違いがでます。この仕組みはまだ解明されていません。「こうした基本的なこともしっかり学んでから、マスコミの記者は記事を書いてほしい」と要望されました。分化する仕組み自身もほとん分かっていないそうです。

 マスコミ側の記者もしっかり学ぶことは当然、基本ですが、専門の研究者並みに勉強することはできません。専門分野の数が多すぎて、対応できないことが一つの理由です。また、一般の方に理解していただくには、ある程度の簡略化が必要だからです。専門用語を多用すると、一般の方には記事を読んでいただけません。

 マスコミの記者は、専門家から取材した内容を一般向けに“翻訳”する役目を担っています。これは永遠の課題です。長くなったので、今回はここまでです(昨年12月の話をどう表現するか迷っていて、かなり遅くなりました)。

米国で始まった国際家電見本市2013CESでは4Kテレビが話題になっています

2013年01月09日 | イノベーション
 米国ラスベガス市で2013年1月8日から4日間にわたって、北米国際家電見本市「2013 International CES」が開催されています。

 日本や韓国などの家電メーカーが新しい高精細な液晶テレビなどを発表し、今後の製品戦略などをお披露目しています。



 今回注目されているのは“4K”テレビと呼ばれる、現在のフルハイビジョン画質を超えるウルトラハイビジョンの超高画質・高精細の大型テレビです。フルハイビジョン画質に対して、約4倍も高精細になります。日本の液晶テレビメーカーが昨年から力を入れている高精細な液晶テレビです。

 大きな事業赤字に苦しみ、液晶パネルや液晶テレビ事業を再建中の日本のシャープは、2013年に4K対応の60型液晶テレビを2機種、米国で発売すると発表しました。一つ目は、日本で2013年2月から発売する予定の60型の「ICC PURIOS」を、2013年夏に米国でも発売するそうです。



 この「ICC PURIOS」は日本ではプレミアムモデルを自称し、高性能・高価なグレードで、販売価格262万円と高価です。

 米国で発売するもう一つの液晶テレビは「AQUOS ULTRA HD」で、2013年後半発売する計画です。60型で、販売予定価格は未定としています。

 東芝は、日本と米国の両方で、84型、65型、58型の4K×2K(3840×2160画素)液晶テレビを発売すると発表しました。



 かなり大型の液晶テレビに注力し、この大型分野では先行し、事業収益を確保したいとの狙いのようです。

 84型は2012年に参考発表していたそうです。65型と58型は、今回の2013CESで初めて公開したそうです。「東芝は“クラウドサービス+大画面4K×2K”という高性能化によって、映画やスポーツ、ライブ、ドラマをテレビ鑑賞する際に高画質によって感動する体験を打ち出す」そうです。

 日本企業として、韓国のサムソン電子やLGエレクトロニクスと競合していくために、高画質テレビの価格を「65型と58型では価格を1型=1万円を切る」ことを目指すそうです。

 日本国内でも、51型以上の大画面テレビが富裕層や企業ユース向けに拡大しているそうです。2012年下期は2011年上期の3倍以上に伸びているので、東芝は、ここに4K×2Kテレビを投入する戦略をとるそうです。

 ソニーも当然、出展しています。ソニーは、4K×2K映像を表示できる56型の有機ELテレビを試作し、公表しました。今回、用いた有機ELパネルは、台湾のAUO社との共同開発品です。ここで開発中の技術を公表した意図は分かりません。現時点では、液晶テレビ事業では韓国のサムソン電子やLGエレクトロニクスと競合し、事業利益面では負けているからです。

 韓国のサムソン電子は1月8日に2012年の事業収益を示す営業利益が約29兆ウォン(日本円で2兆4000億円)になる見通しと発表しました。多機能型携帯電話機(スマートフォン)の多様な製品化戦略の成功による高収益と考えられます。

 ソニーは今回の2013CESでは、液晶テレビと連動するスマートフォン「Xperia Z」を発表しました。液晶テレビなどのAV(音響・映像)製品と簡単に連動する機能を盛り込んだものです。スマートフォンでの、反撃を実現する戦略製品です。同様に、4K画像を撮影できるビデオカメラ(ムービー型)も発表しています。反撃し事業再生を図るきっかけにしたいようです。

 日本の大手電機メーカーは韓国や台湾などの大手電機メーカーと液晶テレビやスマートフォンなどで戦い続ける姿勢を示したといえます。真正面から戦う余力があるのかないのか本当のところは不明ですが、今回の見本市では、研究開発などの技術面では負けていないことを、一応示したようです。問題は事業収益を上げられる事業戦略です。 

慶応大学主催「イノベーション創出セミナー」を拝聴して考えたことです

2012年12月21日 | イノベーション
 慶応義塾大学のSFC研究所プラットフォームデザインラボが主催した「イノベーション創出セミナー」を拝聴した話の続きです。

 今回のセミナーテーマは「グローバル知財戦争」です。具体的にはスマートフォンを巡る特許戦争が議論の中心でした。



 米国のIT(情報技術)大手企業のグーグル社やアップル社などのスマートフォン事業を加速させている知的財産戦略などを解説していただきました。この解説・議論を拝聴して思い出したことなどを簡単にまとめます。

 米国のIT大手企業の1社であるアマゾン社の名前がまだ登場していません。以下は、米国の大手メディアが報じたアマゾン社が目論むスマートフォン事業のうわさです(まだ、アマゾン社は公表していないようです)。

 アマゾン社は現在、台湾の鴻海精密工業(Hon Hai)グループ傘下の中国フォクスコン(Foxconn)と一緒に、アップル社の「iPhone」やグーグル社のアンドロイド陣営各社のスマートフォンに対抗する格安スマートフォンを開発し、発売するといううわさです。

 現在のスマートフォンは価格面で考えると、日欧米など先進国向けや、中国などのアジア諸国の富裕層向けです。これに対して、世界各国の低所得者でも購入できる低価格スマートフォンをいずれ発売するといううわさが強まっています。その狙いは、アマゾン社のWEBの通販サイトから商品を購入してもらうには、多くの人びとがスマートフォンを持つことが前提になるからとうわさされています。

 同様に中国などでは、廉価版スマートフォンが急成長し始めました。1000元(約1万2400円)台で購入できる低価格スマートフォンです。例えば、小米(Xioami)社は2012年5月に発売した「MiOne」シリーズの中の低価格モデルは、価格が1499元(約1万9000円)です。低価格ですが、1.2ギガヘルツ駆動のデュアルコア・プロセサーを搭載し、ある程度の高機能を盛り込んでいます。

 中国市場では、華為(Huawei Technologies)社や中興(ZTE)社、パソコン大手のレノボ(連想、Lenovo)社などの大手メーカーがスマートフォン市場に参入し、低価格化競争が激しくなっています。

 巨大な中国市場を基に、アジア市場などで廉価版スマートフォンがある程度のシェアを取り、事業が成立し始めると、高価格版スマートフォンを販売するアップル社やグーグル社のアンドロイド陣営各社は事業戦略を再構築する必要性に迫られる可能性が高まります。

 世界を巻き込む巨大市場だけに、スマートフォンを巡る各社の事業戦略は再構築し続けることを求められます。休む暇なく戦い続けることが必要です。日本の携帯電話機メーカーは、現在、何手先まで読んで事業戦略を練り続けているのか、数年後には答えがでそうです。

慶応大学主催「イノベーション創出セミナー」で、知財戦争について拝聴しました

2012年12月20日 | イノベーション
 慶応義塾大学のSFC研究所プラットフォームデザインラボが主催した「イノベーション創出セミナー」を拝聴しました。

 今年第3回目となる今回のテーマは、「グローバル知財戦争」です。米国のアップル社とグーグル社のアンドロイド陣営がスマートフォン(高機能携帯電話機)を巡って、国際的な特許係争を続けていることを、日本としてはどう考えるのかを議論したいという趣旨のようです。



 知的財産に詳しい米国弁護士の方が「スマートフォン特許戦争」の経緯を解説し、ここ数年間に米国を中心とした知的財産戦略がどう動いているかを解析しました。



 スマートフォンは現在、アップル社の「iPhone」とグーグル社のOSであるアンドロイドOSを搭載したアンドロイド陣営のスマートフォンが、各国の市場で激しい競合を繰り広げています。

 2009年10月にフィンランドの携帯電話機大手のノキア社が米国でアップル社に対して特許訴訟を起こしたのが戦いの始まりです。その後、ノキア社は同様の訴訟をドイツや英国、オランダでも起こしました。ノキア社はアンドロイド陣営の1社です。この結果は、2011年6月に両社が和解し、アップル社がノキアに一時金(たぶん和解金)として6億米ドルを支払い、対象となった特許の使用権としてライセンス料を継続的に支払うことで合意したと伝えられています(和解内容は非公開です)。

 さらに2010年10月に、アンドロイド陣営の1社である米国モトローラ・モビリティ社はアップ社を特許訴訟しました。その上に、2011年8月にグーグル社がモトローラ・モビリティ社を125億米ドルで買収したために、複雑化しています。

 アップル社はiPhoneを、まず2007年6月29日に米国で発売しました。5年前と最近のことです。当然、スマートフォンを販売する会社としては後発です。このため、他社からスマートフォンの要素技術に関係する特許群を購入しています。

 一番有名なのは、2009年1月に破綻したカナダの携帯電話機メーカーのノーテル・ネットワーク社が保有していた特許群(出願中を含む)約6000件がオークションにかけられたことです。この約6000件の特許群(日本では意匠権に分類されるものなどを含んでいます)を、アップル社と米国のマイクロソフト社、日本のソニーなどの企業連合が45億米ドルで落札しました。単純計算では特許1件当たりの値段は75万米ドル(約6000万円)になります。

 このオークションには、グーグルや米国インテル社も参加し入札しましたが、競い負けたといわれています。

 ソフトウエア・ネットワーク会社のグーグル社もスマートフォンを販売する会社としては後発です。独自のWindowsスマートフォンを出したマイクロソフト社も、この世界では新参者です。

 さて、アップル社とアンドロイド陣営との特許係争は拡大し、2010年3月には台湾の携帯電話機大手のHTC社がアップル社を米国で特許訴訟しました。そして、2011年4月にはアップル社が、韓国の携帯電話機大手のサムソン電子を特許訴訟しました。アンドロイド陣営最大手のサムソン電子に対する、アップル社の特許提訴は10カ国で約50件に及んでいるそうです。

 アップル社とサムソン電子は現在、スマートフォン市場でのビック2です。その2強の戦いです。

 この注目される判決は、米国ではサムソン電子が10.5億米ドルをアップル社に支払うとの損害賠償評決になり、注目を集めました。

 アンドロイドOSを搭載した、グーグル陣営のスマートフォンとアップル社のiPhoneも、最初から国際市場向けの標準品であり、世界中の大市場で争う製品になっています。

 今回のセミナーを主催した慶応大教授の国領(こくりょう)二郎さんは「こうした巨額の知財売買事例では、日本は原則かやの外になっている」といいます(ソニーはスマートフォンの国際市場でのシュアはあまり高くないと仮定して)。

 日本の電機メーカーはスマートフォンの製品事業に踏みとどまるのかどか不透明です。2010年ぐらいから、スマートフォン事業を続ける企業は数10億米ドル程度(数1000億円)の特許購入費をいざとなれば負担できる財務力が不可欠です。そして、国際的な特許紛争の裁判費用に耐えられる財務力も不可欠です。

 原則、地球上の数10億人をユーザーとするスマートフォン事業は巨大企業同士の争いになっています。大部分が米国の新興企業同士の争いです。日本の電機メーカーは、スマートフォン以外の独自の製品事業を展開する“ブルーオーシャン”戦略を目指すのかどうか議論は尽きません。