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ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

一橋大学教授の米倉誠一郎さんの“快刀乱麻”の解説の講演を拝聴しました

2012年10月28日 | イノベーション
 一橋大学イノベーション研究センター教授の米倉誠一郎さんの「日本の競争力の強化のために」という講演を拝聴しました。

 研究・技術計画学会が開催した公開シンポジウム「日本の競争力強化のためのイノベーションの実現に向けて」の中で、基調講演として講演されました。



 登壇すると、元気な声でお話を始めました。偶然、一橋大学本館で「犯罪学会も講演会を開催しており、最初は間違えて行ってしまった」と笑わせます。最初に映し出された講演タイトルは「創発的破壊」となっており、事前に公表されたものとは違っていました。





 「現在、日本の市場は消費層の中心である団塊の世代が60歳を超え、相当数がリタイアし始め、購入意欲を減らし、日本の市場が小さくなっている」と、現在、日本の電機メーカーが事業収益を落とし、事業赤字が増えている理由を説明します。

 以下は、米倉さんの解説です。「日本は戦後の1947年当時の特殊出生率(大まかには、女性1人が産む子供の数)は4.54人と多数の子供が産まれていた。この結果、戦後数年間に子供が多数生まれて団塊の世代が形成された。1973年当時でも、特殊出生率は2.14人と2人を超えていて、人口は増えていた。この結果、日本の高度成長期には、多くの家庭がテレビ・洗濯機・冷蔵庫の“家電・三種の神器”や車を購入し、日本の市場は成長し、電機メーカーや自動車メーカーは成長した」のです。

 ところが、「1996年になると日本の特殊出生率は1.42人と大幅に減少し、日本の市場は小さくなった。日本市場は少子高齢化によって収縮し始めているにもかかわらず、2000年以降も、日本の電機メーカーは市場が収縮している日本市場向けに製品を投入し続け、販売先を見誤った」と解説します。

 「日本は貿易立国と考えている人は多いが、輸出比率データを調べると、あまり高くなく、国内マーケット重視で事業化を進めてきた。2000年以降の日本の携帯電話機(通称“ガラケイ”)は国内市場向けに開発され、販売されてきた。世界市場でみれば、日本の全メーカーの携帯電話機のシェアはわずか約3%弱しかなかった」そうです。この時点で、日本国内ではなく海外市場、時に人口が増え、市場が成長している中国やインドなどのBRIC'sなどの成長市場向けに参入することが大事だった」そうです。このことから、2000年ぐらいから、日本の電機メーカーは事業収益を高めるためにリストラを本格化したために、実は付加価値率を下げていったと分析します。

 「日本が復活するには、ある程度の内需、優秀な労働力、高い教育・集団行動力を持っているので、成長市場向けのユーザーが求める製品を開発するイノベーションを起こすことが必要になる」と説明されます。

 以下、発言内容を簡潔にたどると「日本はICT(情報通信技術)やセンサー、省エネ設計、ビッグデータなどを生かして、成長市場のユーザーが求めている製品を投入する。供給サイドと需要サイドの両方でダブル・イノベーションを起こすことで、日本は再起できるだろう」といいます。話は飛んで、将来の日本は「分権化された都市国家になるだろう」と予言します。

 講演の中で、海外に行って日本の実情に詳しい方に「日本はイノベーションを起こすリーダーはいるのか」と質問されると、「毎年、首相を変えるぐらいリーダー人材はいると答える」とのジョークを飛ばし、「欧米に比べて、日本は女性を活用していない」との指摘に対しては、「日本は今後の切り札して、優秀な女性人材をとってある」とジョークで返しているそうです。

 米倉誠一郎さんは才気あふれる方でした。
 

大学発新産業創出拠点プロジェクという新政策について拝聴しました

2012年10月26日 | イノベーション
 文部科学省は今年度から始めた大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)のキックオフミーティングとしてシンポジウムを最近、東京都文京区で開催しました。

 大学発新産業創出拠点プロジェクトは、日本でイノベーションを起こし、新産業を振興させるのが狙いです。日本の大学や公的研究機関(研究機関系の独立行政法人)などの研究成果の中から、ベンチャー企業創業という手段によって事業化する研究開発プロジェクトを27件採用しました。

 その27件の研究開発プロジェクトは、例えば、早稲田大学大学院情報生産システム研究科教授の後藤敏さんが研究代表者を務める「次世代ハイビジョン用画像デコーダLSIの事業化」です。この研究開発プロジェクトはウエルインベストメント(東京都新宿区)というベンチャーキャピタル(VC)の瀧口匡代表取締役の事業プロモーターチームが事業化を支援します。

 大学発新産業創出拠点プロジェクトの特徴は、ベンチャーキャピタルの専門チームが研究開発プロジェクトの事業化を具体的にあれこれ支援する“ハンズオン”支援をすることです。数年後にベンチャー企業の創業に成功した場合は、その支援したベンチャーキャピタルがさらに投資し、そのベンチャー企業の成長を支援します。



 このため、大学発新産業創出拠点プロジェクトでは、「プロジェクト支援型」として研究開発プロジェクトと事業プロモーターチームの組み合わせを公募し、文科省が組織した推進委員会が、審査して採用する工夫をこらしています。

 研究開発プロジェクトの研究代表者は、研究開発プロジェクトの申請時に、7チーム用意された事業プロモーターチームを指名して申請します(具体的には、特定の1チームの事業プロモーターチームを指名するだけでなく、複数のチームを指定したり、7チームすべてを指名することもできます。かなり複雑なので説明はここまでです)。

 今回開催された大学発新産業創出拠点プロジェクトシンポジウムでは、7つの事業プロモーターチームが参加し、来年度の研究開発プロジェクトを申請したいと考えている大学・公的研究機関の関係者、行政関係者などが会場で顔を合わせました。

 来年度の概算予算は「平成25年度の同事業の概算要求額は20億3400万円と7億3400万円増額している」そうです。



 シンポジウムの後半に実施されたパネルディスカッションでは、「本施策は、ベンチャー企業の創業などを通して、大学などの研究成果を事業化し、日本にイノベーションを起こすことを目指している」と解説し、「技術移転などを通した従来の新産業振興手段と並行して日本にイノベーションを起こしたい」との説明がありました。

技術経営系専門職大学院の各教授による刺激的な講演を拝聴しました

2012年10月21日 | イノベーション
 「何故、シャープの失敗は会社をつぶすか!投資プロジェクトマネジメントとリスク管理」などの刺激的な講演テーマが並ぶMOT大会特別講演を拝聴しました。

 東京都港区で開催されたMOT大会を主催したのは、技術経営系専門職大学院協議会(MOT協議会)です。社会現象を技術を中心に解析するMOT(Management of Technology)を教える大学院を持つ11大学が設けた協議会です。

 テーマ「何故、シャープの失敗は会社をつぶすか!」を講演されたのは、日本工業大学専門職大学院教授の武富為嗣さんです。講演の冒頭に、かなり刺激的なテーマを付けたのは、注目を集めるためで、お伝えしたいことは、「あることを成し遂げる“プロジェクト”をマネジメントする視点・考え方だ」と説明します。

 プロジェクトを時間経緯に従って、「構想・計画段階」「詳細計画・実施段階」「運営・終結段階」などの3ステージに分けて、ビジネスリスクなどの投資対効果の算定リスク、オペレーションリスクなどの内部リスク、市場リスクやビジネスリスクなどの外部リスクごとに分析し、各リスクを洗い出すことが重要と解説します。

 プロジェクトをマネジメントする場合には、リスクマネジメントを十分に実施することが大切であり、そのリスクマネジメントを実施する手法を会得することが重要と協調されます。



 この結果、先行きが不透明な時代には、事業投資の予測が外れると企業が倒産する可能性がある時は、投資を見送るなどの判断が重要とし、シャープの堺工場などの投資は、リスク分析が甘かったと説明できるそうです。

 テーマ「イノベーションのジレンマとは何か?」を講演されたのは、関西学院大学専門職大学院教授の玉田俊平太さんです。ハーバード大学のビジネス・スクール教授のクレイトン・クリステンセンさんが書いた単行本「イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき」などの監修を務めた方です。

 イノベーションのジレンマ(Innovator's Dillemma)で問題となる破壊的イノベーションとは何かを解説されます。2000年ぐらいから、液晶(LCD)テレビはユーザーが購買時に購入するかどうかを判断する主な判断価値が「1インチ当たりいくら」という価格最優先に陥り、「性能面での差が購買動機にあまり影響を与えないようになった」と解説されます。これがシャープなどの日本の大手電機メーカーが液晶テレビ事業で苦戦している背景といいたいようです。



 「日欧米の大手の優良企業は優れた経営を続けたからこそ、破壊的イノベーションによって業界リーダーの座を失い、事業の失敗に陥った」と解説します。この“破壊的イノベーション”とは何かは、クリステンセンさんが書いた単行本を数冊読んで、自分なりに考えないと、なかなか納得できない内容です。

 技術経営系専門職大学院の各校の教授による刺激的な講演を拝聴し、いろいろな知的刺激を受け、社会で起こっている現象を考え続け、自分なりの考えを持つことが重要なことを再確認しました。

人間の身体の患部に薬を送り届ける薬物送達システム研究成果を拝聴しました

2012年10月20日 | イノベーション
 日本生体医工学会ナノメディシン研究会が東京都港区で開催した「ナノメディシンフォーラム」を拝聴しました。ナノマテリアルなどを駆使した医療用材料などの最先端の研究成果が次々と発表されました。

 その中の一つとして、東京大学工学系研究科兼医学系研究科の片岡一則教授の研究グループから、直径100ナノメートル以下の有機物製の“カプセル”の中に抗ガン剤を封入し、血管内に注入して、治療対象となるガンの部分に届くと、中から抗ガン剤を放出するDDS(Drug Delivery System、薬物送達システム)の最新の研究成果の講演を拝聴しました。

 DDSの最新の研究成果は、東大の医学系研究科の若手研究者の方が講演されました。医療材料・機械系の学会の研究成果などの発表であるために、中身はかなり専門的で難解なものです。そのごくさわりをご紹介します。

 DDSが実用化されると、抗ガン剤を患者の身体のガンの部分に、ピンポイントで送り届けることができ、新しいガンの治療法が登場するそうです。





 このDDSが実現できれば、必要な部分だけで抗ガン剤を放出できるために、抗ガン剤による副作用が減り、ガンなどの患部だけをピンポイントで治療できるために、入院期間が短くなるなどの効果によって、医療費が抑制できる可能性が高まるようです。

 人間の身体は、血液などに薬剤を単純に注入すると、肝臓などで異物として排除される仕組みを持っています。この仕組みをかいくぐって、ガンの部分に送り届けるには、ポリエチレングリコール(PEG)という高分子とポリアミノ酸を結合(共重合)させると自然にできる高分子のカプセルを利用し、抗ガン剤などの薬物を中に隠します。すると、肝臓などは異物とは認識しないために、ガン患部などに送り届けることができます。

 このDDSには、狙うガン患部の標的細胞を認識する“標的指向能”や、環境に応じて内包する抗ガン剤などの薬を放出する環境応答能などの“スマート機能”を組み込んであるそうです。さらに、光に反応する機能を組み込んで、患部に到達すると、患部に光を照射して患部を治療する仕組みも研究されています。

 このDDSを実用化するベンチャー企業として、ナノキャリア(千葉県柏市)という企業も設立され、事業化が図られています。一日も早く、実用化してもらいたいものです。

可視光で使える光触媒は優れた抗菌・抗ウイルス効果を持つそうです

2012年10月12日 | イノベーション
 可視光で使える光触媒は優れた抗菌・抗ウイルス効果を持っていると発表されました。経済産業省傘下の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と東京大学は「循環社会構築型光触媒産業創成」プロジェクトの成果発表として、可視光で使える酸化チタン系の光触媒の実用化にメドをつけたことを報告しました。

 このプロジェクトは平成19年度から平成24年9月30日まで(2007年度から2012年度)実施されました。開発目標は、可視光応答型の酸化チタン系光触媒の光触媒感度を従来値の10倍まで向上させ、実用化することでした。現在、消臭効果や抗菌性をうたう酸化チタン系光触媒は、蛍光灯などに含まれている紫外線に反応するものです。

 東大先端科学技術研究センターと昭和タイタニウム(富山市)などの企業9社は、可視光で光触媒効果を発揮する銅系化合物を添加した酸化チタン材料を開発し、共同開発相手の企業各社は事業化を図る活動を始めたると発表しました。



 今回の発表のポイントは、開発した銅化合物を添加した酸化チタン材料が優れた抗菌・抗ウイルス効果を持っていることを「病院や空港などの現場で実証試験し、その優れた効果を確認したこと」と、プロジェクトリーダーを務めた先端研の橋本和仁教授は説明します。



 開発成果である酸化チタン系光触媒は、銅系化合物添加の酸化チタンと鉄系化合物添加の酸化チタンの2種類です(このほかに、酸化タングステン系も開発のめどをつけています)。



 銅系化合物添加の酸化チタンを塗布した試験部位に、大腸菌を載せて、照度800lxの光を照射すると、2時間後には大腸菌が10の4乗以下(1万分の1以下)に減少する抗菌効果を示したそうです(不活性化したそうです)。その仕組みは「酸化チタン系光触媒が大腸菌の中身を有機物として分解したため」と説明します。このため、菌の種類には関係なく、光触媒効果を発揮すると推定しています。現在、抗菌効果は「感染症などが問題になるグラム陽性細菌(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌=MRSAなど)などの9種類で確認済み」と説明します。

 今回開発した酸化チタン系光触媒は優れた抗ウイルス効果も示します。「酸化チタン系光触媒系で、本格的な抗ウイルス効果が確認できたのは初めて」とのことです。例えば、RNA(リボ核酸)ウイルスであるQβファージに対して、照度800lxの可視光を照射すると、1時間後には10の7乗以下まで減少したそうです(不活性化したそうです)。

 プロジェクトに参加した企業各社は、今回開発した酸化チタン系光触媒を実際に病院や空港などの現場に適用し、その抗菌効果や消臭効果を確認しました。病院では横浜市立大学附属病院と北里病院の2個所に協力してもらったそうです。同病院の多目的トイレや男子トイレの壁面に、開発した酸化チタン系光触媒を塗布するなどの実証試験では「洗面台の周辺では約96%の抗菌効果や防臭効果を確認できた」と、担当したTOTOは説明します。



 空港では新千歳空港に協力を依頼し「新千歳空港の運搬用の個人向けカートなどに適用し、抗菌効果を確認できた」と、パナソニックは説明します。

 今回開発した酸化チタン系光触媒は酸化チタン粒子の表面にだけ、銅系化合物(あるいは鉄系化合物)をナノレベルで付着させてつくります。「このつくり方に技術ノウハウがある」と、酸化チタン系光触媒粉末の生産を担当する昭和タイタニウムは説明します。

 酸化チタン系光触媒粉末の生産を担当する昭和タイタニウムは「可視光による抗菌・抗ウイルス効果、消臭効果を必要とする市場が順調に立ち上がれば、量産プラントの設置を検討する」と説明します。

 日本の大学が基本原理を見い出し、TOTOなどの企業が製品化を進めてきた酸化チタン系光触媒の使用法をますます広げる開発成果の発表でした。独自技術によって、新市場をつくることで日本企業の実力を示してもらいたいものです。