生物人類学者グエン・デワー氏による、「先生と生徒の関係が生徒に与える影響」をまとめた記事'Student-teacher relationships'に、先生がサポーティブで生徒と良好な関係を築くことがいかに大切かが、幼児からティーンまで様々な年齢を対象にしたいくつかの研究から示されている(それぞれの研究の詳細については、以上の記事参照)。
・年長の子供達に、問題を解く前に先生の顔写真を見せる。先生と良好な関係を築けている子ほど、問題をより早く正確に解くことができた。それは同じ子供達が小学校にあがり、新しい先生に変わってから、年長時代の先生と小学校の先生両方の写真を見せた場合でも、年長時代の先生との関係の方がより大きな影響力を持っていたと。小さな頃の先生との関係の大きさ!
・学校へ上がる前に、先生とポジティブな関係を築けた子の方が、後に学業や情緒面で健やかであるという研究もある。そうなると、「やんちゃで手のかかる問題児でなかったからこそ、『良好な関係』が築くことができ、その後の学校生活で成功するのもそういった子供の性質上当たり前なんじゃない?」という疑問も生まれるわけだけれど、「より手のかかる子」でも、先生がサポーティブに世話をした場合の方が、後に問題行動の少ない健やかな子に育ったと報告されている。
・米国で高校生を対象に大々的に行われた研究では、数学でのアカデミックな成長を予測できる最も重要な要素が、「生徒が先生と繋がり(connectedness)を感じていること」だったと報告されている。
先生が生徒と良好な関係を築くためにできること:
・先生に、手のかかる子を扱うスキル上達を目指すなどの、トレーニングの機会を与える。トレーニングにより、先生と生徒間の関係が改善すると報告されている。生徒の間違いに対し、「あなたに失望したわ」より「他に何かやり方があるかな?」といった言葉がけを心がけるだけでも、生徒との間により良好な関係が築けるもの(両者の言葉がけを比較したところ、前者は生徒との関係を損ねるだけでなく、生徒のパフォーマンを長期間にわたり下げることになったという研究報告あり)。
・教師の待遇を改善する。先生の給料がより多い場合も生徒と良好な関係を築きやすいという報告。確かに先生の待遇がよく仕事に満足しているほど、先生も余裕ができ、生徒一人一人に対してのやる気が増すででしょうね。
・教師が文化的背景の違いに敏感になる。
米国には、女子や、ヨーロッパ系アメリカ人の生徒の方が、先生と良好な関係を築きやすいという調査結果もある。
また黒人の先生は、「そのペンをしまいなさい!」という指示を出しがちなのに対し、白人の先生は「このペンはどこにしまったらいい?」と話しかけるという研究がある。黒人の子供達にとっては、白人的対応があまりしっくりと来ない場合があるとのこと。
この「文化的な違い」というの、放課後スクールで日々肌で感じている。白人の先生(に交じりアジア人の私一人)ばかりに、生徒は黒人の子が多いという環境。これって、黒人の先生だったら、もっとうまくまとまるんじゃないかなと、たびたび思う。
オランダでは、ネイティブのオランダ人の先生は、ネイティブの生徒に比べ、モロッコ人の生徒と良好な関係を築きにくい。トルコ人の先生の方が、トルコ人の子供たちの感情面により繊細に気づくことができるという研究もある。
日本のように「より同質な文化」であっても、教師自らの価値観や生徒の特性や相性的なものに教師自身が気づき、より生徒の側に添った対応を心がけるのが大切ということが、これらの研究から学べるだろう。
・教師がだめなら、文化の違い(特性の違い)などに精通したカウンセラー的な存在を間に入れるといい。それでもだめなら、クラスや学校を変えることも考慮してみてはとデワー氏。
子供達をみてきても、先生と生徒の関係って大きいなあと思う。ちょっとあれはひどかったよね、と今でも話題になるような痛い思いもしてきたけれど、色々な意味で「鍛えられる機会」になったかなという気持ちもある。それでも一日の大半を学校で過ごす子供達、ポジティブな関係に囲まれていた方が、やはり健やかでしょうね。
高校生にもなると、もうどんな先生にあたろうが何とか生徒側から良好な関係を築こうとする場合が多いのかなとも感じている。社会へ出てからに向けての訓練をしているようなところがある。とはいえ小さな子ほど、こうした「反面教師にする」といったこともまだまだ難しいだろうし、できる範囲で健やかな環境を整えてやりたいですね。
先生側に、自身を磨き続けていく意志&環境があれば、確かに教育も随分とよくなっていく。以上のこと、親としてできることをしつつ、そして教える側に立つたびに、思い出していきたい。