石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(103)

2024-01-15 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第4章:中東の戦争と平和(17)

 

103 アフガン戦争勃発:呉越同舟の米国とアラブ(3/5)

 しかしムスリムたちにとって共産主義の無神論は理解に苦しむどころか悪魔の思想である。唯一神アッラーのためにアフガニスタンのムジャヒディン(ジハード戦士)は共産主義政府に立ち向かった。その闘争に共鳴したのがアラブ諸国のムスリムたちであった。豊かな湾岸産油国のムスリムたちはモスクで礼拝を済ませた後、遠いアフガニスタンのジハード戦士たちのために出口に置かれた義援箱にお金を入れた。ザカート(喜捨)はムスリムの宗教的義務であり、彼らは喜んで寄付したのであった。その性格上戦争を支援するための寄付金は公にすることができず、いくつかの銀行を経てマネーロンダリング(資金洗浄)された。モスクを通じた戦費の調達とその送金方法は後々イスラーム過激派に対する資金ルートに変貌して中東各国政府や欧米諸国を悩ませるのであるが、この当時はむしろ黙認或いは奨励されていた。

 

 さらに米国がこの戦争で反政府ゲリラを支えた。米国は彼らにミサイルなどの武器弾薬或いは軍事衛星で得られたソ連駐留軍の動きなどの機密情報をパキスタンを通じて反政府側に与えたのである。このようにアフガニスタン戦争ではアラブ諸国がヒト(義勇兵)とカネ(戦費)を与え、米国がモノ(近代兵器)とインテリジェンス(情報)を与え、共同してソビエト社会主義政権に対抗したのである。イスラームとキリスト教という真っ向から対立する陣営の共闘体制はまさに「呉越同舟」であった。

 

 両陣営がソビエト社会主義打倒を目指した思想の背景は全く異なる。アラブ陣営には共産主義の無神論に対する強烈なアレルギーがあった。彼らはソ連が「悪魔」の国でありこれを打倒することはジハード(聖戦)であった。そもそもアラブ民族の「血」とイスラームの「信仰」が体にしみこんでいる彼らにはイデオロギーという「智」が入り込む余地はないのである。これに対して米国は自由主義対社会主義、資本主義対共産主義という明確なイデオロギー思考に立ってソ連を打倒し世界の覇権を握ることが目的であった。1975年に泥沼のベトナム戦争を終結し、同じ年に先進国サミット(G7)で世界経済の覇権を確かなものにした米国にとってソ連は最後の敵であり、アフガニスタン戦争はその最前線というわけである。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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戦後ガザはどうなるのか?当事者たちの本音と本性(上)

2024-01-15 | 今日のニュース

(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0595GazaJan2024.pdf

 10月7日のハマスによるイスラエル入植地奇襲をきっかけに始まったガザ戦争は、イスラエル軍がガザ北部を焦土化し、南部でも都市部に張り巡らせたハマスのトンネル網をしらみつぶしに攻撃する悲惨な市街戦が繰り広げられている。パレスチナ側の死者は女性・子供を含み2万人を超え、ハマスにとらえられた人質の多くも解放されず停戦の気配は見えない。国連安保理も機能マヒしたまま時間だけが過ぎていく。イスラエル軍とハマスの戦力の差は圧倒的であり、戦争がいずれイスラエルの勝利で決着することは衆目の一致するところであろう。ただ戦後のガザがどのような形になるかは不透明である。

 

 ここでは当事者たちの本音と本性がどのようなものかを探りながら、戦後ガザの姿を推測してみよう。

 

ネタニヤフ極右政権の本音と本性

 完全比例制のイスラエルでは政党が乱立している。現在のネタニヤフ政権は極右政党がキャッスティングボートを握り、彼らはユダヤ民族の本音と本性をむき出しにしている。

 

彼らはユダヤ人が神に選ばれし者であり(選民思想)、イスラエルの土地ははるか昔に神から与えられたものである、と主張している。ユダヤ人は2千年前に祖国の土地を追われ(ディアスポラ)、移り住んだヨーロッパ各地で蔑視され抑圧された。さらに第二次大戦では1千万人以上が強制収容所のガス室に送られた(民族浄化)。金融業で成功したユダヤ人は、第一次世界大戦で欧米連合勢力を支援し、見返りとして祖先の地イスラエルを取り戻した(バルフォア宣言)。彼らは「民なき土地に土地無き民を」をスローガンにヨーロッパから移住した。「民なき土地」と呼んだパレスチナであったが、もちろんそこにはディアスポラ以前からアラブ人が連綿と住み続けていた。スローガンとは時に荒唐無稽であっても響きが良ければ実態とは無関係に利用されるものである。

 

第二次大戦後にイスラエルは国家として独立した。そして4度の中東戦争で周辺アラブ諸国を完膚なきまでに打ち砕き、「不敗神話」を打ち立てた。一方でユダヤ人は自分たちをゲットー(ユダヤ人居住区)に押し込め、最後は強制収容所で死の苦しみを与えたヨーロッパ各国に絶えず贖罪意識を喚起した。米国に移住したユダヤ人たちは世界の超大国にのし上がる米国の政治・経済を牛耳り(ユダヤロビー)、さらにキリスト教の聖地エルサレムをアラブ・イスラム教徒から守るという看板を掲げて、米国の世論をイスラエル支持一色に染め上げた。

 

 ネタニヤフ政権の本音と本性は上記のことから次のように読み取れる。まず敵との戦争が不可避と判断されれば躊躇せず先制攻撃を行うこと、そして国際世論を敵に回してでも手段を選ばず敵を徹底的に壊滅することである。イスラエルにとって攻撃こそ最大の自衛策であり、勝利こそ全てを正当化する。今回のガザ戦争でハマス側に先制攻撃されたことは誤算であったが、直ちに報復しハマスをせん滅するまで戦いは止めないと明言している。

 

 イスラエルがここまで強気なのは米国が絶対に見捨てないと確信しているからである。またガザとウクライナの二重紛争にうんざりしつつあるヨーロッパ諸国に対しても折に触れてアウシュビッツの贖罪を持ち出して牽制している。冷酷なイスラエルに妥協と言う言葉はないのである。

 

(続く)

 

本件に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

荒葉一也

Arehakazuya1@gmail.com

 

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