石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

中国以外は評価が低いBRICS:世界主要国のソブリン格付け(2024年1月現在) (下)

2024-01-10 | その他

(注)「マイライブラリー」で上下一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0594SovereignRatingJan2024.pdf

 

2.2021年1月以降の格付け推移

  ここでは2021年1月以降現在までの世界の主要国及びGCC6か国のソブリン格付けの推移を検証する。

 

(格付け無しが続くロシア!)

(1) 世界主要国の格付け推移

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-G-3-01.pdf参照)

先進国の中ではドイツが過去3年間継続して最高のトリプルAの格付けを維持している。米国はドイツより1ランク低いAA+を続けている。なお米国の場合、S&Pは2011年にトリプルAからAA+に引き下げている。昨年S&Pと並ぶ格付け会社FitchRatingが同国をトリプルAからAAに引き下げている。FitchRating, S&P共に連邦債務の上限問題に関して連邦政府と議会の関係が不安定であることを引き下げの理由としているのは興味深い。

 

アジアの経済大国中国と日本の格付けは3年間A+で推移している。AAAのドイツより4ランク、米より3ランク低く、過去3年間格差は解消していない。台湾は2020年までAA-であったが、2021年上期に韓国と並ぶAAに格上げされ、2022年上期に再度引き上げられ現在はAA+に格付けされている。これら欧米・アジア各国より格付けは少し下がるが、石油大国のサウジアラビアは2023年上半期にA-からAにアップした。世界的な景気回復とOPEC+の協調減産による原油価格の上昇が同国の経済見通しを明るいものにしている。

 

コロナ禍前の世界的な経済成長の中で注目されたBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)諸国については、上述のとおり中国がA+である。その他の4カ国を見ると、インドは過去3年間BBB-である。これは投資適格の中で最も低く、S&Pの格付け定義では「債務を履行する能力は適切であるが、事業環境や経済状況の悪化によって債務履行能力が低下する可能性がより高い」とされている。

 

南アフリカとブラジルは共にBB-で投資不適格であった。BBの格付け定義は、「より低い格付けの発行体ほど脆弱ではないが、事業環境、財務状況、または経済状況の悪化に対して大きな不確実性、脆弱性を有しており、状況によっては債務を期日通りに履行する能力が不十分となる可能性がある。」とされ信用度が低い。BRICsの一角を占めるロシアは、2022年1月までインドと同じ投資適格では最も低いBBB-であったが、同年4月のウクライナ侵攻に伴い、S&Pは同国をN.R.(No Rating)として格付け対象から除外しており、現在もその状態が続いている。

 

(アブダビに並んだカタール、伸張著しいオマーン!)

(2)GCC6カ国の格付け推移

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-G-3-02.pdf参照)

 GCC6か国(UAE、クウェイト、カタール、サウジアラビア、オマーン及びバハレーン)の過去3カ年のソブリン格付けの推移を見ると、まず2021年1月時点ではUAE(アブダビ)は最も高いAAであり、これに続きクウェイトとカタールがAA-に格付けされていた。しかしクウェイトは2021年下半期にはA+に落ちている。これに対してカタールは2022年下半期にAA-からアブダビと同格のAAに格上げされている。

 

3カ国は政治体制、人口・経済規模などが似通った産油(ガス)国である。それにもかかわらずクウェイトが格下げされているのは、同国が中途半端な議会制民主主義を採用している結果、政情が安定せず経済改革がほとんど進まないことに原因があると考えられる。カタールについては前項でも触れた通り天然ガス(LNG)が世界的に品不足で価格が高騰したためである。

 

サウジアラビアはこれら3カ国より低くA-であったが、昨年上半期にAに格上げされている。同国はUAE(アブダビ)、クウェイト、カタールを大きくしのぐエネルギー歳入を誇っているが、一方で人口も3カ国より飛びぬけて多いため、財政的なゆとりが乏しい。S&Pはこれらの事情を考慮してサウジアラビアの格付けを厳しく見ている。

 

産油量の少ないオマーンとほとんどないバハレーンの格付けは他の4カ国よりかなり低く2021年下半期まではB+にとどまっていた。その後、バハレーンは現在までB+格付けのままである。これに対してオマーンは2022年に一気に2ランクあげてBBとした後、昨年下期にさらに1ランク上のBB+に格付けされている。BB+は投資不適格では最も上のランクであり、同国は投資適格を目指して努力中である。

 

以上

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

     前田 高行     〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(101)

2024-01-10 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第4章:中東の戦争と平和(15)

 

101 アフガン戦争勃発:呉越同舟の米国とアラブ(1/5)

 70年代前半の束の間の平和と繁栄の時代が過ぎると、後半には中東は俄然きな臭くなる。アラブから少し離れイランとパキスタンに挟まれたアフガニスタンに、1978年、ソ連肝いりの共産主義政権が誕生した。アフガニスタンは古くから交易の要衝であり、19世紀には中央アジアからインド洋を目指すロシアの南下政策に対し、インド洋沿岸沿いにオマーンからインドに至る交易路を確保しようとする大英帝国の東インド会社が激突、そこは「グレート・ゲーム」と呼ばれる紛争多発地帯であった。1970年代初頭に王制が倒れると、ソ連は好機到来とばかりに共産主義政権を支援した。

 

 しかし伝統的な部族社会であり、また強固なイスラーム信仰の国であるアフガニスタンは安定するどころか反政府武装勢力が勢いを増した。劣勢に立たされた中央政府はソ連に援軍を要請、ソ連は国際社会の反対を押し切って1979年に軍事介入に踏み切る。この後、ソ連軍が撤退するまでの10年の間、アフガニスタンは泥沼の内戦を繰り広げるのである。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする