石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(105)

2024-01-19 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第4章:中東の戦争と平和(19)

 

105 アフガン戦争勃発:呉越同舟の米国とアラブ(5/5)

 ソ連駐留軍は次第に追い詰められ1988年に遂に撤退した。アラブ・イスラム諸国はソ連の無神論との宗教戦争に勝利し、米国はソ連社会主義とのイデオロギー戦争に勝利したのである。アフガニスタン戦争はソ連の崩壊をもたらし米国では宗教社会学者のフランシス・フクヤマが「歴史の終わり」なる論文を発表、米国一強時代が出現し、永遠の世界平和が訪れるかのごとき幻想がふりまかれた。

 

 しかしアフガニスタン戦争はそれまで歴史の陰に隠れていた多くの問題が表面化する負の側面も併せ持っていた。米国はソ連の次の目標として中東アラブ諸国に政治の自由化と民主化を強要した。それは自由化、民主化の衣を着た西欧イデオロギーの押し付けであったが、その背後に宗教面のキリスト教福音思想と軍事面のネオコン思想があった。

 

 一方、イスラーム諸国ではイラン革命が勃発、シーア派指導者ホメイニによる宗教政治が出現、これはスンニ派アラブ諸国との対立を生みだし、イラン・イラク戦争につながる。さらに同じスンニ派アラブ諸国の内部で世俗主義と原理主義が衝突、原理主義の内部では更に過激なテロリズム思想が蔓延し手の付けられない混乱を引き起こすのである。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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戦後ガザはどうなるのか?当事者たちの本音と本性(下)

2024-01-19 | その他

(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0595GazaJan2024.pdf

 

どうなる?戦後のパレスチナ統治

 ガザ戦争は圧倒的な軍事力を有するイスラエルが勝つことは間違いない。但し、ハマスも敗北宣言しないであろう。イスラエルは戦後ガザを直接統治することはない、と明言している。直接統治がリスクの高いことは誰の目にも明らかである。今回の戦争でガザの住民の反イスラエル感情が極限に達しており、その結果ハマスの残党あるいは過激化した若者による新たな都市ゲリラ活動が始まるであろう。彼らを武器面で支えるのはイラン、シリアなどであり、経済的に支援する周辺アラブ国民もなくならない。イスラエルの報復を恐れる湾岸アラブ諸国は、義勇軍を派遣する気は毛頭なく、物的な支援及び金銭的寄付(ザカート)に力を注ぐ。それは豊かな湾岸諸国のパレスチナ人に対する罪滅ぼし、或いは免罪符であろう。

 

 戦後のパレスチナ統治は戦前と寸分変わらない姿になる。否、戦前よりさらにパレスチナ人に過酷な「天井なき牢獄」となるであろう。彼らは生存に必要な最小限の環境で、全く自由を奪われた生活を送る。そこに見える景色はナチス時代の「強制収容所」そのものであり、違うのは「ガス室」が無いことくらいであろう。パレスチナ人に対する人種差別(アパルトヘイト)がさらに過酷な様相を帯びる。パレスチナ人の心中にはこれまで以上の怒りと絶望が沸き立つに違いない。

 

 ガザのパレスチナ人には全く未来が無いのであろうか。数十年単位で見る限り彼らに明るい展望は開けない。ただ言えることは歴史は百年、千年単位で動くものであり、イスラエルのユダヤ教徒が未来永劫繁栄を続け、一神教の「約束された民」としてこの世の終末を迎えられるとは思えない。パレスチナのアラブ人も同じ一神教のイスラム教徒である。同じ一神教徒なら世界の終わりに同じように救われるはずである。(逆に言えば多神教のヒンズー教徒、悟りの仏教徒、共産主義の無神論者たち一神教徒以外のすべての人間がこの世の終末で地獄の責め苦に会う、ということになるのであろうが。)

 

 しかしすべてことは有為転変する。奢れる者は久しからず。生者必滅。今日の「善」は明日の「悪」。人間世界に「絶対」はない。

 

 無責任で暗い結論と読者の顰蹙を買うことは承知の上で、安易に平和を期待する進歩的文化人の自己陶酔は避けたいと思うばかりである。

 

以上

 

 

本件に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

荒葉一也

Arehakazuya1@gmail.com

 

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