石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(30)

2023-07-26 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第1章 民族主義と社会主義のうねり(14)

 

030.イスラエル独立(その3):流入するユダヤ移民に押し出されるパレスチナのアラブ人(3/3)

 ユダヤ人入植者たちは札束を積んで不在地主から土地を買い取った。彼ら自身がそのような大金を持って移住してきたとは考えられない。それはヨーロッパに住み続けた豊かな同胞(ロスチャイルドはその典型であろう)、或いはアメリカにわたって成功した同胞からの義捐金である。豊かなユダヤ人はヨーロッパに残り、才能や学歴のあるユダヤ人はアメリカに移住した。パレスチナに移住したユダヤ人のほとんどは金も才能も学歴も乏しい貧しい者たちだった。1909年、帝政ロシアのポグロム(ユダヤ人に対する迫害。「破滅・破壊」を意味するロシア語)を逃れたユダヤ人が社会主義とシオニズムを結合した形で始めた共同農場「キブツ」はその後ユダヤ人入植地に広がっていった。

 

彼らが土地を手に入れると次に始まるのは既にいるアラブ人小作農の追い出しである。土地の権利はユダヤ移民のものであるからアラブ人は文句のつけようがない。アラブ農民は賃金労働者としてユダヤ人の下で働くか、それが嫌なら都市難民、さらには親類縁者を頼ってヨルダンなど周辺アラブ諸国に逃れるしかなかったであろう。パレスチナ経済難民の始まりである。

 

ただパレスチナ難民の中でも多数を占める政治難民は第二次大戦後のイスラエル独立戦争(第一次中東戦争)で生まれた。イスラエル独立後の3年間に70万人近いユダヤ人が流入、それとほぼ同数のパレスチナアラブ人が政治難民となってヨルダンに雪崩れ込んだ。アラブ人がユダヤ人に押し出された格好である。ヨルダン川西岸のトゥルカルムの町で隣同士であった教師のシャティーラ家と医師のアル・ヤーシン家の2家族もそのような難民の一つであった。シャティーラ家は当時16歳の息子アミンを伴ってヨルダンに逃れている。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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EI世界エネルギー統計(旧BP統計)2023年版解説シリーズ(4)生産量3

2023-07-26 | EIエネルギー統計

1.世界の石油・天然ガスの生産量(続き)

(1-3) 主要国の過去10年間の生産量の推移

(シェールオイル開発で米国が驚異的な生産増!)

(1-3-1)石油 (図http://bpdatabase.maeda1.jp/2-G03a.pdf参照)

 ここでは石油生産量が世界1~3位の米国、サウジアラビア、ロシアに加え、米国の経済制裁のため石油輸出に苦しみ2022年の生産量が世界8位のイラン、及び近年深海油田の開発で生産量が増加傾向にある世界9位のブラジルの5カ国について過去10年間の生産量の推移を検証する。

 

 2013年の石油生産量はサウジアラビアが1,139万B/Dと最も多く、ロシアが僅差の1,081万B/Dで続き、米国も1千万B/Dを超える生産量であった。これに対しイランは361万B/D、ブラジルは211万B/Dであった。

 

 この後シェールオイルの生産が本格化した米国が生産量を大幅にアップしており、2014年にはサウジアラビア、ロシアを抜いて世界一の石油生産国になった。特に2018年から2019年にかけて同国の生産量は大幅に増加し1,600万B/Dを超え、2022年には1,777万B/Dに達している。

 

サウジアラビアとロシアの生産量はほぼ横ばい状態が続き、逆に2019年から2021年にかけては前年を下回る生産量にとどまっている。コロナ禍による世界的な石油需要の低迷のため両国はOPEC+(プラス)として価格下落を回避するための協調減産体制をとったためである。

 

 イランは2013年から2015年まで400万B/Dを下回るレベルで推移した後、2017年には485万B/Dまで回復したが、2020年には大きく減退し(312万B/D)、過去10年間では最も低い生産量となった。これは米国の経済制裁とコロナ禍の影響が重なったためである。2021年、2022年はコロナ禍が終息、生産量は365万B/D、382万B/Dと順調に回復しつつあるが、未だコロナ禍前の水準に達していない。

 

 ブラジルは深海油田の開発が軌道に乗り、2013年以降生産量が順調に増加した。即ち2013年に211万B/Dであった同国の石油生産量は、2015年に253万B/Dに増加、2020年には他の産油国の生産が減少する中で唯一前年を上回り300万B/Dの大台を突破した。2021年は世界的な石油需要不足のため同国の生産量も足踏みしたが、2022年には過去10年間で最高の311万B/Dにアップ、10年前に比べ100万B/D増加している。

 

(続く)

 

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