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ヨーロッパを目指すイスラエルとロシア/トルコの2本のガスパイプライン
ギリシャ系住民とトルコ系住民が混在するキプロスは第二次大戦後の独立運動の過程でギリシャとの併合をめぐり1970年代に内紛状態となった。1974年にはトルコが軍事介入し、キプロス共和国と北キプロス・トルコ共和国に二分され、それ以来ギリシャ、トルコ、キプロス共和国の3カ国は相互に緊張関係が続いている。一方で3カ国は共にNATO(北大西洋条約機構)に加盟しており、米ソ対立、デタントの時代を通じて政治的にはある種の平衡関係を保ってきた。
しかしイスラエルのガス田発見を契機に東地中海沿岸各国で天然ガスの開発機運が高まった。沿岸諸国にはイスラエルのほか、レバノン、シリア、トルコ、キプロスの4カ国があるが、レバノン、シリアは国内の政治・経済が不安定であり、資源開発どころではなく、トルコとキプロスが開発に名乗りを上げている。なお、エジプトはナイル・デルタの沖合にいくつかのガス田があるが、すでに生産が下降段階にありLNG設備が余っている状況である。
最初に開発に乗り出したキプロスでは伊Eni、仏Totalなどが探鉱作業中である。これに対してトルコはキプロス近辺の鉱区で探鉱作業を始めているが、鉱区の設定をめぐりキプロス政府と衝突を繰り返している。(図参照)
但しこれまでのところ両国とも商業量に見合うガス田を発見していない。そのためガス輸出国と組んで自国消費用の天然ガスを輸入し、さらに余剰分をヨーロッパ大陸に搬送するガスパイプラインの建設を目論んでいる。それがイスラエル/キプロス/ギリシャによるEast Med Pipelineであり、ロシア/トルコによるTurkstreamである。
因みにロシアのヨーロッパ向け天然ガスパイプラインは大きく3つのルートに分かれる。第一のルートはユーラシア大陸の陸上パイプラインであり、歴史的にも最も古く、ウクライナを経由するルートが最大のものである。その後、2012年にロシアとドイツを直結するバルト海の海底パイプラインNordstreamが完成した。これは西ヨーロッパで石炭火力及び原子力発電が敬遠され、環境負荷が少ない天然ガスへの切り替えが進んだことが一つの理由である。
しかしロシア産ガスの消費国であり同時にヨーロッパ向けパイプラインの中継地であるウクライナとロシアの間でガス価格の紛争が頻発、ドイツが陸上パイプラインによるロシアからのガス輸入に不安を抱いたこともNordstream建設の理由の一つである。ウクライナとロシアの関係はその後クリミア半島の領有をめぐってさらに険悪化しており、ロシアはウクライナ経由の陸上パイプラインに加え、北のバルト海及び南の黒海に海底パイプラインを敷設する三方面作戦を実行中である。(図参照)
(続く)
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荒葉一也
Arehakazuya1@gmail.com