東北大学井上明久総長の任期が残りわずかとなり、3月末で任期満了による退任となる。予想通り自発的に辞職することはなかった。東北大学も何ら処分をするつもりはないらしい。しかし、あえて言わなければならない。東北大学は即刻井上明久総長を懲戒解雇し、退職金を絶対に支給してはならない。さらに日本学士院は井上氏に与えた学士院賞を取り消し、不正に使った高額な研究費もきちんと返還し、学士院の会員資格剥奪など、あらゆる公職から井上氏を排除しなければならない。
確かに井上氏は金属ガラスの研究で一部素晴らしい成果を出した。しかし、別な側面では数々の捏造論文を発表し科学に対する信頼を致命的に傷つけた。しかもその態様は重大な研究成果を偽るもので極めて悪質である。かなり悪質な不正と処断された同じ東北大学の上原亜希子の不正も、井上氏に比べればまだマシな方で井上氏の捏造の数々は科学史上最大の捏造といわれたベル研究所のシェーン氏に匹敵する。
現在公的な団体により井上氏の捏造が認定されたわけではない。その意味ではまだ争われている段階だが、井上氏の不正の態様の数々をみると不正がなかったではとても済まされない悪質極まりない所業があったと断じざるを得ない。捏造論文の典型例は昨年にApplied Physics Letters(APL)誌が二重投稿を理由に撤回した井上氏の論文である[2]。この論文は単なる二重投稿ではなく、でたらめばかりが記載されとてもまっとうな論文とは呼べない代物である。過去に発表したのと同じデータを再掲載しているのに適切にオリジナルを引用をしていないどころか、実験条件をキャプションで変更して別な実験であるかのように改ざんしたり、金属の機械的な性質も論文のデータから適切な方法で導出できないでたらめなものばかりが記載されており、とてもうっかりミスでは済まされない酷いあり様だ。詳しいことは[1]を見てほしい。
ここまで論文にでたらめな記載がたくさん書かれている客観的な態様は、常識的には研究が適切に遂行されなかったことを示す。一言でいえば捏造や改ざんが行われたということだ。これは至当な判断だし、丁寧な説明を聞けば誰でも簡単にわかることである。研究が適切に遂行されたなら、ここまででたらめな記載が表れるはずがない。
別な例で言えば京都府立医科大学の記事で紹介したでたらめな小学生の宿題と同じである。先生が夏休みの宿題として小学生に「自分の住んでいる都市の人口を年度ごとに20年分、公的な資料をもとに調べて提出しなさい。」という宿題を出したとしよう。しかし、提出された小学生の宿題はでたらめばかりが記載されていて、参考にしたという公的な資料を見ても全く根拠がなかった。宿題を適切にやっていれば、即ちきちんと文献を調べて書いていれば単純な転記で済むため簡単に正しいことが書けるはずなのに、でたらめばかり記載されているということは、小学生は宿題を適切にやらなかった、即ち文献をきちんと調べずにでたらめにデータを作成して提出した以外に考えられない。要するに捏造データで宿題を提出したということである。
井上氏がやったことも基本的にこれと変らない。研究を適切に遂行せず、捏造又は改ざんしたデータばかり論文に記載したからでたらめなデータばかり論文に載っているのである。しかも井上氏のAPL論文は論文の核心的なデータに捏造や改ざんがあり極めて背信的である。井上氏はこの論文を主要な業績の一つとして日本学士院賞を受賞しているが、日本学士院はなぜこんなとんでもなく悪質な捏造論文に日本学士院賞を与えたのだろう。彼らはいったい何を審査したのか。学士院賞の権威や信頼も地に落ちたというか、大変な汚点を出してしまった。
この論文に関してはAPL編集局長がTransgression(掟破り,この場合は研究者倫理違反)と発言し酷く井上氏を非難したという。こんなとんでもない捏造論文を掲載させられたら誰だって激怒するだろう。読者を騙す極めて背信的な論文を掲載させられてしまったんだから、ジャーナルの信用はがた落ちだ。「レフリーや編集局は何をやってたんだ?」と苦情が殺到するだろう。大迷惑な話だ。
井上氏の不正行為はまだ公的には認定されていないが、客観的な態様から明らかに極めて悪質な不正行為が何度も行われている。確かに井上氏は金属ガラスの研究で素晴らしい成果を出したのかもしれないが、あまりに悪質な不正行為の数々を見ると、とてもまっとうな研究者とは呼べない人物だと言わざるを得ない。井上氏の罪の重さを考えると懲戒解雇は当然であり、研究費の返還、退職金不支給、学士院賞取り消し、学士院会員資格剥奪など厳しい制裁を与えるのは当然である。
そもそも、東北大学も日本学士院も井上氏の論文を掲載したジャーナルも意図的で明白かつ極めて悪質な不正行為の数々をきちんと認定し処断しなければならなかったのにそれをしなかった。特に東北大学は井上氏の不正を握りつぶしたとしか考えられず、極めて悪質でありまともな研究機関とはいいがたい。井上氏は総長で権力者に逆らえないとか学長が不正を犯したという汚点を出したくないと思っているのかもしれない。確かに権力者には逆らうのは簡単ではなく、汚点は出したくないだろう。しかし、科学史上稀にみるほどのとんでもなく悪質な研究不正を組織ぐるみで握りつぶすことの甚大な損失に比べれば、汚名を受けてもきちんと井上氏の不正を正した方がよほどマシである。
大学は健全に研究や学問を追究する場や環境が整っていなくてはならない。端的にいって、東北大学の現在までの握りつぶしの数々は大学としての自殺行為以外の何物でもない。
思えば、井上氏の悪質な研究不正のために貴重な税金が何億円も無駄に使われ、他の研究者や企業も捏造した研究成果に騙され貴重なお金や時間を無駄にした。さらに、これほど悪質な研究者に対して退職金を1億円は支払うのだから、とんでもなくばかげている[3]。絶対に井上氏に退職金を支払わないでほしい。井上氏は学士院の会員で生涯月額25万円程度の給料を貰うらしいがこれもとんでもないことだ。
繰り返しになるが、井上明久氏を即刻懲戒解雇にし、退職金を絶対に支給せず、学士院賞取り消し、学士院会員資格の剥奪など厳しい制裁を与えなければならない。国民は黙っていてはいけませんよ。
参考
[1]井上総長の研究不正疑惑の解消を要望する会(フォーラム)
[2]A.Inoue,et all:"Ductile quasicrystalline alloys" APL, Vo.76,No.8(2000),pp.967-969
[3]確かその昔東北大学総長は事務次官と同額の年俸だったと思う。事務次官経験者の退職金が約1億円と何かの文献で見たことがあるので、井上氏の退職金もおそらくその程度だろう。東北大学総長の場合は事務次官より高齢で退職することを考えると、おそらく事務次官より高額な退職金になるだろうから、1億円を超えることも十分考えられる。つくづく、なんでこんな悪質な人物に税金から1億円以上も支払わなければならないのかと怒りを禁じえない。