『肥満薬の治験でデータ改ざんか 身長偽り肥満度上げる
朝日新聞デジタル 6月30日(日)5時18分配信
メタボリック症候群など肥満症に効く市販薬の開発をめぐり、大阪市の病院が実施した臨床試験(治験)のデータの一部が改ざんされた疑いがあることが朝日新聞の調べでわかった。被験者72人の中に治験を実施した病院の職員6人が含まれ、4人の身長が実際より低く記録されていた。治験の条件を満たすため被験者が肥満体となるよう偽装された可能性がある。
治験は、製薬大手「小林製薬」(本社・大阪市)の依頼を受け、医療法人大鵬(たいほう)会「千本(せんぼん)病院」(同市西成区、196床)が2010年4月から実施。小林製薬は11年11月、治験結果をふまえ、市販薬としての製造販売の承認を国に求めたが、朝日新聞の取材後の今年2月、申請を取り下げた。同社は今後、事実確認を進め、病院側に法的手段を検討するとしている。
朝日新聞が入手した内部資料によると、治験の責任医師は当時の内科部長(43)で、当時の院長(45)も業務の一部を分担した。被験者72人の中に当時の職員6人の名前があり、うち4人に直接取材して身長を確かめると、いずれも治験のカルテや症例報告書に記載された身長が実際より約4~10センチ低かった。千本病院も取材に対し、これらの事実を認めた。
[1]』
臨床でまたこんな不正疑惑が浮上した。なんとかしないといけない。被疑者はどうせ過失だったと弁明するんでしょ?
参考
[1]asahi.com 記事 写し 2013.6.30
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なお、被疑者の院長(当時)は2010年に速度超過で部下を身代わり出頭させ、道交法違反・犯人隠避教唆罪で書類送検されたH.T.という見解がある。2010年7月当時の千本病院の内科医はH.Y.とY.T.。どちらかが被疑者である内科部長の可能性がある。H.Y.は別の治験の責任者としてH.T.と共に名を連ねたことがある。
(2013.7.2 追記)
研究者が論文の重複発表を行う最大の理由は業績を水増ししたいからだろう。重複発表の論文をすべて業績リストに記載し見かけ上の業績数を高く見せかけて過大な評価を受けようとする。それは不適切だ。
具体的な例として井上明久東北大前総長の二重投稿があげられる。井上は現在まで二重投稿を理由に8編もの論文が撤回されている[1]。さらにJST の第三者委員会の報告書によれば60編以上もの論文で重複があるという[2]。これらの論文は追跡評価用資料に載っていた論文リストに記載されていたもの で、全748編中60編以上が重複していたという[2]。
[2]では「(追跡評価用)資料中の業績論文リストに多数の重複があることは不適切と言わざるを得ない。[2]」と述べられている。私もそう思うが、皆さんはどう思うだろうか。さらに井上はこれまで論文を2000編以上発表したという。そんなに発表できるはずがないから、少なからずギフトオーサーシップで発表論文数を水増ししたのだろう。
JSTの第三者委員会が述べたのは論文の重複発表が不適切といっているだけでなく、評価用の業績リストに重複発表論文を記載することが水増しにあた り不適切だと述べていると思う。読者の中には論文数はインパクトファクターなどその他の要素をあわせて評価すれば誤信に基づく評価は起こらないので問題な いと考える人がいるだろう。しかし、水増しは正当な業績申告といえないのだから評価を誤信させる危険を避けるため止めるべきである。また、数に基づく評価 は避けられないのだろうし、水増しで発表論文数の把握を困難にすると評価を誤信させる危険がある。
井上の場合はこの評価だけでなく、人事など色々な側面で水増しによる過大評価を受けてきたのだろう。一部の研究機関は競争で有利になるため、そうした水増しによる業績評価を適切だと考えているが、出資者である国民の目線から見てどうか。
例えばある研究者は発表論文数が90編でとても多い。優秀な研究者だからこの研究者が申告した研究テーマに対して巨額の研究費を出した。しかし、実 態を調べてみると一つの論文を他の出版機関から81編出版し、実数は1編だった。実態的な全論文数は90編ではなく10編だった。それが判明したとき出資 者である国民はどう思うだろうか。本来ならもっと優秀な研究者に研究費を出していたかもしれない。私なら騙されたという印象を持つ。
研究者や研究機関は自分達にとって有利になるために、こういう水増しを「発表した論文数としては間違いないから水増しでない。」「プロシーディングスとジャーナルの論文は別物だから重複していても水増しでない。」とか都合のいい弁明をする。
しかし、こういう研究者や研究機関にとってだけ有利な業績評価法は出資者である国民にとって幸福だろうか。研究者や研究機関にとっては予算などを多くもらえていいかもしれないが、国民からみると不当な評価に基づいて無用な出資をさせられ損失だと思う。重要なのは評価者や出資者である国民が業績を誤信して評価するおそれがあり、その点が不正だということだ。
こういう業績評価における水増しは上の井上の事例だけでなく、研究機関の人事や大学・独立行政法人評価([3])でも横行しているだろう。特に問題 なのは大学・独立行政法人評価のケースだ。研究者の人事なら重複発表による水増しといっても数件の程度だろうし、無論これ自体不適切ではあっても大規模に 水増し申告されるわけではない。しかし、大学・独立行政法人評価のケースは研究機関全体での申告になるから、水増し申告を許すと大規模になってしまう。見 かけ上の発表論文数は1000編だったが、実数は700編だったということも実際に起こり得る。しかも、評価では業績リストと実物を照合して実数をチェッ クすることは対象の膨大さ故にまず行われないから、水増しによる誤評価の危険や損害はかなり大きい。しかも、こういう業績評価は毎年やっているので、こう いう危険や損失が毎年繰り返されることになる。私なら、そういうのは絶対にやめてほしいと感じる。
テクニカルレポート、プロシーデイングス、ジャーナルの論文など様々な形で重複発表して、すべて業績リストに記載して水増し評価する。
こういう研究者や研究機関にとってだけ都合がいい業績評価方法は必ず改善すべきである。とはいえ、これはあくまで私見。皆さんは上のような評価方法をどう思いますか?
参考
[1]齋藤文良、大村泉、高橋禮二郎:"井上明久東北大総長の日本学士院賞受賞論文に見られるデータ改ざん疑惑(研究不正)" 2012.3.6
[2]井上過冷金属プロジェクト研究成果確認調査チーム:"井上過冷金属プロジェクト研究成果確認調査報告書" 2012.1.18
[3]毎年研究機関の業績申告書に基づき所管官庁の評価委員会が業績評価を行う。これにより研究機関に対する予算や人材の配分が決まる。
(本来の発表日 2012-06-25 23:20:00)
現在の研究不正調査制度には様々な問題点があり、公正な調査ができないことが珍しくない。どのような問題があるか論じる。
(1)規定を守らない、規定の実効性がない
研究不正の調査や告発の受付については各研究機関の内部規定や文科省のガイドラインが存在する。論文の投稿にも投稿規定が存在する。守るのは当然だが、都合が悪ければ規定を無視することが珍しくない。研究機関にとって内部規定や文科省のガイドラインは紙切れに過ぎず、実効性がないことが明らかとなっている。
具体例
東北大I前総長の事件は内部規定上告発を受け付けて調査委員会を作る義務があったが、無視して不公正な取り扱いをした。
他、「被告発者が生データや実験・観察ノート、実験試料・試薬の不存在など、本来存在するべき基本的な要素の不足により、不正行為であるとの疑いを覆すに足る証拠を示せないとき(上記(2))も同様とする。=(不正行為とみなされる。)」と文科省のガイドラインで定められていても、生データが存在しなかった東北大I前総長やF東邦大元准教授の捏造は認定されなかった。
京都府立医大Mらのバルサルタン事件でも「証拠の証明力は、調査委員会の判断に委ねられるが、被告発者の研究体制、データチェックのなされ方など様々な点から故意性を判断することが重要である。」 (即ち、データの誤りが多いというような、少なくとも杜撰なデータチェックで論文を発表したと推測できる場合は故意を認定すべきということ)と文科省のガ イドラインに定められていても最初の調査では捏造や改ざんは認定されなかった。それどころか予備調査で不正が否定された。
文科省のガイドラインには他にも「被告発者が自己の説明によって、不正行為であるとの疑いを覆すことができないときは、不正行為と認定される。」と定められているが、大分大医学系M元講師の事例以外適用されたのを見たことがない。
大阪大学命機能研究科A.S.元教授は調査の過程で、告発対象とは『別の二論文でもねつ造が、判 明したが、それを大学としては公表していない。報告は文科省になされただけだ。研究に関する不正行為が確認された場合、阪大の規程では「合理的な理由のた め不開示とする必要があると認めた場合を除き、原則として公表する」と記されているが、阪大の研究公正委員会は、A.S.本人が既に懲戒解雇になってお り、十分に社会的制裁を受けているなどの理由から、原則公表の「例外」に該当すると判断した。[1]』 無論、十分社会的制裁を受けたことは不開示とする 合理的理由ではない。規定違反又は規定自体が骨抜きの構造になっていると考えられる。
内部規定や文科省のガイドラインは研究機関にとって紙切れに過ぎないといってよい。
(2)公的研究費を返還しない。
不正なことに公的研究費を使ったら、少なくとも不正に使った分はきちんと返還するのは道理である。しかし、不正をしても全く公的研究費を返還しない研究機関が存在し、管理責任のある日本学術振興会(以下、学振)さえそれを追認している驚くべき実態が存在する。
具体例
独協医大H元教授は大規模なデータ改ざんを行ったが、独協医大は科研費を返還しないと発表し、学振はそれを追認した。H元教授に下されたのは5年間の競争的資金の応募制限のみ。学振は研究機関の調査報告を審査するとはいえ、専門性がないためかやる気ないためか、単に研究機関の調査を盲目的に追認するだけで、独自の審査機能が全く機能していない。
※ 念のために説明すると、返還される場合は上のリンク先できちんと返還処分が明記される。それがないということは公的研究費を一銭も返還していないということ。
(3)調査側が中立的な立場でないため又はやる気がないため又は不利益回避のため調査や判断が恣意的
現在は被告発者の所属機関が調査する制度だが、不正は所属機関の名誉低下、研究費の返還、訴訟リスク、仲間意識の庇いあいなど、所属機関にとって 様々な不利益が存在する。そのため、事実を歪め不正な調査や判断を行うことが珍しくない。被告発者がポスドクでも学長でもこのような不条理な問題が発生し ている。中立的な調査機関でさえ判断が恣意的な場合がある。
具体例
(3-1)東北大I前総長の捏造事件その1 - 匿名告発(2007年) 、顕名告発(2007年か2008年)
大学は匿名告発を調査したが、はじめから結論ありきの調査で一切不正を認めなかった。現在では告発対象となったセンチメーター級直径のバルク金属ガラスの捏造は濃厚と見られている。
その後告発の一部でI前総長らの論文で質量保存の法則を破っている材料の質量データが掲載され、捏造が指摘された。これは日本金属学会、及び東北大学に告発された。共著者のC北京航空航天大院長は『当時の実験ノートや作成した金属ガラスは2003年に帰国する際「韓国の運送会社に依頼して送ったが、中国・天津の港でコンテナごと海に落ちた」』と説明した。即ち、生データや試料の不存在が確認されており、文科省のガイドライン上は不正と認定すべきだが、日本金属学会は過失による訂正で処理し、東北大もこれを追認した。
(3-2)東北大I前総長の捏造事件その2 - 二重投稿、改ざん事件 有馬委員会調査 (2012年)
I前総長が二重投稿をし、東北大の調査委員会(委員長 有馬朗人元文部大臣)が調査。二重投稿は認めたが、改ざんについてはわざと判断を避けた。調査委員会は大部分第三者で構成されたが、十分に公正な調査とはいえなかった。
(3-3)東北大I前総長の捏造事件その3 - 二重投稿、改ざん事件 JST第三者委員会調査 (2012年)
I前総長の二重投稿発覚により公的研究費を出した研究成果に影響がないかJSTの第三者委員会(御園生誠委員長)が調査。これは完全な第三者委員会だったが、二重投稿のみを判断し捏造や改ざんの判断はわざと避けた。「研究成果に影響なし。」と結論したものの、後の告発者らの調査で調査結果に影響を与える重大な不正が発覚[1]。JST第三者委員会の調査が不十分であったことが判明した。
(3-4)琉球大医学系M教授らの捏造事件 (2010年)
琉球大医学系M教授らが大規模捏造をした。不正論文の中にI学長との共著論文があり、当初琉球大の調査委員会は「不正ではない」と結論していた。しかし、第三者調査委員会が後の調査で不正論文と結論。要するに大学の調査委員会はI学長を助けるために、クロをシロと判断していた。自浄作用がはたらなかった様を琉球新報は批判した。
(3-5)東邦大F元准教授の世界記録捏造事件 (2012年)
東邦大F元准教授は在職中に捏造事件で告発された。生データの不存在が確認されたが、捏造を認定せず研究倫理規範違反で処分した。後に日本麻酔科学会が調査し少なくとも172編の論文で捏造が確認された。東邦大の調査対象の論文も捏造だったと考えられる。即ち、東邦大は不正判断をした。
(3-6)慶應義塾大学K特任准教授 経歴詐称事件 (2012年)
慶応義塾大K特任准教授が経歴詐称を行った。博士号を持っていないのに、博士課程修了と記載。その他事実でないのに「オックスフォード大上席研究員」、「ハーバード大客員教授」と記載。 複数の項目を都合よくこのように間違えることは常識的にはあり得ず、まず間違いなく故意の詐称だが、同大は誤訳による過失で処理。厳重注意で終わらせ、不正をうやむやにした。不正判断といえる。他の教員にも詐称疑惑が浮上したが現在のところどうなっているのか不明。
(3-7)京都府立医大M元教授らのバルサルタン論文捏造・改ざん事件 (2013)
バルサルタンの有効性を調べる論文で、分析に多数の重大な誤りがあり撤回。多数の誤りがあったにも関わらず、Mらの過失という主張を受け入れ、京都府立医大は「不正なし」と結論。不正をごまかすため、クロをシロと判断したと考えられる。
(ここから先はジャーナルの不適切さ。正式な調査ではない。)
(3-8) 名古屋市立大学医学系O元教授、H元准教授の改ざん事件 (2012)
名古屋市立大学医学系O元教授、H元准教授が複数の論文で大規模にデータ流用。調査結果が発表される前にOやHらは「学会発表の練習用の資料に画像を張り付け、データを仮作成した。それを修正し忘れて投稿してしまった」と説明。ジャーナル編集委員会では過失を受け入れ、訂正で処理した。後に名市大の調査委員会が改ざんと公式に判断した。もともとデータの使いまわしは複数あり、回転などの偽装工作が含まれていたので、ジャーナルも常識的に改ざんとわかったはずだが、わざと過失で処理し訂正で済ませた。
(3-9) 東大分生研K元教授らの捏造事件 (2012)
東大分生研K元教授らが発表したネイチャーの論文に大量のデータ流用が発覚したが、当初ただの過失による訂正で済まされた。後に東大に告発され、不正と判明。最終的に撤回になった。超一流誌のネイチャーでさえ、被疑者の過失という弁明を盲目的に信用し、過失で処理した。
(3-10) 独協医大二重投稿事件 (2012)
独協医大H元教授による改ざん事件の他に3件の二重投稿が発覚したが同大は不正としなかった。理由は『定義上の不正行為(捏造、改ざん、盗用)に当てはまらない。しかも、研究者によれば、いずれも後に投稿した一方の学術誌を研究会の抄録であると誤認していたため投稿したものであり、故意によるものではなかった。』というもの。
しかし、各研究機関や文科省のガイドラインが不正を捏造、改ざん、盗用としている趣旨は不正の調査や処罰をそれらに限るという趣旨ではなく、二重投稿等学界で不正と認められているその他の行為を許容する趣旨ではない。これは東北大有馬委員会報告書でも端的に述べられている。こんなことはモラルのある機関ならどこでもわかる。独協医大は不正としないために、規定を恣意的に判断しただけ。
さらに客観的にはジャーナルの論文に投稿したのに、研究会の抄録だと誤認していたという言い訳は、それだけでも信じ難いが、客観的にはジャーナルに 投稿したのだから、レフリーとの議論、アクセプトの通知、著作権譲渡契約、掲載料金の支払いなど多数ジャーナルの論文とわかる行為をしていたはずである。 にも関わらず、ジャーナルの論文と研究会の抄録を誤認していたというのは、不合理。不正としないために、同大がクロをシロと判断した可能性が非常に高い。
(3-11) 上記事件の私的考察
私の知る比較的最近の事件でさえ、これほど不正判断、組織的隠蔽と疑われる事件が発生している。不正判断や隠蔽事件は、被疑者が学長等の高い地位のものだけでなく、ただの准教授等でも起こっている。
さらに調査側が被疑者の所属機関の場合だけでなく、学会や資金配分 機関の第三者委員会といった組織上中立的な立場の機関の場合さえ、捏造や改ざんの判断をわざと避けたり、普通に判断すればクロなのに、被疑者の過失という 弁明を嘘とわかっていながら信用して、過失・訂正で処理する事例が発生している。
つまり、改善策を作る場合、単にORI(米国研究公正局)のような第三者調査機関を作るだけでは不十分ということを意味する。おそらくは調査側や研究者の体面を保ったり、訴訟リスクを回避するために、わざとクロをシロと判断しているのだろう。
被疑者は決まって過失と主張し、自白以外に直接証拠がないため調査側はクロをシロと判断するための恰好の手段として、嘘と知っていながら隠蔽のためにわざと過失と恣意的に判断しているが、こうしたことをできないようにする制度が必要。そもそもこういう恣意的な判断をさせないために文科省のガイドラインで
「証拠の証明力は、調査委員会の判断に委ねられるが、被告発者の研究体制、データチェックのなされ方など様々な点から故意性を判断することが重要である。」
「被告発者が自己の説明によって、不正行為であるとの疑いを覆すことができないときは、不正行為と認定される。」
等と定められていると考えられるが、(1)で述べたとおり、実効性のない規定のため、研究機関は都合が悪ければ平気で無視している。不正の判断方法は、調査側が裁判官のように強固に中立性や職権の独立性が保障され、不正判断の専門的能力が高ければ、複雑な事情に対処するため、原則自由心証主義でよいと思うが、不正調査の専門家はいないとう現状やJSTの第三者調査委員会でさえ、不十分な調査しかできなかったことやこれまで故意をわざと過失と判断したような恣意的な判断が数多くあったことを考えると、上の文科省のカイドラインの規定や「誤りが多く少なくとも重過失と考えられる場合は故意と認定する」ような規定を設けて判断を行う法定証拠主義をある程度採用し恣意的な判断を排除する手続きを実現する必要があるだろう。無論、その手続きは実効的なものでなくてはならない。
単に第三者調査機関を作るだけでなく、きちんと公正かつ客観的かつ徹底的に調査し、不正の判断に消極的にならない実効的な制度が絶対に必要。
(4) 共著者の不正を認定せず、処分しない。
完全な責任逃れが無理な場合は、ボスなど誰か一人の不正責任とし、その者を処分して残りの者は逃げのびるという手段がとられることがある。本来は不正行為をしたのだから、その者の不正を認定し、相当の処分をすべきだが、それをせず責任をうやむやにする。
具体例
(4-1)独協医大H元教授の改ざん事件 (2012年)
独協医大H元教授の事件は大規模改ざん事件でありながら、改ざんの実行者はH元教授だけという調査結果となった。大規模改ざん事件だったのに、処分はH元教授が諭旨退職、当時の学長と対象講座の主任教授は管理責任により、給与の一部を自主返納もしくは減給処分にしただけだった。
不正論文の筆頭著者はH元教授以外に6名いたが、「H元教授の指導を仰ぐ立場にあったので、論文について口を挟めるような状況ではなかった。」とし不正を認定しなかった。他の共著者も「17 名の共著者は、論文の基本的な内容についてはH元教授に任せていたので、特段、改ざん等に該当するという認識もなかった。本件のケースは、いずれも真正な 結果に類似する見栄えの良いデータを代用又は流用したものであることから、論文の結果から特に疑念を抱くことはなかった。」とし不正を認めなかった。
いずれも不可解な理由だが、特に筆頭著者は自分が最も主体となって研究を遂行し、論文に最も貢献した人物なのに、指導教授とはいえ「論文に口を挟めなかった」から不正ではないという言い分は全く通用しないだろう。
例えば、暴力団の組織的犯罪で、部下のやくざが親分は絶対で逆らえなかったから犯罪は仕方なかったとか、時津風部屋の力士暴行事件で、弟子の力士たちが親方は絶対で逆らえなったから犯罪は仕方なかったといっても社会的に一切通用しない。それと同じだ。
要するに、独協医大の事例は完全な責任逃れが無理なので、H元教授だけを処分することで幕引きを図り、残りの責任から逃げた典型例だろう。こういうことを続けたら、研究者や研究機関の反省がなく、不正が繰り返されるので、絶対に改善しなければならない。
(4-2)東邦大F元准教授の世界記録捏造 (2012年)
F元准教授は論文172編で捏造したと認定されたが、驚いたことに共著者で捏造と知っていたものは誰もいなかったという。極めて大規模かつ20年以上の長期にわたって行われた捏造なのに、いくらなんでも共著者が一人も捏造に気がついていなかったというのは不可解。東京医科歯科大時代から筑波大時代まで長期に亘って直接的指導の立場にあった上司の帝 京大学医学部T教授は「2000年の時点でAnesthesia & Analgesiaに掲載されたDr. Krankeの捏造疑惑を無視した」のだから、捏造疑惑を知らなかったとはいえないし、未必の故意のように「捏造があるかもしれないが構わず放置しよう」 と思っていたと言われても仕方ないだろう。
(5)処分が不当に軽い
捏造や改ざんをした場合、懲戒解雇などの重い処分が一般的だが処分が不当に軽いケースが存在する。無論、重い不利益を受けたくないので不当処分をしているのだろう。
具体例
(5-1) 大阪大学S教授らの捏造事件 (2005年)
阪大のS教授が責任著者を務める論文で捏造が発覚。処分は阪大生命機能研究科が共著者のT教授や捏造の実行者とされた筆頭著者の医学部6年の男子学生(当時)を含めて厳しい処分案を評議会に諮ったにも関わらず、評議会が答申案よりはるかに甘い処分を出し、内外から強い批判が起きた。S教授は停職14日、T教授は停職1ヶ月、男子学生(当時)は厳重注意を受け倫理面の特別教育を受けただけだった。
[1]p22によると『処分が軽すぎるとの批判が外部から起き、「身内への甘さ」が指摘された。一次案より軽くなり、部局の意向が軽視されたことに は、内部にも強い批判がある。ある関係者は「大阪大学の隠蔽体質を一掃しないといけない」とし、これを「大阪大学の『まぁ、ええやないか』という「なあな あ体質」によるものだと思う。商人の町大阪の悪い方の商人根性が阪大人の心の奥底に住みついてしまったのだろうか」と述べている。』と記載されている。
(5-2) 東邦大F元准教授の世界記録捏造 (2012年)
論文172編で捏造をしたと認定されたF元准教授は倫理規範違反による諭旨解雇処分で済んでおり、懲戒解雇ではない。日本麻酔科学会も規定上脱会をとめられないとして、除名できず、永久追放処分とした。極めて大規模に捏造し、同学会から医師や研究者の資格はないと断じられたにも関わらず、医師免許を取り消されず医師の勤務を続けている。博士論文も捏造だったと思われるが、博士号を取り消したという報告も見つけられない。どう考えても制裁が軽すぎるだろう。なぜこのような人物が医師を続けているのだろうか。
弁護士や税理士など他の専門職なら不正を行えば業務停止などの懲戒処分があるが、なぜ医師の世界は研究不正で医師資格に対する処分を行わないのか。医師資格も剥奪すべきだという点は以前も主張した。最近薬害オンブズパースン会議が「悪質な不正を行った医師は厚生労働省医道審議会に諮り、医師免許取り消しなどの行政処分を行うべきだ」と要望書を文科相や日本医学会などに提出したのはこうした問題点を感じたからだろう。
(5-3) 琉球大学医学系M教授の捏造事件 (2010年)
M教授は論文約40編で捏造した。当初は懲戒解雇だったが、裁判で和解が成立し停職10ヶ月になった。Mは(5-1)の捏造事件で阪大S教授が責任著だったのに停職14日で済んだのに比して懲戒解雇は重すぎるとして争い、それを理由の一つとして停職10ヶ月に変更になった。
そもそも(5-1)の事件自体が不当に甘い処分であり、それと比較することが誤り。これは過去の不当に甘い処分例が後の不当処分を誘発する例であり、懲戒処分にきちんと統一的なルールを作ることが必要。無論、そのルールはきちんと実効的なものでなければならない。
(6)不正の調査をさせないため、告発者を悪意と見なしたり、弾圧を加える、訴訟提起等して圧殺
被疑者や所属研究機関にとっては告発をされると困るため、告発を圧殺するために様々な圧力が加えられる。
具体例
(6-1)東北大I前総長事件 その1 - 匿名告発 (2007年)
東北大I前総長の捏造を告発する匿名投書が大学や官庁、マスメディアに広く配られた。告発は複数回あった様子。大学はこうした行為を悪意をとらえ、調査報告書中で告発をされないような警告的な記載をし圧力を加えた。しかし、告発された論文の捏造は濃厚で、データの使いまわしなど明らかに疑義があるものさえ本調査せず斥けた様や東北大の内部規定に従っていない様などを考えると、単に告発を圧殺するためにわざと悪意とみなしたと考えられる。
(6-2) 東北大I前総長事件 その2 - 顕名告発 (2007年か2008年)
東北大経済学部の教授らがI前総長の不正を顕名告発した場合は、I前総長事件の東北大執行部の取り扱いを「批判した人に対して、名誉教授の称号の授 与を留保する、退職金の返還を求める、処分をちらつかせた査問に呼び出す、そして名誉毀損裁判を引き起こす、などの行政圧力を加え[2]」るなど様々な行政圧力を加え、圧殺を図った。
(6-3) ソウル大学女性教授捏造事件 (2012年)
ソウル大の女性教授は大規模捏造をした。女性教授は疑惑発覚直後も調査公表時も捏造を否定し、「ソウル大獣医学部の黄禹錫支持者たちに仕組まれた」と主張して、匿名告発者を名誉毀損で提訴し、圧殺を図った。しかし、調査で正式に捏造が認定された。
(6-4) 上記事件の私的考察
どの事件も告発に合理的理由があったにも関わらず、様々な圧力が加えられ圧殺が図られている。仮に本当に無実だったなら、被告発者は嫌なものだろうし、裁判を受ける権利は憲法で保障されているから、提訴には反対しない。
しかし、提訴を含めて上の行為は濫用されている感がある。告発は不正が真実の場合被疑者は処罰されるから、不回避的に不利益処分を目指すものだが、それをとらえて被告発者を貶めるために告発していると判断したら、およそ告発はできなくなる。
ちゃんと不正を疑う合理的な根拠があって告発されている場合は、悪意とみなしたり、行政圧力を加えるなど圧殺を図ったり、一切の不利益を与えてはならない。そ もそも不正があれば、それはきちんと調査して、事実なら被疑者を処罰し、論文の訂正や撤回をしなければならない。学問の公正さのため、疑いがあれば調査す べきだし、事実なら被疑者は悪いことを責任をとるのは当たり前。論文を訂正、撤回するのも当たり前。放置していたら、読者や研究成果を受ける人が被害を受 けてしまう。
そもそも告発と被疑者が悪いことをしたことに対する調査や責任追及は全くの別件。告発を理由に圧殺して、被疑者に調査や責任を逃れさせることがあってはならない。
各研究機関の内部規定や文科省のガイドラインでは不正を疑う合理的根拠があれば、きちんと調査する規定になっていると思うが、これも(1)で述べたように規定に実効性がないため、恣意的に扱っているのが実情だ。
裁判にしろ、憲法で保障されていることだから、反対はしないが、そもそも研究不正の調査判断は裁判官が学術の素人であるため、裁判になじむものでな く、本来的には裁判で争うのではなく学術機関が調査判断して解決すべきものである。提訴して疑惑を晴らしたいと思っているなら、尚更きちんとした第三者調 査機関に公正に調査してもらうべきだろう。
(7)虚偽のデータだとわかっても撤回や訂正をしない
研究機関の調査委員会やジャーナルの編集委員会の調査で故意、過失問わず論文の誤りが発覚した場合は、普通の研究者ならきちんと訂正や撤回を行う。これは最低限の責任で、当たり前のこと。訂正等の強い義務があることは日本分子生物学会の要望書でも確認できる。
しかし、研究機関の調査委員会やジャーナルの編集委員会からデータの虚偽性を指摘されても、訂正や撤回をしない驚くべき研究者が存在する。無論、極めて異常かつ無責任かつ背信的な人物。
具体例
(7-1)独協医大H元教授の改ざん事件 (2012)
独協医大H元教授は大規模な改ざん論文を発表した。しかし、Hや同大による自主的な訂正や撤回は一切行われなかった。論文の撤回等は告発者がジャーナルに指摘し、ジャーナルの編集権限に基づいて行われた。ジャーナルは不正疑惑についてH元教授に連絡したが、H元教授は一切返答しなかったという。
H元教授と同大の対応は極めて無責任かつ背信的。H元教授はすでに諭旨退職となっており、今更撤回等をしてもHや同大には何の得もないから、責任から逃げてしまったということ。こういう研究者や大学はもっと重く処分すべきである。
(7-2)私的考察
虚偽データの訂正等をしないのは虚偽とわかっていてデータを発表し続けるという点で捏造や改ざんと同じで、このような行為は学術に対する背信である。虚偽データの放置で他の読者や研究成果を受ける者が被害を被ることもある。私はこういう行為をする研究者や研究機関を重く処分すべきだと思う。
ジャーナルも著者がこのような背信的な態度なら、独自に訂正、それができないなら権限で撤回しなければならない。著 者が学会の所属会員なら除名や投稿禁止、非違行為の公開など何か処分をすべきである。どんな論文発行機関も正しい研究成果を伝え、読者や研究成果を受ける 人が損害を被らないように努める義務がある。お金をとっているなら尚更だ。これは論文発行機関として最低限の義務である。それができなければならない。
(8)匿名でも告発者をもっと信用した方がよい
東北大I前総長の事件がそうだが、匿名の告発者を悪意とみなしそれ以上告発されないように圧殺をはかった。告発者が匿名だから告発内容が信用できない、不正でない等科学的因果関係のことで不正でないという判断をするところがあるが、それま全くの間違いである。
トルコ人東大元助教の経歴詐称、博士論文盗用事件や京都府立医大M元教授のデータ流用事件、K元東大分子細胞生物学研究所教授のデータ流用事件、名 古屋市立大のO元教授とH元准教授不正事件、独協医大H元教授の不正事件はすべてネット上の匿名の議論で不正が濃厚となり告発(顕名)され、解決された。
立場や実名と結論の間には科学的因果関係はない。匿名でも立場がわからなくても疑義の内容を科学的に判断すれば誰が見ても不正は不正とわかる。科学とは普遍的なもので、正当な判断とはそういう性質のものだ。
告発内容を科学的に考察することもなく、匿名だから信用できないとか専門家でないから信用できないと主張する者は単に不正とすると都合が悪いから立場や匿名性を利用して不正の扱いを避けているだけであろう。
告発者の立場や匿名性に拘ることなく、告発内容を科学的、積極的、公正に判断することが絶対に必要である。
以上。
参考
[1]詳しくは「研究不正と国立大学法人化の影-東北大学再生への提言と前総長の罪」(日野秀逸、他、社会評論社) を参照。
[2]高橋禮二郎(東北大学元教授)の発表 2013.2.16
(2013-03-26 22:00:00 執筆)
動画1 「次の手がはずれていたら矢内さんを諦めます」 - 第64期名人戦
画像2 「次の手がはずれていたら矢内さんを諦めます」 の真相 (2013.5.22 画像登録)
矢内がいうにはお互い好意はないらしい。
動画1が「次の手がはずれていたら矢内さんを諦めます」の録画、動画2が2013年5月頃に矢内が語った記録。矢内によるとお互い好意はないらしい。そんなのわかってたけど今更だな。
矢内は33歳。独身は続く。なんかさー、矢内は吉原由香里と同じで著名人と結婚する気がするのは私だけか?
フライデーがバルサルタン事件で三谷宏幸ノバルティスファーマ社前社長を報じた[1]。内容はまだ読んでいないが、たぶんあこぎに稼ぐため悪いことに手を染めたという感じの記事になっているのでは?研究不正事件でここまで週刊誌が報道するのは珍しい。私ははじめてみた。週刊誌はほとんど研究不正事件を扱わない。たぶん読者の関心がないのが理由。今回の事件は研究不正だけでなく大学と企業の癒着も問題で、それが読者の関心をひくだろうとフライデーは考えているのだろう。
前もいったようにフライデーの報道の真偽はわからないが、一般にあまり報道されない研究不正事件がこれだけ報道される様は不正改善の点でよいことだと思う。多くの人がこの問題に関心を持ち、改善のための世論形成をすることはとても重要だ。京都府立医大のお手盛り予備調査など、不正をうやむやにしようとする現状の学術界の悪さを改善するにはマスメディアの徹底した追及は好ましいことだと思う。
参考
[1]フライデー 2013.7.5号 クスリの闇/<疑惑の降圧剤>売りまくった製薬会社前社長を直撃! ◆ ノバルティスファーマ・三谷宏幸前CEO、京都府立医大 目次。 2013.6.21 発売
株式会社マイナビ様への謝罪
平成25年6月19日
公益社団法人 日本女子プロ将棋協会(LPSA)
代表理事 石橋 幸緒
業務執行理事 庄田 育夫
過日「第6期マイナビ女子オープン」の契約解除から一連の騒動に伴い、
株式会社マイナビ様に対して多大なるご迷惑をおかけしましたことを、ここに謝罪申し上げます。
弊協会としましては、新人女流棋士の認定ならびに出場を何よりも第一義に考え、
本来はスポンサー様というお立場で、プロ認定とは関係ない株式会社マイナビ様に対しても、
弊協会新人女流棋士をプロとして認めるように理解を求めました。
結果として、株式会社マイナビ様が認めないのは、公益社団法人日本将棋連盟
ならびに弊協会との三者間で締結していた「第6期マイナビ女子オープン」の契約に
違反するものと判断し、第6期マイナビ女子オープンの契約解除ならびに対局放棄に至りました。
しかし、この判断と行動については、拙速かつ一方的であった、現段階において
結果として間違っていたものと考えるに至り、今ここに「契約違反があった」
という弊協会としての主張は取り下げさせていただきます。
これに起因した一連の記者会見や、1月30日の準決勝対局の放棄、
適切ではなかった書面の送付かつ公開など、長年将棋界を支援して下さってきた
株式会社マイナビ様への礼を失した対応により、
多大なご迷惑と不快の念を与えましたことを、謹んでお詫び申し上げます。
弊協会は今後このようなことのないよう、今回の事象を行き過ぎた行為として省み、
女流棋界ならびに将棋文化の発展にむけて、改めて心から真摯に啓もう活動に精進し、
株式会社マイナビ様をはじめ、ご関係の皆様からご理解とご信託をいただけるように、努めてまいります。
--
1月末の対局放棄に対しLPSAが非を認めようやくマイナビに謝罪した。遅すぎる。マイナビの契約違反故の解除及び対局放棄を間違っていたと認めたが、弁護士の錦織淳がついていながらなぜこんなことになったのか不思議だ。契約解除の法的考察は前に紹介したが、LPSAはどういう理由で間違っていたと判断したのだろうか。以前に連盟とLPSAへの提案も紹介した。できればこれを参考にして一日もはやく和解して共に将棋界の発展を目指してほしい。
14日発売のフライデーがバルサルタン事件の続報を報じた[1]。内容は概ね次のとおり。
(1)患者や家族に迷惑をかけたとしてノバルティスファーマ社の役員が月額報酬を2ヶ月カットすると発表したが、罪と罰が釣り合っていない。ディオバン(バルサルタン)はこれまで1兆2000億円超売れ、それらの大部分は国民の保険料から出ていること。薬効に疑問符がついた今ノ社はどうやったら社会的責任をとれるのか?一番問題の論文捏造の調査も進展がない。
(2)ノ社、学者、医療専門誌の三位一体でディオバンをブロックバスターに成長させたこと。
※説明 ノ社が大学の学者を厚遇、学者が臨床研究でノ社に有利な成果を発表、それを医療専門誌で宣伝し販促。ディオバンは年間1000億円超売り上げるブロックバスターに成長。
(3)データが捏造・改ざんされた可能性があること。バルサルタンの臨床研究では脳卒中のリスクを下げるなどの薬効が示されたが科学的根拠がなくノ社か大学もしくは双方がデータを作った可能性がある。
(4)バルサルタンの臨床研究(Kyoto Heart Study,VARTなど)ではノ社のS元社員が統計解析者として関与していたこと。
(5)ノ社はアカデミズムを手玉にとり、「日本初の大規模臨床試験になる。話題になりますよ。」と名誉欲をあおって基礎研究の研究者を引っ張り出した。小室一成東大医学系教授もそれ故に引っ張り出された。
(6)ディオバンは年間1000億円超売り上げたが、その成功にはS元社員の上司であるF元ノ社女性社員(以下、F女史)が大きく貢献していた。彼女なくしてディオバンの成功はなかった。
(7)F女史は東京理科大学薬学部卒業、サンド薬品に入社し、合併でノ社に。ノ社初の女性プロダクトマネージャー(※)。論文捏造の可能性のあるS元社員の上司でディオバンマーケティング部長という肩書き。辣腕でディオバンの市販準備からマーケティングまでの責任者でディオバンの年間1000億円の売り上げ達成まで担当。現在はNPO法人の代表を務める。
※ フライデーではノ社初の女性プロダクトマネージャーと記載されてるが、このサイトによるとノ社での出来事ではなくサンド薬品時代の出来事で業界初の女性プロダクトマネージャー[5]。フライデーの記事はこのサイトの記述を参考した可能性があるが、わずかに違っている。
(8)年間100億円売り上げればブロックバスターとよばれるが、F女史はその10倍売った。ノ社のカラーである赤のスーツで大学病院をよく訪れ、いろいろな大学にパイプを持っていた。日本高血圧学会の幹部にも食い込んでいた。医薬業界では最も有名な女性。一方、S元社員はあまり押しは強くなく上からの指示を待っている感じだった。
(9)「コピー機ならゼロックス、検索ならgoogle、降圧剤ならディオバン。」と言い、ディオバンが降圧剤の代名詞になるように熱心に活動していた。医療専門誌の宣伝に目をつけた。ノ社の広告を赤に変更したのもF女史。製薬業界の広告はそれまで白、黒が多かった。
(10)ノ社の内部調査で「Sの上司には臨床研究にSが関与していることを認識し、研究を支援していた者がいた」ことが判明している。F女史はメガスタディにも目を配る立場にいた。仮にノ社がデータを捏造したのならF女史が知らなかったはずはない。きちんと説明する責任がある。
(11)フライデーの記者の直撃取材とF女史の回答
フライデー記者「データ捏造が指摘されていますが?」
F女史「当時のこと?知るわけないでしょ。直接関係ない。(S元社員の)直接の上司でもない。(捏造ではなく)データをインプットする時点で間違っていたのだと思う。私にはわからない。」
フライデー記者「組織ぐるみの不正疑惑がありますが?」
F女史「それは本当に勘違い。あなたたちマスメディアの人たちがものすごい色眼鏡で見ている。」
(12)フライデーの取材に対しF女史はノ社からのヒアリングを受けていることを認めた。残りの質問には「何も知らない。」の一点張りだった。
(13)一番の懸念はディオバンは高い降圧効果がないのに爆発的に売れてしまったことで、他の薬を使っていれば防げたかもしれない脳卒中を起こしてしまった人もいないとは限らないこと。
(14)写真はフライデー記者の直撃取材を受けるF女史。顔にモザイクあり。もう一つは堀内正嗣日本高血圧学会理事長、小室一成東大医学系教授らの顔写真の載ったディオバンの宣伝広告の写真。
以上。数週間後にフライデー関連サイトで記事が掲載されるかもしれないので、詳細を知りたい人はそれまで待つかフライデーを購入していただきたい。
私は今回のフライデーの報道が気になる。(7)のようにF女史の経歴を紹介した。まるでF女史の実名等はネットで調べてくれと言っているようだ。なぜなら、これだけの情報をもとにネットで調べると簡単にF女史の実名と顔写真がわかる。例えばグーグルで「東京理科大学卒業 ノバルティス NPO法人」で検索するとこれらが簡単にわかる。フライデーは事実上F女史の実名と顔写真を暴露したといっていい。フライデーの記事からネットの検索で簡単に実名と顔写真がわかることを情報屋のフライデーが知らなかったはずがないし、多くの読者の中でネット検索を誰もやらないとは思っていないに違いない。事実上の暴露だ。
前に言ったとおり実名、顔写真などプライバシーに関するものはすでに公表されているなら扱っても構わないと考えているので書くが、端的にいってF女史は藤井幸子(Sachiko FUJII)[2][3]。[3]によると、
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代表理事
藤井 幸子 Sachiko Fujii
東京理科大学薬学部卒業。
国内洗剤メーカー研究所勤務を経て、サンド薬品(スイス製薬会社)で、情報サービス担当5年ほか、マーケティングを20年経験する。
ノバルティスファーマでダイバーシティ推進室を立ち上げ、企業戦略としてのダイバーシティを導入した。
ノバルティスファーマを退職後、2008年より、GEWELの理事として活動し、2011年4月代表理事就任。
興味のある分野はマーケティング的アプローチのD&Iの推進、リーダーシップなど。
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日経ビジネスの記事による藤井は2006年4月1日以前まで「医薬品事業本部 循環器事業部でマーケティング部長を務めていた[3]」[5]。太字で書いた部分が[1]の記事と合致するので、ここまで合致すればF女史は藤井幸子と断定できる。上で述べたとおり、これらはネットの検索で簡単にわかるので、フライデーの記事は藤井の実名等の事実上の暴露といえる。
フライデーの論調をみると、藤井がバルサルタン事件で大きな役割を果していたように書かれている。
・藤井は統計解析者として臨床研究に関与していたS元社員(白橋伸雄)の上司。白橋が一連の臨床研究の被疑者の一人。
・藤井はかなりの辣腕。白橋は押しは強くなく、上から支持を待っている感じだった。
・藤井は販促に熱心で大学にいろいろパイプを持ち、高血圧学会幹部とも繋がっていた。医療専門誌の宣伝にも目をつけていた。
・ノ社、大学、医療専門誌の三位一体の活動がディオバンの年間1000億円の売り上げに貢献。
・上司が白橋が臨床研究に関与していることを認識し、研究を支援していた。藤井はメガバンクに目を配る立場にいたのだから、仮にノ社がデータ捏造したのなら知らなかったはずがない。
まるで一連の事件の首謀者のような書かれ方だ。赤いスーツに身を包み営業活動に熱心で、ノ社の宣伝広告を赤く変えたが、ディオバンの研究成果等は真っ赤なウソだったかもしれないと皮肉る記事を書かれていた。
私はフライデーの記事が本当かどうかはわからないし、藤井が一連の事件でどう関わっていたのか全くわからないし、ディオバンの販促にどれほど貢献したのかもわからない。ただ、ノ社からのヒアリングを受けていることを藤井が認めたという言及があるので、これが事実なら事件に関与していた可能性はあるだろう。14日のRISFAXの報道で白橋が5つのバルサルタン臨床研究に関与していたことをノ社『は臨床研究を実施した5大学の教授や一部医師が、元社員の所属を「知っていた」と考えている[4]』と報じた。ノ社の調査報告書にその旨の記載があり、ノ社は『元社員が会社のEメールアカウントを用いて、主任教授や医師と連絡を取っていたことを確認しているという[4]』[4]。各臨床研究の研究者たちが白橋のノ社所属を知っていて論文に表記しなかったと示唆するといえる。ノ社と研究者の共謀の疑いはますます強くなった。
二度とこのような事件を起こさないために、バルサルタン事件は徹底的に真相を究明し再発防止策を作らねばらならない。藤井が事件に関与しているならきちんと説明責任を果してほしい。あわせて現在の研究不正調査制度の問題や論文数の水増しなどによる不当な業績評価の問題を改善しなければならない。
参考
[1]"クスリの闇/<疑惑の降圧剤>を1000億円売った「伝説の女部長」
◆ノバルティスファーマ「バルサルタン」、小室一成・東大教授" 記事のタイトルの写し
フライデー 2013.6.28号 (2013.6.14 発売) p86
[2]世界変動展望 著者:"白橋伸雄(Nobuo Shirahashi)・ノバルティスファーマ社社員のバルサルタン不正疑惑への関与について" 世界変動展望 2013.4.30
[3]NPO法人GEWELによる藤井幸子の紹介(顔写真入り)、その写し。日経ビジネス(2007.6.29)の写し。ともに2013.6.14 閲覧。
[4]RISFAX 記事 写し 2013.6.14
藤井 幸子 (ふじい さちこ)
新 ダイバーシティ推進室長
旧 医薬品事業本部 循環器事業部マーケティング部長
原田 寿瑞 (はらだ としみつ)
新 医薬品事業本部 マーケティング本部循環器領域マーケティング部長
旧 医薬品事業本部 循環器事業部マーケティング部 ディオバングループグループマネージャー
とある。2006年4月1日以前まで原田は藤井の部下で藤井の後任が原田。
原田は2011.11.19頃ノ社眼科領域ビジネスフランチャイズ部長(兼)眼科領域営業部長で、
『米国系大手医薬品メーカーにて学術業務を経験後、米国、カナダにてマーケティング研修を経て眼科用剤および循環器用剤の国内プロマネ。その後、米国本社にて米国内市場のための循環器用剤プロマネを担当。その後国内でのプロマネ、営業を経験。 2002年より、ノバルティスファーマ株式会社にて、高脂血症治療薬、高血圧治療薬のマーケティングマネージャーを担当ののち、現職。』(このサイトより、写し、2011.11当時) とある。
また藤井幸子の経歴として
『元 ノバルティスファーマ(株) ディオバン ブランドdirector
サンド薬品時代に業界初の女性プロダクトマネージャーとしてテルネリンを上市、3年で年商100億を達成。カラーブランディングを取り入れた。ノバルティスになってから、営業推進担当として新薬上市における営業部門とのコミュニケーションの課題を認識した。ディオバンのマーケティング責任者として、上市準備から、ブロックバスターとして1000億円の売り上げ達成まで担当した。その後ダイバーシティ推進室を立ち上げ、マーケティング的発想で企業風土改革に取り組んだ。ノバルティスを退職し、NPO GEWEL (ジュエル) で、ダイバーシティ&インクルージョンを広める活動を行っている。』(このサイトより、写し、)
と紹介されている。フライデーの記事と類似する。このサイトを参考にして記事を書いたのかもしれない。
論文捏造&研究不正 のツイート (2013.6.14)
(注) 日付は著者が都合により削除
青野吉晃(日本ベーリンガーインゲルハイム社長、写し)はノ社元営業本部長・執行役員(写し)でディオバンの販売にも重要な責任があった。青野、藤井、原田と当時のディオバンの販促の責任者がわかってきた。今後どうなるのか注目する。
([5]は2013.6.15に追記。)
[6]その他の報道
フライデーのF女史が藤井幸子であることや、青野吉晃のことは上昌広のYahoo Japan ニュースで言及された(写し)。
([6]は2013.9.5に追記。)
ノ社の公表によると『また、当元社員の部下で ある別の元社員も、そのうちの1つの研究に関係していました。[1]』とある。
Kyoto Heart Study,Jikei Heart Study,VART,SMART,Nagoya Heart Studyの5つのうちのどれかに関わったわけだが、これは誰でどんな関与をしていたのか?公正な研究が行われたのかどうか、利益相反の観点で関心のある国民は多いかもしれない。
現在私はこれらの事実を知らない。
参考
[1]ノバルティスファーマ社の公表 2013.5.22
12日に日本分子生物学会が理事会声明等を公表した[1]。加藤茂明元東大分生研教授らのグループの研究不正について昨年11月8日、12月27日の2度東大に対して調査結果の公表を求めたが調査中で公表されなかったことが述べられた。
学会が公式に2度も調査結果の公表を要求しても東大が拒否したことは不適切な事態だ。学会が昨年11月に「加藤元教授の研究(不正)に関する全貌と調査結果の詳細に関する迅速な開示」「迅速に開示できない場合は、中間報告などの形での早急な経過報告」を求めても応じず、再度12月に「研究内容の真偽という科学的な問題については、関係者の処分の問題とは切り離して早期に調査結果の発表を行なうこと」を要求しても応じず、それから約半年経過しても何の調査結果も公表しない東大は学会の要望を無視していると見なされても仕方ない。二度も言われて実行しない。これは明らかな故意だ。
また調査開始は昨年1月でもう約1年半経過している。文科省のガイドライン等に定められている本調査期間は3ヶ月~半年程度だから遅すぎるといわれても仕方ない。加藤事件に限らず松原弘明(元京都府立医大)のデータ流用事件は約1年3ヶ月、青木直人(元三重大)の事件は約2年2ヶ月、服部良之(元独協医大)の事件は約1年、岡嶋研二・原田直明(元名市大)の事件、森直樹(琉球大)の長崎大における事件の調査も1年以上で時間がかかりすぎる。
研究者生命がかかった調査だから慎重にやるため遅くなるのはわかるが、文科省のガイドライン等に照らせば長すぎる調査期間といわざるを得ず、単にちんたら調査しているだけか、調査を長びかせて世間が事件を忘れてくれるのを待っているのか、理由は不明だが不適切な理由で調査を怠惰に行っていると言われても仕方ない。
この点は私だけでなくネットで調べた限り同様の意見の人たちが存在するし、月刊「集中」でも『当事者は「調査中」を建前に何年にもわたって逃げ隠れを続ける。[3]』と言及され、調査の遅さが批判されている。
毎日新聞で「任意調査に限界[4]」と言及されたように現在は「試験に関係していない研究者らが本業の合間を縫って任意調査[4]」を実行しているためこのような事態が生じているのだろう。この意味においても専門的な論文不正調査機関が必要だ。
分子生物学会は[1][2]で現行制度では被疑者の所属機関で不正を調査する制度であり、東大が唯一の調査機関だから迅速に調査結果を公表してほしいと要望しているが、[1][2]で述べたように東大の調査が遅すぎると抗議するなら自分達で調査すればいいと思う。確かに文科省のガイドラインによれば現行で調査義務のある機関は被疑者の現所属機関等である(文科省ガイドライン第2部4.1調査を行う機関)。しかし、この規定は調査義務のある機関を定めるものであって、不正に関する調査を所属機関以外の学協会等が任意に実施することを禁止する趣旨ではない。例えば藤井善隆(元東邦大)の事件も日本麻酔科学会が調査した。分子生物学会が東大の調査を遅すぎると思うなら任意に調査を開始すればよい。
一方、学会は次のことを発表した。
『
1.日本分子生物学会は、生命科学分野を包括する最大規模の学術団体として、健全な科学研究活動を進展させることを基本方針とし、研究論文の不正の問題に対して厳正に対処します。
2.不正の背景にあると考えられる現行の研究成果の評価システムや、それに基づく教員採用の方法について踏み込んだ検討を進め、改革を促します。
3.研究倫理については、日本学術会議「科学者の行動規範」(本年1月改訂)に基づく研究倫理教育が大学機関等で徹底されるよう、本会はその具体策について重点的に議論し、推進のための提言を行います。
4.研究機関における研究者倫理教育や、研究論文不正等の調査が速やかに進むような仕組み、さらには論文不正調査機関の設置について議論し、推進のための提言を行います。
[1]』
学会も不正の背景にある業績評価システムや人事の問題、第三者調査機関について提言するようになった。私だけでなくNatureやJST御園生委員会、毎日新聞などがORIの設置の必要性を提言してきた。私や他の者たちが業績評価の問題も提言した。日本学術会議や省庁、政治家は職責上こうした提言を受け入れて実行すべきであろう。これらの機関は学術の公正さを改善する責任があり、ORIの常設や実効的な規定や制度の実現、業績評価方法の見直しなど現状の調査制度の問題点は明らかだからだ。
政治家や省庁は一刻もはやく研究不正調査制度を改善する政策を実行せよ。
参考
[1]日本分子生物学会:"理事会報告"、"研究不正防止についての日本分子生物学会理事会声明" 写し 2013.6.12
[2]日本分子生物学会:"論文不正問題に関する早急な情報開示の要望書" 2012.11.8
[3]月刊集中:"京都府立医大論文撤回に見るノバルティスの「威光」" 2013.6.3
[4]毎日新聞 記事の写し 2013.5.25
『バルサルタン:臨床試験問題 降圧剤論文、お手盛り予備調査 京都府立医大、元研究仲間が参加 「捏造なし」と結論
毎日新聞 2013年06月02日 東京朝刊
降圧剤「バルサルタン」の臨床試験問題で、京都府立医大が、調査対象の松原弘明・元教授(56)と共同研究をした経験がある教授らに予備調査をさせ、「臨床試験の論文に捏造(ねつぞう)はない」と1月末に結論付けていたことが分かった。大学側は「人選に問題はなかった」とするが、公正性を保つには利害関係がない人間による調査が不可欠だ。一連の問題は、日本の臨床試験の信頼性に関わる事態となっており、大学側の当初の甘い認識が問われそうだ。【八田浩輔、河内敏康】
予備調査は昨年12月に始まった。日本循環器学会誌が同大チームの2論文を「データ解析に極めて多くの問題点がある」などの理由で撤回(取り消し)し、同学会が大学に調査を求めたためだ。
大学は学内3教授に調査を指示。3教授は「単純ミス」と主張する松原元教授らへの聞き取りなどを基に、今年1月末に「捏造とは認められない」と報告した。しかし、学会から「公正で詳細な調査」を求められると、3月になって学外の有識者が参加した調査委員会を組織した。調査は今も続いている。
大学は予備調査を実施した3教授の名前を明らかにしないが、毎日新聞は関係者への取材で3人を特定。このうち2教授に元教授との共著論文があった。
この2教授のうち1人は、元教授の不正論文を検証する学内の別の調査委の委員に加わることになった際、初回の会合(昨年2月)で、元教授と共同研究した経験を理由に委員を外れていた。この調査委は今年4月、降圧剤とは別に元教授が関わった14論文の不正を認定し、公表している。
予備調査の人選について、大学側は「一般論」とした上で「調査対象の論文に関与していなければよい。全ての共同研究をさかのぼって調べるのは困難だ」としている。
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■ことば
◇降圧剤臨床試験問題
降圧剤「バルサルタン」(商品名ディオバン)が、脳卒中などを防ぐ効果が高いとする京都府立医大の臨床試験論文に、販売元のノバルティスファーマ社員が社名を伏せて関与していたことが発覚。ノ社から多額の寄付金も提供されていた。東京慈恵会医、滋賀医、千葉、名古屋の各大学の同種の試験にも同じ社員が関わっており、各大学が論文データが不正操作されていないかについて検証を始めている。
[1]』
全国紙に「お手盛り予備調査」と書かれるとは。厳しい表現だ。毎日新聞はM元京都府立医大教授が動物実験を経ずに幹細胞移植手術をしたときに「人体実験の批判免れず」と端的に書いた[2]。客観、中立であるべき新聞社がここまで踏み込んで言及するのは、この事件や原因、研究界の体質がよほど重大かつ悪質だと思っているからかもしれない。バルサルタンの事件を追っている毎日の記者が怒っているのが伝わる。取材していて研究者や研究機関の公正さに関する現状が酷いもので怒りを感じていると推測する。
京都府立医大の予備調査が不合理であることは私も前に触れた[3][4]。最近ではJBPressの記事でも言及され、日本版ORI(研究公正局)の必要性が主張された[5]。このブログでは何度も主張してきたが、現在の制度では自浄作用が保障された機構が存在しないので、ORIのような第三者調査機関を作るなど研究不正調査制度を改善する必要がある。
最近Kyoto Heart Studyでは試験が『患者や医師の恣意的な評価を排する「二重盲検法」でなく、医師も患者もバルサルタン服用を認識している「プローブ法」で行われ[6]』、『さらに、狭心症、一過性 脳虚血発作など医師の診断に左右される疾患も評価基準に入り、医師の主観でバルサルタンの薬効を高く評価することも可能だった。[6]』ことが報じられた。
報道も徐々に問題点を明らかにしているが、今後調査でどこまで究明されるのか注目する。
参考
[1]毎日jp 記事 写し 2013.6.2
[2]毎日jp 記事 写し 2013.4.11
[3]世界変動展望 著者:"研究不正調査制度の問題点について" 世界変動展望 2013.3.26
[4]世界変動展望 著者:"京都府立医大不正なし?- バルサルタン論文撤回" 世界変動展望 2013.2.7
[5]谷本哲也:"起こるべくして起きた高血圧治療薬バルサルタン事件 徒然薬(第3回)~地に堕ちた日本発臨床研究への信頼ー日本版ORI(研究公正局)の創設はあり得るか" JBPress 2013.6.10
[6]"薬効評価、操作も可能 府立医大の臨床試験で調査" 写し 京都新聞 2013.6.7
フライデーが現在まで4回にわたってディオバン(バルサルタン)関連の記事を公表した。松原弘明元京都府立医大教授だけでなく小室一成東大医学系教授や堀内正嗣日本高血圧学会理事長・愛媛大学教授など高血圧学会幹部らもターゲットにされている[1][2][3][4]。
ノバルティス社が開発した降圧剤であるディオバンの売り上げを伸ばすために、ノ社が研究者とぐるになってKyoto Heart Study,Jikei Heart Study,VARTなどの臨床研究でディオバンに有利な成果を捏造させて論文発表、それを販促に利用し大儲け、堀内等の高血圧学会の幹部などに座談会を開いて謝礼を渡し、ディオバンを宣伝させ、日経メディアル等の医療専門誌で宣伝する。そういう製薬会社、研究者、医療専門誌の三位一体で詐欺的販促し大儲けした疑惑があるというのが報道内容だ。
日本高血圧学会はフライデーの報道に対して
『講談社掲載記事に対する日本高血圧学会の対応について
株式会社講談社発行に係る平成25年5月17日発売の「フライデー」5月31 日号18頁及び19頁において、「天皇の主治医が『疑惑の降圧剤』をそれでも大宣伝!」とのタイトルの記事が掲載・発表されましたが、当該記事には誤った 事実及び根拠のない憶測が多々含まれておりました。
ついては、本学会は、講談社に対し、平成25年5月23日、このような誤った事実及び根拠のない憶測に関し強く抗議し、訂正を求めました。
なお、当該記事が関係するバルサルタンに関する研究については、本学会としては第三者たる専門家に依頼の上、中立的かつ適切な検証を行う予定であり、今後とも説明責任を果たすように努力する次第であります。
日本高血圧学会 理事長 堀内 正嗣
と公表し、会員向けにも別途報告を行った。この内容は公表されていないが、本ブログに情報提供があった。情報提供者には申し訳ないが裏付が取れないという意味で信ぴょう性が十分でないので以下の内容は参考程度に留めてほしい。
『日本高血圧学会は理事長 堀内 正嗣 と第三者を加えた検討委員会の名前で、
(1)フライデーに報道されたような日本高血圧学会及び理事長を誹謗するような発言は、日本医学会としては行っていない。
(2)この件に関して、厳重にフライデーに日本医学会として抗議したこと。
(3)日本高血圧学会で調査を開始されましたVARTの結果について、適宜報告するよう日本医学会から言明があったこと [5]』
を会員向けに報告したという。
高血圧学会が怒っているのは想像に難くないが、フライデーの報道が誹謗中傷、誤った事実及び根拠のない憶測というならどういう点でそう思うのかきちんと根拠を示して説明を公表してほしい。日本の研究者は疑いをかけられると説明しないで沈黙を続けることが珍しくない。Jikei Heart Studyもランセット誌で由井が疑義の論文を公表しても無視していた。[6]によると『ランセット編集部からの由井氏のレターへの反論を求められた慈恵医大が、何も回答しなかったことは、関係者の間で「慈恵医大が疑惑を認めた」と認識される。』と言及されている。きちんと説明しないといけない。(別件だが説明するどころか、不正論文を訂正や撤回すらせず逃げてしまった者すら存在するが・・・。)
私はフライデーの記事がどこまで正しいのかわからない。しかし、バルサルタンの疑義を考えると研究者とノ社がぐるになって薬効等をでっちあげた可能性はかなり高いと思う。最終的にはKyoto Heart Studyの論文は撤回になったし、一部の薬効の証拠は無かったことになったといっていい。日本循環器学会によれば数多くの解析の誤りがある。有利な方向に間違える様、大量に間違う様は故意を強く推認させる。また研究者とノ社がぐるになっていることも推認させる。多くの国民はそう思っているだろう。
もし小室ら日本高血圧学会の幹部が研究者とノ社との癒着に抗議するなら、きちんと根拠を示して説明する必要がある。バルサルタン事件や藤井善隆の世界記録捏造等で日本の臨床研究の信頼は地に落ち、危機的な状態になっている。きちんと回復させるのは医師や研究者の務めだろう。最低でもきちんと説明しないと世界は信用しない。
また京都府立医大のお手盛り調査も報道された。ORIの常設など現在の研究不正調査制度の問題や奨学奨励金のあり方、資金提供側と研究者のあり方、日本の業績申告と審査の問題などをきちんと議論して二度と研究不正や不公正な業績評価等が起きないような仕組みや自浄作用を保障する機構を作ることが必要だ。
参考
[1]"ドル箱降圧剤の論文撤回、京都府立医大有名教授と製薬会社ノバルティスの闇
◆ 松原弘明・京都府立医科大学元教授、降圧剤「バルサルタン」 " フライデー p86 2013.4.19 発売
その1、その2、その3、写し1、写し2、写し3。
[2]世界変動展望 著者:"小室一成東大教授とバルサルタン事件をフライデーが報道!" 世界変動展望 2013.5.16
[3]"クスリの闇第3弾! 慈恵医大、千葉大も調査へ 「疑惑の降圧剤」を日経専門誌でPRする教授たちの厚顔" フライデー 2013年6月7日号 2013.5.24 発売
その1、その2、その3、写し1、写し2、写し3。
[4]「「疑惑の降圧剤《バルサルタン》」&「保険診療費」に群がった学者を直撃 」 フライデー 2013.5.31 発売
記事1、記事2、記事3、写し1、写し2、写し3。
[5]世界変動展望 著者:"フライデーがバルサルタン事件で厚生労働省の行政指導等があったことを報道! -コメント欄" 世界変動展望 2013.5.31
[6]臨床研究不正 バルサルタン問題 (2013.5)-ワードファイル 、作成者は不明だが、ワードファイルの作成者名やYahoo Japanの記事を考えるとおそらく上昌広(東大医科学研究所特任教授)の文章。
画像 小室一成らの画像捏造疑惑告発者のツイッター (2013.5.25)
(注) 黒枠は著者が追加
小室一成東大教授グループやM熊本大教授グループの告発者が彼らだけでなくM阪大医学系教授など日本高血圧学会の理事の論文疑惑も徹底的に追及することや小室らやM熊本大教授らの疑惑論文も各雑誌に連絡するという。日本高血圧学会の堀内正嗣理事長(愛媛大学大学院医学系研究科教授)からフライデーの報道に対して抗議があったので同学会は徹底抗戦するつもりと考えたのだろう。
他の国立系研究者の不正疑惑も告発されるのかもしれない。研究不正を徹底的に追及するケースは井上明久東北大前総長の告発グループが典型でHPの開設だけでなく、「科学・社会・人間」での不正疑惑紹介や数々の講演会開催、告発本の出版、ユーチューブで不正に関する講演会や記者会見の動画放送、さらには名誉毀損裁判での反訴など本当に徹底的に追及している。井上の不正を告発したグループの態度をみると本当に
「徹底的に追及してやるからな!」
という態度が顕著に表れているのがよくわかる。このような活動がなければ井上事件は闇に葬られていた。最終的に井上の捏造や改ざんは正式に認定され責任をとらされることになるだろう。
現在の研究公正は私人の活動で支えられている。徹底的に追及するというなら、がんばってほしい。おそらく今後も別の研究不正が浮上して徹底的に追及されることになるのだろう。
国も現状の研究不正の調査制度の問題点をきちんと認識して公正かつ実効的な調査制度を実現してほしい。