阿久津主税がAWAKEに対してアマが発見したハメ手を利用して勝ったことに開発者巨瀬亮一氏は「すでにアマチュアが指して知られているハメ手をプロが指してしまうのは、プロの存在意義を脅かすことになるのでは」「一番悪い手を引き出して勝つというのは、何の意味もないソフトの使い方」(リンク先)と厳しいコメントを出した。将棋ファンでもいろいろ意見がある。
私は阿久津がハメ手を利用して勝った事は別に問題ないと思うし、仕方ないとも思う。プロ棋士は誰よりも強いという権威を売り物にして商売しているので、コンピューターに負ける事は沽券に関わる。2年前の電王戦で塚田泰明九段が対局後に涙を流した事からもわかるようにプロ棋士にとってはコンピューターよりも強くある事は商売や名誉に関わる死活問題だ。これまで1勝3敗1分、1勝4敗、2年連続でA級棋士が惨敗という厳しい結果続きで、これ以上は商売に響くためファイナルとなった電王戦で勝ち越しのラストチャンスをかけた阿久津がハメ手を利用するほど勝ちにこだわったのは仕方ないと思う。
それに相手の弱点を突くのはプロの公式戦なら自然な戦略だ。指導碁のような対局ならともかく、自分や将棋界の評価や収入がかかった真剣勝負で弱点を突いて有利に勝とうとするのは当たり前だ。純粋な試合とは違う。巨瀬亮一氏は上のように厳しいコメントを出しているが、欠陥のあるソフトを作った自分が悪い。
ただ、将棋ファンとしてはこのような対局を見てつまらないと思う人もたくさんいるだろう。例えば大相撲で横綱が下位相手に変化で勝ったりすると、つまらないと思う人たちはたくさんいる。わざわざお金を出して観戦しているのに、そんな白けた取り組みは見たくないと感じる。将棋界は新聞社などのスポンサーが金を出しているが、スポンサーに金を出しているのは将棋ファンだ。だからつまらない対局を続ければ自然とファンが離れ、将棋界は厳しくなっていく。
個人的には阿久津主税対AWAKEの対局は事前に知られたハメ手を利用して、わずか21手、49分で終わってしまったので、あまり面白い内容ではなかった。電王戦をやる度に将棋ソフトの欠陥をついた王手放置やハメ手を狙うような対局ばかり続くと、さすがに内容がつまらなくてファンが離れていくのではないか。そういう意味でファイナルでよかったかもしれない。勝つ将棋、魅せる将棋で思い出すのは大山康晴と升田幸三の将棋哲学だ。大山は勝利至上主義でつまらない指し方もあったが勝つ将棋、一方升田は将棋はこの世になくても良い職業だから、魅せる将棋でないといけないと思って、そういう指し方をした。
プロ棋士は横綱と同じで単に勝てばよいという職業ではないのだろう。その点は難しい問題である。私は正攻法の真剣勝負を見たいと思う。