世界変動展望

私の日々思うことを書いたブログです。

紛らわしい問題2 - 2015年5月30日

2015-05-30 05:30:27 | 法律

「自動車の右側に3.5メートル以上の余地がない道路で、荷物を積むため車のそばで運転者が指図しながら10分間車を止めた。」(出展 このサイトの問い5

これは正解です。ネットで調べると、なぜ正解か疑問に思う人がいました。正しく理解していない人もいました。

道路交通法45条2項「車両は、第四十七条第二項又は第三項の規定により駐車する場合に当該車両の右側の道路上に三・五メートル(道路標識等により距離が指定されているときは、 その距離)以上の余地がないこととなる場所においては、駐車してはならない。ただし、貨物の積卸しを行なう場合で運転者がその車両を離れないとき、若しくは運転者がその車両を離れたが直ちに運転に従事することができる状態にあるとき、又は傷病者の救護のためやむを得ないときは、この限りでない。

道交法第2条1項18号「駐車 車両等が客待ち、荷待ち、貨物の積卸し、故障その他の理由により継続的に停止すること(貨物の積卸しのための停止で五分を超えない時間内のもの及び人の乗降のための停止を除く。)、又は車両等が停止し、かつ、当該車両等の運転をする者(以下「運転者」という。)がその車両等を離れて直ちに運転することができない状態にあることをいう。 」

車の右側に駐車余地が3.5m以上ない場合は駐車禁止です。道路標識等でもっと広い距離を指定された場合はその距離以上ない場合は駐車禁止になります。しかし、貨物の積卸しを行なう場合で運転者がその車両を離れないとき、若しくは運転者がその車両を離れたが直ちに運転に従事することができる状態にあるときは駐車可能なので、問題のケースでは駐車できます。

ちなみに、荷物の積卸しのために10分間車を止めるのは停車ではなく駐車です。


自販機で買うための車両停止は停車か駐車か?

2015-05-27 00:00:01 | 法律

運転免許の学科サイトで自販機で買うための車両停止は停車扱いになると指摘するものがある関連)。

道路交通法第2条の定義だと

十八  駐車 車両等が客待ち、荷待ち、貨物の積卸し、故障その他の理由により継続的に停止すること(貨物の積卸しのための停止で五分を超えない時間内のもの及び人の乗降のための停止を除く。)、又は車両等が停止し、かつ、当該車両等の運転をする者(以下「運転者」という。)がその車両等を離れて直ちに運転することができない状態にあることをいう。
十九  停車 車両等が停止することで駐車以外のものをいう

この定義を文言どおりにとらえると、自販機で買うために車両を停止させることは「その他の理由により継続的に停止」に該当しうるように見える。だから、駐車ではないかと思った事がある。停車の定義は車両の停止で駐車以外のものだから、駐車の定義を考えると、継続的停止は5分以内の貨物の積卸しのための停止、人の乗降のための停止だけ。仮に継続的停止でなくても運転席から離れて直ちに運転できない状態だと駐車になる。

警視庁の公式紹介によると「放置車両とは、違法駐車と認められる場合における車両であって、運転者がその車両を離れて直ちに運転することができない状態にあるものです。車両の停止時間の長短、車両から離れた距離の遠近、エンジンを止めているか否か、ハザードランプをつけているか否かということは関係ありません。

この見解を考えると、自販機で買うための車両停止でも運転者が席を離れてしまうと駐車になると考えられる

『当該車両等の運転をする者(以下「運転者」という。)がその車両等を離れて直ちに運転することができない状態』(道交法第2条18号)は運転者が運転席を離れた場合と同義。ただ、現実的には警察官等が移動命令を出して移動できる場合は放置駐車として取り締まっていない事も多いと思う。そう考えると、法的には駐車になるが、現実的には放置駐車として取り締まられないかもしれない。放置を「運転者が現場におらず警察官等の移動命令に対応できない場合」と紹介するサイトもある

「継続的に停止」は、具体的にどの程度の時間かは不明。客待ち、荷待ち、故障その他の理由による継続的停止は5分以内でも駐車になるので、たとえ運転席に運転者がいて同乗者が自販機で物を買うための短い間だけ停止しても駐車になると考えられる。このケースが非放置駐車の例。ただ、5分以上などある程度継続的に停止させていないと非放置駐車違反として取り締まっていないかもしれない。

以前から人の乗降のための停止や運転席に運転者がいる場合の5分以内の貨物の積卸しのための停止以外は放置、非放置に関わらず短時間の車両停止でも駐車に該当した。しかし「短時間なら放置駐車違反にならない」と誤解する人が多かったので、2006年6月頃から放置駐車違反の取り締まりを強化し、1分等の短時間でも放置駐車違反の取り締まりを行う事にした

私は人の乗降のための停止と運転者が運転席にいる場合で5分以内の貨物の積卸し以外の車両の継続的停止は1分等の短時間でも駐車になると考えてよいと思う。ただ、現実的には運転者が現場の近くにいて警察官等の移動命令に対応できたり、非放置のケースで短時間の停止の場合は駐車違反が取り締まられていない事がある。

個人的には自販機で買う程度の短時間停車なら、道路が混雑していないなら違法性は低いし法的には駐車違反になっても、そこまで取り締まらなくてもよいと思う。


TSUTAYAのレンタルカード登録有効期限の扱いは不適切か?

2014-07-16 21:19:25 | 法律

TSUTAYAのカードのレンタル登録の有効期限に疑問がある。私は例えば2014年7月2日午後9時頃にTSUTAYAのカードを更新したが、有効期限が2015年7月1日になっていた。店やによると初日から起算して1年間有効なので、この期限になるらしいが、これは法律上不適切な可能性がある。

カードの裏面には会員規約に従うという注意書きがあり、規約を見ると次のように書かれている。

レンタル利用登録の有効期間は、利用登録日より1年間です。但し、継続してレンタル利用登録を希望される場合には、有効期間満了日の前月1日より再度レンタル利用登録が可能です。なお、レンタル利用登録の手続きには、前項で定める条件の他、TSUTAYA店舗所定のレンタル利用登録料・年会費等が別途必要となります。」(規約第1条3項)。なおT会員規約も同様だが、これに関する有効期限はもうないと回答された

これ以外期間に関する規約はなく、初日を算入するという規約はない。また原則、民法の規定に従って期間を計算する。

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民法

第百三十八条  期間の計算方法は、法令若しくは裁判上の命令に特別の定めがある場合又は法律行為に別段の定めがある場合を除き、この章の規定に従う。

第百四十条  日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。(解説)

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民法138条によれば「期間の計算方法は法令若しくは裁判上の命令に特別の定めがある場合又は法律行為に別段の定めを除き」民法の規定に従う。TSUTAYA側の回答や調査を考えると例外適用の特別法はないし、規約上も「初日を算入する」という趣旨の別段の定めはない。従って民法の規定に従わなければならない

利用規約によると「利用登録日から1年」が有効期限で、民法140条より、利用登録日の午前0時から期間が開始しない場合は初日不算入だ。大概の顧客は利用登録日の午前0時に登録や期間更新に関する契約をしないので、初日は不算入となる。つまり、上の例でいえば起算日は2014年7月3日、期間満了日が2015年7月2日、応答日が2015年7月3日となる。つまり、カードの有効期限は2015年7月2日が満了するまでというのが法的に正しい有効期限である。2015年7月1日満了までではない

店によると全国同じらしいが、これはTSUTAYA全店舗が法的に不適切な有効期限で運用している可能性があるということではないのか?TSUTAYAといえば大手だが、このあたりをどう考えているのか尋ねても法的説明は全くなく、そういう説明ができる部署を設けていないので回答できないという。これについては納得いく説明でないことはもちろんのこと、TSUTAYAの対応には非常に疑問がある。

誰か法的に有効な説明ができる方がいればぜひ教えてください。

ただ、ほとんどの人は午前0時でない利用登録日に登録等の契約をし、規約で「利用登録日から1年」となっているなら、法的な期間計算は上で書いたとおりになると思うが、どうなんでしょうね?

解説
[1]参考文献1,2。例えば初日を算入するなら、契約日の午後3時に契約した場合、現実には契約をしていない期間にも関わらずその日の午前0時まで遡及的に法的責任を負うことになります。また契約した時間によって期間の残り時間が変わることになります。それを回避するために24時間以内の時間は切り捨てようという考えが民法140条1項です。

例えば契約日時が2012年1月1日午前10時で「契約日から1年間レンタルする。」という契約なら、1月1日を算入せず2012年1月2日から起算して2013年1月1日満了までレンタルできます。一方、契約日が2011年12月31日で「2012年1月1日から1年間レンタルする。」という契約なら、「2012年1月1日の午前0時から1年間」というのが当事者間の合理的意思解釈ですから「その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。」(民法140条ただし書き)が適用され、2012年1月1日から起算して、2012年12月31日満了までレンタルできます。

TSUTAYAで利用登録を行う場合、ほとんどの人は店舗で登録等の契約をし、その時の時刻は午前0時ちょうどではないです。利用規約にも初日算入の規約はなく単に「利用登録日から1年」有効としか定められてませんから、上の「契約日から1年間レンタルする。」という場合と同じで、民法140条より利用登録日は算入されないのが正当な扱いだと思います。

仮に違うなら、「契約日から1年間レンタル」というケースの期間計算と何が違うのでしょうか?わかる方がいれば教えてください。


代理人請求以外の住民票の写し請求は請求者の氏名、住所、対象者の氏名だけ明らかにすればよい。

2014-01-30 03:20:31 | 法律

住民基本台帳法

(本人等の請求による住民票の写し等の交付)
第十二条  住民基本台帳に記録されている者は、その者が記録されている住民基本台帳を備える市町村の市町村長に対し、自己又は自己と同一の世帯に属する者に係る住民票の写し(第六条第三項の規定により磁気ディスクをもつて住民票を調製している市町村にあつては、当該住民票に記録されている事項を記載した書類。以下 同じ。)又は住民票に記載をした事項に関する証明書(以下「住民票記載事項証明書」という。)の交付を請求することができる。
 前項の規定による請求は、総務省令で定めるところにより、次に掲げる事項を明らかにしてしなければならない。
 当該請求をする者の氏名及び住所
 現に請求の任に当たつている者が、請求をする者の代理人であるときその他請求をする者と異なる者であるときは、当該請求の任に当たつている者の氏名及び住所
 当該請求の対象とする者の氏名
四  前三号に掲げるもののほか、総務省令で定める事項
 第一項の規定による請求をする場合において、現に請求の任に当たつている者は、市町村長に対し、第三十条の四十四第一項に規定する住民基本台帳カードを提示する方法その他の総務省令で定める方法により、当該請求の任に当たつている者が本人であることを明らかにしなければならない。
 
 
住民基本台帳の一部の写しの閲覧及び住民票の写し等の交付に関する省令

(本人等の住民票の写し等の交付の請求の手続及び請求につき明らかにしなければならない事項)
第四条  法第十二条第一項 の規定による住民票の写し(法第六条第三項 の規定により磁気ディスクをもつて住民票を調製している市町村(特別区を含む。)にあつては、当該住民票に記録されている事項を記載した書類)又は法第十二条第一項 に規定する住民票記載事項証明書(以下「住民票の写し等」という。)の交付の請求は、同条第二項 各号及び次項各号に掲げる事項を明らかにするため市町村長が適当と認める書類を提出してしなければならない。
 法第十二条第二項第四号に規定する総務省令で定める事項は、次に掲げる事項とする。
 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律 (平成十三年法律第三十一号)第一条第二項 に規定する被害者のうち更なる暴力によりその生命又は身体に危害を受けるおそれがあるものに係る請求である場合その他市町村長が法第十二条第六項 の規定に基づき請求を拒むかどうか判断するため特に必要があると認める場合にあつては、請求事由
 法第十二条第七項 の規定に基づき住民票の写し等の送付を求める場合において、請求をする者の住所以外の場所に送付することを求めるときは、その理由及び送付すべき場所

(本人等の住民票の写し等の交付の請求につき請求の任に当たつている者が本人であることを明らかにする方法)
第五条  法第十二条第三項に規定する総務省令で定める方法は、次のいずれかの方法とする。
 住民基本台帳カード等であつて現に請求の任に当たつている者が本人であることを確認するため市町村長が適当と認める書類を提示する方法
 前号の書類をやむを得ない理由により提示することができない場合にあつては、現に請求の任に当たつている者が本人であることを確認するため市町村長が適 当と認める書類を提示し、若しくは提出する方法又は現に請求の任に当たつている者が本人であることを説明させる方法その他の市町村長が前号に準ずるものと して適当と認める方法
 法第十二条第七項 の規定に基づき住民票の写し等の送付を求める場合にあつては、第一号又は前号の書類の写しを送付し、現に請求の任に当たつている者の住所を送付すべき場所に指定する方法その他の市町村長が前二号に準ずるものとして適当と認める方
 
 
--
 
法令によると、代理人請求以外の方法、つまり本人等が住民票の写しを交付請求する時に明らかにしなければならないのは当該請求をする者の氏名、住所、当該請求の対象となる者の氏名だけになるのが通常(住民基本台帳法第12条2項)。同条4項のケースは「住民基本台帳の一部の写しの閲覧及び住民票の写し等の交付に関する省令」(以下、令)第4条2項によるとDVや郵送による請求(住基法12条7項)の場合だけ。
 
法令上は請求者の生年月日や対象者との続柄は明らかにしなくてもよいが、多くの地方公共団体でこれらの明示を要求している。例えば高槻市は対象者の住所や生年月日、請求者の続柄の記載を要求している。八王子市のように対象者の生年月日は「差し支えなければご記入ください。」ときちんと明示しているところもある。
 
しかし、明示しなくてもいい個人情報を知らないうちに明示してしまった人も少なくないだろう。あくまで明示しなければならないのは上の赤太文字のものだけだ。
 
本人確認の方法は住民基本台帳カード、その他現に請求の任に当たつている者が本人であることを確認するため市町村長が適当と認める書類を提示する方法で行えばよいのが通常(住基法第12条3項、令5条1項)。「現に請求の任に当たつている者が本人であることを確認するため市町村長が適当と認める書類」というのは通常は運転免許証や旅券(パスポート)などを定めているところがほとんど
 
本人確認の方法は運転免許証等を提示すれば足ります。証明書を手渡したり内容を控えさせる必要はありません。
 
法令上は必要以外の情報提示を要求されても「法令上提示義務はないので要求を拒否します。」といえばいいのでしょう。請求者は法令の要件をすべて満たせば住民票の写しの請求権がありますから、役所が拒否するのは法令違反です。
 
個人情報をむやみやたらに外へ出したくないという人は参考にしてください。一言いっておくと役所の手続きに従って法令上定められている情報以外を示しても特に害悪はないのが通常だしほとんどの人は役所の手続きに従っています。法令上定められた個人情報以外を提示するかは任意です。
 
あくまで上は個人情報を必要以上に出したくない人のための情報です。現在はネット社会で情報が流出すると回復できない損害を受けることがありますから、個人情報を必要以上に出したくないという考えを私は理解できます。そういう人が法令上要求されている情報だけ提示するのはいいと思います。
 

裁判の証明度

2012-09-07 00:32:29 | 法律

裁判では証拠をもとに事実認定する。どの程度の証明がされれば認定されるかというと、判例上は「高度の蓋然性」を証明すれば認定される。ただ、実務上は民事は刑事よりやや低い証明度でよいとされている。詳しく説明すると、刑事事件では

「元来訴訟上の証明は,自然科学者の用いるような実験に基づくいわゆる論理的証明ではなくして,いわゆる歴史的証明である。論理的証明は『真実』そのものを目標とするに反し,歴史的証明は『真実の高度な蓋然性』をもって満足する。言い換えれば,通常人なら誰でも疑いを差し挟まない程度に真実らしいとの確信を得ることで証明ができたとするものである。」(最高裁昭和23年8月5日判決)

民事事件ではいわゆる東大ルンバール事件の判例

「訴訟上の因果関係の立証は,1点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし,かつ,かつ,それで足りるものである。」(最二小判昭50・10・24 民集29巻9号1417頁)

これだけみると、刑事も民事も同じ証明度が要求されていると考えられます。刑事では「合理的な疑いを容れない証明」とも言われます。通常裁判では自然科学の証明と違って反証が残されており、全く反証を許さない証明がされないと事実認定できないとすると、全く認定できないのでこのように扱われているわけです。ですので、上でいう「疑い」というのは合理的な疑いを指し、合理性のない疑いは含みません。最近最高裁も

「刑事裁判における有罪の認定に当たっては,合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証が必要である。ここに合理的な疑いを差し挟む余地がないというのは,反対事実が存在する疑いを全く残さない場合をいうものではなく,抽象的な可能性としては反対事実が存在するとの疑いをいれる余地があっても,健全な社会常識に照らして,その疑いに合理性がないと一般的に判断される場合には,有罪認定を可能とする趣旨である。」(最高裁平成19年10月16日判決)

と端的に示しています。

では、刑事と民事では同じ証明度が要求されるのかというと、実務上はそうではなく、民事の方が若干低い証明度でもいいようです。根拠は様々な民事訴訟の専門書にそう書かれているからです。それなら事実と考えて間違いないでしょう。なぜ違いがあるのかというと、刑事と民事では訴訟目的が違うからです。

刑事は真相の究明だけでなく、人権を守ることも重要な目的です。有罪となれば刑罰という非常に重い制裁が与えられるので、絶対に間違いない判断が要求されます。故に非常に高度な蓋然性を証明する必要があるのでしょう。それに対し民事は私的な紛争を解決することが目的です。当事者間の公平性や弱者救済といった観点で訴訟を行いますから、刑事に比べて緩い証明度でもいいのでしょう。アメリカでは証拠の優越程度の証明度でよいとされているようです。

では具体的な事例で「高度の蓋然性」の証明を見ましょう。

事案
暴力団員の被告人らが被害者の少女に覚せい剤を注射し、被害者は錯乱状態になった。しかし、被告人らは何の救急医療の要請もせず放置し、被害者は死亡。被告人らは保護責任者遺棄致死罪で起訴。被告人らが救急医療の要請をしなかったことと、被害者の死亡との因果関係が争われた。

判決 (最高裁第三小法廷 決定 平成元年12月15日)
上告棄却(保護責任者遺棄致死罪の確定)

判旨
『・・・「原判決の認定によれば、被害者の女性が被告人らによって注射された覚せい剤により錯乱状態に陥った午前零時半ころの時点において、直ちに被告人が救急医療を要請していれば、同女が年若く(当時一三年)、生命力が旺盛で、特段の疾病がなかったことなどから、十中八九同女の救命が可能であったというのである。

そうすると、同女の救命は合理的な疑いを超える程度に確実であったと認められるから、被告人がこのような措置をとることなく漫然同女をホテル客室に放置した行為と午前二時一五分ころから午前四時ころまでの間に同女が同室で覚せい剤による急性心不全のため死亡した結果との間には、刑法上の因果関係があると認めるのが相当である。」したがって、原判決がこれと同旨の判断に立ち、保護者遺棄致死罪の成立を認めたのは、正当である。』

この判例では「十中八九確からしい」ことを「合理的な疑いを超える程度に確実」と考えているようです。専門書によっては「高度の蓋然性=十中八九確からしい」という趣旨で書いてあるものもあります。要するに8割方の証明でいいということです。実務上本当にこの程度でいいのかわかりませんが、「8割方の証明」と記載している専門書がいくつかあるのは事実です。

統計的な検定だと有意水準は1%か5%にとることが多く、2割は高すぎてまずとらないと思いますが、裁判では意外と高いですね。


無期懲役・禁固は終身刑

2010-12-07 00:00:00 | 法律
マスメディアではよく仮釈放がない無期懲役・禁固を終身刑とよび、日本の刑罰として存在する無期懲役・禁固と区別していることが多い。しかし、正確には誤りで、現在刑罰として存在する無期懲役等も終身刑である。

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終身刑
無期限で、人が生涯服する自由刑。無期懲役と無期禁固とがある。

(デジタル大辞泉より)
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上のように終身刑とは刑の満期がないものをいう。刑事政策等の分野では、仮釈放がない無期懲役等を絶対的終身刑、仮釈放があるものを相対的終身刑とよんでいる。相対的終身刑は刑務所から出獄できるが、生涯保護観察下となり、刑の執行は生涯続く。世間の認識では「絶対的終身刑=終身刑」、「相対的終身刑=無期懲役・禁固」である。

一部の人たちは世間の間違った意味での終身刑の使い方にひどく反対している。確かに、言葉の使い方は間違っているが、現在の無期懲役等と絶対的終身刑の区別はつけているから、それほど問題はないと思う。むしろ、そんな言葉の使い方の違いにひどく反論する方が異常である。

裁判管轄について

2010-10-10 00:00:00 | 法律
どの裁判所で訴訟を行うかということを裁判管轄といいますが、民事訴訟が起きた場合、裁判管轄は時によって決定的な意味を持つことがあります。例えばAさんがBさんからお金を借りていて、消費貸借契約の際に裁判管轄を東京地裁にだけ限って契約していた場合は、東京地裁でだけ訴訟が受け付けられ、それ以外の裁判所への訴えは管轄違いにより訴えが管轄合意の裁判所に移送(民訴第16条)されてしまいます。

仮にAさんが沖縄に住んでいたとしたら、Bさんの貸金返還訴訟のため、わざわざ東京地裁まで出向かなければなりません。これはたいへんな負担です。Aさんは時間・費用の負担を考えて諦めてしまうかもしれません。このように裁判管轄は場合によって決定的な意味を持つのです。

上の例は私人と私人の間の取り決めですから、対等な立場での取り決めのため仕方ないといえますが、例えば消費者金融会社と私人というケースでは対等ではなく会社の有利な立場から事実上一方的に管轄合意がなされてしまうケースがあります。そのようなケースでは当事者間の公平のため、裁判所が管轄移送するケースがあります(民訴第17条)。

裁判管轄は被告の利益を考え、原則的に被告の普通裁判籍の裁判所とされています(民訴第4条)。普通裁判籍というのは被告が人の場合、被告の住所地又は居所等によって決まる裁判管轄です。簡単にいえば、被告の最寄の裁判所で訴訟が行われるということです。この他特別裁判籍(民訴第5条~7条)という規定があり、規定されている裁判所にも訴えを提起できます。例えば、不法行為の損害賠償の訴えを提起する場合は、不法行為のあった地でも訴えを提起できます(民訴第5条9号)。

しかし、ほとんどのケースでは合意管轄の定め(民訴第11条)がされていて、特定の裁判所に訴訟を限るという専属的合意管轄が決められています。例えば、このgoo ID の利用についても、gooを運営するNTTレゾナントとユーザーの間にサービスに関して紛争が起きた場合は、協議が整わない場合、東京地裁を第一審の専属的合意管轄裁判所にするように取り決めがなされており、goo IDを取得するときはその規約に同意することになっています。これは企業の自衛のための規約です。

このことは、ひょっとするとブログやHPを運営する皆さんにも重要なことかもしれません。めったにないことですが、ブログ等を運営していて訴訟に巻き込まれるかもしれません。例えば、「あなたの公表した記事は私に不利益だから、削除を要請する。あわせて損害賠償だ。」というような要求が誰かからされたとしましょう。インターネットは不特定多数の人が利用していますから、価値観も非常に多様です。自分は正しいと思って記事を書いても、絶対このような要求がないとはいいきれません。

このようなケースで合意管轄の定めがなければ、訴えは普通裁判籍又は特別裁判籍の裁判所に提起できますから、一般には要求者の最寄の地方裁判所に訴えが提起されるでしょう 。削除要求や損害賠償というのは不法行為に基づく要求ですから、上で述べたように不法行為のあった土地でも訴えが提起できるのです。この不法行為のあった土地というのは行為を行った土地だけでなく、結果が発生した土地も含むのが判例・通説のため、被害を被ったと考える要求者の居所もまた特別裁判籍として認められるというわけです。

しかし、みなさん考えてみてください。インターネットはどこで誰が見ているかわかりません。例えばあなたがブログを運営していて東京に住んでいるとしましょう。ある時、大阪に住んでいるCさんがあなたのブログを見て、上のような削除要求・損害賠償をあなたに要求してきたらどうしますか?訴訟は大阪地裁で行われるため、たとえCさんが要求していることが言いがかりで、あなたの記事は正しかったとしても、現実の訴訟費用や時間を考えて、あなたは泣き寝入りしなければならないかもしれません。

もちろん、そういうことはめったにないことですが、上でも述べたように絶対にないとは言い切れません。そこで、心配だという方はgooと同じように、自分のブログやHPの利用者と利用に関してあなたと利用者の間に紛争が起きたとき、管轄裁判所をあなたの普通裁判籍の裁判所に限る専属合意的管轄の取り決めをし、従ってもらえない場合は自分のブログ等の利用を断るとよいでしょう。gooやyahooなど大手のサイトでもそのような取り決めをしているのですから、私人間でそのような取り決めをするのは何ら問題ありません。

ちなみに、本ブログでも注意書きでそのような取り決めを提示しており、守っていただけない方は閲覧をやめてすぐ退去するように求めています。繰り返しになりますが、上のような事態に巻き込まれるのはめったにないことで、万が一のためとはいえ、このような取り決めをしておくのは、かなりマイナリティーだと思います。私の気にしすぎといえるかもしれません。

ただ、みなさんの参考までに自分の知識を紹介させていただきました。

対抗言論の法理

2010-10-06 00:00:00 | 法律

対抗言論の法理とはある者からの言論が自分の社会的評価を低下させ得る場合、反論が可能であれば、まずそれによって自らの評価低下を回復すべきであるという考えである。表現の自由を保障するため、名誉毀損表現がなされた場合、刑罰法規や民事上の不法行為責任の追及によって名誉回復するのではなく、反論によって名誉回復すべきということである。

ニフティサーブ本と雑誌フォーラム事件では東京地裁がこの法理を採用し、反論によって自己の社会的評価の低下を防げているとして、侮辱的発言の違法性を阻却した。憲法学者の高橋和之氏によると、「ネットワーク上での言論が名誉毀損にあたるか否かは、表現の自由の保障と調和するように、法解釈すべきである。そして、表現による害悪に対しては、「対抗言論」、すなわち、互いに言論を交わすことができる平等な立場であることを前提に、直ちに自ら反論することによって処理するのが原則である。

名誉毀損が成立するのは、具体的事案において対抗言論が機能しない場合、例えば、名誉を毀損された者が名誉毀損者と平等の立場での表現ができない場合や、プライバシー侵害などに限られる。いいかえれば、自らすすんでネット社会において発言をするパソコン通信においては、意見が異なるものからの批判を受けうることを覚悟しておくべきであり、それが辛辣な言葉になったり、時には人格批判に至る場合でも、それが論争内容と関係がある限りにおいては不当とはいえない。

このような批判を受けた場合でも、相手に反論する、またはその論争の「聴衆」の評価によって、自己の名誉回復を図るべきであり、名誉毀損とみるべきではない。[1][2]」

つまり、相手方が対等な立場で意見表明でき、反論の効果がある場合は、名誉毀損表現は違法とならない。逆に、私人とマスメディアのように対等な立場でないケースや表現内容がプライバシー侵害等反論の意味がないケースは違法となる。

ネットワーク上の通常の言論は私人対私人であり、誰でも対等に意見を表明できるから、ネット上での名誉毀損表現については、反論の意味がある場合原則反論によって名誉回復を図るべきであり、刑罰法規や民事上の不法行為責任の追及によるべきではないということになる。例えば、「Aさんは仕事で失敗をした。」「Bさんは、いつも剣道の試合に負けている。だから、Bさんは剣道の能力が乏しい。」といった表現は、反論によって対処すべきである。

ただ、名誉毀損表現がいつなされたのか表現の相手方が知らないケースもある。そのケースで反論の機会がきちんと保障されているかと言われると疑問だ。ネット上の表現については、相手方が知らない間に表現がなされることも多い。表現の相手方の反論の機会をどうやって確保するかは難しい。

しかし、反論の機会を与えることをきちんと通知されているにも関わらず、相手方がそれを無視して反論しないため社会的評価が低下したとしても、それは相手方の自己責任といえる。反論権を自ら放棄したといえるからだ。発言者にしてみれば、相手に反論の機会を与えることで法的責任の免責を実現しようとしているにも関わらず、相手が一方的に反論を拒んだために免責されないのは不条理だ。

ネットワーク上での表現を含めて一般の表現は発言者が相手方の反論の機会を保障することも必要だろう。それと同時に、相手方も機会が与えられたならば、表現内容をきちんと理解し、社会的評価が低下しうるなら反論すべきである。発言者の表現を無視し反論しないのは相手方の自由だが、その場合社会的評価の低下が起きたとしても自己責任として不利益を受け入れ、発言者の責任追及をすべきではない。

参考
[1] 対抗言論 Wikipedia 2010.10.5
[2] 高橋和之の記述:ジュリスト1997.10.1(1120号)p80


言論の自由について

2010-10-02 17:36:30 | 法律

ある美術専門雑誌

「画家佐倉十朗氏の個展を見た。あいも変わらず古めかしい絵が並んでいた。描写は上滑りで鋭く訴えかけるものは何もない。特に連作少女の文字通り少女趣味でセンチメンタルな甘さには抵抗させられてしまう。」

これを見て怒る十朗とその娘魔美。その後、魔美はその批評を書いた評論家剣鋭介に抗議しに行く。

魔美「私は父がどんなにあの絵に情熱をそそいだかよく知ってるんです。学校に勤める傍ら、寝る間も惜しんで。それをあなたは情け容赦もなく!」
剣鋭介「私は信じたとおりをいう。その一、情けとか容赦とか、そんなものは批評とは関係ないことです。その二、芸術は結果だけが問題なのだ。たとえ飲んだくれて鼻歌まじりに描いた絵でも傑作は傑作。一方、どんなに心血を注いで必死に描いても駄作は駄作。」
魔美「父の絵が駄作ですって!」

怒って剣鋭介に超能力で暴行を加える魔美。その後家に帰って、十朗と話す。

魔美「悪い人には天罰が下るって本当ね、パパ。」
十朗「誰だい、その悪い人って?」
魔美「決まってるでしょ、剣鋭介よ。」
十朗「はは、悪い人ってのは可哀想だよ。」
魔美「あら、あんなにひどい批評を書いたじゃない。」
十朗「魔美君、それは違うぞ。」
魔美「え、違う?」
十朗「公表された作品については見る人全部が自由に批評する権利を持つ。どんなにこきおろされても、画家にはそれを妨げることはできないんだ。それが嫌なら誰にも見せないことだ。
魔美「でもさっきはパパ、かんかんに怒ってたじゃない。」
十朗「もちろんだ。剣鋭介に批評する権利があるなら、僕にだって怒る権利がある。あいつはけなした、僕は怒った。それでこの一件はおしまいだ。魔美公もだな、そんなつまらないことに拘ってないで、はやく忘れなさい。」

(藤子F不二雄、エスパー魔美-くたばれ評論家より) - [1]
--
今回の出展はマンガだが、マンガでもこういうネタが扱われているのに驚いた。さすが、藤子F不二雄先生。こういうのを法律の世界では言論の自由といい、憲法21条1項で保障されている。日本ではどんな人でも自由に意見を述べることができる。

なぜこの規定があるのかというと、戦前政治の反省のためだ。戦前は治安維持法によって政府や軍部に逆らう意見を述べるものたちを逮捕して黙らせていた。その結果、人々は政府や軍部に逆らうことなく目隠しされた状態で軍部の政治に従い悲惨な戦争に突き進んでいった。その当時の日本の政治はとてもひどいものだったが、なぜそれに歯止めがきかなかったかといえば、言論の自由が保障されていなかったことが一つの原因である。

何がよいのか、何が正しいのか、それを決めるのは言論なのである。そしておかしな政治を止めるのもまた言論なのである。言論の自由とは民主主義の基本なのだ。

もちろん、言論の自由といえど無制限ではなく、ある程度の制約はある。しかし、言論の自由の重要性から原則として言論は発表が差し止められることはない。それは政治家や芸能人のスキャンダルなど人権侵害をともなうようなものでも同様である。発表後の損害賠償で対応できるものは、原則意見を発表できる。しかし、発表すると取り返しのつかないひどい内容は例外的に裁判所が発表を差し止めることがある。

このように意見は基本的にすべて発表することができる。上の例で剣鋭介が批評を述べたのも、それに対して十朗が怒ったのも意見の表明であり、十朗がいうようにどちらにもその権利は憲法上保障されている。

藤子F不二雄先生はなかなかよいものを題材にする。この人のマンガは結構教育的な側面があって、よく勉強していると感心するものがある。

公表された著作物についてはすべての人が自由に意見を述べる権利を持つ。それは表明者の立場がどうだろうと関係ないし、原則として表明の内容によっても変わらないものだ。例えば意見の対象者にとって、表明者が嫌いな人物で表明内容が悪かったとしても、意見表明を妨げることはできない。

「あなたは私にとって嫌な人物だから、意見を言われると苦痛なんですよ。だから私の著作物について意見表明しないでください。」

「あなたの表明しようとする内容は私にとって悪いですから発表しないでください。」

こういうことは言論の自由が保障されている以上通用しない[2]。上の十朗が言うように、こういうことが嫌なら著作物を発表しないことだ。言論の自由は表明者に責任があるのは言うまでもないが、表明者の立場や表明内容によって表明を妨げられないことを保障するものである。しかし、私を含めて発表する側も気をつけないといけない。非難と批判は違う。

参考
[1]原作はこちら

図 公表された作品に対する作者の考えと表現の自由

[2]「こういうことは言論の自由が保障されている以上通用しない」というのは表現の差し止めを強制することは原則できないということ。批判等されるのが嫌な人は相手に「悪いことを発表するな!」と要求するが、これは自由。しかし相手は従う義務がないので無視できる。批判等を受けた人は裁判所に要求して発表の差し止めを請求することになるが、表現の自由(憲法21条1項)のため原則差し止めはできない。例外的によほど重大な人権侵害が起きる場合は差し止めできる。表現の自由といえど無制限ではなく公共の福祉による制約を受けるからだ。

要するに裁判所が表現の差し止めを強制することはほとんどのケースで不可能なので、事実上表現を規制する手段がなく、どんな表現もできるということ。


期限の定めのない債務

2010-05-06 00:00:20 | 法律
A「100万円貸してくれないか?」
B「わかった。いつでもいいから返してね。」
A「ありがとう。助かるよ。」

(3日後)
B「この間貸した100万円だけど、5日後までに貸してくれる?」
A「え?いつでもいいっていったじゃないか。お金はつかっちゃってすぐに返せないよ。」
B「確かにいつでもいいっていったよ。5日後でもね。」

たまにこういう金銭貸借のトラブルがあるかもしれない。民法で俗にいう「期限の定めのない債務」というやつだ。

民法412条3項 「債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。」

つまり、「返してね。」といわれた時から相当期間(返すための準備をする期間、私見ですが1日か2日程度でしょう。)経過後に返済しないといけないわけです。上記の例ではBは5日後に返済を請求しているわけですから、Aは100万円を5日後に返さなければならない責任が生じます。返さない場合は履行遅滞による債務不履行責任をAが負うことになります。

お金を借りるときはきちんと返済期を決めておきましょう。

承諾した相手を相当程度傷つけても無罪

2009-12-14 00:00:11 | 法律
人を傷つけると傷害罪となる。傷害罪の「傷害」とは人の生理的機能に障害を加えることをいう。しかし、傷つけられることを承諾した相手を相当程度に傷つけても無罪となる。

立場によって要件が異なるが、承諾した相手を傷つけるのは社会的に相当であるため違法性が阻却され無罪となるという考えに立つと、

①保護法益が個人的法益である
②承諾能力がある者により任意性のある承諾がなされる
③承諾が行為時に存在する
④承諾が外部に向かって表明される
⑤承諾があることを認識して法益侵害行為を行う
⑥法益侵害が社会的に相当である

という要件を満たすと傷害罪が成立しない。刑法ではいわゆる「被害者の承諾」とよばれるものだ。もっとも、⑥の要件のとおり傷害を負わせるといっても社会的に相当な程度でなければならず著しく傷つけてしまった場合は傷害罪となる。

他にも被害者の承諾があれば無罪となる犯罪類型があるが、承諾があるからといって犯罪が成立しないのには違和感を覚える。

定住外国人の地方選挙権・被選挙権について

2009-11-17 02:23:50 | 法律
民主党は定住外国人の選挙権を認め、これに関する立法をしようと考えている。外国人に選挙権・被選挙権を認めると、国や地方の政治について外国の主権が介入するおそれがあり、国民主権上日本国籍を持たないものに選挙権等を認めるべきではないという主張がある。

一方で、定住外国人の生活はその地域の行政に密接な関係を持ち、これに関して何の意見もいえないのは不都合ではないかという考えから、定住外国人に地方選挙権等を認めるべきだという考えがある。

国政選挙権・被選挙権については、国民主権に抵触することから外国人に国政選挙権等は認められていない。

では、地方選挙権・被選挙権はどうか。これに関しては有名な最高裁判例(H7.2.28)がある。

憲法15条1項 『公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。』

憲法93条2項 『地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。』

判例は憲法15条1項の「国民」とは日本国籍を持った日本国民を対象とすることは明らかであるとして、憲法15条1項による定住外国人の地方選挙権・被選挙権の保障を否定した。

また、憲法93条2項においても「憲法15条1項の規定の趣旨に鑑み、地方公共団体が我が国の統治機構の不可欠の要素であることをも併せ考えると、憲法93条2項にいう『住民』とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味すると解するのが相当であり、右規定は、我が国に在留する外国人に対して、地方公共団体の長、その議会の議員等の選挙の権利を保障したということはできない」とし、『住民』も日本国民に限られ、憲法93条2項によっても定住外国人に地方選挙権等は保障されないとした。

結局のところ、国政でも地方でも選挙権・被選挙権は外国人に保障されていない。特に国政選挙権等は外国人には認められない

しかし、最高裁は「憲法第8章の地方自治に関する規定は、・・・住民の日常生活に密接に関連を有する公共的事務は、その地方の住民の意思に基づきその区域の地方公共団体が処理するという政治形態を憲法上の制度として保障しようとする趣旨に出たものと解されるから、我が国に在留する外国人のうちでも永住者等であってその居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて、・・・法律をもって、地方公共団体の長、その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではない」とし、立法措置として定住外国人に地方選挙権等を付与することを認めた。

外国人は国民主権に抵触するため公権力の行使や公の意思形成に参画する公務員には就任できない。具体的には省庁の事務次官とか局長のような責任の重い職務や裁判官には就任できない。これらは公権力の行使や公の意思決定に直接的・間接的に関わる仕事だからだ。しかし、大学の教授や事務補佐員のような学術的、補佐的事務の公務員には就任できる。これらに関しては国民主権に抵触しないからだ。

外国人については参政権や公務員就任権が大きく制限されているが、国民主権原理の下では仕方ないだろう。我が国の統治を他国の干渉なく独立して行っていくためには選挙権等を日本国民に限ることを強く保障すべきだと思う。

立法措置によって地方選挙権等を定住外国人に付与することは可能だとしても、外国人が日本国籍をとれば選挙権が得られる以上、法律で定住外国人に選挙権を認める必要性は乏しい。また、国民主権を維持する必要性は強い。

よって、私は法律によって定住外国人に地方選挙権・被選挙権を認めることは反対である。

逃亡犯の公訴時効

2009-11-16 02:13:08 | 法律
刑事訴訟法第255条1項 『犯人が国外にいる場合又は犯人が逃げ隠れているため有効に起訴状の謄本の送達若しくは略式命令の告知ができなかつた場合には、時効は、その国外にいる期間又は逃げ隠れている期間その進行を停止する。 』

逃亡している場合は起訴することで公訴時効を停止できると読めるが、犯人確保をせずに起訴するということは通常ないだろうから、指名手配犯の時効は停止していないだろう。

パチンコは犯罪か?

2009-06-09 00:26:30 | 法律

パチンコは犯罪か?賭博や賭博場の開設は刑法上の犯罪である[1][2]。パチンコ遊技は偶然の結果によって景品の所有権をパチンコ店から遊技者に移転させる行為なので、刑法185条の「賭博」に該当し、パチンコ店の運営は刑法186条2項の「賭博場を開設し」に該当する。

しかし、風俗営業法(以下、風営法と略す。)によって、パチンコ遊技の結果に応じた景品(金銭や有価証券を除く)を提供することは認められている[3][4]。

法的にいうと、パチンコ店は風営法2条7号「ぱちんこ屋」に該当し、風営法23条2項「第二条第一項第七号のまあじやん屋又は同項第八号の営業を営む者は、前条の規定によるほか、その営業に関し、遊技の結果に応じて賞品を提供してはならない。」にパチンコ屋が含まれないことから、遊技の結果に応じた景品(金銭や有価証券を除く)を提供することは認められるわけだ。(ちなみに、麻雀やゲームセンターで遊技結果に応じて景品を提供するのは風営法第23条2項より景品提供自体が違法となる。)

よって、パチンコは風営法により認められた正当行為として違法性阻却され、犯罪とならない[5]。

しかし、風営法23条1項1号2号にあるとおり、景品を金銭や有価証券としたり景品を買い取ったりすることは禁止されており、これらの違反行為をすると風営法第52条2号により「六月以下の懲役若しくは百万円以下の罰金」となる[6]。

多くのパチンコ店では特殊景品を景品として提供し、景品交換所で換金している。これは風営法23条1項2号に違反し、違法ではないかと疑う人も多いだろう。

名目上パチンコ店と景品交換所は独立した団体で、パチンコ店で得た景品を景品交換所で換金するのはパチンコ店が景品を買い取ったことにあたらないため、風営法23条1項2号に違反しないというのが警察やパチンコ業界で通用している見解のようである。要するに、パチンコ店で得た景品を質屋などで換金したのと同じと考えているわけだ。

確かに、パチンコ店と景品交換所は登記上全くの別法人であり、法律上の外形ではパチンコ店と景品交換所は独立団体に見えるかもしれない。

しかし、実態的にはパチンコ店と景品交換所はぐるであり、パチンコ店の代わりに景品交換所が景品を買い取っているだけである

つまり、風営法23条1項2号違反の共同正犯(刑法60条)が成立しうる。共同正犯が成立するには①共同実行の意思、②共同実行の事実が成立することが必要である。

思うに、『パチンコ店と景品交換所の間で行われる"パチンコ遊技者への特殊景品提供→景品交換所での特殊景品買い取り→景品問屋が景品交換所から特殊景品を買い取り、パチンコ店に卸す"といういわゆる三店方式営業は、通常パチンコ店・景品交換所・景品問屋の間に「それぞれ役割を果たし、特殊景品の買取を実現しよう」という意思があり、それぞれが上述の役割を果たして特殊景品の買取を実現しているから、①②ともに満たす。』・・・(1)

よって、パチンコ店、景品交換所、景品問屋による特殊景品提供・買取は風営法23条1項2号違反の共同正犯(刑法60条)であり、犯罪(風営法52条2号、同23条1項2号、刑法60条)であると解する。

パチンコ店が直接金銭等を提供する代わりに物を間に介在させて、金銭等を間接的に提供しているにすぎないとみなすこともできる。その場合は風営法第23条1項1号違反となる。

この2つは同じ法定刑であり、同法23条1項1号違反か2号違反かは実際上それほど重要な区別ではない。景品が買い取られるという客観面を重視して風営法23条1項2号違反と考えるのが適切であろう。

以上をまとめると、一般人がパチンコをし景品を得るのは風営法により正当行為として違法性阻却され賭博罪(刑法185条)にはならないが、パチンコ店等が特殊景品を実質的に買い取るのは風営法違反(風営法52条2号、同23条1項2号、刑法60条)となり、犯罪である

警察はパチンコ店、景品交換所、景品問屋が独立営業なのは名目上のことで実際は結託していることぐらい知っているだろう。

パチンコ店等を検挙するには『・・・』(1)(以下、(1)と略す。)をきちんと立証しなければならない。外形上は独立団体に見えるパチンコ店・景品交換所・景品問屋がぐるであることを立証することが難しいのが警察が取り締まらない理由の一つかもしれない。

しかし、金銭と交換した特殊景品に偽物があったとして詐欺罪の被害届を景品交換所でなくパチンコ店が出し、パチンコ店と景品交換所の関係が明らかになったにも関わらず神奈川県警が検挙しなかった例などを考えると、(1)の立証が難しいという理由よりも、その他の理由でパチンコ店等の風営法違反を黙認しているのが現実だと思う[8]。

その他の理由として考えられるのは私の推測にすぎぬが、

・パチンコ業界が支払う税金収益が国にとって大きなメリットがある。
・パチンコ業界の監督官庁である警察庁や警察官の天下り先である保安電子通信技術協会(遊技機の仕様が適正であるかどうかを調べる試験を行っている団体)とパチンコ業界の間に癒着がある。
・保安電子通信技術協会のようなパチンコ関係の監督団体への天下り先を警察が確保したいと考えているため、パチンコ業界に賭博性を失ってもらっては警察が困るから。

といったことが挙げられる。どれも褒められたことではない。パチンコを射幸的遊技として合法化したいなら、(実質は脱法ではなく犯罪だと思うが)上記のような脱法行為を黙認するのではなく、競馬の競馬法のように合法化法を作るべきである。

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パチンコ店の違法換金を正したい方へ

上述のようにパチンコ屋の三店方式による換金は犯罪です。本来取り締まられるべきですが、警察が黙認しています。これはおかしなことで、警察との癒着、パチンコ依存症者の発生、脱税など様々な問題の原因になっています。こうしたことを正したいと思う方はパチンコ店の風営法違反を刑事告発するのが一つの手です。本文の『・・・』(1)と特殊景品の換金事実さえ立証できれば法律上有罪にできると思います。

風営法違反は親告罪ではないので、刑事訴訟法(以下、刑訴法)第239条1項により誰でも告発できますし、告発があれば警察は受理義務(犯罪捜査規範第63条1項)があり、捜査義務(刑訴第189条2項)が生じ、証拠書類等を速やかに送検しなければなりません(刑訴第242条)[9][10][11][12]。検察官が不起訴処分(起訴猶予を含む)にしても、検察審査会法第2条2項、同第30条により告発者は不起訴処分への不服申し立てができ、検察審査会で認められれば強制起訴できます[13][14]。裁判官がきちんと審理すれば、おそらく有罪になるでしょう。

このように法律上はパチンコ店の違法換金を有罪にでき、違法行為を正せるかもしれません。しかし、実際にやるのはかなり難しいでしょう。なぜなら、上で述べたようにパチンコ店の換金は警察が黙認しており、告発を受理しない等握りつぶされる可能性が高いでしょう。またこの違法行為は警察だけでなく、上の行政機関も黙認しているところがあり、検察が適当な理由をつけて不起訴にするでしょう。パチンコ市場は20兆円以上の巨大市場で、客のほとんどが金銭賭博目的である以上、換金を禁止したら重大な影響が出るのは必至で、税収も減るからです。司法は法原理機関ですが、上のような事情からまともに審理してくれるかわかりません。このように違法換金の刑事告発は様々な困難が予想されます。

警察などの対応は法律上おかしく批判が出るのは当然ですが、違法換金の黙認は「社会は必ずしも法律に従って動くわけではない」ことの一例です。良いこととは思いませんが、社会にはそういう側面があるのも現実です。

警察などの巨大機関が違法換金を黙認しているのですから、個人や小規模団体が告発してもまず勝てないでしょう。どうしてもこの問題を改善したいという人は、できるだけ多くの同志を見つけ、世間に違法換金の問題性を訴え世論を味方につけ、警察などに対抗できるだけの大きな力を持った上で争った方がよいでしょう。

(2011.5.21追記)

参考
[1]刑法第185条:賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。
[2]刑法第186条 常習として賭博をした者は、3年以下の懲役に処する。

2 賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、3月以上5年以下の懲役に処する。
[3]風俗営業法第2条7号:まあじやん屋、ぱちんこ屋その他設備を設けて客に射幸心をそそるおそれのある遊技をさせる営業
[4]風俗営業法第23条  第二条第一項第七号の営業(ぱちんこ屋その他政令で定めるものに限る。)を営む者は、前条の規定によるほか、その営業に関し、次に掲げる行為をしてはならない。
一  現金又は有価証券を賞品として提供すること。
二  客に提供した賞品を買い取ること。
三  遊技の用に供する玉、メダルその他これらに類する物(次号において「遊技球等」という。)を客に営業所外に持ち出させること。
四  遊技球等を客のために保管したことを表示する書面を客に発行すること。
2  第二条第一項第七号のまあじやん屋又は同項第八号の営業を営む者は、前条の規定によるほか、その営業に関し、遊技の結果に応じて賞品を提供してはならない。
3  第一項第三号及び第四号の規定は、第二条第一項第八号の営業を営む者について準用する。

[5]刑法第35条 法令又は正当な業務による行為は、罰しない。

[6]風俗営業法第52条  次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

二  第二十三条第一項第一号又は第二号の規定に違反した者

[7]刑法第60条:2人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
[8]川崎でパチンコ景品の偽物/560万相当、詐欺で捜査 四国新聞社 2005.5.16

[9]刑事訴訟法第239条1項 何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる。
[10]犯罪捜査規範第63条1項 司法警察員たる警察官は、告訴、告発または自首をする者があつたときは、管轄区域内の事件であるかどうかを問わず、この節に定めるところにより、これを受理しなければならない。
[11]刑事訴訟法第189条2項 司法警察職員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとする。
[12]刑事訴訟法第242条 司法警察員は、告訴又は告発を受けたときは、速やかにこれに関する書類及び証拠物を検察官に送付しなければならない。

[13]検察審査会法第2条  検察審査会は、左の事項を掌る。
一  検察官の公訴を提起しない処分の当否の審査に関する事項
二  検察事務の改善に関する建議又は勧告に関する事項

2  検察審査会は、告訴若しくは告発をした者、請求を待つて受理すべき事件についての請求をした者又は犯罪により害を被つた者(犯罪により害を被つた者が死亡した場合においては、その配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹)の申立てがあるときは、前項第一号の審査を行わなければならない。

[14]検察審査会法第30条 第二条第二項に掲げる者は、検察官の公訴を提起しない処分に不服があるときは、その検察官の属する検察庁の所在地を管轄する検察審査会にその処分の当否の審査の申立てをすることができる。ただし、裁判所法第十六条第四号 に規定する事件並びに私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律 の規定に違反する罪に係る事件については、この限りでない。


公然わいせつ罪、草剛の責任阻却、警察の違法捜査について

2009-04-28 17:56:55 | 法律
公然わいせつ罪(刑法174条、参考[1])の構成要件は「公然とわいせつな行為」をすることであるが、同罪の成立には公然性とわいせつな行為が必要である。

公然とは不特定または多人数が認識できる状態をいう(最高裁判決昭和32年5月22日)。不特定であれば少人数でもよく、多数であれば特定人の集まりであってもよい。また、現実にそれらの者がわいせつ行為を認識することを要せず、その可能性があれば足りる。

4月25日付けのYOMIURI ONLINEによれば、草なぎ剛が全裸なった事件は深夜とはいえ男性が公園にいたらしいので、公然性の要件は満たす。

「わいせつな行為」とは判例によれば「徒に性欲を興奮または刺激せしめ、且つ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」(最高裁判例昭和26年5月10日)とされる。

草なぎ剛の行為は全裸になるものであり、普通人の性的羞恥心を害すのでわいせつ行為に該当する。

しかし、わいせつの概念は一般人からの視点では明らかではなく、裁判所が意味を明らかにしてはじめて規範性を持つ規範的構成要件要素である。そのため、裁判官等でなければ構成要件の意味がわからず「その行為をしてはならない」という規範に直面したといえないので故意があるのかが問題となる。

思うに、裁判官など法律家でなければ規範の問題に直面したといえず故意がないとしたのでは法益保護がはかれないため、わいせつ行為の場合は法律家ほど構成要件の意味を理解していなくても素人水準で「いやらしいもの」というレベルの認識があれば規範の問題に直面したといえ、故意が認められると考える。(「意味の認識」)

草なぎ剛の事件の場合は「いやらしいもの」という認識はあるので、構成要件的故意を満たす。また、違法性も満たすだろう。

しかし、草なぎ剛の場合は泥酔し全裸になった時点で判断能力があったかどうか疑わしい部分もある。また、草なぎの社会的損失を考えれば草なぎ剛が全裸になる利点は全くないので、全裸になるために泥酔したとは通常考えられない。そのため、いわゆる原因において自由な行為の法理は適用されない[2]。

草なぎの当時の体調や供述を詳しく調べないとわからないが、草なぎ剛は行為当時判断能力がなかったとして責任阻却される可能性がある[3][11]。具体的には責任能力の鑑定を行って、責任能力がなかった若しくは責任能力の立証が困難だった場合は不起訴になると思われる。

思うに、本人は「気がついたときには警察にいた。」と供述しているが、草なぎ剛は警察官に声をかけられたとき「裸で何が悪い。」と反抗したことを考えると、簡単な受け答えや判断はできる状態であり、簡単な判断である「全裸をみせるのはいやらしいことだ」という程度の判断能力はあったかもしれない。

検察官が総合的に考慮して草なぎが行為当時責任能力がなかった、又は責任能力の立証が難しいと判断されれば、責任阻却となり草なぎ剛は起訴猶予でない不起訴となる。裁判官がそれと同じように判断すれば仮に草なぎは起訴されても無罪である。少なくても、犯罪の軽微さを考えれば最悪でも起訴猶予だろう。報道や参考[11]を考えると今回は起訴猶予の公算が大きい。

草なぎが単純酩酊、複雑酩酊、病的酩酊のうちどれだったのかはきちんと調べないとわからない。今回は単純酩酊だったとしても起訴猶予だろうが、単純酩酊か病的酩酊かは犯罪の成立を左右する重大事項だから、それをきちんと調べてもいいと思う。草なぎにとっても単純酩酊で公然わいせつしたのか病的酩酊で公然わいせつしたかでは今後の職業人生で影響が違う可能性があるし責任能力を争う利点はあると思う。調べてみると草なぎが単純酩酊だという人もいれば病的酩酊だという人もいるので、少なくても病的酩酊と判断される可能性が全くないわけではないと思う。単純酩酊、複雑酩酊、病的酩酊のうちどれなのかは、鑑定をして明らかにした方がいいと思う。

一方で今回の警察の草なぎ剛宅への捜索は違法の疑いがある。捜索は強制捜査で令状が必要である[7]。今回の捜索は令状にもとづくものだろうが、普通に考えると公然わいせつで家宅捜索を行う必要性は乏しい。

また、尿検査(たぶん、草なぎへの採尿検査は任意捜査。無論令状があれば強制採尿もありえる[8]。)をしたという事実を考えると捜索の目的は麻薬等の発見を目的として行ったと思われる。つまり、別件での捜索である疑いがある。

麻薬取締法違反(大麻取締法違反、覚せい剤取締法違反などのこと。以下これら薬物関連の犯罪を麻薬取締法違反と略す。別件捜索の場合の本件に該当。[13])での捜索か公然わいせつ罪(別件捜索の場合の別件に該当。[13])での捜索かを判断するのは警察官の内心に踏み込んだ判断なので簡単には判断できない。このような場合は、別件および本件の犯罪としての軽重の比較、関連性、本件の取調べに要した時間を含めた逮捕後の取調べ状況、別件と本件の捜査が当初から併行して行われていたか否かなど客観的状況から総合的に判断すべきである。

思うに、公然わいせつ罪(6月以下の懲役)と麻薬取締法違反(例えば大麻所持-5年以下の懲役、覚せい剤使用-10年以下の懲役[5])では罪の軽重の差が大きい。

関連性については公然わいせつ罪と麻薬取締り法違反の罪質を考えると一般には関連性が薄いと考えられるが、酩酊による混乱も薬物による混乱も混乱という点では共通しているから、関連性が全くないとも言い切れないかもしれない。

しかし、混乱しているというだけで麻薬取締り法違反との関連性が肯定されるなら、全ての酩酊者は麻薬取締り法違反で取り締まられかねないので、自由保障上妥当でない。

そこで、少なくとも麻薬取締り法違反を疑わせる他の客観的な証拠がない限り混乱しているというだけで関連性を肯定し、プライバシー侵害が著しい捜索を認めるのは妥当でない。関連性を肯定するには例えば、被疑者が全く酒臭くないのにひどく混乱しているといった状況が必要だと考える。

結果的には草なぎは薬物に関して全く嫌疑がなかったことを考えると、逮捕時に薬物による混乱を疑わせる客観的事実はなかったものと推察される。よって、当該事件では関連性も乏しい。

さらに、公然わいせつ罪の証拠が現行犯逮捕時で十分にあったことや公然わいせつ罪に対する家宅捜索や尿検査の必要性が乏しいことを考えると、警察が行った家宅捜索や尿検査はもっぱら麻薬取締法違反のための捜査だと考えられる。

以上より、警察の行った家宅捜索は別件捜索である疑いが強く、実質的に令状主義を潜脱し、違法である疑いが強い[10]。

特にプライバシー侵害が著しい捜索で別件捜索するのは、任意捜査以上に許されない。裁判所も捜索令状請求をきちんと審査し、捜索令状請求を却下すべきではなかったか。また、警察がこのような捜査を行うのは断じて許されない。

参考
[1]刑法174条:公然とわいせつな行為をした者は、六月以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

[2]原因において自由な行為の法理:完全な責任能力を有さない結果行為によって構成要件該当事実を惹起した場合に、それが完全な責任能力を有していた原因行為に起因することを根拠に、行為者の完全な責任を問うための法理。例えば、殺人を犯すために覚せい剤を使用し錯乱状態になって殺人を犯した場合に殺人罪の罪を問う場合に用いる。

[3]犯罪は、構成要件、違法性、責任の3段階がすべて認められて成立する。責任が成立するためには規範の問題に直面して反対動機を形成できる能力が必要である。病気や泥酔、麻薬などによって一時的又は恒常的に心神喪失した場合に犯罪の構成要件該当行為を行った場合は、規範の問題に直面して反対動機を形成できないため責任阻却され、無罪となる[4]。

[4]刑法39条1項:心神喪失者の行為は、罰しない。

[5]大麻取締法第24条の2第1項:大麻を、みだりに、所持し、譲り受け、又は譲り渡した者は、五年以下の懲役に処する。

(私見)
大麻吸引など通常の大麻違反使用者である研究目的外の大麻使用を直接取り締まる条文はない。おそらく、大麻を所持しなければ使用もできないはずだから、通常の大麻違反使用者は大麻取締法第24条の2第1項の大麻所持違反で取り締まられていると推測する。

[6]覚せい剤取締法第41条の3 1項: 次の各号の一に該当する者は、10年以下の懲役に処する。
一 第19条(使用の禁止)の規定に違反した者

[7]現行犯逮捕では必要な場合、無令状捜索ができる。

刑事訴訟法第220条第1項 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第199条の規定により被疑者を逮捕する場合又は現行犯人を逮捕する場合において必要があるときは、左の処分をすることができる。第210条の規定により被疑者を逮捕する場合において必要があるときも、同様である。
一 人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入り被疑者の捜索をすること。
逮捕の現場で差押、捜索又は検証をすること

第2項 前項後段の場合において逮捕状が得られなかつたときは、差押物は、直ちにこれを還付しなければならない。

第3項 第1項の処分をするには、令状は、これを必要としない

草なぎの逮捕現場は自宅ではないので刑事訴訟法第220条第1項2号、同条3項は適用されず、家宅捜索を行うには刑事訴訟法第218条1項により裁判官の発する令状が必要となる[9]。したがって、草なぎ宅への捜索は形式的には裁判官の発した令状にもとづき行われたものと思われる。

しかし、本文で述べたとおり草なぎ宅への家宅捜索は実質的に令状主義の潜脱であり違法である疑いが強い。

[8]強制採尿は被疑者に耐え難い屈辱を与え人としての尊厳を侵すものだから、判例は強制採尿は嫌疑の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在に照らし、犯罪捜査上、真にやむを得ないと認められる場合に、最終的手段として、適切な法律上の手続きを得たうえ、被疑者の身体の安全とその人格保護のため、十分な配慮が施されたうえで、強制採尿が許されると考えている。

そのため、採尿検査は被疑者から任意提出を受け領置するのが原則である(刑事訴訟法221条)。判例によれば、強制採尿のためには医師をして医学的に相当と認められる方法で行わせなければならない旨の条件記載付の捜索差押さえ令状が必要である。

したがって、草なぎへの採尿検査は任意捜査である可能性が高い。

[9]刑事訴訟法第218条第1項: 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押、捜索又は検証をすることができる。この場合において身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。

[10]別件逮捕・捜索・差押えは違法であるが、警察は常態的に行っているのが現実である。

[11]飲酒時に行った犯罪についてはビンダーという学者が提唱した三分法という考えにより、酩酊状態を

①単純酩酊 → 完全責任能力あり → 通常通りの罰則
②異常酩酊-(1)複雑酩酊 → 限定責任能力(心神耗弱)→ 必要的減軽
       -(2)病的酩酊 → 責任無能力(心神喪失) → 無罪

と分類して扱うのが実務で広く使われているという。公然わいせつ罪のような重大でない犯罪については通常責任能力鑑定されないらしい。
(以上、弁護士・落合洋司:「日々是好日」 2009.4.25 より)

とすると、草なぎは起訴猶予になる可能性が高い。
[12]単純酩酊、複雑酩酊、病的酩酊については「酩酊の分類

[13]別件捜索とは「もっぱら本件について証拠を発見・収集する目的で捜索の理由と必要性がない、または乏しい別件により捜索を行うこと」である。草なぎの事件の場合は、本件が麻薬取締法違反であり、別件が公然わいせつ罪である。