バルサルタン:滋賀医大 データ操作認め謝罪
毎日新聞 2013年10月31日 22時04分(最終更新 10月31日 23時04分)
降圧剤バルサルタン(商品名ディオバン)の臨床試験疑惑で、滋賀医大の研究行動規範委員会は31日、「論文に使われた患者データの約10%がカルテの数値と一致せず、一部でバルサルタンの効果が強調される方向になっていた」とする調査結果を発表した。恣意(しい)的なデータ操作の疑いを認め、「論文には問題が多く、撤回(取り消し)した方がよい」との見解を示した。一連の疑惑で論文の科学性が否定されたのは、東京慈恵会医大、京都府立医大に続いて3大学目となった。
馬場忠雄学長は記者会見で「社会を騒がせ、深くおわびしたい」と陳謝した。大学は研究責任者で副学長でもある柏木厚典(あつのり)・付属病院長の処分を検討する。
滋賀医大の研究チームは、高血圧の2型糖尿病患者150人を対象に2003年から試験を始めた。07年、バルサルタンを服用すると腎機能が改善すると米糖尿病学会誌で発表した。
調査でカルテが残っていたのは101人分。1カ月ごとにデータを取っていた。論文と照合した計661のデータのうち約10%が一致しなかった。特に、最終評価する時点で目立ち、バルサルタンを服用した患者グループで23・8%、比較した別の降圧剤を服用した患者グループで17・6%に達した。バルサルタンに都合のよい不一致が多く、調査委は「不自然で、恣意性が否定できない」と結論付けた。
試験には、慈恵医大、府立医大で統計解析を担当したとされる製薬会社ノバルティスファーマの社員(既に退職)に加え、この社員の部下だった社員(同)も参加していた。元社員は、試験実施計画書の作成段階で助言を行い、部下は数値計算やグラフの作成の補助などを担ったという。元社員と部下は「データ操作はしていない」と証言したが、調査委は「利害関係のある企業の社員の参加に問題があった」とした。
バルサルタンの臨床試験は、府立医や慈恵医、滋賀医、千葉、名古屋の5大学の各研究チームが実施。いずれもノ社の社員が関係していた。今年7月、府立医大と慈恵医大がそれぞれデータ操作されていたと発表した。ノ社は5大学に総額11億3290万円の奨学寄付金を支出しており、滋賀医大には6550万円を提供していた。大学の資料によると、柏木氏個人には講演料などで5年間に計255万円の謝金があった。【河内敏康、千葉紀和】
◇製薬会社の調査と異なる結論…疑惑の複雑さ深まる
バルサルタンの臨床試験疑惑で、大学が不正の可能性を認めた試験は滋賀医大で3大学目だ。東京慈恵会医大と京都府立医大はノバルティスファーマの社員による不正を示唆したが、滋賀医大は社員によるデータ操作の可能性は小さいとみている点で異なる。調査は一歩進んだが、疑惑の複雑さは深まったともいえる。
滋賀医大によれば、慈恵医大と府立医大の試験に参加していた社員が今回も関わっていたが、滋賀医大の試験への関与は限定的だったとした。その部下の社員は数値計算やグラフの作成を補助したことを認めつつも、データ操作は否定した。医師たちからも、社員らに操作できる余地があったとの証言は得られなかった。こうした調査結果から、調査委は「(社員による操作は)起こりそうにない」との見方を示した。
しかし、ノ社は内部調査を経て、滋賀医大でも社員の関与の仕方が小さくなかったとの見解をまとめており、大学と食い違う。
文部科学省のガイドラインは、研究不正が疑われた場合、当事者が所属する組織ごとに調査することにしている。しかし、複数の組織が関係する今回のようなケースでは限界が明らかで、新たな調査の枠組みが必要だ。【八田浩輔、河内敏康】
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バルサルタン:研究責任者は副学長「データ入力ミス」主張
毎日新聞 2013年10月31日 22時11分(最終更新 10月31日 23時01分)
「科学的論文としては不適切」。滋賀医大の調査委員会も31日、降圧剤バルサルタン(商品名ディオバン)の臨床試験でデータ操作の可能性を認めた。研究責任者の柏木厚典(あつのり)氏は、副学長で付属病院長という大学最高幹部の一人。柏木氏は大学側の発表に対して「データ入力のミスに過ぎない。不正ではない」と強く反発した。
滋賀医大の臨床試験には14病院と患者150人が協力した。馬場忠雄学長は記者会見で、「協力していただいた患者さんに大変申し訳なく思う」と謝罪した。だが、調査委員長を務めた服部隆則副学長は「(論文を)取り下げた方がいいと思っている」と述べる一方、「撤回は研究者本人がやるもの。修正で済ませるならそれも一つの方法」と話すなど、次期学長の有力候補とささやかれてきた柏木氏への配慮をにじませた。
患者150人のうち、大学や関連病院に残っていたカルテは101人分。カルテと論文上のデータを照合した調査委は当初、腎機能に関する尿中のたんぱくの数値に約14.5%の不一致があったと判断していた。ところが柏木氏も同じデータを自ら再解析して相違分は約9%と主張した。調査委はこれを一部受け入れ、不一致率を10.1%と結論付けた。
柏木氏もこの日大学内で取材に応じた。「不一致は担当者の入力ミス。論文の結論が真実だったかどうかが重要で、論文の結論に誤りはなかった」と強く反論した。
柏木氏の研究室には製薬会社ノバルティスファーマから6550万円の奨学寄付金が渡り、社員2人が試験に関与していた。論文の公正性に関わる情報を開示しなかったことには「当時は(積極的に公表するという)概念が無かった。6年半前に終わった研究を現在のルールで裁くのか」とも述べた。
国立大の現役病院長が関与した研究で不正の可能性が指摘されるのは異例だ。柏木氏は「迷惑をかけたことは申し訳ないが、不正だという根拠はない。不正でない以上、辞める必要はない」と語った。【千葉紀和、八田浩輔】
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高血圧薬論文、滋賀医大も「不適切」 データ1割不一致
2013年10月31日18時39分
滋賀医科大は31日、製薬大手ノバルティスの高血圧治療薬ディオバンの効果を調べた同医大の臨床研究論文について、「論文データの10・1%がカルテと合わなかった」とする調査結果を公表した。ディオバンの効果を実際より高く見せかけようとした可能性もあるといい、「科学的論文として不適切」と結論づけた。
同医大の研究は2003年に始まり、「ディオバンは腎臓を守る効果がほかの薬より高い」とする論文が07年に米糖尿病学会誌に発表された。ディオバン研究をめぐって不適切と認定されたのは、京都府立医科大と東京慈恵会医科大の論文に続いて3大学目。
同医大の調査委によると、研究に参加した患者150人分の尿検査のデータのうち、101人分についてカルテと照合できた。このうち10・1%のデータが、論文とは異なっていた。ただ、誰が数値を操作したかについての証言は得られなかった。
同医大はこのほか、ノバルティスの社員2人(いずれも退社)が研究に参加していたことも明らかにし、会見で「社会から批判を受けても仕方がない」と述べた。
データの食い違いについて、柏木厚典教授(現・副学長兼付属病院長)は朝日新聞の取材に「入力ミスが多かった。ディオバンを有利にする意図はなかった」と説明している。
朝日新聞
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滋賀医大も調査結果を公表した。論文データとカルテの不一致が約1割あり、データ改ざんの可能性もあった。研究責任者の柏木厚典教授(現・副学長兼付属病院長)はお決まりのように入力ミスと主張。あくまで過失で通すようだ。ディオバンの効果を実際より高く見せかけるようにたくさんミスするなんて常識的にはないと思う。毎日は見出しで「データ操作を認め」と書いている。毎日はバルサルタン事件をスクープしたためか他紙より踏み込んだ言及をする。
今回注目すべき点は改ざんがノ社元社員の関与によるものでない可能性が高く、京都府立医大や東京慈恵会医大の見解と異なる点だ。やはりノ社との癒着によって研究者が悪に手を染めてしまったのだろうか。府立医大や慈恵会医大の調査は本当に正当だったのだろうか。
また柏木が論文の結論が間違っていないと主張する点は最低でもきちんと根拠を示す必要がある。上昌広(東大医科学研究所特任教授)のツイッターによると別個会見するという話があるそうなので、きちんと説明してほしい。私見だが、ディオバンに有利になるように多数データを入力ミスするという都合のよいことはまず起きないので、このような主張を否定し不正を認定すべきだ。不正責任を免れるためにお決まりのように被疑者は過失を主張するが、このような主張を認めていたらおよそすべての研究不正事件は過失で処理され不当に責任を免れさせるという極めて不条理なことになってしまう。東北大の井上前総長の事件など、これまでも何度もこのような不当な調査裁定が行われた。いい加減にこのような不条理な調査裁定は改善しなければならない。
私はデータ改ざんがあったので論文を撤回すべきだと思うが、柏木や他の著者は最低でも迅速に論文を訂正してほしい。発表内容に誤りがあった以上それを撤回又は訂正するのは研究者の最低限度の責任だ。調査委員長を務めた服部副学長は論文を撤回した方がいいとしつつも、撤回を著者の柏木らの自主性に任せ、訂正で済ませられるならそれも一つの方法だと主張したことは最高幹部の一人である柏木に辛くあたれないためだろうか。訂正で処理するならメガコレクションになるのだろう。上でも述べたようにディオバンに有利になるように多数ミスが起きることはないから、結論が間違っている可能性が非常に高いと思うので、私は撤回すべきだと思う。
今後研究不正調査制度の改善を期待する。