世界変動展望

私の日々思うことを書いたブログです。

理研調査委員長が辞任 STAP対応に影響も

2013-02-28 23:56:35 | 社会

理化学研究所は25日、STAP(スタップ)細胞論 文の不正を調べる調査委員会の石井俊輔委員長(理研上席研究員)の辞任を発表した。石井氏が責任著者を務めた論文で、画像の切り張りが明らかとなったため だ。STAP細胞論文で不正を認定した調査委の最終報告書に対し、小保方(おぼかた)晴子ユニットリーダーが不服を申し立てている。理研の対応に影響しそ うだ。

 石井氏は24日夜に辞任の意向を伝え、理研が25日に了承した。理研は、画像加工が不正にあたるのか予備調査を始めた。新しい委員長には、委員の渡部惇弁護士が26日付で就任する。

 石井氏ら2人が責任著者の論文は、乳がんにかかわるたんぱく質に関する内容で、2007年に英科学誌ネイチャーの関連誌電子版に掲載された。石井氏によると、ネット上などで「画像の一部が切り張りではないか」と指摘され、遺伝子解析の画像を加工していたことがわかったという。

 画像はマウス十数匹の遺伝子の状態を示すデータを並べたもの。もともとは2枚の画像で、そこからマウスごとにデータを抜き出し、本文の説明に合うように順番を並べ替えて1枚にまとめる形にしていた。

 石井氏は自身の研究室のサイトに実験ノートを公開し、同じ条件で同じ時期に行った実験であることを示した。「論文の結論には影響しない」と記し た。また、取材に対して「不正とは考えていない」とし、調査委の報告書について「今回のことでは揺らがないと考えている」と述べた。

 STAP細胞論文でも遺伝子解析の画像が問題となった。小保方氏は、画像2枚のうち1枚の一部を切り取って縮小し、もう1枚に挿入したと説明している。調査委は「あたかも1枚のように錯覚させる」として「改ざん」と認定した。

 小保方氏の代理人は「(石井氏が)不正でないとすれば、小保方氏も同じだ。(調査委の報告書は)信用できない」と述べた。

 また、04年発表の別の論文にも疑義があり、石井氏は当初「問題ない」としていたが、25日夜、研究室のサイトで「最近のルールは厳しくなっている」とし、画像の切り張りを認めた。

 調査委員長の辞任について、理研広報室は「(STAP細胞論文を)再調査するかどうかの結論を出すタイミングに影響しない」とする。ただ、不正防止策を検討している理研の改革委員会の岸輝雄委員長は「(改革委の報告書が出る時期が)若干ずれるかもしれない」と語った。

朝日新聞

2014年4月26日


白紙・STAP論文:/5止 米研究員、不正戒めに「リケンするな」 信頼回復、道険し

2013-02-28 23:55:07 | 社会

毎日新聞 2014年07月08日 東京朝刊

 理化学研究所を舞台に起きたSTAP細胞論文問題。国内の男性研究者は、米国在住の知人から残念な話を聞いた。「米国のポスドク(博士研究員)の間で、不正を戒めるときに『リケンするな』と言っているらしい」

 別の研究者は欧州での学会で「理研の対応はジョークか」とからかわれ、さらに別の研究者が米国の会議に出席した際は小保方(おぼかた)晴子・理研研究ユニットリーダーの博士論文の盗用疑惑が話題になったという。若手研究者のキャリア問題に詳しい榎木英介・近畿大講師は「日本の大学院は海外からディプロマ・ミル(金銭と引き換えに学位を授与する機関)とみなされ、留学生が来なくなる恐れもある」と心配する。

 イノベーション(技術革新による産業振興)を成長戦略の柱に掲げる安倍政権にとって、日本の科学技術の信頼低下は国益に関わる。文部科学省が2日に公表した研究不正対応の指針改定案は、研究者の所属機関の責任を重視し、不正防止策が進まない場合は組織への予算配分を減らす罰則も盛り込んだ。

 こうした個別機関の取り組みと並行し、より中央集権的な仕組みの導入も模索されている。モデルは米国の研究公正局(ORI)だ。生命科学分野を中心に、国が助成した研究の不正を調査し、倫理教育を提供する政府機関。文科省の作業部会は昨秋、「日本版ORI」とも言える公的監視・調査機関の設置の検討を求める中間取りまとめを出した。

 ただし、取り締まり機関を作るだけでは、研究不正はなくならない。松沢孝明・前科学技術振興機構参事役が今年1月に出した論文によると、論文10万件当たりの研究不正による論文撤回数は日本が4・8、ORIがある米国もほぼ同じ4・6だった。一方、米国と似た研究公正当局を持つ中国は10・8、不正防止対応を各研究機関に委ねているフランスが0・6と低かった。

 国立研究機関の労働組合が今春、研究者ら約1000人にSTAP問題の背景を聞いたところ、最も多かった回答は「短期的な成果を求める評価主義」だった。だが、佐倉統(おさむ)・東京大教授(科学技術社会論)は言う。「成果主義が問題なのではない。何を成果とするのかを官僚任せにせず、専門家集団である研究機関や学会が正しく評価することが必要。つまり、大切なのは研究組織のガバナンス(組織運営)の力量だ」

 抜本的な改革を突きつけられた理研。さまざまな優遇策が認められる特定国立研究開発法人への指定も、「ガバナンスの欠如」から先送りされた。国会議員からは「理研は国民が納得する説明責任を果たすべきだ」と注文がつく。STAP細胞論文は白紙に戻ったが、問題の全容はなお見えない。日本の科学技術は信頼を取り戻せるのか。今、正念場を迎えている。=おわり

     ◇

 この連載は、須田桃子、清水健二、八田浩輔、大場あい、下桐実雅子、斎藤有香、千葉紀和、根本毅、斎藤広子、永山悦子が担当しました。


女と男、STAP騒動から考えた 隠れた意識が働くとき

2013-02-28 23:53:50 | 政治・行政

岩本美帆、編集委員・高橋真理子 朝日新聞 2014年7月9日12時11分

今年1月28日、神戸市の理化学研究所。無機質な設備が並ぶ場所での記者会見は、普段と全く違う華やかな雰囲気に包まれていた。

 カメラの前にいるのは、小保方晴子氏(30)。アイラインを強調したフルメークに巻き髪、指にはゴールドの大きな指輪。いやが応でも目をひく、とそこにいた記者は感じた。

 彼女が立ち上がると、ひざ上丈のフレアスカートがふわりと揺れ、フラッシュが一斉にたかれた。歴史に残る大発見をしたのは「若くてかわいらしい女性」だった――。

 一連のSTAP細胞問題は、ワイドショーも連日取り上げ、みんなの関心の的になった。なぜあれほど人々をひきつけたのだろう。

 STAP細胞の真偽のせいばかりではない。彼女個人に対する関心が非常に高かった。それは誰の心にも眠る「意識の底にあるもの」のためではないか。

 人は時に性別や年齢、容姿といった属性だけで判断を左右してしまう。あるいは利用し、消費する。眠っているときもあれば、表に顔を出すときもある。人々の思考に大きな影響を与えている。

 最近では、都議会や国会でのヤジ騒動もあった。問題となったヤジは明らかな偏見だ。普段は口に出して言わないものが、不規則な形で表出した。

 「女が生きる 男が生きる」というこのシリーズを始めるにあたって、この「隠れた意識」に向き合いたい。それを自覚することが、誰もが生きやすい社会を実現する最初の一歩になるかもしれないと考えるからだ。

 まずは、STAPフィーバーを見た女性科学者の話から始める。(岩本美帆、編集委員・高橋真理子)

■女性のリーダー、なぜ少ない

 STAP報道を見て、名古屋大学大学院生命理学専攻の佐々木成江准教授は「ようやく女性研究者の活躍が目に見える形で出た」と喜んだ。同じ専攻に4人の女性研究者がいる。報道後、地元テレビから「理系女子(リケジョ)の活躍を取材したい」と依頼された。

 森郁恵教授は即座に応じた。「女性研究者で脳研究拠点を作る計画があり、リケジョブームを利用しようという気持ちがあった」と正直に打ち明ける。

 取材を受けた森さんと佐々木さんはカメラの前で「画期的な成果」と褒めちぎった。論文不正が明らかになると、2人は「科学者として反省しています」。

 このせいばかりでなく、番組はいささか後味の悪いものになった。子育てと両立する大変さがことさら強調されていたからだ。

 10歳の娘がいる佐々木さんは「こうやって、女性が社会進出できない理由が子育て問題に落とし込まれる。(組織の意思決定をする)幹部に女性が少ないことが根本問題なのに、そこに目が向かない」と嘆く。

 森さんは番組で「結婚も出産もせずにきた」ことがクローズアップされた。1998年に名大助教授になり、2004年に教授に昇格した。「紅一点」状態が変わったのは07年。女性を増やすという国の方針もあり、名大が「女性に限る」公募を始めてからだ。

 体内時計研究で朝日賞を受けた近藤孝男・名大特任教授は「通常の公募の時は低かった応募女性の研究レベルが、女性限定にしたらガンと上がった」。

 なぜだろう。公募に応じ、11年に36歳で教授になった上川内あづささんは「『女性のみ』という条件は、応募する気持ちを後押ししてくれた。その条件があることで、自分を候補として認識したと思う。それがなければ、公募情報を見過ごしていたかもしれない」という。これまでの男性中心の採用状況から「応募しても無駄」と、挑戦する前にあきらめてしまう女性が少なくないことをうかがわせるエピソードだ。

 日本の女性研究者比率は14%。米国の34・3%の半分にも満たない。准教授、教授となるにつれて女性比率は下がる。名大でも女性教授は47人、7・2%だ。

 92年に理系で初の東大教授となった黒田玲子東京理科大教授は、昔は露骨な差別があったと言う。「公募で東大助教授に選ばれた時は、女に男の学生を教えられるのかと言われた」

 今はそんなことを誰も言わない。だが、女性リーダーは少ない。女性限定の公募が必要なのは、日本がまだ過渡期にあるからだ。

■ずさんな採用、差別と同根

 STAP細胞の研究不正を検証した、外部の有識者でつくる改革委員会(岸輝雄委員長)は、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(CDB)の小保方晴子氏の採用を「信じ難い杜撰(ずさん)さ」と指摘した。

 過去の論文を精査しないなどさまざまな手続きを省略、人事委員会の面接だけで内定したからだ。改革委のメンバーの一人は「理研から見せてもらった書類を総合すると、間違いなく普通ではない人事のやり方がなされたと言える」。

 人事の焦点が、STAP細胞という大発見の可能性にあったのはもちろんだ。しかし採用に加え、その後の論文のチェックの甘さなどには、彼女の年齢や容姿が影響した、と複数の委員は見る。「50~60代の男性研究者は(若い女性に)免疫がない。若さやかわいさが大きな要因になっていた」。ある委員は語った。

 CDBには高橋政代氏ら女性の研究室主宰者(PI)が6人いる。32人中19%を占めるが、採用担当の人事委員会の委員7人は全員男性だ。2012年のPI公募で、47人の応募者からの採用は女性2人、男性3人。採用審査には通常賛否両論が出るが、小保方氏の場合は全員が賛成した。

 採用側に女性がいたら? ある委員は「女性、たとえば高橋(政代)さんらがいたら(採用段階で問題点を)見抜けたかもしれない」という。当の高橋氏は「かわいい小保方さんじゃなかったら、ずいぶん経過は変わっていただろう」と4日の記者会見で語った。

 改革委の岸委員長は、調査を通じ「男性が女性をフェアに扱っていないと感じた」という。自分自身の研究生活でも、女性の同僚はほとんどいなかった。今回の改革委には2人の女性がいたが、「2人は、審査なしで採用するのは女性を侮辱していると、男性たちに怒っていた」と話す。女性の登用を増やす措置は必要だが、ずさんな審査での特別扱いは別だ。「隠れた意識」はここでは、特別扱いに形を変えた。差別と同根と言えるかもしれない。

 委員の市川家國信州大学特任教授はこう言った。「振り返ってみれば、女性を対等に扱わない日本の文化が、一連の経過のすべてに表れたようにも見える」

■人物像の報道、どこまで必要

 今年5月。予備校講師の林修氏がキャスターの番組に、朝日新聞のデスクが出演した。林氏はSTAP騒動の報道について「すごいニュースだが、かっぽう着などは不必要な報道だったのでは?」と質問した。

 報道を振り返る。STAP細胞発見を知らせる1月30日の新聞では、全国紙すべてが理研が公開した研究室での、小保方氏のかっぽう着姿の写真を載せた。

 科学というとっつきにくい分野に読者に関心をもってもらうため、人物に焦点をあてるのは工夫の一つだ。翌日からはテレビ、週刊誌をはじめ、STAP細胞そのものより、小保方氏自身や人物に焦点を当てた記事や番組も増えていく。

 捏造(ねつぞう)疑惑が持ち上がり、小保方氏が開いた4月9日の記者会見を報じた記事で、新聞各紙は写真を大きく扱った。9日の夕刊最終版は各紙すべてが1面に潤んだ目でマイクを持つ小保方氏のアップ写真を掲載。多くのテレビ局が小保方氏の会見を生中継した。

 朝日も地方に配達する10日付の朝刊の締め切りの早い版(東京本社発行)では、社会面トップ記事に彼女のさまざまな表情を追った4枚の写真を据えた。しかし、社会部の女性記者(31)は「これって男目線じゃないですか」と再考を求めた。様々な世代の男性からも異議が上がった。

 一方で、2時間半の会見では、最大の当事者である彼女がどのような表情をするのかも注目された。それを伝えるのは新聞の役割で、止めるのは変な抑制という議論もあった。結局、東京本社では小保方氏の姿を遠景で撮った写真1枚に差し替えた。

     ◇

■活躍する女性への思い込み

 《武田徹・恵泉女学園大教授(メディア論)の話》 一般に先端科学は報道で伝えるのが難しい分野だ。図解しても、直感的にわかりにくい。科学者の人となりを紹介して興味を持ってもらうやり方はある。iPS細胞を開発した山中伸弥・京都大学教授の時も、「マラソンが趣味」といった報道があった。

だから、当初、小保方さんの人となりの報道に重点が置かれたことは仕方がない面もある。メディアは「読者はこれだったら見てくれるだろう」というものを報道する。実際、閲読ランキングでもそういう記事が上位になる。

 しかし、小保方氏の顔や容姿の写真が大きく何枚も報じられ続けたのはやはり異例だった。それは「若い女性」が科学技術の世界にいて、ああいう成果を出すことが意外に感じる。そういう文化に私たちが生きているからだ。こんな若い女性が、こんな発見をするはずがない。最先端を競う科学の世界に「女子力」を強調するような人がいるのは意外だ――。そう思い込んでいるからだ。意外さが興味を引くと考えてメディアはそれを強調した。

 本当は意外でも何でもない。根拠のない思い込みだ。戦後の日本では、仕事を持つ女性が増えるなか、男性社会で頭角を現す女性は男っぽく、プライベートを犠牲にしているとのイメージが作られてきた。小保方氏はそのイメージから外れていたから意外に思われたのだ。イメージ作りでは、マスメディアもいわば一蓮托生(いちれんたくしょう)の共犯関係で、相当気をつけないと、その文化に乗っかって報道してしまう。(聞き手・伊東和貴)

     ◇

■「隠れた意識」に向き合いたい:担当デスク・秋山訓子

 2月2日の朝日新聞3面(東京本社版)「キスでお目覚め『お姫様細胞』」。STAP細胞の作り方を説明した小保方氏自身の言葉に着目したものです。紙面内容を決めるデスク会に出ていた私は、若くてかわいい女性だからこその取り上げ方のように感じました。が、口にしませんでした。

 私の所属は政治部、男性中心の職場です。東京本社も、デスク会に出席する女性は1割未満。言っても無駄と最初からあきらめていたからです。心にずっとそれがひっかかっていました。

 今回、「隠れた意識」をテーマにしました。社内にもいろいろな意見があります。この問題はそう単純ではありません。だからこそ取り上げることにしました。これから年間を通じて、女性男性を通じたさまざまな視点から、社会を切り取っていきます。


万能細胞:STAP論文問題 小保方氏博士号取り消さず 早大調査委、不正6カ所認定 「審査不備」大学を批判

2013-02-28 23:52:55 | Weblog

毎日新聞 2014年07月18日 東京朝刊

 撤回されたSTAP細胞論文の筆頭著者、小保方(おぼかた)晴子・理化学研究所研究ユニットリーダーの博士論文について、早稲田大の調査委員会 (委員長=小林英明弁護士)は17日、論文の6カ所に不正があったと認定する一方、それらが博士号を与えた判断に重大な影響を与えていないとして、「博士 号取り消しに該当しない」とする調査結果を発表した。

 一方、論文の指導、審査体制について、「内容の信ぴょう性、妥当性は著しく低く、審査体制に不備がなければ博士号が授与されることは到底考えられない」と大学側を厳しく批判。指導や審査にあたった常田聡・早大教授らに「重大な責任がある」と指摘した。

 小保方氏は2011年3月に博士号を取得した。博士論文を巡っては、米国立衛生研究所のホームページに掲載された文書とほぼ同一の記述が20ページ超にわたって確認されるなど多くの問題が指摘され、早大は今年3月に調査委を設置した。

 東京都内で記者会見した小林委員長によると、論文には11カ所の著作権侵害(盗用)など計26カ所に問 題点があった。小保方氏は、この論文について「草稿段階のものを誤って製本、提出した」と主張。調査委は主張に基づき一部は過失と認めたものの、6カ所の 文章や図は故意による不正と判断した。小保方氏が5月に調査委に提出した「完成版」にも盗用が残っていたという。

 早大の規則では、博士号の取り消しは「不正の方法で学位(博士号)を受けた場合」と規定。調査委は、取り消しには不正が授与に重大な影響を与えたことが必要だと解釈し、今回は実験部分など論文の中核には不正はなかったとして「取り消しには当たらない」と結論づけた。

 一方、小林委員長は「要件に該当しないだけであり、無断転用など問題の重大性は変わらない」と強調するとともに、小保方氏について「データ管理のずさんさ、注意力不足、博士論文への真剣味の欠如があった」と指摘した。

 小保方氏は調査委の聞き取りで、不正について、「許されるものと思った」と話したという。【大場あい、須田桃子】

 ◇「安心材料だ」−−小保方氏代理人

 小保方氏の代理人を務める三木秀夫弁護士は17日、大阪市内で報道各社の取材に応じ、調査委員会の結果 について「本人にとっても安心材料の一つになるだろう。大学は調査委の報告書を尊重して対応してほしい」と話した。小保方氏には結果をメールで伝えたとい う。【畠山哲郎】

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 ■解説

 ◇疑問残る事実認定

 理系の博士論文では、外部の査読付き科学誌に掲載された論文を書き換えるだけの場合もあり、審査の「形 骸化」は以前から指摘されていた。小保方氏の論文審査で主査を務めた常田早大教授は、疑惑発覚前に「非常に優れた博士論文だった」と絶賛していた。一方、 副査の米ハーバード大のチャールズ・バカンティ教授は、疑惑発覚後の英科学誌の取材に「(論文を)読んだことがない」と述べるなど、審査の甘さは明らか だ。

 調査委が認定した事実にも疑問が残る。調査委は対象となった小保方氏の論文を「草稿」だったと認めた。 だが小林委員長によると、小保方氏が「完成版」と主張する論文を調査委に郵送したのは今年5月27日。調査委は問題表面化後に作られたものかどうかを検証 するため、電子データによる提出を求めていたが、小保方氏側からデータが提出されたのは6月24日。ファイルの最終更新履歴は当日だった。小林委員長も 「それ以上の検証はできなかった」と調査の限界を認めた。

 さらに調査委は、小保方氏が「完成版」と主張する論文でも複数の不正を認めた。全5章のうち序章の約 4500語が米サイトからの丸写しだったが、調査委は「博士号授与へ重要な影響を与えたとはいえない」と判断した。この規模の「盗用」を認めながら博士号 を保持できるのであれば、国内外の早大への信用と権威は地に落ちるだろう。

 小保方氏の博士論文に疑義が生じて以降、ネット上で同じ早大先進理工学研究科で学位を得た博士論文について盗用などの疑義が相次いで指摘されている。鎌田薫・早大総長は記者会見で否定したが、こうした事情が結論に影響したと疑われることは避けられない。【八田浩輔】


白紙・STAP論文:/4 iPS超え、成果過信 予算獲得偏重、疑惑に「大丈夫」

2013-02-28 23:52:26 | Weblog

毎日新聞 2014年07月06日 東京朝刊

 理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(CDB)の笹井芳樹副センター長が、明るいピンクのコートをまとった女性を伴って内閣官房を訪れたのは、今年1月下旬。笹井氏と旧知の官僚は「STAP細胞論文発表の4~5日前。笹井さんは論文のゲラを示し、熱心に研究の概要を説明してくれた」と振り返る。

 自らはほとんど口を開かなかった女性は、小保方(おぼかた)晴子・理研研究ユニットリーダーだった。別の日には、笹井氏の姿は文部科学省でも見られた。

 論文への疑義を受け、いち早く撤回を呼びかけた若山照彦・山梨大教授も論文発表直後は、文科省を訪れて論文への貢献と今後の研究戦略を語っていた。文科省幹部は「(予算などの)陳情のためだった」と話す。

 政府は近年、科学技術予算配分の重点分野を掲げ、審査を経て獲得できる研究費の割合を拡大している。その結果、研究者は予算獲得競争にしのぎを削る。「iPS細胞(人工多能性幹細胞)に続く」と目されたSTAP細胞への期待は、当然だったとみられる。

 毎日新聞が情報公開請求で入手した、竹市雅俊・CDBセンター長が小保方氏を研究ユニットリーダーに推薦する野依良治・理研理事長にあてた文書では「iPSの技術はがん化などのリスクを排除できていない」などと研究の意義を訴え、「(小保方氏が)最適任」と書かれていた。

 理研は論文への疑義が浮上した2月上旬、調査を始めたが、その後の当事者たちの危機感は薄かった。

 2月下旬、CDB所内の懇親会に現れた笹井氏は、目を輝かせて「一緒に(STAP細胞研究を)やろう」と研究仲間に声をかけた。その様子を見た研究者は「疑惑にも『大丈夫』と断言し、自信があるんだと思った」。だが、その1週間ほど前、笹井氏は、小保方氏から博士論文に酷似した画像のSTAP論文への使用を知らされ、内々に画像の撮り直しを指示していた。

 理研は研究者約3000人、年間予算約830億円の世界有数の研究機関。研究者中心の巨大組織が不正への反応を鈍らせた可能性がある。CDBに所属した経験のある国立大教授は、こう分析する。「小保方氏自身の問題は言わずもがなだが、理研もすぐ潔く論文の誤りを認めるべきだった。処理がまずかった」。iPS細胞を使った臨床研究を進めるCDBの高橋政代・プロジェクトリーダーも3日、毎日新聞の取材に「理研の対応は遅い」と痛烈に批判した。

 STAP論文の不正の全容解明や処分の見通しが立たない中、理研の予算獲得への熱意は衰えていない。5月下旬、研究室主宰者たちに理研本部からメールが届いた。「課題解決型の研究目標と、研究課題・体制を提案してください」。「来年度予算要求に間に合わせるため」と、締め切りはわずか数日後。「理研はやっぱり何かおかしい」。メールを受け取った研究者はあきれ顔で言った。=つづく


万能細胞:STAP論文問題 理研、信頼失墜に拍車 調査委員長辞任 不正問題が拡大

2013-02-28 23:50:59 | 社会

STAP細胞論文の不正問題に対応するため設置された理化学研究所の調査委員会委員長を務めた石井俊輔・理研上席研究員が25日、自身の論文に疑惑 が浮上したため委員長と委員を辞任することになった。世界を揺るがせた論文不正問題が、不正を追及する側へ拡大する異常事態は、STAP細胞論文問題の真 相究明に影を落とし、科学への信頼を一層損なう恐れがある。

 石井氏の論文不正疑惑は、2004年と08年に責任著者として発表したがん遺伝子に関する2本の論文について、インターネット上で画像の切り張りや使い回しが指摘された。

 石井氏は08年の論文は画像の順番を入れ替えた(切り張りした)ことを認め、04年の論文は「当時の ルールでは問題ない」とし、「いずれも実験データがあり不正はない」と説明。08年の論文に関しては、切り張り部分が分かるように新たに白線を加える訂正 を雑誌編集部に申し入れたという。

 石井氏の研究分野でもある生命科学分野では、研究不正が相次いでいる。国内では、東京大分子細胞生物学 研究所の元教授グループが、1996~2011年に発表した論文43本について東大の調査委が「撤回が妥当」と判断した。06年には大阪大でデータの捏造 (ねつぞう)、改ざんが発覚した。

 石井氏は25日、毎日新聞などの取材に、「不正の判断基準は時代とともに変わっている。10年前には許 されていたことが、今は許されなくなっている」と釈明。だが、理研内でも04年に論文の画像切り張りが明らかになり、石井氏はその調査委員を務めて論文撤 回を求めており、認識がなかったとは言いがたい。

 また、STAP細胞論文の小保方(おぼかた)晴子・理研研究ユニットリーダーの画像切り張りを調査委は 改ざんと認定したのに対し、石井氏は「自分(の論文)は1枚の画像の中の順番を入れ替えただけ」と違いを強調した。ある国立大教授は「不正に変わりはな い。だが、実験ノートも示しており、データを開示していないSTAP細胞論文とは、問題の重みに違いがある」と分析する。

 一方、石井氏の研究分野では04年ごろからは、画像を切り張りした場合は、線を入れるなど明示するよう 求める指針が専門誌などで紹介されるようになっていた。研究倫理に詳しい御園生(みそのう)誠・東京大名誉教授は「調査委メンバーがそのような状態では、 生命科学全体の信頼を失墜させかねない」と警鐘を鳴らす。【渡辺諒、相良美成】

 ◇小保方氏への対応、影響も

 石井氏の論文不正疑惑が明るみに出た25日午前、理研は急きょ理事長、理事ら幹部が埼玉県和光市の本部に集まり、4時間にわたって対応を協議した。石井氏から申し出のあった辞意を受理し、後任に調査委メンバーの渡部惇弁護士を選んだ。また論文疑惑の予備調査を始めた。

 調査委トップに論文不正疑惑が浮上したことについて、理研の外部有識者による改革委員会の岸輝雄委員長 は同日、会合後の記者会見で、「(石井氏の論文が)完全に不正と判断されれば、調査委全体が大問題だと言わざるを得ない」と懸念を示した。画像データの改 ざん、捏造(ねつぞう)を認定された小保方氏は不服申し立てをしており、調査委は今月中にも再調査について判断を示し、改革委はその判断も踏まえて、改革 案を5月の連休後にまとめる方針だった。

 理研を所管する文部科学省幹部の一人は「再調査するかどうかは、すぐには決められないだろう」と、委員長交代などの影響を指摘する。岸委員長も、改革案取りまとめの時期が遅れる可能性を示唆している。

 石井氏が論文不正の疑いで委員長を辞任したことで、小保方氏の論文を不正と認定した最終報告に対する疑 問の声も出ている。石井氏は25日、毎日新聞などの取材に「(結論は)公正に判断された結果だと考えている」と説明した。別の同省幹部は「石井氏一人でま とめたものではない。調査の仕方や内容に確たる批判はなく、報告そのものへの影響はない」と話す一方、「調査委の方針をきちんと公表するなど丁寧な対応が 必要ではないか。場合によっては(改革案の取りまとめなども)もっと時間をかければいい」との見方を示した。【大場あい】

毎日新聞

2014年4月26日


理研とSTAP、検証実験より真相究明を(核心)

2013-02-28 23:50:33 | 社会

   理化学研究所の小保方晴子研究ユニットリーダーが職場に復帰して、STAP細胞の検証実験に取り組んでいる。小保方氏に対し理研は一時、懲戒免職さえ検討していた。  

  真実を明らかにするため過去の経緯にとらわれず協力する。そう言えば美談に聞こえるが、不思議な光景ではないだろうか。

 疑惑の当事者が検証をする。しかも不正に関わりがあった、理研の発生・再生科学総合研究センター(神戸市)の笹井芳樹副センター長ら小保方氏の上司は、今も研究センターの枢要なポストに座り続けている。

 小保方氏らが今年1月に英科学誌ネイチャーに発表した2つの論文はいくつもの過ちが指摘され、今月2日に撤回された。

 撤回の理由には、未熟な研究者の「過失」というだけでは説明のつかない事実が挙げられている。

 小保方氏が「STAP細胞」と称して、共同研究者に手渡したり解析結果を論文に記していたりしたのは、実は胚性幹細胞(ES細胞)など既知の細胞ではなかったかとの疑いがある。

 こうした指摘を総合して、STAP細胞はそもそも存在していなかったとみる研究者が多くいる。

 科学技術と社会の関係に詳しい佐倉統・東京大教授は「今の段階でSTAP細胞は『ない』と判断するのが科学的には妥当だ」と話す。

 それでも理研が検証実験に取り組むのは「論文には誤りがあったが、STAP細胞がないとは言えない」というだけの理由だ。

 しかし何かが存在しないことを完全に証明するのは難しい。仮に小保方氏が再現に失敗しても、STAP細胞が絶対にないとの証明にはならない。

 検証実験では明確な結論は得られず、現状から何の進展もない可能性がある。理研で主導的な立場に立つような一流の研究者ならわかっているはずだ。にもかかわらず税金を投じて実験を始めた。

 STAP細胞の有無は「まだ結論が出せない」と言い切る竹市雅俊発生・再生科学総合研究センター長の発言には首をかしげざるを得ない。

 日本分子生物学会(理事長・大隅典子東北大教授)は4日、声明を発表した。研究不正の実態をまず徹底的に解明すべきで、解明を終えるまで小保方氏らが参加する検証実験を凍結するよう主張した。

 その通りだ。何より大事なのは、論文不正に関連して提起されたすべての疑惑の解明だ。

 それには論文共著者や上司として管理責任のあった研究者たちがこれまでと同じポストにとどまっていてはいけないだろう。 

  理研の改革委員会(委員長・岸輝雄東京大名誉教授)は6月、「研究不正を誘発する、組織として構造的な欠陥があった」として、発生・再生科学総合研究センターの解体と竹市、笹井両氏ら幹部の更迭を求めた。公正な調査の妨げになりかねないからだ。

 理研の野依良治理事長は「早急に具体的に実行する」とのコメントを発表したが、具体化の兆しはない。

 論文の撤回は問題の幕引きにはならない。また検証実験を、問題の本質から国民の関心をそらす目くらましに利用してはいけない。

 一般に、捏造(ねつぞう)や盗用など研究論文をめぐる不正の根絶は容易ではない。研究者の倫理に関する教育を手厚くしたり論文のチェック体制を強めたりして、不正が起きないようにする努力は大事だが、不正に手を染める人をゼロにはできないだろう。

 世界の主要科学誌に公表される論文は年間約100万本に達し、世界規模の研究競争を背景に増え続けている。どの研究所や大学でも不正は起きうることと覚悟しなくてはならない。

 問われるのは不正発覚後の対応だ。対応を誤れば、一研究者にとどまらず、研究機関自体の信頼失墜につながる。

 理研は当初、不正を未熟な研究者が犯した過ちとして片付けようとした。小保方氏側が反論し、改革委員会から組織全体に及ぶ厳しい改善を求められると、今度は小保方氏を取り込んで疑惑解明を先送りにするかのようににみえる。

 下村博文・文部科学相が小保方氏の参加による検証実験の必要性に言及、政治も介入した。理研は5人いる理事のうち2人が文科省の天下りだ。理研の判断の背景に、文科省の意向があるとみるのは自然だろう。

 関係者は、日本の科学研究の「旗艦」である理研が負った傷口をこれ以上広げたくないのかもしれないが、現状は逆効果だ。

 国際学会に出席した研究者から「日本の再生医療の研究全体が世界から相手にされなくなっている」と心配する声を聞く。

 iPS細胞を使った網膜の治療を目指す、理研の高橋政代プロジェクトリーダーがツイッターに「理研の倫理観にもう耐えられない」などと書き込んだのも、国内外の批判的な見方をひしひしと感じているからではなかろうか。

 この問題は科学研究のありようの問題だ。理研のトップが科学者として判断を下し指導力を示すことが、再出発への道だ。野依理事長は「研究は『瑞々(みずみず)しく、単純明快』でありたいと願ってきた」と、弊紙のコラム「私の履歴書」に書いた。明快であってほしい。

日本経済新聞 編集委員 滝順一

2014.7.14


崩壊・STAP論文:/下 「博士」増員あだ 政府が支援、30年で3倍

2013-02-28 23:50:23 | 社会

毎日新聞 2014年04月05日 東京朝刊

◇教員足りず放置状態/就職難で質も低下

研究不正に関する教育は大学院からでは間に合わない−−。大阪大は今年度から、リポートや論文の書き方を説明した冊子を全新入生約3500人に配り、授業で活用する。教育担当の東島(ひがしじま)清理事・副学長は「大学1年から他人のリポートを写して合格していると、『これで大丈夫』と思い、だんだん大きな不正につながる。初めからの教育が必要と考えた」と説明する。

 冊子は「阪大生のためのアカデミック・ライティング入門」。著作権や文献引用の作法、文章の組み立て方などを分かりやすく示し、コピペ(コピー・アンド・ペースト、複写と張り付け)については「試験のカンニングと同じ」と強調した。冊子に沿い、授業でリポートを書く訓練をする。

 STAP細胞論文では、「(切り張りを)やってはいけないという認識がなかった」との小保方(おぼかた)晴子・理化学研究所研究ユニットリーダー(30)の発言が公表され、世間に衝撃を与えた。小保方氏については博士論文にも大量コピペ疑惑が浮上しているうえ、小保方氏と同じ研究科では他の人の博士論文にも多くの疑問点が指摘され、大学が調査に乗り出す事態になっている。

 米国立衛生研究所(NIH)で主任研究員を務めるある日本人研究者は、日本人の若手研究者全体の実力低下を感じている。研究の進め方や、論文の書き方から教えなければならないケースが増えているためだ。いずれも大学院で習得しておくべき内容だ。

 この研究者は「日本のポスドク(ポスト・ドクトラル・フェロー、博士研究員)のレベルは米国の博士課程の学生にも達していない。一方、安易に成果を求めがちになっている」。ポスドクとは、博士号取得後、常勤職に就かず研究に取り組む研究者。以前は、「日本人は真面目で勤勉」と海外の研究機関で高い評価を得てきた。「今は日本人以外の博士を採用する方が、研究室にプラスに思える」と、この研究者は嘆く。

 だが、大学院の学生や、そこで教育を受けた博士のレベル低下の原因は大学側にもある。

 政府は、第1期科学技術基本計画(1996〜2000年度)で、科学技術立国を支える人材としてポスドクの増産を目指し、「ポスドク等1万人支援計画」を打ち出した。1981年度に4753人だった博士課程入学者数(全分野)は、2003年度は1万8232人に達し、12年度も1万5557人と、この約30年で3倍まで増えた。

 一方、少子化などのあおりで大学経営が厳しいことなどから、学生1人当たりの指導教員数は減る傾向にある。簡単には比較できないが、大学教員数はこの30年で1・7倍にしか増えていない。大学院の学生を増やすだけで、大学院教育の充実が後手に回ってきた恐れがある。

 ポスドクを巡る問題に詳しい榎木英介・近畿大講師(42)は「大きい研究室では学生一人一人への指導が行き届きにくく、学生が放置されている状態」と訴える。また、「博士大量生産」の結果、大学院修了後の就職先が確保できず、博士の魅力が低下した。「優秀な学生が博士課程へ進まず、一層の質の低下を招いている。さらに今回の研究不正問題で、日本の博士号の価値が海外から信頼されなくなる恐れがある」と榎木さんは危機感を募らせる。【根本毅、斎藤有香】


クローズアップ2014:STAP論文、笹井氏会見 共著者間、議論なく

2013-02-28 23:37:57 | 社会

 「私の仕事としてSTAP細胞を考えたことはありません」。STAP細胞論文に不正が指摘された問題で、16日に記者会見した笹井芳樹・理化学研 究所発生・再生科学総合研究センター(CDB)副センター長は、混乱に対して謝罪する一方、不正を見抜けなかったことへの責任は回避する発言に終始した。 ずさんなデータ管理となった経緯について多くを語らぬまま、STAP細胞の存在にこだわった笹井氏。論文不正疑惑の真相解明は遠い。【須田桃子、清水健 二】

 ◇責任の所在見えず

 笹井氏は記者会見で、自らのSTAP細胞研究への関与が小さかったことを何度も強調した。論文作成の手 順について、「論文の第1段階は研究のアイデアや企画、第2段階が実験、第3段階がデータ解析と図表類の作成、第4段階が論文の執筆やまとめ」と説明。自 らは第4段階から参加し、「文章の書き直しなどに加わっただけ」と述べた。

 理研の調査委員会の最終報告は、論文の不正行為について「小保方(おぼかた)晴子・研究ユニットリー ダー個人によるもの」と認定する一方、笹井氏と、責任著者の一人の若山照彦・山梨大教授に対し、「不正行為はなかったが責任は重大」と2人のベテラン研究 者の責任に言及した。

 だが、笹井氏はこの日、若山氏の名前を繰り返し挙げ、暗に若山氏側の責任を指摘した。小保方氏の実験 ノートを事前に見ていなかったことについて、「論文のデータは若山研究室で作られたもので、ノートを持ってこいというのは難しかった」と釈明。万能性を確 認する柱となるSTAP細胞由来の細胞が全身に散らばったマウス(キメラマウス)の実験についても「そこは(実験した)若山さんが見ている」「実験は研究 室の主宰者に管理責任がある」と述べ、責任著者になったのも「若山さんらに要請された」と説明した。一方の若山氏はこの日、毎日新聞に「僕の責任も大き い。反論しません」とコメントした。

 さらに笹井氏は、理研内部では論文の仮説について正しいかどうか議論したものの、若山氏ら他の研究機関 の著者とは「(追加実験や小保方氏の研究室の設置工事など)いろんな理由で(忙しく)、実現していなかった」と議論がなかったことを認めた。共著者が責任 を感じにくい環境になっていたとみられる。また、「複数のベテラン研究者が複雑な形で参加する特殊な共同研究だった」と、自らの責任を回避しているともと れる発言を続けた。

 STAP細胞研究が「異例の極秘プロジェクト」と指摘されていることについて笹井氏は、責任著者の一人、米ハーバード大のチャールズ・バカンティ教授の意向だったとし、「研究の根幹部分は、自由に情報発信するのが難しかった」と「極秘」が自身の意向ではないと主張した。

 須田年生・慶応大教授(幹細胞生物学)は「論文の共著者は皆が責任を持ち、協力し合うもの。これだけ主張がずれているのは、研究段階から現在まで、共著者間のコミュニケーションが足りていなかったのだろう。1人ずつ会見している状況が象徴的だ」と話す。

 ◇残った試料分析急務

 笹井氏は記者会見で、STAP細胞の存在を「仮説」と述べる一方、「STAP現象を前提にしないと容易に説明できないデータがある」と、資料も用意して論文の結論の「正当性」を詳細に解説した。

 笹井氏の挙げた「物証」の一つが、STAP細胞ができるまでを顕微鏡で撮影した動画。「人為的なデータ 操作は不可能で、STAP現象以外の細胞の発光現象と別であることも確認できる」と説明した。また、キメラマウスをつくる実験についても、受精卵に細胞注 入する画像などを示して「他の細胞(ES細胞など)が混入しているとは考えにくい」と主張した。

 これらの説明に、日本分子生物学会副理事長の中山敬一・九州大教授は「今回の説明では新しい証拠が示さ れておらず、STAP現象以外の可能性を排除できるとは思えない」と疑問を投げ掛ける。笹井氏が、STAP細胞作製の段階ごとに難しさがあると述べたこと にも、「手順通りにやって再現できないなら論文は成り立たない」と批判した。

 笹井氏はSTAP細胞の真偽を確かめるため、「第三者の研究者が実証することが重要」と述べたが、複数の専門家は「研究で残された細胞などの分析を急ぐべきだ」と指摘する。

 小保方氏は9日に開かれた記者会見で、論文中で万能性の証拠として示された「STAP細胞由来の胎盤と 赤ちゃんの標本」が残っていることを明かした。CDB関係者も、毎日新聞の取材に「隠しても仕方ない。あります」と認めた。また、調査委員会が捏造(ねつ ぞう)と認定した、万能性を示す別の実験結果の画像についても、「真正な画像」の元になった試料の切片があるという。

 他に、STAP細胞から作った「STAP幹細胞」▽生きたキメラマウス−−なども存在する。理研はSTAP細胞論文を再現する検証実験に取り組む一方で、残った試料の分析には消極的だ。理研内部からは「結論を先送りにしようとしている」といぶかる声も上がる。

 菅野純夫・東京大教授(ゲノム医科学)は「試料から遺伝情報を担うDNAを少量でも抽出できれば、元になったマウスの系統や性別などの大切な情報が得られ、実験の過程の検証に役立つだろう。検証実験と並行して試料の分析を進めればいいのでは」と話す。

 ◇再調査の判断、理研が審査中

 理化学研究所の調査委員会(委員長=石井俊輔・理研上席研究員)は、最終報告に対する小保方晴子氏の不服申し立てを受け、再調査をするかどうかの審査を進めている。

 理研によると、追加したい資料などがあれば提出するよう小保方氏に要請済みだという。小保方氏は記者会 見で実験ノートが「4、5冊ある」と説明しており、調査委が既に調べた2冊以外のノートなどが提出されれば、精査することになる。だが、小保方氏の代理人 は米ハーバード大にあるとされる実験ノートについて、「外部に出すのは難しいのではないか」としている。

 再調査をする場合、調査委は開始後50日以内に結果をまとめる。再調査をしなかったり、再調査の結果改めて「不正」と判断されたりした場合、理研は論文撤回を正式に勧告。懲戒委員会が設置され、小保方氏らの処分の手続きに入る。【大場あい】

毎日新聞 2014年4月17日


万能細胞:STAP論文問題 笹井氏会見 釈明繰り返す「参加、最後の2カ月」

2013-02-28 23:36:11 | 社会

STAP細胞論文に疑惑が浮上して以来、初めて16日に記者会見に臨んだ理化学研究所の笹井芳樹発生・再生科学総合研究センター副センター長 (52)。わずか2カ月半前に作製成功を発表した時の自信に満ちた笑みは消え、「沈痛の極み」「慚愧(ざんき)の念に堪えない」と反省の弁を繰り返した。 論文のとりまとめ役として自身の責任を認める一方、「論文の最後の2カ月強に参加した」「ノートを見せなさいと依頼するのは難しかった」などと強調し、釈 明が目立つ内容になった。

 同センターの小保方晴子研究ユニットリーダー(30)ら他の主要著者が相次いで会見する中、笹井氏は 「最後のキーマン」として注目された。東京都千代田区の記者会見場には300人以上の報道陣が詰めかけた。濃いグレーのスーツの胸には理研のバッジ。緊張 した表情で会見場に現れた笹井氏は、冒頭で「疑惑を招く事態となったことを心よりおわび申し上げます」とカメラのフラッシュを浴びながら深々と頭を下げ た。

 笹井氏は36歳で京都大教授に就任するなど、日本を代表する再生医学研究者として知られ、次期センター長とも目されていた。

 会見は3時間20分に及んだ。最初の45分間、用意した文書をもとに、STAP細胞論文における自身の 役割などを説明した。論文については撤回すべきだとする一方で、「自分の中でも不思議な現象。科学者としてはっきりさせたい」と、STAP細胞の存在その ものには自信を見せた。

 STAP細胞の万能性を示す証拠となるはずの画像など論文の核となる部分で理研の調査委員会から不正を 指摘されたことに対し、笹井氏は「小保方氏は独立した研究室のリーダーで、ノートを持ってきて見せなさいというぶしつけな依頼は難しかった」「多くのデー タは若山(照彦・山梨大教授)さんがチェックしたのを前提に見ていた」などと、責任逃れともとれる釈明を繰り返した。

 一方、小保方氏については「豊かな発想と高い集中力があるが、トレーニングが足りなかった」と評した。 9日の小保方氏の記者会見の感想を聞かれると、一瞬言葉に詰まった後「率直に言って心が痛んだ」「背伸びさせるだけでなく、足元を固めさせることが足りな かった」と表情を曇らせ、共に論文を執筆した小保方氏を最後までかばい続けた。【斎藤広子】

毎日新聞 2014年4月17日


白紙・STAP論文:/3 「ヒロイン」膨らむ虚像 紹介教授の権威を支えに

2013-02-28 23:35:15 | 社会

毎日新聞 2014年07月05日 東京朝刊

 「ハルコの貢献は並外れたものだった」

 米ハーバード大のチャールズ・バカンティ教授がSTAP細胞論文の主要な共著者に宛てたメールがある。 日付は、英科学誌ネイチャーに論文が掲載される10日前の今年1月20日。論文発表にこぎつけた経緯と共に、愛弟子の小保方(おぼかた)晴子・理化学研究 所研究ユニットリーダーへの賛辞が書かれていた。

 バカンティ氏だけではない。小保方氏が師事した日本を代表する研究者たちも、小保方氏をこぞって「ヒロイン」に押し上げた。

 2008年のある夜、東京・四谷の天ぷら店に、ハーバード大の小島宏司准教授を囲む輪があった。小島氏 はバカンティ研究室を支える日本人医師。当時、早稲田大大学院生だった小保方氏は東京女子医大の看板教授、大和雅之氏の下で再生医療の研究を始めていた。 一時帰国した小島氏との会食に旧知の大和氏が小保方氏らを誘い、日本酒をくみ交わした。小保方氏は小島氏に「ハーバード大を見学したい」と伝え、留学が決 まった。

 小保方氏はその年に渡米すると、STAP細胞研究の源流となる実験を任された。渡米直後、最新研究の取りまとめを指示された際、「1週間で200本もの論文を読み込んで発表した」との逸話が残るなど、注目の学生となった。

 細胞の多能性を証明するマウス実験が必要になると、理研発生・再生科学総合研究センター(CDB)の若 山照彦氏(現・山梨大教授)の門をたたいた。若山氏も小島、大和両氏と知り合い。大和氏が「偶然に次ぐ偶然」と話す縁がつながり、小保方氏は、神戸ポート ピアホテル(神戸市)にハーバード大の負担で1年近く滞在しながら研究を進めたという。その間に、STAP細胞由来の細胞が全身に散らばる「キメラマウ ス」の作製など、論文のための「データ」を蓄積していった。

 小保方氏にかかわった研究者たちは論文発表当時、「努力家」「怖いもの知らず」「プレゼンテーション上 手」と小保方氏の研究者としての資質を褒めた。今となっては自他ともに認める「未熟な研究者」だが、ベテラン研究者たちが研究のイロハを十分に指導した気 配はない。実態は、紹介元の権威や信頼関係を担保に、国内外の研究室を渡り歩いて膨らんだ評価だったといえる。

 今年1月の論文発表直前、緊張した面持ちの小保方氏が理研本部で野依良治理事長に会っていた。野依氏は 「彼女を守れ」と周囲に指示した。その場にいた理研幹部は「iPS細胞(人工多能性幹細胞)のような巨額予算がつき、プレッシャーがかかることを心配した ようだ」と振り返る。理研側も「ヒロイン」に大きな期待を寄せた。

 理研のある研究者は言う。「大学院時代の教育でその後の研究人生が決まる。その意味で小保方氏は不幸だったかもしれない。未熟さを見破れなかった指導者たちの責任は重い」=つづく


万能細胞:STAP論文問題 生データ見ず 理研・笹井氏「有力な仮説」強調

2013-02-28 23:35:10 | 社会

新たな万能細胞「STAP 細胞」の論文に不正があるとされた問題で、責任著者の一人、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(CDB)の笹井芳樹(よしき)副センター長 (52)が16日、東京都内で記者会見し、「多くの皆様に混乱や失望、ご迷惑を与えたことに対し、おわびしたい」と陳謝した。論文撤回には同意する意思を 改めて示す一方、「STAP(細胞ができる)現象を前提にしないと容易に説明できないデータがある」とも述べ、理研が計画する検証実験への期待をにじませ た。

 1月末に発表された論文に疑義が生じた後、笹井氏が公の場で発言したのは今回が初めて。笹井氏は、研究の中心となった小保方(おぼかた)晴子・理研研究ユニットリーダー(30)の指導役だった。

 不正とされた画像を見抜けなかった点については、「論文投稿までの2年間の過程で最後の2カ月強に参加 したが、多くのデータは既に図表になっており、残念ながら生データや実験ノートを見ることはできなかった」と釈明した。また、STAP細胞研究に加わった 経緯について「(自ら希望したのではなく)CDBセンター長の依頼で論文執筆のアドバイザーとして参加した」と述べ、小保方氏らが作った草稿の書き直しや 論文の再構成が主な役割だったと説明した。

 一方、笹井氏はSTAP細胞について「検証する価値のある最も有力な仮説」と主張。約1週間かかる STAP細胞の作製過程の自動撮影動画、他の細胞とは違う特徴、胎盤を含む全身にSTAP細胞由来の細胞が散らばるマウス(キメラマウス)の実験を挙げ、 「これらは一個人(1人)による人為的な操作は困難なデータ」だと説明し、胚性幹細胞(ES細胞)の混入などを疑う声に反論した。【八田浩輔】

 ◇小保方氏「申し訳ない」

 小保方(おぼかた)晴子・理化学研究所研究ユニットリーダー(30)の代理人を務める三木秀夫弁護士に よると、理研CDBの笹井芳樹副センター長の記者会見について小保方氏は16日、「尊敬する笹井先生が、私の過ちのために厳しい質問にお答えされている姿 を見て、申し訳ない気持ちでいっぱいになりました」と話した。【畠山哲郎】

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 ■ことば

 ◇STAP細胞論文問題

 理化学研究所の小保方晴子・研究ユニットリーダーらが1月、マウスのリンパ球を弱酸性の溶液につけるなど刺激を与えるだけで、新しい万能細胞「STAP 細胞」を作製したと英科学誌ネイチャーに発表。直後からインターネットなどで疑問の指摘が相次ぎ、理研が調査委員会を設置した。調査委は今月1日、2カ所 の画像データについて、それぞれ改ざん、捏造(ねつぞう)があったとして、小保方氏の研究不正を認定。小保方氏は不服申し立てをした。理研は今後1年かけ て検証実験を実施し、STAP細胞の有無を検証する。

毎日新聞 2014年4月17日


解説:STAP論文 検証不足露呈 ネイチャー、編集者判断強く

2013-02-28 23:31:50 | 社会

毎日新聞 2014年07月05日 東京朝刊

 科学誌に投稿された論文の査読の内容が明らかになるのは異例のことだ。取材で判明した英科学誌ネイ チャーなど3誌の査読者たちの指摘は、ES細胞の混入以外にも、専門家の間で現在議論されているSTAP細胞を巡る科学的な疑問点をほぼ網羅していた。不 正論文を掲載したネイチャーは、撤回を掲載した号の論説で「致命的な問題があると見抜くことは難しかった」と記したが、データを少しでも検証していれば、 科学史に残る不祥事を回避できた可能性がある。

 論文ではSTAP細胞は複数の細胞が集まった「塊」様のものを指すが、掲載したネイチャーを含む複数の 査読者たちが一つの細胞でも万能性を確認できたかを重ねて尋ねていた。著者らは一つの細胞でも万能性を持つかの実験はせず、遺伝子データなどの解析結果を 提示した。だが、このデータは、理化学研究所上級研究員の独自解析で、ES細胞のものではないかと疑われる結果が出ている。

 論文掲載の可否を決める権限は、査読者ではなく編集者にある。資料を読んだ東京大エピゲノム疾患研究セ ンターの白髭克彦教授は「掲載したネイチャーの査読者の中にも懐疑的なコメントが含まれており、(掲載したいという)編集者の判断がかなり強く働いた印象 を受けた」と話す。

 近年、有名科学誌には「商業主義」との批判がある。なぜネイチャーは論文を掲載し、他の科学誌は免れたのか。経緯の検証は科学界全体の教訓となるはずだ。【八田浩輔、須田桃子】


(耕論)STAP、逆風の科学界 ロバート・ゲラーさん、大隅典子さん

2013-02-28 23:30:55 | 社会

理化学研究所を舞台にしたSTAP細胞論文をめぐる疑惑が深刻化している。科学、そして日本への信頼にもかかわる事態といっていい。日本を代表する研究機関でなぜ? 現在の研究のありようの根本にさかのぼって見直す必要がある。

 ■「小保方さん問題」で終わりか 東京大学教授、ロバート・ゲラーさん

 STAP細胞をめぐる問題は、日本の科学技術研究が非常に危険な状態にあることを明らかにしたように思えます。

 僕は米カリフォルニア工科大でノーベル物理学賞を受けたリチャード・ファインマンに学びましたが、彼は研究者は常に真理をありのまま語るべきだと力説した。日本では、そうした科学の基本姿勢を必ずしも十分に教えていない。

 STAP細胞問 題では、論文の共著者たちの姿勢も疑問です。通常なら、論文の共著者は、他の筆者が書いた部分も細かく読んで添削します。STAP論文は、不適切な画像だ けでなく、スペルミスなど、読めばすぐわかる間違いが放置されている。共著者が読んだかどうかすら怪しい。研究者としてあるべき姿ではありません。

     *

 <理研の対応疑問> 理化学研究所の対応も非常におかしい。調査委員会に付託したのは6点の疑惑の調査のみで、他は対象外にした。すべての疑惑を調査すべきでした。これでは多くの疑問点が宙に浮いたままです。

 6点のうち2点の不正を認定したが、不正に関与したのは小保方晴子さ んだけで、他の共著者は関与していないとしている点は、あまりにも甘すぎます。理研の上司たちは、投稿前に原稿や実験ノートを厳しくチェックする責任が あったはずです。また小保方さんは研究データを研究所のパソコンではなく私物のパソコンで管理し、実験ノートも数冊しか残していなかったようですが、とん でもない話です。理研の管理責任が厳しく問われなくてはいけません。

 理研は、共著者の1人を実施責任者としてSTAP細胞再現の検証作業を行うと言っていますが、これも非常識です。不正が認められたなら、元の論文は存在しないと同じ。「再現」というべきではないし、理研の当事者たちはこの研究から手を引くべきです。

 今回の疑惑の検証は、ネット上での匿名の告発がきっかけになりました。匿名だということを非難する人もいますが、論文は公表されるものだから、 チェックして疑問点を指摘するのは匿名であってもまったくかまわない。個人攻撃はよくないが、「この画像が使い回されている」といった事実関係の指摘であ れば問題ありません。

     *

 <共著者にも責任> 今回の問題を「小保方さんが悪かった」だけで終わらせてはいけない。ネイチャー誌の投稿規定に明記されているように、共著者 には論文の内容を詳細に確認する連帯責任がある。小保方さんだけを切って、上層部は給与カットなど形だけの処分ではいけません。

 再発防止のために一番重要なのは研究機関のガバナンスの改善です。海外の有名研究所や一流大学は、様々な国の研究者がマネジメントに携わっているのが一般的です。理研は国際水準の研究所といわれていますが、理事長を含めた理事6人は全員日本人で、うち2人は文部科学省出身者、1人は内閣府在籍経験者。外国から優れた研究者を招き、理事会の半分は外国人にすべきです。

 さらに、外国人理事が意思決定に十分参加できるように、公用語も英語にする。コンプライアンス担当には、国内外から先端科学の現状がわかっている人を採用すべきです。役所からの天下りをなくし、官僚支配から研究者支配に切り替えることが必要です。

 理研にも、中堅にはすぐれた研究者がいますが、必ずしも厚遇されていない。特に有期契約の若手はすごくプレッシャーを受けています。幹部があくび している間に、現場は奴隷のように研究しなくてはいけない。クビになる恐怖にさらされていると、誰でも不正をしてしまう可能性がある。

 政府も問題が大きい。問題発覚前の2月、総合科学技術会議に 小保方さんを出席させようとしましたが、STAP論文が当初言われていた通りのすばらしい研究だったとしても、30歳の若手研究者をそのような場に呼ぼう とするのは、政権の人気取り、パフォーマンスでしかありません。「日本の科学技術を世界一に」するためには、当然カネをつぎこむ必要はあるが、まず体制を 立て直すべきです。そして何よりも研究者が真理を語ることを説いた、ファインマンの精神を忘れてはなりません。

 (聞き手・尾沢智史)

     *

 Robert Geller 52年米国生まれ。スタンフォード大助教授を経て、84年に東京大助教授、99年に教授。専門は地震学。著書に「日本人は知らない『地震予知』の正体」。

 ■健全性を損なわせる「商業化」 東北大学教授・大隅典子さん

 この10~20年に研究の世界で起きた変化、とくに生命科学の研究が抱えている問題が、今回の出来事にすべて凝縮されている、と思います。いろいろな角度からきちんと検証する必要があります。

 一言でいえば、「科学の商業化」です。とくに生命科学は実利に直結し、少しでも先んずればノーベル賞、という世界なんです。

     *

 <時間かけて定着> 科学とは本来、誰かが発表した論文を別の科学者たちが検証し、時間をかけてその正しさが認められていく、というものです。 10年、20年という時間をかけてまずその分野で確認され、やがて外に広がっていく。間違いもあるけれど、それは消えていく。これがいわば、100年以上 かけて作り上げられた近代科学のお作法です。

 私の専門分野では、神経再生の可能性が1960年代初めに提唱されました。当初はだれも信じなかったのですが、技術の進歩もあって証明され、提唱者は2年前に国際生物学賞を受賞しました。

 実に半世紀がかり。そうやって、本当のものが定着していきます。1本の論文だけで何かをいうのは、時期尚早なのです。

 ところが、研究の「成果」が求められるようになり、評価の指標として一つひとつの論文が重視されるようになりました。とくに一流誌に載ることが重 要です。中でもネイチャーに論文が載ることは大変な栄誉であり、研究費やポストの獲得にもつながる。それが研究機関にとっても、研究資金に直結するように なってきました。

     *

 <インパクト重視> ネイチャーは、イギリスの出版社が発行する商業誌で、専門家集団が検証する学会誌とは性格が大きく異なります。広い読者を得るために、よりインパクトの大きい論文を求める傾向は否めません。そんな商業誌が大きな力を持つという構造的な問題もあります。

 これまでは、論文を書く前に学会などで発表し、議論して、もまれる、というプロセスが一般的でしたが、「掲載まで伏せる」というのがネイチャーの 厳格な方針です。とにかくまずネイチャーに、と考える研究者も少なくありません。特許との関係から事前には一切発表しないケースが増えてきたこととあわ せ、科学の健全性を損なう結果を招いていると思います。投稿論文をどうチェックするのか。ネイチャーの責任も非常に重いと思います。

 報道も、時間をかけて検証するという科学の性格からすれば、一刻を争うものではないはずです。しかし、商業化の中で、研究機関も報道機関も先を急いでがんばる、というのが実態です。

 広報のあり方も問われました。ただ、科学の成果を社会に伝える必要性がいわれ、研究機関や大学も発信しろと、広報体制が強化されたのもこの10年 ほどのことです。科学者という「人」を見せることは、次世代の若者を刺激することにもなります。科学の本筋を見失っては本末転倒ですが、科学者像も含めて 科学というものを社会に伝える、その重要性は変わらないと思います。

 学位の品質保証の 問題もあります。大学院重点化の方針の下でこの20年余り、大学の教員の数はあまり変わらないまま、大学院生が増えました。その結果、弟子を手塩にかけて 育てることが難しくなってきました。仮説を立てて実験を計画するところから論文にまとめるまで、いわば「科学の作法」を弟子に伝えるのは先生の役割です。 しかし、それが十分でなかったり、劣化コピーとして伝わったり、というのが実情です。

 実験ノートについても、その書き方のマニュアル本が出てきたのがこの10年くらいのことです。先生と弟子との間のコミュニケーションが足りなくなったことを示していると思います。

 分野によっては、研究結果や発見にこそ独創性があるので、他の文献や論文からの引用は、出典を明記すれば素材として活用していいという考えもあると聞きます。急速に広がったITを私たちはまだ使いこなせていない。便利だけれど、どう扱うべきなのか。

 科学者は科学のあり方を見直す必要があります。社会の側でも科学本来の姿を理解し、長い目で見守ってほしい、と思います。

 (聞き手・辻篤子)

     *

 おおすみのりこ 60年生まれ。98年から現職。専門は神経生物学。日本分子生物学会理事長として、理化学研究所に対して迅速な対応を求める声明を出した。

 ◆キーワード

 <理化学研究所> 産業発展に資するため、高峰譲吉らが提唱、渋沢栄一を設立代表として1917年に創設された自然科学の総合研究所。リコーなど多くの会社を生み出した。03年からノーベル賞受賞者の野依良治氏が理事長。約3400人の職員と同数に近い研究生らがいる。予算は昨年度844億円。

朝日新聞

2014年4月15日

写し


STAP幹細胞作製「オスのみ」 論文は「メスも」記述

2013-02-28 23:25:39 | 社会

英科学誌ネイチャーに掲載されたSTAP細胞の論文に、新たな疑問が浮上した。論文にはメスのマウスのSTAP幹細胞に関するデータが載っているが、幹細胞を作った研究者は「オスしかつくっていない」と話していることが11日、理化学研究所の関係者の話でわかった。理研の小保方(おぼかた)晴子ユニットリーダーは会見で「自分は幹細胞作製は苦手」として、この研究者が作ったと語っていた。

STAP幹細胞は、STAP細胞を改変して、無限に増える力を持たせた細胞。山梨大の若山照彦教授が作製を担当した。小保方氏は9日の会見で「現存するSTAP幹細胞はすべて、若山先生が樹立(作製)して下さった」と話していた。

 関係者によると、メスのマウスからSTAP幹細胞を作るのは難しく、若山教授は「オス由来の幹細胞しか作れなかった」と話しているという。

 一方、論文にはメスでしか確認できない実験の記述があり、「メスのSTAP細胞では確認されたX染色体の不活化を示すマーカーが、STAP幹細胞では見られなかった」とある。関連の図表にも同様の説明があった。「オス」と「メス」を書き間違えたとは考えにくいとみられる。

 理研が3月5日に発表したSTAP幹細胞の作製手順には、若山教授が用いた方法が記載されている。現時点で、若山教授以外に幹細胞作製にかかわった研究者は明らかになっていない。(岡崎明子)

朝日新聞

2014年4月12日

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