市民に近い司法、市民が利用しやすい司法を目指して司法改革が行われている。弁護士の数を増やし、市民に司法サービスが身近なものになることを目指している。しかし、本当に弁護士のサービスが市民にとって身近なものになるか。
弁護士のサービスが市民にとって身近でなく敷居が高い最大の要因の1つは弁護士費用の高さだ。日本弁護士連合会によると、離婚調停で着手金20~30万円、報酬金20~40万円、その他実費、法律相談料を入れるともっとかかる計算になる。弁護士に依頼してきちんと成果が得られた場合、かかる費用は50~100万円くらいはするだろう[1]。他の案件でも数十万~数百万のオーダだ。クライアントにとってはかなり高い金額と感じるだろう。
この資料を見る限り弁護士費用の平均的な額と比べた場合、弁護士費用が総額20~40万円で済んだとしても、かなりの安い金額といえる。しかし、弁護士としては安価な値段でサービスを提供しているつもりでも、クライアントにとっては20~40万円でもかなり高い金額にうつるはずだ。このギャップは大きい。弁護士に対する誤解を産む原因の1つになるかもしれない。
内容証明郵便で済むような案件を除いて考えると、いくら弁護士費用が安くなったとしても総額で20~40万円程度の額が限界ではないかと思う。しかし、それでも市民にとって20~40万円という額が高い額である以上、気軽に司法サービスを利用できる状態にはならないと思う。
仮に弁護士が総額20万円ですべての案件を処理したとする。弁護士の1年間にかかえる事件数は数十件のオーダだが、仮に50件程度としよう。すると、弁護士の売り上げは20万×50=1千万円となる。しかし、事務員の人件費、家賃、文書費、光熱費を入れると普通の事務所なら営業費用として月あたり100万円程度かかるらしいので、年間の経費は1200万円。従って、営業利益は200万円の赤字である。弁護士は給料をもらうどころか借金である。
以上はかなり粗い議論で実情にあっていない部分もある。確かに売り上げが1000万円以下の弁護士も存在するし、必ずしも赤字ではないかもしれない(おそらく売り上げ1000万円以下の弁護士は、事務員なし、自宅を事務所にするなど営業費用を安くしているだろう)。しかし、弁護士の給料をかなり削って弁護士費用を安くしようとしても、総額20万円というのは限界を下回っているか、それに近い額である。弁護士費用20~40万円でも弁護士としては安価な値段でサービスを提供していると述べたのは、この理由による。
市民にとって利用しやすい司法サービスの額がどのくらいなのかわからないが、仮に数千円~10万円だとすれば、間違いなく弁護士業はできないだろう。
安価に司法サービスを実現できることは望ましいことだが、それでも弁護士費用20~40万円という市民にとって安くない値段が限界ではないか。国民がその値段でも安いと思ってくれれば別だが、数十万円という金額を簡単に払える人はなかなかいないだけに、今の司法改革を続けても残念ながら金銭面で利用しやすいサービスにはならないだろう。市民にとっては残念なことだ。
参考
[1]弁護士報酬については"
市民のための弁護士報酬の目安(日弁連-2005)"によった。