横山嘉彦(東北大金研准教授)の公式紹介を見て驚いた[1]。「大形状バルク金属ガラス鋳造技術の開発(キャップ鋳造法)」という項目に載っている写真は、一部合成写真ではないか?
図1 横山嘉彦の公式紹介ページに載っていた写真等 [1]
右上のものが合成写真だと思う。拡大したものがこちら。
図2 合成写真等 [2]
フォーラムの主張
なぜこんな合成写真を使ったのだろう?フォーラムのページ上にある告発文では「この断面写真(図3(b))は明らかに4つの部分を組み合わせたものに見えます。なぜこのような合成写真を,試料断面を説明するのに用いたのか疑問です。[3]」
さらに「この問題もまた,井上氏を本年7月9日付けで日本金属学会に対して研究不正で告発した際,提出した問題の一つです。加藤会長らは,2007 年論文のFig.4(b)が合成写真であることを認めています。しかし,私たちが見出した疑義の核心が理解できていませんでした。その理由は,加藤会長は「写真撮影に使用した実体顕微鏡の能力によっては,直径20mm では1 枚の写真で撮影できても,直径30mm の場合は断面状態を適切に撮影できないために,分割して表示した可能性を排除できないからです」,としているからです。私たちが提起した問題の核心は,2007 年論文で合成写真が用いられていること自体ではありません。
誤解がないように重ねて強調します。私たちの疑義の核心は,直径20mm の画像は中心を求めることができるのに対して,直系30mm は中心を求めることができない,これは合成写真を作成する際に中心部付近を削除したからではないか,と言うことです。この疑義を晴らすには,試料の現物,4つの分割写真の原画などを示して,直径30mm の断面写真として完全に復元できることを明確にする必要があります。加藤会長の言うように,もし顕微鏡の視野が狭く,合成写真によってしか断面画像を提示できないとしても,20mm を一度に撮れる顕微鏡ですから30mm であっても,4 分割した半径15mm の範囲に中心を含めることはできるはずです。どうして合成画像には中心部分がないのか疑問なのです。中心がないにも拘わらず,この合成写真を円柱状金属ガラスの断面写真と銘打つことはできるのでしょうか。これがここで問われている問題です。[3]」
自分なりの解説
フォーラムの主張は要するに中心が求められないのに円柱状金属ガラスの断面写真と論文で述べることはできないので、現物等の確認が必要だというものです。捏造や改ざんの疑いがあるから調査せよということ。合成写真であることは金属学会も認めているようだ。
こういう要点だけの説明だけだとわかりづらいでしょうか?念のためもう少し詳しく説明します。
論文では合成写真の材料が"円柱状"金属ガラスだと説明されています。では本当に円柱だということを写真から確認できるでしょうか?
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/74/a4/c323e13ae455038a1c08c2cd7cd9c3bf.png)
図3 断面写真の中心確認[2][3]
図3の左は別の写真で直径20mmの円柱状金属ガラスです。これは上図のように円弧の部分に適当に4つ線を描き、それらの垂直二等分線をひくと一点で交わります。これが円の中心です。即ち左側の直径20mmの断面写真は確かに円といえるわけです。
では問題となっている右側の合成写真はどうでしょうか?同様の手法をとると垂直二等分線が一点で交わることがなく、中心を求められません。つまり、円だと確認できないわけです。ですから、論文で"円柱状"金属ガラスと述べているのに疑義があるのではないかいうのが告発者らの主張です。
金属学会の加藤元会長は合成写真であることは認めたが、それが用いられたのは顕微鏡の視野が狭く、直径30mmの断面(合成写真の材料の断面)は一度に撮れなかった可能性があるので仕方なく合成写真にした可能性があり、捏造とはいえないと判断したようです[3]。
しかし、告発者らの主張は合成写真を使って発表したことではなく、中心部分を意図的に避けて写真をとり、円柱状でないのに円柱状とごまかそうとしたのではないかと主張しています。図2の左図のように直径20mmの断面写真は全体を写真にとれたわけですから、直径30mmの断面写真なら半径は15mmですから、中心は余裕をもって撮影できたはずです。
なぜ、中心部分を撮影できたはずなのに、撮影しなかったのか?本当に円柱状だったのか疑問だから現物等を確認せよということです。
実際にこの合成写真の材料が作成されたのかどうかはわかりませんが、仮に作成されたとして、こんな合成写真にしてまで真円の材料だとごまかす必要性があったのでしょうか。少し楕円になっている材料でも別にいいような気がしますが、論文に掲載する写真は理想的なものが好ましいので、そのように見える加工を加えて掲載したということかもしれません。無論、こういうのは改ざんです。医学系で理想的な写真になるようにフォトショップで加工する等のいわゆるイメージマニピュレーション(画像操作)と同じ類でしょう。
不正疑惑に対する日本金属学会の消極的対応
それにしても日本金属学会は本当に可及的に不正でない方向で判断しようとしてますね。合成写真が使われた時点で直ちに画像加工が疑われるわけですが、それでもとかく不正でない方向で判断し、不正の可能性は全然追究しません。告発者らの指摘を受けて現物等の確認を実施していないと思います。
金属学会だけでなく、すべての研究機関や資金配分機関、省庁には、とにかく不正でない方向で判断するというのではなく、きちんと合理的な判断や疑義を解決する判断をしてほしいと思います。金属学会のようにまるで不正としたくないために、とにかく不正でない可能性を考えて、それで処理しようとしたら、不正が認められずはずがなく、犯人が逃げのび不正が改善されないという、とんでもない結果になってしまいます。それに疑義を払拭したければ、告発者がいうように現物等の確認をやれば一気に解決します。金属学会は不正を認めたくないから、そういうことをしないのでしょうが、そういうことを積極的に行う対処が必要です。
不正の問題はできる限り避ける。こういう自浄作用のない態度では全くダメで、健全な学術の発展はなく、将来的に信頼を失うことになります。
この事件の現在は?
結局この件はどうなったのでしょうか?
横山嘉彦といえば井上明久との共著論文を二重投稿を理由に取り下げたことで報道された。フォーラムの告発者らと5月頃まで名誉毀損裁判で争ったが和解した。和解理由は『2007年論文が読者に疑惑を誘発した「原因」は、同論文を「科学的根拠が必ずしも十分ではない状態で発表した」からである』という横山の申し出を受け入れられると告発者らが判断したから[3]。
端的な言及はないが、告発者らは捏造があったことを争っていたのだから、「科学的根拠が必ずしも十分でない状態で発表した」というのは捏造だったことを婉曲的に表現したもので、それ故に告発者らが受理したということかもしれない。
でも、よくこんな合成写真等を大学の公式紹介に堂々と載せられるなと思う。皆さんはどう思いますか?
参考
[1]横山嘉彦の公式紹介ページ。 2012.10.25閲覧
[2]Y.Yokoyama , E.Mund , A.Inoue and L.Schultz: Materials
Transactions, Vol.48, No.12 (2007), 3190-3192. “Production of Zr55Cu30Ni5Al10 Alloy Rod of 30 mm in Diameter by a Cap-Cast Technique”
[3]井上総長の研究不正疑惑の解消を要望する会(フォーラム):フォーラムのHPとこの件に対する告発